黄昏の館を背にして本拠に帰る。
……なんてことはなく、適当に街をぶらぶらと歩いていた。
いた時間はほんの数時間、懐にあった書の重みがなくなって少し軽くなったからだ。
闇雲にダンジョンに潜っても魔道士としての力は高まらない。
【指揮官】がいれば別の話だが基本的には【魔道士】がパーティの頭脳だ。
常に冷静に、クレバーに、クールに、感情を排して戦闘を運ぶ。
それを育てるのであれば戦闘が1番の近道だ。
近道だが…それはダンジョンではない。
【ベル・クラネル】に限った話だが彼の経験はとても得難いものだ。
「……ダイダロス通りか」
【ヘスティア・ファミリア】には金がない。
とても、かなり、金がない。
ジェクトさんとゴルベーザさんがいるから安心ではないのだ。
彼らが本拠にいることはとても珍しい。
それに彼らは正規の【ヘスティア・ファミリア】の団員ではなく、実質団員は僕一人なのだ。
なんでかは分からないが。
あの二人は恩恵があったところで特に関係がないので僕がファミリアに入って少し経ったところで恩恵を封印していったし。
なので収入源が僕だけだ。
マップやアイテムを買うお金が足りない。
未だに武器を持っていないのも証拠のひとつだ。
杖を買おうとしたことはあるけれどクソ高かった。
買えるわけねぇだろ。
ということで今は市街のマッピング中である。
「あー……納得」
いつまでも変わらない景色と横道の多さ。
そこまで広い訳でもないのにこれは確かに迷宮と言われても異存はない。
頭の中のマップが早くも崩壊寸前だ。
今は昼で太陽の光が差し込んでいるからこそ、ギリギリ迷わないで済んでいるが陽が落ちればマッピングどころではない。
……しかし、頭をフル回転すれば問題はない。
僕はこう言う街も大好きだ。
ゴルベーザさんやジェクトさんから聞いた異世界の街並み。
思いの外絵が上手かったゴルベーザさんの異世界の街の再現。
オラリオは治安が悪い。
落書きはないが、やはり壁に傷がある。
いくら景色が変わらずとも全ての壁が同じ傷を負うはずがない。
思わず口が綻んだ。
こういうのを暗記し、覚えておくことは大得意だ。
もう、帰ることは陽が落ちようと難しいことではなくなった。
戦闘中であろうと何も問題はなくなる。
「よぉしっ!冒険の時間だぁっ!」
帰ることはハナから選択肢になかった。
正直、上層は開拓が進みすぎていて面白くなかったのだ。
洞窟は洞窟で心躍るものではあったがそれはそれ。
街と洞窟では心躍るジャンルが全く違う。
童心をたっぷり思い出せる。
「【ファイア】っと。お〜地下道!」
迷宮のように入り組んだ町は色々な街の姿を見せてくれる。
メインストリートとはまた違った姿はまた、いいものだ。
鉄格子の向こうからさすが陽の光、魔法で出した炎で周りを照らして見えるのは表より傷ついた壁。
少しだけ鉄の匂いが鼻に来る。
治安が悪いなら仕方ない、すごく、仕方ない。
目を逸らすとしよう。
言葉にはできないがこの景色はいい。
辺り一帯の森とのどかな村…。
それしか見たことのなかったのだから当たり前なのかもしれないが、いいものだ。
自然もいいが、こういう人工物もすごくいい。
そして、地下道の向こうに見える自然光もまた。
出口に差し掛かったところで炎を手のひらで握りつぶす。
「おっ?景色が……」
変わった。
建物に遮られて完全にみることの出来なかった太陽がこんにちは。
ダイダロス通りの中にある空き地だろうか。
それにしては、見慣れたような廃教会がある。
「……ん?」
「あ、どうも」
「……んん?」
「ダイダロス通りに入っていったところで心配して追ってきました」
「ありがとうございます…??」
まさかダイダロス通りで山吹色の髪を見るとは思わなかった。
なんでいるんですかねレフィーヤさん。
そこは追求しないでおこう。
「…えっと」
言葉に困っているようだ。
おー?この人かなりの直情型だなー?
