中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ テンション上がったからぶん殴って使徒撃滅!

あと今回ちとシリアスにしすぎた。


前世の推しとデートして殺されかけた件

「行きなさいシンジくん!! 誰かのためじゃない! 貴方自身のために!!」

「シィイイイインジィイイイイイイ!!」

 

 前回の使徒戦から数日、学校の休みの日。

 冗談だと思っていたアスカとのデート、それが実現してしまい、この有様である。

 初号機ばりに暴走しているレイを、もうちょい先で言いそうなミサトさんのセリフを聞きながら、俺は数少ない私服を選んで着た。もっぱら制服だもんなぁ、俺って。

 

「レイちゃん!! ここは女の懐の深さってのを見せるのよ!! 私は耐えきれなかったけど!!」

「ダメじゃないかシンジ!! アイツを殺さなくちゃさぁ!!」

「んじゃ、ミサトさん行ってきます」

 

 ガンガン!! とミサトさんが張るATフィールド(布団)を叩く音を尻目に俺ははぁ、とため息をつく。

 

「レイ、待ってたらレイの言うこと一つだけなんでも聞くからさ。今日は許してくれ」

「ん? シンジ今何でもするって言ったよね?」

「シンジくん!! はよ行って!! はよ! はよぉ!!!」

 

 はいはいとミサトさんに返事し、上機嫌な声になったレイに苦笑しながら外に出る。

 カンカン照りな太陽に中指立てながらも、俺は待ち合わせ場所に行く。

 前日に、「明日は現地集合! 私はヒカリのウチで泊まるから!」なーんて言ってたからな、アイツ。

 それをミサトさんに言って笑ったら、割と真面目に説教されてました……おっかねえや。

 

「にしてもデートってさぁ……何すりゃいいんだ?」

 

 生まれてこの方十四年、デートなんてしたことがなかった。

 今日だってどこ行くのか決めてないし、そもそもアスカが満足しそうな場所ってどこだ?

 

「……レイならどこ行けば喜んでくれるのかわかるのにな」

 

 人の心ってわからねえやと思う。

 浮いて沈んで、ぐちゃぐちゃになったと思ったら整って、またぐちゃぐちゃになってわからない。

 そら人類補完計画でひとつ上の段階に上げる際に、個々人のATフィールドを取っ払って一つになりましょうとか考えるよなと思う。

 ただ旧劇場版でアスカが言った一言、アレだけは覚えてる。

 

 ――――でもあんたとだけは絶対に死んでも嫌。

 

 ただ一人、あの補完計画で初号機を依り代にしたアンチATフィールドでどうしようもなくなった世界で真っ先に帰ってきたアスカ。

 トラウマさえなければと思う。

 本来のアスカは本当に一人で生きていける強い女性で、俺なんかとは違う。

 俺を気にするのはエヴァのパイロットで、共同生活をしていて疑似家族みたいな扱いだから。

 一緒に寝るのは……レイとの対抗意識?

 

「……悪い気分ではないけどさ」

 

 これでいいのかと思わないではない。

 このまま一緒に寝て、一緒にご飯食べて、一緒に学校行って、一緒に笑って、泣いて、苦しんで……でもいずれは俺はいなくなる。

 アスカのように生きていけない。

 だけど原作を知っていれば、アスカが家族に飢えているのがよくわかる。本人は否定するけど、眠っているとき頭を撫でると嬉しそうな声を出すのを俺は知っている。

 ……本人に言ったら殺されそうだな、俺。

 考え事をしてると待ち合わせの噴水前まで来ていた。

 待ち合わせの三十分前だ、多分いないだろうと思ったら……嘘やん?

