中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ、僕の三上シンジ、君の名は?

大遅刻やったねと(白目)
すまぬ、休みだったけど昼寝したらこんな時間になってもうた。
あと今回も大暴走したけど、割と調子いいアスカならできそうと思ってやりました。
設定? んなもん知るか、ぼかぁ書きたいもの書くんだい!


あと誤字報告ありがとうございます。ただ愚痴言わせて、いちいち一個ずつ確認するからいやーキツイっす(白目)


使徒が来たので弐号機に無茶振りした件

「なぁ、大丈夫やろか」

「何が?」

 

 トウジとケンスケはオーバー・ザ・レインボーの食堂にいた。

 部外者である二人は、ミサトからここに居てほしいと言われたのでおとなしくしていた。

 綾波もいるが、何となく顔が暗い気がするのは気の所為……ではないだろう。

 トウジはコーヒーをウゲッとした顔で啜ると、砂糖をコレでもかとぶち込む。

 そしてまた啜って問いかける。

 

「シンジのことや」

「大丈夫でしょ。アイツがNERVでなんて言われてるか知ってる?」

「なんや?」

「英雄、だってさ。まぁ、当たり前か、僕ら助けたときもそうだけどあれからも無茶しまくったらしいよ」

「お前どっからそんな情報手に入れるん?」

 

 パパのデータ盗み見たんだと得意げに言うが、トウジは顔をしかめる。

 

「お前、何してん」

「機械いじりを教えたのはパパだし、情報管理がなっちゃいないってことさ……それに酒が入ると言うんだよ、あの子は凄いってさ」

 

 そこに一抹の寂しさを見たのは、トウジの見間違いではないだろう。

 お互いに母親がいない家庭で、トウジは祖父が生きていたがケンスケは父親と二人っきり、オマケにNERVの仕事で会えるのは夜のみ、そのときに自分ではなく、他の、それも友人のことを言われるのはきつい物があった。

 

「トウジのとこは言わないの?」

「オトンもオジィも仕事持ち込まないんや」

 

 そっかと言うケンスケは俯くが、すぐに顔を上げて言う。

 

「アイツさ、前の停電前に重傷負ったのに病院抜け出して戦場に行ったんだってさ」

「はぁ!? あいつバカなんとちゃう!?」

「でもさ、英雄ってそういうもんだろ」

 

 悔しそうに、それでいて誇らしそうに言うケンスケにトウジは眉をひそめる。

 確かにヒーローと言われればそうだろう。

 実際にトウジとケンスケは助けられた後は殴られたのみで、その後は全く責められなかった。

 今、友人やっているのも話しやすいからだけなのかもしれない……だがトウジは否定するために口を開く。

 

「ワシはそう思わん!」

「いやだって、あいつの戦闘は――――」

「でもシンジはシンジやろ」

 

 トウジは自信を持ってそう言う。

 バカで、お調子者で、嫁さん(レイ)と一緒で、最近は綾波とも手握ったりとかしてるが、トウジの知ってるシンジは誰にでも笑いかけるいいヤツだった。

 短い間でも、トウジはそんなシンジが気に入っていた。

 辛いこともあるだろうに、何も言わずに学校に来るし、友人として遊ぶこともある。

 だからトウジは、シンジを英雄と呼ばない。

 嫉妬ではない、どこかシンジが遠い存在になるのが嫌だったからだ。

 

「あいつは恩人や、けど友達やろ? ケンスケ」

「……僕毛嫌いされてる気がするけど」

「阿呆、んなわけあるかい。お前が調子乗ってるだけやろ、本気で嫌なら言うわ」

 

 ケンスケは妙に臆病なところがあるとトウジは思う。

 だからおちゃらけているのだ、誰にでもヘラヘラしてればとりあえずは興味を持ってもらえる、それがケンスケのスタンスだった。

 きっと自信がないのだろう、シンジの友達であるということが。

 

「そうかな」

「せや……だから英雄なんて言葉でシンジを遠ざけんな。ほんまアイツ、いつかどっか行ってしまうようで怖いんや」

 

