一人の父親がいた、不器用で一人息子を泣かせてばかりいた男であった。
愛情を示そうにも不器用で、気恥ずかしくて、罵倒が先に出た。
息子に嫌われる、そんなことわからなかった訳ではないが止められなかった。
男は努力でのし上がって、そしてある日全てをかっさらわれた。
『シン』によって【スピラ】という場所に流された。
【ザナルカンド】、男の故郷は千年前の遺跡だという。
息子のためにも映像を持ち帰って見せてやろうと帰る方法を探すために【スピラ】を救おうとする【召喚士】の【ガード】になることを決めた。
その果てに諦めを覚悟に変えて【ブラスカの究極召喚】に姿を変えて『シン』を打倒することに成功する。
【スピラ】を覆う【死の螺旋】、それを断ち切るにはどうすれば良いか。
そんなことなど分からずに【無限の可能性】に賭け、あとのことをアーロンに全てを託した。
そして全てを乗り越えた息子と再会し『シン』として息子と召喚士、ブラスカの娘の仲間たちに倒されて死んだはずだった。
何も思い残すことはない、最期に成長した息子の顔と泣き顔を見て満足して死んでいった。
必ずや彼らは核を潰すことだろう、だから安心して逝ける。
その先で目を覚ましたのはコスモスという神の前。
コスモスとカオスという二柱の神の戦い、とやらに巻き込まれる。
息子と衝突して、大喧嘩して、笑い合った。
それだけで十分であろう。
二柱の神を受け継ぐ二柱の神【スピリタス】と【マーテリア】の戦い。
その場においても男は召喚された。
息子と共闘したり、息子を守ったり、次元喰いと戦ったり、特に特筆するべきことはない。
そんな男の名前はジェクト、ただの父親である。
召喚、されたと思った。
特有の感覚というものは少なからずあるものであったがそんなものは皆無であった。
それに目が覚めた時の光景は、あの世界のどこにも存在しないものだ。
戦士たちの思い出の地を投影した世界、ジェクトの目には回った全ての世界になかったものだ。
息子と共闘して、次元喰いを倒して、それか元の世界に帰ってその後はどうしたのだろう。
「‥‥‥あ?」
見覚えのない街並み、ザナルカンドに及ばない高さであるが十分高い建物に挟まれた路地からでも見える中央にある巨塔。
異世界、廃墟に見えないこの場所でそんな言葉しか出てこない。
何度か経験してはいるがあれは【夢のザナルカンド】と【スピラ】が繋がっていたからできた、『シン』によってなされたこと、神の呼び出した戦争では神の力によるもの。
そしてこれは、なんとも分からない。
そもそもジェクトは頭の良い方ではない。
まあ察しは早い方ではあるものの、この状況をどう打開したものかと悩む。
【スピラ】だとすぐに【エボン党】に捕らえられてブラスカと出会ったことによって【ガード】としてブラスカに同行出来た。
コスモスやカオス、マーテリアやスピリタスの時は神や同僚から説明があったし直ぐに呑み込めた。
(まあ、今更驚かねぇや)
路地裏を脱したら様々な人種がそこにいた。
兎耳だったり狼耳だったり、耳長だったり普通だったり。
あちらの世界で様々な英雄の姿を見ていたためにそんなに驚くことではない。
問題は中央にある巨塔とそこら中にある【神】の気配。
上裸の姿に胸の【ザナルカンドエイブス】という【ブリッツボール】という競技の一チームのマークの入れ墨と無数の傷。
右腕と左足には【ブラスカの究極召喚】であった頃の名残が残っている。
間違いなく人間であるのだが、その姿は周りには奇異の目線で見られている。
中央にあるのはジェクトの目から見ても高いものである。
中央に噴水があるバベル前の広場、そこにジェクトは着く。
そこにいるのも様々な人間であった、鎧を着込んでいる者や軽装の者。
当然人種も様々で、途中で話を聞いた限りだと【神】が降りて【ファミリア】を形成して目の前にあるバベルの地下にある【ダンジョン】を神の眷属が探索しているらしい。
それを統括しているのがギルドであるし、冒険者登録はそのギルドで行うことができその前提が【ファミリア】に入ること。
それで初めて【ダンジョン】に入ることができる、というものらしいのだ。
単純に考えれば【ファミリア】に入った方が【ギルド】の施設を利用できる、だからギルドに向かう方が良いことは明らかだ。
おもむろに右手に無骨な大剣、【ジェクトソード】を出現させるがバベルに向けた足を止める。
「おーい!君〜!!」
自分を呼び止める声が聞こえたからだ。
律儀にそれを答えてやろうと振り返って下を見ると小さい女の子がいた。
「おー、嬢ちゃん。どうし、」
途中で声を出すのを止める。
目の前の女の子は神だ、なぜすぐにわからなかったのだと自分を責めかける。
恐らく神らしい威厳と貫禄、そして図体がないせいだろうと結論づける。
「嬢ちゃんじゃあ、ってどうしたんだい?」
嬢ちゃん、というジェクトの発言に反論しようとした女神がジェクトの様子に気づいて顔を覗き込む。
「いや、うん。女神さんか。で?用件はなんなんだ」
「ああ、ボクのファミリアに入ってくれないかい?」
ファミリア、神の統率する、神の血を分けた眷属の集まる組織。
それに入ってくれないかと勧誘する神。
神自身が勧誘するほどこの世界では神はありふれた存在なのだろうとここでジェクトは理解する。
まあ、理解したくなかっただけなのだが。
「決める前に色々教えてもらいてぇんだが、まず名前だ」
名前、目の前の女神の今の規模など、色々と教えてもらいたいことはある。
「ボクはヘスティア、女神ヘスティアさ!キミは‥‥‥」
「オレはジェクト様よ」
ジェクトは胸を張ってそう答える。
普段は息子に向けて言う軽口なのだが、こんな状況だ。
言った方が自分を保てる。
「ジェクト君、だね。聞きたいことは他にもあるのかな?」
「おう、まずはだな‥‥‥」
ジェクトは問い、ヘスティアが答える。
簡単なものであった、まあどちらにしてもヘスティアの派閥に入るつもりであったが知っておきたいことではあったので。
だってジェクトは努力家である、過去の栄光であるがブリッツボールの有名選手、そこまで辿り着くのにどれだけかかったか。
そんなことはもう覚えていないし、ブラスカたちとの旅で大体のことは慣れた。
それに何となくであるがヘスティアからは目が離せない。
入ると言った時のヘスティアの喜びようには無意識に頭を撫でていた。
駄目でした?うん、続けられるかは、分かんない!