 

「遅いじゃない」

「待ち合わせ三十分前だゾ、十分はっやーい! なんですがそれは」

「うっさい! 一時間前よ! あー、あー加持さんならやってくれたのにな」

 

 少しイラッとする。

 というか加持さんでも一時間前はねえよ、というかあの人多分遅刻して来るタイプやん!! と心の中で叫ぶが黙っておく。

 アスカの服は赤のワンピースとこれまたキレイだが、そういえばアニメ版だと緑色の服着てたな。

 

「どう? 似合ってるでしょ」

「最初に会ったときの服装も似合ってたし、大抵の服はアスカには似合うだろ」

「……フン! 行くわよ!」

 

 アスカが俺の手を掴み、ズンズンと歩いていく。

 なんか怒らせるようなこと言ったかな? と首を傾げながらアスカのあとを付いていく。

 

「バカシンジ、デートコース考えてるのよね」

「まずハンバーガー屋だろ? 次ラーメンだろ? でもってステーキだろ? 最後は牛丼!!」

「食うことばっかか!! このバカ! アホ!! おたんこなす!!」

 

 冗談だってのに……と弁解することなく、アスカはギャーギャー騒いでいる。

 はぁ、と頭を掻いて、本来のデートコースを言う。

 

「ショッピングモールに行く。あそこなら遊ぶ場所もあって、買いたいもんあったら買えるだろ」

「……おっどろいた、マジで考えてたんだ。でも今日は別の場所行くのよ」

「えっ? どこに?」

 

 アスカは振り向いて満面の笑みを見せる。

 その笑顔に、俺の心臓が跳ね上がる。

 

「水族館、加持さんのオススメ!」

 

 訂正、テンションが最高に下がりました。

 

 

 

○○○

 

 

 

「今頃アスカとシンジくんはデートか」

「あんた余計なこと教えてないでしょうね」

「ハハッ、まぁ、アスカに落ち着ける場所は教えたかな」

 

 その一言でミサトの瞳が鋭くなる。

 最近さらにおっかなくなったなコイツと加持は思う。

 

「ったく、まぁあんたのことだし下手な場所は教えてないと思うわ」

「……休憩3000円の場所教えたほうが良かったかな?」

「こんのばか!! あの子達の年齢考えなさい! ……つっても、そんじょそこらの子がぶったまげることしてんのよねえ、あの子達」

 

 ミサトはグラスに残ったビールを飲み干して、テーブルに突っ伏す。

 今日は珍しくオフだった。朝方には暴走するレイを抑え、その原因はあっけらかんと外出し、機嫌が急降下していく中、父親との墓参りのために仏頂面で家を出たレイを見送ったミサトは、加持を呼びつけ、飲み屋でグダっていた。

 加持は苦笑しながら羨んだ。

 

「三人で寝てるんだっけ? よくシンジくん襲わないな」

「……お風呂場で発散してるのよ。それも五回もね」

 

 うわぁおと加持が素で驚くが、男としてシンジに同情する。

 

「監視してんの?」

「するわよ!! しょうがないでしょ……でもあの子、レイちゃんとの関係どう思ってるのかなって思う時があるの」

「どうって?」

「家族、そうシンジくんは言ってるけど、レイちゃんの気持ち考えたこと無いのかなって」

 

 加持はゆっくりとグラスを傾ける。

 一口飲み込んで口を開く。

 

「まるでお母さんみたいだな、葛城」

「……わかってんのよ、家族ごっこだって」

 

 ミサトは寂しそうに呟く。

 加持はその表情に確かに母性を感じたが、それを指摘しない。

 

「わかってるなら当人たちに任せるしか無いんじゃないか?」

「……その結果、私達は破局したけどね」

 

 うぐっと加持は内心傷つきながらミサトの表情を見る。

 ジト目でこちらを見ていたがふーと深い溜め息をついてテーブルに顔を突っ伏す。

 

「正直に言うとさ、昔の自分をレイちゃんに重ねてさ。幸せになって欲しいって思うのは傲慢なの?」

「当人たちの意思に反してやるなら、それは傲慢だよ……それにシンジくんは望んではいない」

「……ねえ、シンジくんってどういう子なんだろうね」

 

 顔を向けずに、ミサトが加持に質問する。

 加持は戯けながら言う。

 