 時折、本当に時折だがシンジが遠い存在に思える時がある。

 英雄とかではない。だけど、こちらの輪に入っていない。そんな気分がトウジの頭をよぎるのだ。

 ケンスケはそんなトウジの表情を心配する。

 

「安心しろって、あいつ回復力もずば抜けてるから!」

「……」

 

 そうか? とトウジは思う。

 確かに回復力がずば抜けてるとは思うが、重傷を何度も負えるほど人間の体は丈夫だったか? と考え――――フネの振動と艦内放送で打ち切られる。

 

「な、なんや!?」

『緊急事態! 緊急事態!! 戦闘配備!! 繰り返す!! 戦闘配備!!』

「これって、もしかして!!!」

 

 ケンスケが目を輝かせて、その場から立ち上がり走り出す。

 

「あっ、オイ!? バカ、待つんやケンスケ!!」

 

 止める暇もなく駆け出したケンスケに、トウジは少し悩むが席を立ち上がってその後を追いかける。

 食堂にはポツンと綾波だけが残される。

 彼女は今の状況がわかっているのか、わかっていないのか、無表情で目の前の黒い液体を見る。

 そして一口飲み、ポツリとつぶやいた。

 

「……美味しくない」

 

 

 

○○○

 

 

 

「見なさい、これが弐号機よ!!」

 

 何故か急激に機嫌が良くなったアスカに案内され、俺は弐号機を見せられていた。

 アニメでもそうだが、このときのアスカはすっごいドヤ顔だったし、「見て! 見て!! すっごいでしょ!!」と言わんばかりに、早口で説明していた。

 

「所詮、ド素人がシンクロできる初号機とは違う。何年も訓練して洗練されたエヴァ!! 世界初の実戦仕様のエヴァがこれよ!」

「スゴーイ」

 

 すっごい棒読みで言ってしまうが、カラーリング派手……派手じゃない? 三倍速いかもと思うが目の前の弐号機に俺は冷や汗を垂らす。

 TV版とデザインが違うのだ。

 特に頭部が短い角飾りが追加されており、俺は内心叫んだ。

 

(ここだけ新劇場版設定かよォ!?)

 

 間違ってザビースト114514!! なんて叫んだらとんでもないことになる、ならない? と一人混乱してたが、アスカは気に入らないのか青筋を立てながらこっちを見る。

 

「あんた、やっぱバカ――――きゃっ!?」

「まじかよ!?」

 

 その時衝撃が船を襲う。

 おそらく使徒の攻撃、というかアダムを探している使徒が手当り次第、護衛艦に突っ込んでいるのだが、振動が強く、弐号機の上に昇っていたアスカがバランスを崩して、滑り落ちてきた。

 たまらずに俺は駆け出して、アスカの体を支える。

 

「おい! 大丈夫か!!」

「…………」

 

 あ、あれ? どっか打ったか? と思うくらいに受け止めたアスカが沈黙し、こちらを凝視して固まっていた。

 お、おーいアスカさーん? すいませーん!! KNST(木下)ですけど、起動にまーだ時間かかりますかねえ? と思っているとタコのように顔を真赤にしたアスカが叫んだ。

 

「どこ触ってんのよ!! エッチィッ!!」

 

 パシーン! と大きな紅葉が俺の顔に咲くが……全然痛くねえな。

 まぁ、アスカの体から手を離し、アスカを見る。

 

「アホやってる暇はないな。多分使徒が来た」

「嘘でしょ!? ッ!?」

 

 再びの轟音と振動に、アスカの顔が戦士のソレになっていく。

 アスカは少しだけ思案すると弐号機から駆け下り、持ってきていたボストンバッグを担ぐとその中の赤いプラグスーツを取り出すと俺に投げ渡す。

 

「着替えて」

「……あの、これ女用じゃ」

「つべこべ言わずに着替えてッ!!」

 

 アッハイと答えて、服を豪快に脱ぎ捨てる。

 直後アスカの悲鳴が聞こえた。

 

