次の日は会田麻耶さん。入学時の成績トップである秀才。そして蛍さんが興味があると言っていた一年生だ。
「ごきげんよう。薔薇さま方」
「ごきげんよう。お久しぶりね、会田麻耶さん」
今日は三年生も先に揃っている。
「それでは、麻耶さんの指導は蛍さんにお任せします。咲来は必要があればサポートしてあげて。他の方もそれでいいでしょうか」
反対意見が出ないため、そのまま仕事に移った。
麻耶さんは予想通り優秀だった。単純に仕事を遂行する能力だけで言えば咲来よりあるかもしれない。ただ気になるのが、そんな優秀な彼女がいったい何故、つぼみの妹になろうとしているのかが気になっている。
ただ、蛍さんとの会話が極端に少ないように感じる。二人とも真面目だろうから、必要がない限りは口を開かないのかもしれないけれど。
「そういえば、麻耶さんはどうしてつぼみの妹オーディションに参加したのですか?」
そんなことを考えていると、唐突に蛍さんが、ものすごく他人行儀な話し方で麻耶さんに質問していた。
「どうしてと言われましても、中等部時代から薔薇さま方には憧れがありましたし、生徒会活動というものにも興味がありました。将来的には山百合会の幹部として仕事をしていきたいと思っています」
それが理由ですと、麻耶さんはにっこりと微笑んだ。
「そうですか。確かに薔薇さまは
私はこの時、発言の内容と感情とが絶妙に一致していないことを感じ取ってしまった。きっと蛍さんは、麻耶さんを妹にするつもりなんて微塵もないのだろう。少なくとも私はそのように感じた。そのうえで、蛍さんが麻耶さんを推しているのであれば、何かしらの理由があるのだろう。
蛍さんは私と同じように感情の起伏があまりない人物だと思っていたけれど、最近そうではないことが分かってきた。感情をむき出しにして激昂するのではなく、静かに怒りを表すタイプだ。端的に言えば、冷静になるのではなく冷徹になるタイプの人間だ。
もちろん蛍さんは人格者だ。同級生ながら、私も蛍さんのことは尊敬に値する人物だと思っている。その蛍さんが怒りを覚えたということは、それなりの何かがあったのだろう。
蛍さんを信頼していないわけではないけれど、無茶なことをしないように私は強く祈った。