「ただの一般人からエヴァに乗り込み使徒をばったばったと薙ぎ倒し、今や英雄と呼ばれる少年!」

「ふざけないでいいわよ……メディカルチェックでね、シンジくん、痛覚がほぼ無くなってるんだって」

 

 その一言に、加持は衝撃を受けた。

 

「なんだって?」

「多分、ラミエル……ヤシマ作戦前に一回シンジくんが釜茹でにされた事あったじゃない? アレのせいなんじゃないかって」

「……シンジくんが英雄って言われ始めた原因か」

 

 誰が言ったか、英雄。

 もはや独り歩きして、三上シンジならどんなことでもやれるなんてことも言われ始めている。

 馬鹿らしいと加持は思うが、そう思う自分ですらシンジならと思ってしまうことがある。ソレだけのことをやって退けた。だが、彼は内面も外面もズタボロだったのだ。

 

「普通なら発狂すると思うわ。あったはずのものが無いんだもん……リツコ、かなり落ち込んでたわ。エヴァだけ見てたって」

「……」

 

 加持は迷った、言うべきかと三上シンジという少年の本質を……迷ったが、言うと決めた。

 今の葛城ミサトなら受け止められると。

 

「葛城、質問を返すようで悪いがお前のシンジくんの印象ってなんだ?」

「……バカでズボラで大食らい、でもやる時はやる男の子」

「それも間違いじゃないだろうな……本当はな、あの子が死にたいって思ってたら、どうする?」

 

 ミサトが跳ね起きて、加持の顔を見る。

 その顔は真っ青になっていた。

 

「そんな、まさか……」

「……事実だ」

 

 ミサトはわなわなと両手で顔を覆う。

 加持はミサトの肩に手を乗せる。

 

「辛いよな、わかるよ。俺も最初見た時は冗談かと思った……けど事実だ、三上シンジは死にたがっている」

「……どう、すればいいの」

「わからない」

「わからないってあんたねえ!!」

 

 ミサトが加持の襟首を掴むが、ただの八つ当たりだと気づき、力なく項垂れる。

 加持は迷ったがミサトの体を抱きしめる。ミサトが嫌がると加持は思ったが、嫌がらずに『昔』のように体を預けてくれたミサトを愛おしく思った。

 

「わからないが、葛城。シンジくんを支えるってのは戦闘だけじゃないんだ……さっきの質問を返すよ。俺にとっての三上シンジくんは泣きじゃくる子供だ。誰にも助けを求めず、ただひたすら泣いてる子供」

「……どうしたらいいのよ、私達は」

「見守るしか無いんだ」

 

 ギュッと抱きしめる加持は噛みしめるように呟く。

 不甲斐なさと申し訳無さで二人はきつくお互いを抱きしめあった。

 

 一方、電車で水族館に来ていたシンジとアスカは巨大な水槽に圧倒されていた。

 

「はぇー、おっきい」

「加持さんが言ってたのよ。日本最大級の水槽だって」

 

 水槽には様々な種類の水に生きる生物が入っていた。

 亀、魚、ジンベイ鮫、クジラ、イルカと海をそのまま持ってきましたと言わんばかりの種類にシンジは素直に感動していた。

 

「見ろよ、アスカ、亀だぜ! 亀! ガメラ!」

「ガ、ガメ……?」

「日本の特撮怪獣だよ、今度見てみろよ」

 

 ちなみにこれは前世の知識ではなく、シンジがどうせ死ぬなら映画全部見ようぜ! と片っ端から映画見て、特撮映画にドハマったのが原因である。ちなみにレイはそんな好きではない。

 はしゃぐシンジに、アスカはため息をつく。

 

「子供っぽいことしないでよ、一緒にいる私までバカみたいじゃない」

「連れて来たのはアスカだろ! サンゴまであるわ、ここすっげ!!」

 

 はしゃぐシンジに、アスカは選択肢ミスったかなぁと思うが悪い気分はなかった。

 笑顔ではしゃぐシンジに嬉しさを感じるが、少しイラッとする。

 水槽に吸い付くように見ているシンジの肩を掴み、自分の方を向かせる。

 