「な、なぁなな、ななぁ、何ヤッてんのッ!!!!」

「着替えろ言うたん、そっちやん!?」

「物陰に隠れるとかしなさいよ、あんたバカァッ!? いやバカね! バカシンジね!!」

「バカっていうほうがバカなんだぞ!! って言ってる場合か!! お前こそ物陰で着替えろっ!!」

 

 覗かないでね!! と叫んだアスカは、物陰に隠れながら着替えに行く。

 俺は豪快に服もパンツも脱ぎ捨てると、少し羞恥心はあるがプラグスーツに着替える……うっ、股の部分キッツイし、胸がスースーする……。

 原作シンジくんもこういう気持ちだったのかなぁと思うが、すぐに思考を断ち切って、弐号機のボディを撫でる。

 頼むよ、オカアサン、力貸してくれ。

 そう念じながら、弐号機に願掛けする。

 ちとやらなければいけないことがあるのだ。原作通り護衛艦に飛び移るなんてしたらとんでもないことになる。

 描写はなかったが死傷者もでるだろう。んなのはまっぴらごめんだ。

 ……だからアスカには少し無茶をしてもらう、というか出来るかわからないが多分出来るはず。

 無茶だと思うが、無理ではない、そんなミサトさんのセリフが思い浮かんだ。

 

「……頼む、弐号機。アスカを、みんなを守ってくれ」

 

 その時、エントリープラグが勝手に排出されて中が開いた……えっ、俺スイッチ押して無いぞ?

 

「あんた、弐号機の操作わかるの?」

「えっ? あ、あぁ基本的なスイッチは同じだしな」

 

 驚いた俺の背に、アスカが声をかける。

 だが勝手に動きましたとか言えないし、中にお前の母ちゃんいますよとも言えないので顔が引きつりながら言い訳をする。

 それにアスカは興味なさそうにフーンとつぶやくと、猫のような身のこなしでエントリープラグ内に入る。

 

「あんたも来るのっ!!」

「おじゃましま~す」

 

 エントリープラグ内に入ると、すぐにハッチが閉まり中にLCLが満たされる。

 別のエヴァの中は初めてだが、LCLの匂いは同じやな……。

 

「L.C.L. Füllung, Anfang――――」

「待て待て待て!! ジャーマンポテト!! ドイツ語俺、ワカラナイ!」

「はぁ!? あんた本当にバカァ!?」

 

 馬鹿言うな!! バカだけど!!(学校のテストの点数)

 というかよくもまぁ、ドイツ語で起動させようとしたわ! 普通の中学生はムリ! ムリだから!! 英語も俺まーったく出来ないし! 

 アスカはため息を吐くと、思考言語切り替え、日本語をベーシックに! と叫ぶ。

 エントリープラグ内に光が溢れ、外の様子が見えるようになると俺はアスカに叫ぶ。

 

「起動したはいいが、ここからオーバー・ザ・レインボーまでどう行くつもりだ!?」

「そりゃ、護衛艦に飛び乗りながら――――」

「馬鹿野郎、中に乗ってる人たちを殺す気かっ!!」

 

 軽く言うアスカに俺は叫ぶ。

 アスカは言い返すかと思ったが、ハッと気づいて顔を青くしていた。

 あぁ、原作でも初の実戦だから気づいてなかったのか……俺は俯くアスカの肩に手を乗せるとこっちを向かせる。

 

「アスカ、やってほしいことがある。というか多分、出来るか出来ないかって言ったら出来ないかもしれないけどコレしか無いと思う」

「……何よ」

 

 そして俺は口を開き、護衛艦を踏み台にせずにオーバー・ザ・レインボーまで行く方法を口に出した。

 アスカはポカンと口を開けて、目を何度も瞬かせた。

 

「あ、あんた、本当にバカなの?」

「バカは聞き飽きた。やれるか? やれないか?だ……いつもどおりだな」

 

 今までの使徒戦を思い出して、頭を抱える。

 あぁうん、いつもどおりだノリと気合、やってみるしかない。

 だが俺はアスカなら出来ると思う。なぜかって? 七年間エヴァのために訓練してたやつはこの世界でアスカ以外に存在しないからだ。

 だから、俺はそんなアスカの努力を信じる。

 

