「あの……それってどちらが薔薇さまに選ばれたとしても、お二人が
琴音さんが、笑顔で言う。うん、今日も美人。
「立花さんは、そんな簡単に妹を決めてもいいの?」
チャキチャキのリリアンっ子である先生が警鐘を鳴らす。確かに、特別親しい上級生と下級生の関係を指して姉妹と言われているが、外部入学した私にとってはその意識はかなり希薄だ。
「姉妹なんて、特に薔薇さまとつぼみの関係については、私からしたら上司と部下、当主と後継者に関係に似ています。咲来さんは私の選挙公約を読まれていたようですし、本人のモチベーションもかなり高いようです。もし私が薔薇さまになれば、私にとって最高のつぼみになるでしょう。咲来さんが薔薇さまになられたときには、姉として、微力ながら活動を支えていきたいと思っています」
周りの人間が変なものを見るような目で私を見ていた。なるほど。先ほどの発言はなかなか地雷だったのかもしれない。
まあ、薔薇さまになった後とか、姉妹になった後で知られるよりはよかったと前向きに考えることにした。
「……それに、咲来さん以外の下級生に対して、同じように興味を持つなんてことは今後おそらくないでしょう。せっかくリリアンに入ったのなら姉妹制度にも興味がないわけではないですし、こんな変わった人間を妹とか姉にしようという人間が今後現れることもきっとないでしょうから」
紅茶を口に含むと、また同じような目で見られた。
「ツンデレなんですね、叶絵ちゃんは」
リリアンにおいて、私のことを『叶絵ちゃん』と呼ぶのは、白薔薇さましか存在しない。琴音さんも美人だけれど、白薔薇さまも美人だ。同性であっても魅力的に感じるのだ。二人とも外部生だけれども、長い間リリアンで過ごしてきた人にとっては憧れの存在というのも頷ける。もちろんファンは多い。
ツンデレ発言も気になるけれど、忘れないうちに確認しておかなければ。
「福沢先生。立候補者はマリア祭の準備を手伝ってもらうとのことでしたが、咲来さんは今年の新入生です。お手伝いはどうされるのですか?」
歓迎される立場の人に歓迎の手伝いをさせるのは気が引ける。
「選挙が心配?」
「いえ、違います」
ああ。先生は、咲来さんがマリア祭の準備を手伝わないことによって、選挙活動が不利になると思って質問したと思ったのか。確かに一理あるが、山百合会の仕事を手伝うことは、見方によっては有利にもなる。
「分かってて聞いてみたんだけどね。有利とか不利とかは置いておいて、なるべく同じ条件で戦いたいという気持ちと、新入生の高橋さんに手伝わせたくない気持ち。とはいえ人手は足りていないっていういろんな理屈がないまぜになってるよね」
「ええ、まあ」
「んー私も悩んでるんだよ。二人はどうしたい?」
先生は私と咲来さんに問いかける。
「私一人で手伝います」
「私も手伝います」
綺麗に意見は真っ二つ。
「じゃあ、じゃんけんね。立花さんが勝ったら、立花さん一人でお手伝い。高橋さんが勝ったら二人でお手伝いに参加するということで」
ということは、咲来さんに、たった一度だけの行事をまっさらな気持ちで参加してもらうためには、じゃんけんにも選挙にも勝たなくてはならない。
ここでじゃんけんで勝てても、選挙で私が負けたりすれば、咲来さんは薔薇さまになる。つまりは、新入生でありながら、新入生を迎える立場とならざるを得ないのだ。
薔薇さまであろが、同じ新入生。同じ立場で参加する権利を有しているのに、それが許されないのであれば、そうならないようにするしかない。
もちろん勝つつもりでいるが、いよいよ負けられなくなってきた。未来の妹に寂しい思いをさせるようなら、姉を名乗る資格なんて有りはしないだろうから。
「勝負は一度きり。二人とも準備はいい?」
「ええ」
「はい」
不思議と部屋全体に緊張感が走る。
「いくよ! じゃんけん、ぽん!」
先生の掛け声に合わせて、私と咲来さんは手を繰り出した。
咲来さんは、パー。対する私はチョキ。
「じゃあ、お手伝いは立花さん一人ということで。ただこれは、あくまでもマリア祭に関わることからは外れてもらうだけで、他のお手伝いとかはしてほしいし、親睦も深めたいから薔薇の館には来てほしいと思うんだけど。もちろん、二人とも選挙活動優先で構わないから」
最後の一言に、狸に化かされたような気持ちになった。先ほどの妙な緊張感も重なって、体から力とやる気がすうっと抜けていくのを感じた。