ベル君は一週間でかなり黒魔法を覚えています。
【メテオ】とか【アルテマ】は覚えてませんけどね。
朝の廃教会裏にて白髪の少年の吹っ飛ぶ姿が見える。
血反吐を吐きながら立ち上がる少年は周りに魔力を滾らせて向かい合っている男を見ている。
「まだやるのか?ベル」
「はい。もう回復しました」
体力と傷は一瞬にして【ケアルガ】を使って癒えている。
次なる魔法を準備してベルはジェクトを見る。
「褒められたもんじゃねぇぞ?」
ジェクトは頭をかいて複雑そうな顔で言う。
【魔道士】の修行は座学や魔法を使う訓練だけではなく実戦を経験しなければならない。
ベルが目指すのは【赤魔道士】で杖以外にも武器を扱い、尚且つ【白魔法】や【黒魔法】を扱う役職だ。
そのためにベルはジェクトに稽古をつけてもらえるように頼み事をしてゴルベーザからも頼まれた。
それを引き受けて、いじめに近いこの状況になっている。
「大丈夫です」
はぁ、とジェクトはため息をついて諦めたようにベルを見る。
とことんまで付き合ってもらえる、そう思ってベルは魔力を高める。
息を吸い込むと、バチバチと弾ける音が手から聞こえてくる。
「【ファイガ】!」
大火球がベルの手から射出される。
火柱が立つことすら待たなかった。
「ふぅッ」
再び息を吸い込んで意識を集中させる。
同時詠唱という高尚なことも下位魔法ならば可能。
ゴルベーザならば高位でも可能であるがベルならそこまでが限界。
頭の中で想像し、魔力と紐付けて奇跡のような【魔法】を行使する。
「【フレア】!」
最後の締めにと指を鳴らす。
【ヘイスト】も込みのベルの移動能力はLv1にはあるまじき、3にすら至るものである。
大抵の攻撃は避けられる、そんな自信がありそれでも慢心はしていなかった。
【ジェクトブロック】の音はしない。
相変わらずの化け物さだと鋭い目を向ける。
「‥‥‥ハッ!」
いつの間に気を失っていたのだろうか。
魔石灯が照らす地下はどれだけ眠っていたか、空も時計も見えないので分からない。
布団に押し込められた自分が見える限りではヘスティアは見えず、ジェクトがソファに座りゴルベーザが腕を組んでこちらを見ている。
「起きたか」
これまでも聞いたことのあるゴルベーザの声とは違った。
昔に調子に乗って魔法を乱射し、【精神枯渇】に陥った上に死にかけた時に助けに来てくれた時に似ている。
怒っているように聞こえるその声は身を震わせるには十分なものであった。
「ジェ、ジェクトさ」
「諦めた方がいいぞ」
どこかジェクトの肩が狭く見える気がする。
ゴゴゴ、という文字が浮き上がるほどに怒っているのが感じ取れる。
「さて、まずは」
説教、というよりは指摘と注意であろう。
淡々と連なる言葉は心に突き刺さって、ただゴルベーザの話を聞くだけが精一杯になっている。
「大丈夫かー?」
「久しぶりで、結構効きましたぁ」
何年ぶりかのゴルベーザの説教で少し衰弱しているベルにジェクトが話しかける。
胸を押さえて蹲っているベルを心配してのことである。
「もう行く時間だ」
もうギルドに行く時間らしい。
ついて行く、そう言おうと思ったが必要ないとゴルベーザさんに一蹴された。
ギルドへの用は先日のドロップアイテムや魔石のヴァリスの回収だ。
ゴルベーザさんとジェクトさんで事足りるもののため、僕には上層に軽く潜ってこい。
というのが二人の提案で僕はそれを呑んだ。
「ミアハんとこは行くのか?」
【ミアハ・ファミリア】はかつては【ディアンケヒト・ファミリア】に並ぶほどの医療系ファミリアであったが今は団員が一人しかいないファミリアだ。
【ヘスティア・ファミリア】とは零細同士で仲が良く、結構通っている。
ジェクトさんは補充したのか、と確認してくれたのだろう。
バックパックの中を確認して【
「今はまだ行く必要はありませんね」
「そうか。なら行ってこい」
「はい!」
解体用のナイフにバックパック、持ち物を確認して二人と別れる。
目指す先はバベル、その下にあるダンジョンの上層だ。
「元気なもんだ」
走り去っていったベルを見てジェクトが呟く。
素直な彼は見ていて危なっかしくて放っておけない。
それと同時に保護欲が湧いてくるのだろうか、愛情だろうか、どちらにしても放っておけないのである。
「どうしたよ。なんか考え事か?」
返事が返ってこない、ゴルベーザにしては珍しいとジェクトは兜で見えない顔を覗く。
「いや、他にも誰が来るのかとな」
「あー、確かにな」
ゴルベーザとジェクト、この二人がここに飛ばされている時点で他の人物もどこかにいる可能性はある。
時間の違いはあるがそれは誤差というものであろう。
なんちゃってカオス勢と元コスモス勢、もう一人が来るならばコスモス勢だろうか。
全員来ても今更不思議に思うこともないがそれはゴメンだ。
「来るとしたら誰だろうな」
「考えたくないな」
常識人ならマシだが大概が癖が強いメンバーだ。
代表的なのはシャントットやケフカだろうか。
他のメンバーが来ても自由気ままにやるだろうし騒動は起きてしかるべしになってしまう。
今でさえ常識人枠のゴルベーザとジェクトだけでも辛いのに、だ。
「来てマシなのは、ライトニングの嬢ちゃんかねぇ」
「クジャとジタンもまあまあマシだろうか」
ライトニングにクジャ、ジタン。
この三人は他に比べるとマシな方といえる。
後、名前を挙げられるのはと朝日の下のメインストリートを歩きながら二人は腕を組む。
「後は、クラウドか?」
「マーテリア陣営ならば大概はマシか」
「シャントットがか?」
「あれは例外だろう」
マーテリア陣営なら大体の人物がマシといえるというのは的を得ているだろう。
シャントットという例外は置いておくことにする。
「来ないように祈っとくか」
ジェクトの言葉にゴルベーザは頷く。
そんな他愛もない会話をしていたおかげかもうギルドが見えてきた。
朝だからかそんなに人は見えない。
いるとしたら中だろう、空いているように見える。
本拠地とは違って立て付けのいい両開きのドアを開けて中に入ると二人の姿を認めたギルド職員の肩が跳ねた。
サラッとタグに追加してるよな?
お姉さんキャラが足りてないんだよなぁー!
次は一気に飛ばして原作突入させていきましょう。
ベル君には万能サポーターになってもらうからその地盤は整えるぞぉ。