「いつも通り?」

「あぁ、いつも通り、ぶっつけ本番……やれないなら俺がやる。でも俺はアスカを信じてるぞ」

 

 信じるといったとき、アスカの顔が驚愕に包まれる。

 

「し、信じるって、あんた本気で狂ってんの? 私とあんた今日出会ったばっかりよ」

「出会ったのは今日でも、アスカは今まですげー頑張ってきたんだろ。誰が何と言おうと、俺は信じる。だって――――」

 

 だって、努力したやつが報われないなんて間違ってるじゃないかと言う前に、アスカは操縦桿を握る。

 

「……私もほんとバカね」

「えっ?」

「フン! やってやろうじゃないの! 見てなさい、私がエリートだって証拠見せてあげる……エヴァンゲリオン弐号機、起動!」

 

 

 

○○○

 

 

 

「被害状況は!」

「シンベリン沈黙っ! ですが目標は依然確認できず!」

「回避運動しつつ、各艦迎撃態勢っ!」

 

 オーバー・ザ・レインボーの艦橋は混乱に包まれていた。

 敵が見えないわけではないが、あまりにも水中での移動速度が速すぎて迎撃する前に艦が轟沈させられているのだ。

 愚直な体当たり、だがATフィールドと使徒の巨体はそれだけで凄まじい破壊力を生み出す。

 そこにミサトとトウジ、ケンスケが駆け込んでくる。

 

「艦長、間違いなくあれは使徒です!」

「戦闘中だ! 見学者は出ていきたまえ!!」

「このままでは被害が拡大する一方です! 弐号機の起動許可を!」

「ならん!!」

 

 だが艦長もわかっていた。

 速すぎるのだ、使徒が。

 水中の敵に当てるために魚雷や爆雷を使用しているが全く効果がなく、目標の速度は一向に落ちない。火力では戦艦の主砲もあるが、水中の敵を狙い撃つなんて曲芸は出来るはずもない。

 

(……オモチャに頼らざるを得ないかっ!)

 

 唇を噛む。

 NERVに対抗したい気持ちもあったが、本心は子供を戦わせたくないという理由からだった。

 戦うのは自分たちだ、子供は座ってればいい。

 だが現実はそうではなかった。戦術レーダーと入ってくる報告で次々と味方の艦影が消えていく。

 悔しさと申し訳無さを滲ませながら、ミサトの提案を飲もうとしたとき、入電が入り耳を疑う。

 

「オセローより入電! エヴァ弐号機起動!」

「なんだとぉ!?」

「アスカ……えっ、待って、シンジくんは?」

 

 ミサトはアスカの判断を褒めようとして、シンジのことを思い出して顔を青くする。

 こういうときにアイツがどうするか、いい加減わかってきたが、それだけは頼む、そうなってほしくない、というか自分がフォローしきれないと祈るが、直後に入った通信で膝から崩れ落ちそうになる。

 

『エヴァ弐号機! およびでなくとも只今参上!!』

「シンジくん!? 弐号機に乗ってるの!?」

 

 ミサトは頭を抱えながら叫ぶ。

 レイが医務室で寝ているからいいものの、この場に居たらどうなっていたか想像するのも恐ろしい。

 だが背に腹は代えられない、シンジの爆発力を信じてミサトは通信機のマイクをひったくると叫ぶ。

 

「目標は水中よ! でもまずはアンビリカルケーブルを接続しなきゃいけない……どうにかこっちに来れない!?」

『ミサト、とりあえず言っとくわね。これ考えたの私じゃなくて、このバカよ』

 

 アスカの呆れた声にミサトは嫌な予感がした。

 シンジとアスカ、爆発力と操縦テクニック。これが合わさればどんなことになるか想像がつかなかった。

 しかし、通信機がミサトの手からひったくられ、艦長が叫ぶ。

 

「勝手な行動は許さんッ!! エヴァ弐号機、ただちに停止したまえ!」

『……艦長さん、心配してくれてありがとな。でも使徒殲滅が俺たちの使命なんだよ』

 