「デートだって忘れてない!?」

「水族館だから魚見るんだろ?」

「デリカシーがない!! 普通私を楽しませるのが先でしょ!」

「……うーむ、アスカってどういう魚が好きなんだ?」

 

 シンジは考え込むが、アスカは鼻を鳴らす。

 

「好きな魚なんてないわよ」

「よし! じゃあ今日はそれを探そうぜ! とりあえずホラ、見ろよ見ろよ」

 

 シンジはアスカの手を引いて、水槽に近づかせる。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「アレがイルカ、でかいのがクジラ、でめっちゃでかいのはジンベイザメ! クラゲにちくわ大明神!」

「なによ、ていうか最後の何!?」

 

 ギャーギャーと騒ぐ二人を咎めるものはいない。

 先の使徒戦で人がさらに減ったのだ、水族館も人はまばらだ。

 

「……ただ泳いでいるだけじゃない」

「まぁ、生き物の様子見るのがここの役目だからな」

 

 ガラス越しに生物を見る行為に、アスカは気持ち悪さを覚えていた。

 自分で連れてきてどういうことかと思われるが、アスカのトラウマが刺激されていた。

 大丈夫だと思っていたが、案外ダメだったようだが、アスカはシンジに心配をかけさせまいと気丈に振る舞おうとして、シンジがストップをかけた。

 

「アスカ、他のところ行くか」

「はぁ!? まだ入ったばっか――――」

「顔色悪いぞ」

 

 ッ!? と嬉しさと悔しさがアスカの胸を刺激する。

 シンジは、有無をいわさずにアスカを連れて外に出る。

 アスカは自分の手を握るシンジの手の感触にドキドキしていた。

 そんな胸の恥ずかしさを誤魔化すように、水族館の外に出た瞬間に手を自分から振り払う。

 

「いつまで触れてんのよ!!」

「悪い……さって、ぶらぶらすっべ」

 

 苦笑しながら、歩くシンジにアスカははぁ!? と言うが今日は、水族館に来て夜は別の場所に行こうと思っていたのだ。

 プランB? あぁん? ねえよんなもん。

 仕方なく、アスカは小走りでシンジの隣に追い付き、同じ速度で歩く。

 沈黙が二人の間に流れるが、シンジが口を開く。

 

「そういえばさ、アスカって家族はどうしてるんだ?」

「……ドイツよ、今頃私がいなくて清々してるんじゃない?」

 

 聞かれたくないとアスカは思ってしまう。アスカにとって、家族という言葉は自分の弱さの象徴だった。

 だが、話す話題もないのでとりあえずアスカは話す。

 

「私ってさ、本当の母親と死別してんの……あんたはいいわよね、両親がちゃんとしててさ」

「そうでもないさ」

 

 シンジの表情が陰る。

 アスカは少し違和感を感じるが、この際だ、色々聞こうと思う。

 

「あんたってさ、昔からこうだったの?」

「何が?」

「だから、エヴァに乗ってるときみたいに無茶してたのってこと!」

 

 アスカの言葉にシンジは苦笑する。

 無茶、かと思う。

 最初はやるしかない、やらなきゃと無我夢中だった。今もそうだが。

 そうやってやるしかないと思ったから戦っていたが、アスカはエヴァに乗ったあとの自分しか知らないのか、とシンジは納得した。

 

「いや? 昔は……普通だよ、どこにでもいる子供」

「……七光とはいつ出会ったのよ」

「レイとは小学生の時、転校してきてしばらくしていじめられてたのを助けたときだったかな」

 

 自殺するときに出会いましたとは言えずに、シンジはアスカに出会ったときのことを話す。

 ドロップキックをし、虐めていた子たちに逆にボコボコにされたと言うと、アスカは腹を抱えて笑った。

 

「だっっっっっっっっっっっっっっっさ!!」

「五人に勝てるわけ無いだろ!!」

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前とか言わないの、アッハッハッハ!!」

 

