「――以上の理由により、生徒会としては従来から実施している定例会議の廃止を提案します」
各委員会との定例会議。その場で私はこう提案した。
約半年前に自らが掲げたマニフェストに沿って改革を進めるため、その第一歩を踏み出したのである。
このように動けるようになったのも、山百合会に優秀なお手伝いさん達が来るようになったからだ。
理由はどうあれ、結果的に望ましい状況となっているのであるから、言い出しっぺの涼花さんには感謝しかない。
「報告事項に関しては、新たに設置する連絡掲示板で行い、生徒全員へも同時に公開することとします。」
今までも委員会ボードなるものは設置されており、それなりに活用されている。もう少し拡張してあげれば情報伝達は事足りるはず。
ここまで説明すると、三年生の一人から手が挙がる。
「……山百合会は、委員会を軽視するのでしょうか?」
「いいえ。私が申し上げているのは、単なる報告会ではなく、必要なタイミングで必要な時間をかけて、より良くしていこうという――」
「それは……あなたの都合ではなくて? 少なくとも私には、山百合会は委員会との会議を減らしたいと、そう言っているように思えるのだけど……」
この人は、白薔薇さまファミリーのファンクラブのメンバーで、結構な影響力を持つ人だと聞いている。
それに、もともと委員会とのやり取りは、ここ数年は白薔薇さまが中心に進めていた。成り上がり者の下級生に突然仕切られたのでは反発もするだろう。
が、しかし。私もここで引くわけにもいかない。
「では……山百合会にはご協力いただけないと? 他の皆さんも同じ意見であると、そう考えてよろしいですか?」
あまり使いたくなかった手だが、VS私の構図をVS山百合会にすり替えた。これである程度態度が軟化、あるいは三薔薇さまの威光で萎縮してくれるとありがたいのだが。
「叶絵ちゃん、皆さんが困っているわ。それに、事前に議題として挙げていたとしても、急に問われて判断が難しいと思うわ」
教室の隅で様子を見ていた鈴さまが、この状況を見かねてか、口を挟んでくる。
「こちらとしてはお願いをする立場なのだから、納得してもらえるように説明しないと」
一理ある。同じ薔薇さまとはいえ、上級生の鈴さまにこう言われてしまっては、これ以上意固地になるのはかえって悪印象でしかない。
結局、その日は結論に至らず、来週の会議で採決することとなった。
✝
「ごめんなさい、叶絵ちゃん。任せると行っておきながら口を挟んでしまったわ」
薔薇の館ヘ戻る途中、鈴さまがそんな言葉を口にした。
「いえ、止めてくださってありがとうございます。あのまま続けていたら、否決されて終わってしまったかもしれません」
鈴さまは空気を読むのが異常なレベルで得意だ。もしかしたら空気だけではなく、心さえも読んでいるのではないかと思う。
「私がお願いすれば、渋々受け入れてくれると思うのだけど、それでは意味がないわ。叶絵ちゃんはそんなこと望まないでしょう?」
その通りだ。短期的に効率的でも、虎の威を借る狐では意味がない。
「それに、反対している本当の理由は案外単純で幼稚なものだったりするわ」
「それは……何なのでしょうか?」
この様子だと、鈴さまは反対している理由を既に察しているのだろう。
きっと教えてはくださらないが、ダメ元で訊ねる。
「今、教えてくれないと思って聞いたでしょう? そんな人には教えません」
ほらね。
「まあ、叶絵ちゃんには難しいかもね。そうね……咲来ちゃんなら分かるかも」
咲来なら分かる、とはどういうことだろう。
「叶絵ちゃん。リリアンの生徒は大きく三種類に区分できると私は思っているの。Aはお姉さまが得意な生徒。Bは妹が得意な生徒。Cはどちらも得意でない生徒。」