 シンジの冷静な声に、艦長の動きが止まった。

 使命、使命と言ったのか彼は、と艦長はよろよろと艦長席に座る。

 まだ十四歳の子供がそんなことを言う、その衝撃に艦長の心が悲鳴を上げる。

 

『ミサトさん! また無茶するけど許して!』

「なにするかわからないけど、もう言わないわ……艦長、よろしいですね?」

 

 俯く艦長に、ミサトは優しく声をかける。

 以前のミサトなら意にも介さなかっただろうが、今のミサトは艦長の気持ちが痛いほどよくわかった。

 だが躊躇している状態ではない、艦長もそれがわかっているから口を開いた。

 

「出撃を……許可するっ」

「了解しました。エヴァンゲリオン弐号機、発進っ!」

『待ってました!! アスカたの――――』

『弐号機、跳躍しまーす!!』

『だから最後まで言わせろぉおおおおおおお!!』

 

 シンジの叫び声とともに、弐号機が跳躍する。

 だがミサトは軌道がおかしいと思い、落下地点を見る……そこには何もなかった。

 そうなにもない、海しかない。

 

『何やってんの!!』

 

 ここからは視点を弐号機内部に切り替える。

 泡食ったようなミサトの言葉に、アスカはたしかにと同意する。

 出来るのか? 訓練でやったことがないし、ATフィールドはただの機体のバリアとしか考えていなかった。

 シンジの手前、やれると豪語したがこの土壇場になってアスカは不安になる。

 出来るの? 私に――――そんな気持ちが心を支配しそうになったとき、シンジの手がアスカの手に重なる。

 

「信じてるぞ! アスカ!!」

「ッ!!! ……任せなさいッ!!」

 

 アスカの心に火が灯る。

 シンジも信じると同時に念じる。

 頼む、弐号機、お前の中にも母親がいるんだろ? 母親は娘を守るもんのはずだ。たとえどんな姿になろうと、アスカのためにお前も、オカアサンも頑張ってきたんだろ。

 だから……だから頼む、アスカを、俺を、信じてッ!!

 その瞬間、弐号機の頭部具が展開し、光る4つ目が顕になる。

 そしてエヴァの巨体が海上に着水すると思われたとき、足元に展開されたATフィールドに弐号機が乗った。

 

『は、はぁっ!?』

 

 あまりのとんでも事態にミサトはそう言うしか無いし、艦長以下ほかの乗組員やトウジやケンスケもあんぐりと口を開けて弐号機を見ていた。

 まるでマジックショーのような光景に、使徒との戦闘中にも拘わらず全艦の乗組員が海上に立つ弐号機を凝視する。

 一方弐号機の二人も顔を見合わせて、歓声を上げる。

 

「やった、やったわ!!」

「マジでできちゃったよ!!」

 

 きゃっきゃっと喜ぶ二人だったが徐々に、弐号機の体が沈んでいくのを感じた。

 ぶっつけ本番で数秒でも立っていたのが奇跡だったのだろう。

 だが、ここで慌てるわけがないのがアスカだった。

 

「跳ぶわよ!」

「おう!」

 

 その場で膝を曲げ、跳躍するアスカにもう迷いも恐れもなかった。

 連続でATフィールド展開を成功させて、海上を跳んでいく姿に誰もが魅了されていた。

 これがエヴァンゲリオンかと、これでもかと見せつけていたのだ。

 最初に正気に戻ったのは艦長であり、こちらに向かってくる弐号機を見て、艦内無線で叫ぶ。

 

『アンビリカルケーブル準備ッ! そして着艦用のネットも出せ!! それが終わり次第甲板上の人員は速やかに退避ッ!!』

 

 艦長の言葉に甲板にいた人員はすぐさま動く。

 ミサトもハッとしながら、通信機で状況を説明する。

 

『アスカ、シンジくん! 甲板に着地して!!』

「アスカ、着地時にATフィールド展開して衝撃を吸収……まっ、言うまでもないか」

「ったりまえよ!! 私を誰だと思ってんのっ!!」

 