 クサムァ!!! と軽くオンドゥルってるシンジの言葉に、アスカは大爆笑して、羨ましいなと思ってしまった。

 もしもシンジが小さいときに傍に居てくれたらと思わなかったときはない。

 もしも最初にシンジと会っていたら、コイツの隣に私だけがいたんじゃないかと……バカね、とアスカは笑う。

 そうだとしたら自分の存在意義はなくなっている。

 一番じゃなければいけなかった、一番になって、一番であって、一番だからこそ皆が認めてくれた。

 違う、ただの代償行為だ、本当に褒めてほしかった相手は一度も褒めてくれなかった。

 だから求めた、他人の称賛を、だけどどれだけ褒められても満たされることはなかった。

 あの時までは。

 

 ――――出会ったのは今日でも、アスカは今まですげー頑張ってきたんだろ。誰が何と言おうと、俺は信じる。

 

 あの一言、誰もが言ってくれなかった一言で、アスカの心が晴れた。

 誰もが『エヴァンゲリオン』に乗る惣流・アスカ・ラングレーを褒めてくれたが、三上シンジはあのとき惣流・アスカ・ラングレーを褒めて、信じてくれたのだ。

 嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。

 だけど憎いと感じるのも事実だった。

 自分を脅かす存在、直接戦闘ならまだ勝てる。だが実戦では不可能を可能にし、先日の戦闘ではアスカですら叩き出していなかったシンクロ率90%以上を叩き出した。

 そのくらいシンジの実力は目に見えて上がってきていた。

 天才とアスカも言われたが、エヴァは実のところ感覚の世界だ、長く続けてるから強いというわけではなかった。

 だから、今日、アスカはシンジを――――

 

「ねえ、シンジ、少し疲れちゃったから休憩しない?」

「いいゾ~これ! どこで?」

「ここよ」

 

 アスカは指をさす、ド派手な装飾と色をしている建物。

 デカデカと看板にはご休憩と書かれていた。

 シンジの目が点になる。

 

「あ、あのアス、カさん???」

「ねえ、シンジ、私ね、あんたとならいいと思ってるの」

 

 ニコリとアスカは可愛らしく笑う。

 内に秘めた殺意を隠すように。

 

 

 

○○○

 

 

 

「大きいわね、ここ」

「はわ、はわわわ……」

 

 冗談だと思っていた、というかフロントで突っ返されると思うじゃん?

 プライバシー保護か、特に何も言われずにお金出して鍵渡されてここにいた。

 存在は知っていたが、まさか入ることになるとは思わなんだ?

 

「シャワー浴びる?」

「アスカ、悪ふざけならここまで――――」

 

 そう警告しようとしたところで、アスカに押し倒される。

 そして顔が近づきキスをされる。

 数秒だけのフランクなキス、だが俺の心は砕けそうになる。

 レイ以外としちまった……罪悪感が心を支配する。

 

「ねっ? 好きでもないやつとはしないわよ……だからさ、七光とは出来ないことしよ? 友達じゃ出来ないことしてあげる」

「ア、アス――――むぐぅ!?」

 

 二回目のキスは長かった、顔いっぱいにアスカが見える。

 舌と舌が絡み合い、お互いの唾液が交換される。

 同じシャンプーをしているはずなのに、いい匂いがするのはなんでだろうと息が苦しくなったとき、視界の端で光るものが見えた…………あぁ、そういうことか。

 

「ぷはぁっ、ねえシンジいいでしょ?」

「…………アスカ、一言いいか?」

 

 何? と笑った彼女の顔が強張ったのは気の所為ではないだろう。

 ……なるほど、アスカに殺される(・・・・)のが俺の死か。

 

「殺すなら一撃で頼む」

「ッッッッッ!!!」

 

 ダン!! と俺の顔のすぐ真横にポケットナイフが突き刺さる。

 俺の心は乾いていた。

 むしろなんで外したんだろうって思う。

 

「いつ、気づいたのよ」

「キスしてるとき、光るもんが見えた……ごめん、言わなきゃ良かったか」

 

 アスカの顔が歪み。

 ポケットナイフから手を離し、俺の首を両手で締め上げる。

 

