マリア様がみてる~ジュ・スイ・ラ~   作:日月 咲

7 / 24
変わっていくこと

 咲来さんは、幼稚舎からリリアンに通っていて、福沢先生の言葉を借りれば「チャキチャキのリリアンっ子」に該当する。

「叶絵さまが立候補なさったのは、当時中等部でも話題になっていました。一年生、しかも外部生の方が薔薇さまになろうとしてるって」

 咲来さんはゆっくりと話し始めた。

「周りのクラスメイトはつぼみの方々に敵うわけがないと言っていました。でも、私はそうは思いませんでした。この方は、心の底からリリアンを変えたいと思っているのだと私は感じたのです」

 聞けば、私の書いたあの選挙公約もすべて読み、立会演説会の時も褒められたことではないが、授業を抜け出してこっそり聞いていたらしい。

「私、昔から事なかれ主義というか、ただなんとなく無難に過ごしていけたらいいってずっと思ってたんです。楽しいことがなくてもいいから、大変なことがなければいい。そんな風に考えていたんです。でも、現実はそうはいかないんだって中等部に入ると思い知らされたんです。辛いこととか大変なことはやって来るのに、楽しいことはなかなか来ない。今になって思えば、当たり前のことだったんですけど」

 咲来さんの言う通り、自分から行動しなければ理不尽なことは際限なく訪れるし、かと言って楽しいことや喜ばしいことは一向に訪れない。

「その時に思ったんです。嫌なことは嫌、ダメなものはダメってはっきり言わないといけないって」

 咲来さんの瞳には強い意志が感じられる。ただの憧れだけじゃないことはすぐに分かった。

「そんなことを考えていたら、高等部で叶絵さまが話題になっていたんです。選挙公約もすみからすみまでしっかり読み込みました。正直言って驚きました。外部入学のはずなのに、中等部からの接続のことも記載されていたり、現体制を否定するだけでなく、客観的な視点で評価しつつ改善策を提示されています」

 そこまで言って、少し語気が弱くなる。

「はっきり言ってしまえば、私よりも叶絵さまの方が薔薇さまになるべきだと思います。それでも、私は誰かに環境を整えられていくだけじゃダメなんです。今までみたいにぼんやりと生活するのではなくて、小さいことでも誰かのためになることをしていきたいんです」

 咲来さんの懸命な独白に、福沢先生は拍手を送っていた。

「まだ一年生なのに、ここまで考えてるなんて高橋さんは立派だわ。私が紅薔薇ファミリーに入ったのなんて、いろんな偶然が重なったようなものだし、ロザリオ貰うまではそこまで真剣に考えたこともなかったよ」

 これは貴重な一年生が来てくれたと、先生は喜んでいた。

「ありがとう、咲来さん。正々堂々戦いましょうね」

「……あの」

 咲来さんは少し言いづらい様子でこちらを見ている。

「どうしたの?」

 

 

「あの、もし私が当選したら、私を叶絵さまの妹にしていただけませんか?」

 

 

 なるほど。そう来たか。

 姉妹関係の成立の主導権は基本的に上級生が握っている。姉妹になるかどうかの選択肢はあくまでもお姉さま側に委ねられているらしい。

「その条件を承諾するかどうかはひとまず置いといて、仮に私が当選した場合のメリットはあるのかしら? 咲来さんはご存じないかもしれませんが、私は前回の選挙に立候補したことで、一部の生徒からあまり良い印象を持たれていないんですよ。一年生と二年生の差はない、下手をすれば私の方が不利である状況とも言えるでしょう。そのような状況で、勝負を持ち掛けてきたのですから、私が当選した場合のメリットを提示していただけないかしら?」

 咲来さんは思っていたより度胸があるし、意思も強い。下級生相手に試すようなことをして大人げないのは事実だが、そんなことよりも、私は咲来さんという人間に興味を持ち始めていた。

「……もし、叶絵さまが当選されたら、叶絵さまがご卒業されるまでの約二年間、叶絵さまの言う通りに行動します」

 咲来さんは真っすぐにこちらを見ている。覚悟はあるのだろう。

 うん、決めた。きっと彼女のような存在は他にいないだろう。

 ヒートアップしそうな状況を不味いと感じたのか、先生や薔薇さま方が仲裁に入ろうとする。煽るような発言した私が悪いのは認めるけれど、もう少し信用してくれてもいいと思う。

 なので、話が遮られないように、私はさっさと口にした。

 

 

「じゃあ、もし私が当選したら、咲来さんは私の妹になりなさい」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。