 不敵に笑うアスカに、シンジは同じように笑う。

 そして八度目の跳躍でオーバー・ザ・レインボーの直上に出る。

 飛行甲板ではアンビリカルケーブルが用意されて、最後の人員が退避したところであった。

 

「エヴァ弐号機着艦しますっ!」

「ダイナミックエントリィイイイイイイイイイイイイッ!!!」

 

 ATフィールドを張りながら弐号機は、少しの揺れもなくオーバー・ザ・レインボーに着艦した。

 対ショック姿勢を取っていた艦長は、そのデタラメさにもうどうしていいかわからなくなっていた。

 

『な、何だねアレは……!』

『あれこそNERVが誇る汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンですわ、艦長』

 

 まぁ、こんなデタラメ出来るとか開発者ですら知らないだろうけどねと心の中で思うミサト。

 実際、戦闘後のデータを見たリツコがあまりのデータに飲んでいたコーヒーを全て噴き出して卒倒したのは未来の話。

 話を今に戻そう。

 弐号機はアンビリカルケーブルを接続し、とりあえずは稼働時間の問題は解決した、したのだが問題は武装であった。

 B型装備であるためプログナイフと肩のウェポンラックに搭載してあるニードルガンしかない。

 圧倒的不利とアスカは判断するが、両肩のプログナイフを抜き放つと唇をなめる。

 

「バカ、こういう時はどうするの?」

「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する……つまり」

「「いきあたりばったり()」」

 

 そう声が重なった瞬間、海上から使徒が飛び出してくる。

 深海魚のようなフォルムが見えたと思った瞬間、凄まじい速度で弐号機に体当たりを当てる。

 ATフィールドを張りつつも、足を踏ん張るがメキメキと飛行甲板がエヴァの踏ん張りに耐えきれていなかった。

 

「くそったれがぁっ!!!」

「ッゥ!!」

 

 地上であるなら、このまま力を利用して投げる、なんて芸当が出来るがそんなことをすればまた海に潜られる。かといって距離を取ろうにも足場は狭い空母上、取れる選択肢はあまりにも少なく八方塞がりであった。

 

「コアはどこなのよぉ!!」

「多分体の内部じゃねえかなぁ!!」

 

 その時ガバっと口を開け、弐号機を呑み込もうとした使徒の、その口の奥にコアが見えた。

 

「口ィ!?」

「あっ、ヤバイ」

 

 瞬間、シンジは操縦桿を握りしめ、肩ウェポンラック内にあるニードルガンを全て射出する。

 コアには当たらなかったが、口内に八本の針状の杭が打ち込まれ、使徒はたまらずに口を閉じると海中へと逃げ込む。

 ジリー・プアー(徐々に不利)だとシンジは思考する。

 原作通り食われてからの、内部破壊攻撃がベストだと考えるが、咄嗟にニードルガンを射出してしまったため使徒は海に潜ってしまった。

 どうする……どうしたらいいと焦るシンジに、アスカがフフンと笑いながら言う。

 

「私思いついたわよ」

「マジで?」

「ATフィールドって色々な使い方できそうじゃない? あんたのおかげで発想が広がったわ」

 

 そう得意げに言うアスカは、無線でミサトに問いかける。

 

「やつは!?」

『海中でロスト、ごめんなさい。レーダーが利かないの』

「で、どうすんだ? エリートパイロット」

 

 ミサトの無線に舌打ちをしたアスカは、シンジの言葉に笑みを以って応える。

 

「一か八か……勝算を聞きたい?」

「思いつきを数字で語れないだろ? 俺は信じるぜ」

「ハン、さすが英雄さんね……ミサト、どうにか使徒の動きを止めるわ! そこを全力で砲撃でも爆撃でもなんでもやって!!」

『……わかったわ、艦長、よろしいですね』

 

 ミサトは先程から黙っている艦長に問いかける。

 艦長は深い溜息をつくが、帽子をしっかりとかぶり直しミサトの通信機を受け取ると全艦に向けて発信する。

 

『聞こえたか、全艦砲撃態勢! ミサイルでもなんでもありったけをヤツに食らわせてやれっ!!』

 