そういう観点で考えたことはなかった。そして、鈴さまの考えでは、どちらも得意な生徒はいないらしい。となると、リリアン高等部の二年生は大変だ。
「叶絵ちゃんは間違いなくAね。誰かの妹をしている姿は想像できないわ」
暗に可愛げがないと言われた気もするが、事実そうなので黙って続きを聞く。
「咲来ちゃんはB。絢子はA、史乃は……ってそんな話ではなかったわね」
自身に呆れたその表情さえも、綺麗過ぎるのだから、人生とは不平等である。
「最近分かったのだけど、Aの生徒はあんまりいないらしいの。私調べだけれど」
何の信憑性もないデータだが、鈴さまが言うのだから間違いないだろう。悪戯好きで猫みたいな性格だが、嘘は決して言わない。最近それが分かってきた。
「ヒントはここまで。紫薔薇姉妹で力を合わせて頑張ってね」
そこまで言うと、ちょっと職員室に用事を思い出したとか何とかで、別方向に向かおうとする。
その背中に向かって、気になる質問をぶつけた。
「鈴さまは、ABCのどれですか?」
「人気者の鈴さまは、どちらも得意なDよ」
前言撤回。どうでもいいことには、気まぐれで嘘をつくこともあるようだ。
というか、嘘であって欲しい。
✝
「戻りました」
「お姉さま、お疲れ様です。どうでした?」
薔薇の館ヘ戻ると、真っ先に咲来が駆け寄ってくる。ひとまず頭を撫で、席に着くよう促す。
ちなみに今日のお手伝いは万季子さん。今日の仕事はほとんど片付いているようで、今は警察犬の如く涼花さんにいろんな匂い(主に花束)を嗅がされている。
「叶絵さん、万季子さん凄いのよ。今じゃほとんどの花を嗅ぎ分けられるわ」
仲のよろしいことで。それよりも報告だが、絢子さまも史乃さまもいらっしゃらないようだ。ひとまずはつぼみ達へ情報共有しよう。
「私からの報告事項です。定例会議の件、残念ながら委員会の方々には了承を得られませんでした。委員会の方からは、山百合会は委員会を軽視しているなどの意見がありました」
「そんな言い方って!」
席を立ち上がって、咲来が声を荒げる。私はそれをどうどうと宥めた。
「ただ、同席された鈴さまは、それは本当の理由ではなく他に理由があるとおっしゃっていたわ」
そう。私は先程の鈴さまの言葉を思い出す。
「鈴さま曰く、咲来ならその理由が分かるとのことだったわ」
そして、その理由は案外単純で幼稚なものだったりするらしい。
「ということで、咲来。なにか思い付くことはある?」
「そうですね……私だったらお姉さま、いえ、薔薇さま方とお会いできる回数が少なくなるのは悲しいです」
盲点というかなんというか、仮にそうだったとしたら幼稚過ぎやしないだろうか?
いや、委員会関係は白薔薇さま、つまりは鈴さまの管轄であるから、それもあり得るのか?
公私混同反対。
「……そう。それで、そう仮定したとして、どうしたら解決できると考える?」
私の妹、すなわち紫薔薇さまのつぼみは咲来だ。私にどうしても外せない用事がある時は、咲来が代理として役目を果たす必要がある。それに、ここで考え方が同じであれば、ある程度の裁量を持たせ、自身の判断で物事を進めていいだろう。これはちょっとしたテストだ。
「全体の定例会議を廃する代わりに、各委員会との話し合いをより強固にする、ということが目的であるなら場所は薔薇の館である必要はありません。お姉さまの仰る通り、決まった報告だけであれば掲示板で事足りるでしょう。しかし、話し合いをより強固に、と言うのであれば、むしろこちらから出向いてしまったらいかがでしょう? 決まったことの報告を受けるだけに時間を割くよりも、議論中の段階から入り込む。その方が幾分か建設的です」
我が妹ながら、お見事である。
「明日から各委員会に出向くわ。咲来も同行して」
「分かりました、お姉さま」
後にこの行動は、『紫薔薇さまの巡礼』と随分と誇張的された表現でリリアンかわら版の記事となる。