勢いで追いかけてきたんですね分かります。
「レフィーヤさんはかなりの魔導士と評判ですね」
「…っ!?いえ!私なんてまだまだで…」
「魔力は中々のものですし、リヴェリアさんが目をかけている。理由としてはそれで十分でしょう?」
この人力不足で悩んでますね。
すごくわかる。ものすごく分かる。
「ちっちがいます!私なんて…」
「なるほど。それが原因ですか」
「え?」
「能力はあるのに性格と認識が追いついていない。だからこそ仲間の足でまといになるしそれが原因で自己嫌悪する」
全て予想である。
しかし図星のようだ。
「負の無限ループと言えるでしょうね。僕も荒療治で治されました」
ゴルベーザさんとお義母さんによる地獄。
手加減はしてくれてただろう。
でも元【ヘラ・ファミリア】のお義母さんと至極の黒魔道士のゴルベーザさんについでにザルドおじさん。
すごく、すごく頑張りました。
トラウマになりかけたが生き残りましたよええ。
「ど、どうやって!?治したんですか!?」
「死に目にあいました」
「えっ」
「一週間のサバイバル……。モンスターに師匠みんな入り乱れて。一時も気が休まらず、ご飯は味がせず、魔法と状況、全てを並行に思考できなければ死んでましたね」
ポカーン、とした顔だ。
臆病、勇気、戦術、魔法。
死にかけながらも、回復中の痛みにも耐えながら、何も排さずに全てを活かして。
そして今の僕があるが…まあレフィーヤさんは無理だろう。
彼女は【ロキ・ファミリア】での交友関係があるだろうし、それ以前に忙しそうだ。
「要は敵を倒すってことです。そのためにできることをやるだけですね。最終的に殺ればいいんですよ」
結局の結論はこうだ。
彼女は組織に属しているのだからそう簡単にはいかないだろうが結論はそうだ。
「や、殺るって…。それでなんですけど…」
「なんですか?」
「並行詠唱ってどうすればできるんですか!」
あ、ごめんなさい知らないです。
いや、お義母さんの並行詠唱は見てたけどどうやってたかは分かるはずもない。
だって基本僕無詠唱だし。
荒療治でなんか感覚でやれるようになっただけだし。
いやまあ、うん。
頼りにされてるのは嬉しいので力になりたいんだが…。
「えーっと…ごめんなさい分からないです」
「59階層の時当たり前のようにできてたじゃないですか!」
「いやー…これも怪我の功名というかなんというかで」
「おぉっふ…」
「でもまあ、焦ることはありません。さて、ここ入り組んでますけど帰れます?」
「……はっ!」
「うーん、僕はまだここを探検したいんですけど……」
送り届けた方がいいだろうか。
多分その方がいいのだろう。
「いえ、年下の後輩に面倒をかけるわけにはいきません」
「そうですね。レフィーヤさんは僕の先輩だ。では、先輩」
「なんでしょうか、ベル」
「一緒に探検しませんか?」
片手間に【サイトロ】を発動させ、一度足を踏み入れたダイダロス通りのマップを頭の中に出現させる。
どこに行くべきかどこに行かないべきか、いつもは使わずに探検を楽しむが使っておこう。
「いいでしょう!後輩を助けるのも先輩の役目です」
「ありがとうございます」
いえーい友達ゲットだぜ。
いや先輩か。
まあ友達でいいだろう。
「アイズさんが…」
「へー」
「そこでティオネさんがですね…」
「ふむふむ」
「またまたアイズさんが!!……」
「いいですねぇ」
「リヴェリア様がカッコよくて……」
「ほー」
流れるように人褒めるなこの人。
やっべーこの人、やっさしー。
比較的アイズさんの話題が多いが、この人にとって尊敬する人なんでしょう。
成長する余地しかないなこの人。
あ、ベル君は普通に弱いです。
使える魔法は多いけど弱いです。