 艦長の言葉に付近の艦が砲撃態勢を取る。

 沈黙が場を支配する。

 先程まで荒れ狂っていた海は静かになっていた。

 弐号機は動かない。

 誰もが固唾を呑んで見守っている中、ビデオカメラのディスクを交換しようとしたケンスケの口から、ディスクが落ちて音を立てた。

 その瞬間、海上からまるでイルカのジャンプのように飛び上がった使徒が、弐号機の直上を取る。

 

「アスカ!!」

「わかってる――――」

 

 弐号機の4つの瞳が光り輝く。

 右腕を握りしめ、まるで居合のように抜き放つ。

 

「ちゅうのぉおおおおっ!!」

 

 振りかぶった軌道に沿うようにATフィールドが展開され、使徒の動きを阻害する。

 ギィッ!? と叫ぶ使徒、そして一瞬止まる体。

 それを狙えぬほどこの場にいる軍人たちはぬるくはない。

 

『『撃てぇっ!!』』

 

 ミサトと艦長の言葉が重なり、各艦の主砲、ミサイルが使徒の体に次々と着弾していく。

 苦悶に揺れる使徒は、たまらずに口を開けた。

 その時を逃さず、弐号機は跳躍する。

 そしてプログナイフを足の裏で支えると、そのまま落下しながらコアめがけて飛び蹴りの姿勢で足を突き出す。

 

「「おぉおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」」

 

 二人の声が重なり、コアにプログナイフが突き刺さる。

 自由落下とエヴァの重みが合わさり、プログナイフがコアにめり込んでいく。

 そして耐えきれなかったコアが砕け散り、弐号機は使徒の体を貫通し、水しぶきを立てながら海中へと沈んでいく。

 使徒は叫び声にも似た奇声を上げながら、弐号機と同じように海中に落ちていく。

 そして巨大な水しぶきが上がり、十字架にも似た光を放って爆発した。

 オーバー・ザ・レインボーは至近距離のため、艦内が激しく揺れる。

 

『し、沈むぅ!!』

 

 ケンスケの言葉に艦長が叫ぶ。

 

『空母がそう簡単に沈むか!! ダメージコントロール!!』

『イエッサー! ダメコン班は艦内のチェック!! 沈ませるなよ! この船は旗艦だ!!』

 

 その言葉に駆け出す人員たち、その甲斐もあってか、浸水箇所は全て塞がれてなんとか復元したオーバー・ザ・レインボーにミサトは安堵の息を吐く。

 だがそれもつかの間、弐号機の安否を確認するため通信を送る。

 

『返事して! アスカっ! シンジくん!!』

 

 無線からはザーッという雑音しか聞こえない。

 ミサトは不安な気持ちから、知らず知らずのうちに胸の十字架を握りしめる。

 やがて赤い手が甲板に伸びて、弐号機がよじ登ってくる。

 瞬間、艦内から歓声が上がる。

 艦橋内も、男同士が抱き合い、誰もが喜んでいた。

 その中、艦長は深く席に座りながら、ミサトに話す。

 

『これが……エヴァかね、葛城一尉』

『えぇ、アレがエヴァです』

 

 誇らしげに語るミサトの顔を見て、艦長はフッと笑う。

 

『オモチャ、と言ったことを撤回するよ』

『わかって頂けましたか?』

『あぁ、だがな……子供に全てを懸ける、それだけは絶対にイカン』

 

 艦長の硬い言葉に、ミサトは頷く。

 それを見た艦長は柔らかな笑みを見せると、ミサトに言う。

 

『絶対に、彼らを守れよ。NERV』

『そのお言葉、忘れぬよう精進いたします』

 

 ミサトは姿勢を正すと、艦長に向けて敬礼をする。

 艦長も敬礼で返し、まるで打ち上げられた魚のようにへたり込む弐号機を見据える。

 願わくば、彼らに何事もないように――――。

 

 

 

「どこ触ってんのよ!!」

「電源落ちて見えないんだっつうの!! 殴るな蹴るな騒ぐな!!」

 

 なお当人たちはそんな会話を知らずに、電源の落ちたエントリープラグ内で騒いでいた。

 

 

 

 

「…………」

 

 そんな弐号機を甲板から見守る一人の少女がいた。

 暗い瞳で弐号機を見据えて、拳を握りしめる。

 なんで、なんでそこにいるの、シンジ。

 

「なんで?」

 

 艦内の無線でシンジとアスカの会話を聞いていた少女、レイは嫉妬で身を焦がす。

 あの感覚をアイツも感じたの? という疑問と自分だけが知り得ていた優越感が消えていくのを感じた。

 そして恐怖した、シンジが自分から離れてしまうんじゃないかと。

 ガタガタガタと震える体を抱きしめるレイは、暗い瞳の中で怒りを燃やす。

 

「シンジ、やだよ、捨てないで……お願い、捨てないでぇ……」

 

 壊れたラジオのように慟哭する少女に、弐号機の中の二人を救助しようとしていた軍人たちは回れ右で別の入口を目指す。

 関わったら死ぬ、それだけは理解していた。

 

 

 

「……はい、弐号機が勝ちました。想定以上のスペックで」

 

 海上で浮き輪に乗りながら、加持リョウジは電話をかけていた。

 あの後、海に投げ出され、必死の思いで逃げた彼はなんとか生き残っていた。

 

「イレギュラーと同乗していたようですよ」

『……また、ヤツか』

 

 電話の相手が硬い声を出す。

 それに加持は内心驚く、どんな状況でも態度を変えない、それが加持が知っている電話の相手、碇ゲンドウだったからだ。

 

「どうします?」

『捨て置いていい。ヤツの影響力は確かにあるが計画を揺るがすほどではないよ』

 

 言葉の端に感じる焦りを、加持は感じたが指摘はしなかった。

 そこまでして殺さないのは、加持も知らない思惑があるのかそれとも……。

 

「計画……委員会からどやされますよ」

『問題はない。老人たちにはいい薬だ、思惑通りにならないというな』

 

 それはあんたもだろうと思うが口にはしない。

 加持は上空にローター音が聞こえたので見上げる。

 そこには救助用のヘリコプターがホバリングしていた。

 

「では予定通り、アダムは届けますよ」

『あぁ、アレこそ私に必要なものだ』

 

 そう言って、ゲンドウは電話を切る。

 加持は持っていた携帯を投げ捨てるとヘリコプターから垂れ下がってくるロープを見つめる。

 このままイレギュラーが動き続けてしまったらどうなるのか、加持にすらわからなかった。

 弐号機はスペック以上の力を発揮し、使徒を撃破。

 アスカも讃えられるが、シンジの名声はさらに大きくなるだろう。

 本人が望まなくても。

 

「……自殺志願者でもあるまいしな」

 

 加持は軽い気持ちでそう言ったが、実はその言葉がシンジを表していた。

 誰にも気づかれず、誰にも言われず、戦い続ける彼が実は死にたがっていると聞いたら、加持はこう言っただろう。

 

 ――――あぁ、キミは俺の同類だったのか、と。

 




あそこまで憎悪してたのになんで仲良く乗ってんの? と疑問持つ人がいると思うので解説。ぶっちゃけアスカはプライドが傷つけられただけで、シンジにあこがれています。で、わんこの如く私を見て! 凄いでしょ! すっごいでしょ!! と騒いでスルーされて闇モードオォン! アォン! ってなりかけたけど、直後に戦闘状態でメンタルリセット、あと同世代の男の子裸なんて初めて見て眼福ヤッたぜ! そして信じる(菩薩スマイル)でテンションマックス、ついでに弐号機の中の人もテンションマックス、その結果がほんへだよ。
チョロイン…ですかねえ…褒められると嬉しがる人間でして、結構褒められるのが好きなので、持ち前の操縦テクニックとセンスで旧劇場版みたいなことをしてくれるのがアスカです。
なおレイちゃんの闇ゲージ溜まってる模様、ホラ見ろよ見ろよ(顔を覆う)
ちなみに綾波はコーヒーをマイペースに飲んで、砂糖入れたりして(味覚的に)ポカポカしてた。

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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