「あんたが、あんたが悪いッ!!! あんたさえいなければ!! 私は一番だったのに!!」

「そう、か……そ、うだよ、な」

 

 ぐぐぐっと絞まっていく手に俺は特に抵抗はなかった。

 頭に血が上り、目の奥が痛くなる、徐々に息がしづらくなっていく。

 だがアスカの手から力が弱まっていく。

 なんで? と思うが、弱まっていく手に俺は自分の手を添える。

 ビクリと跳ね上がるアスカの肩、だが俺はアスカの手をそっと握る。

 

「抵抗はしないぞ」

「……なんで、よ、なんで!!! 諦め悪いんでしょ!! なんで諦めてんのよ!! 反撃しなさいよ!! いつもみたいに!」

「殺す相手に言う言葉じゃねえわな」

 

 ボロボロとアスカの目から涙がこぼれてくる。

 あぁ、泣かせちゃったか、ごめん。

 

「な、んでよ、なんで!!! 憎くないの! 私が、今度は叩くんじゃなくて本気で殺しに、あんたを、シンジを……なんでよぉ!!」

 

 アスカの拳が俺の顔面を捉える。

 何度も、何度も、何度も、血が出てると思う。アスカの拳に血が付いてるから、でも痛くない。

 もう何も感じない、どれだけ叩かれても。

 でも、心は痛かった。

 泣きながら俺を殴りつけるアスカが悲しくて、俺はアスカの拳を手で止めるとアスカを抱きしめる。

 

「バカ、バカシンジ……どうして優しくするのよ、憎ませてよ、殺させてよ、あんたがいるから、あんたが……あんたが……なんで私の隣にいてくれないの?」

「……寂しかったんだな」

 

 アスカが最初から気になっていたのは、別に前世からの推しだったからではないと思う。

 全てを憎むような瞳、それでいて寂しそうな感じが出会った頃のレイにそっくりだったから、怒るに怒れなかったんだな、俺。

 ようやく気づいた。

 

「ごめんな、気づいてやれなくて」

「うるさい、死ね、死んでしまえ、そうすれば私は、私は……ッ」

 

 刺さったままのポケットナイフを俺は引き抜く。

 そのまま俺は逆手にナイフを持つと、勢いよく振りかぶって自分に――――

 

「だめええええええええええええ!!!」

 

 先端が左胸に少し刺さったところでアスカが両手で俺の腕を掴んでいた。

 俺は困ったように笑う。

 

「なんでだ? なんで死なせてくれない?」

「やだ、やだぁ!! 死なないで!! ママ!! ママ!!」

 

 アスカは発狂していた。

 自分で死のうとしている俺に母親のことを重ねたのだろう。

 あぁ、傷つけちまった。

 ナイフを捨てて、アスカの体を抱き締める。

 

「アスカ、アスカ、聞け」

「やだぁ!! いやよぉ!! ママ!! ママ!!」

「アスカッ!!!」

 

 無理やりアスカの顔を向かせる。

 光を失った瞳が俺を見る。泣きじゃくってめちゃくちゃな顔を自分から近づけて抱きしめる。

 どこにもアスカが行かないように。

 

「アスカ!! お前は人形じゃないだろ!! わがままで! 自分勝手で!! でも本当は優しい! 惣流・アスカ・ラングレーだろ!! 自分を見失うな!!!」

「……わた、私」

「俺を憎んでもいい!! 殺したいって思ってもいい!! でもお前を見失うな!!」

 

 自分でもおかしいと思う。

 自分を殺そうとした相手を励ますなんて。でも見捨てられなかった。

 母親から見てもらえなくて頑張るしか手段がなかった女の子(レイ)を俺は、見捨てられなかった。

 それに想像以上に、発狂したアスカというのを見るのは心にキた。

 まだ、なんとかなるはず。あの使徒に精神をめちゃくちゃにされたわけではない。

 ただ過去のトラウマが蘇って、一時的に発狂しただけだ。

 というか俺が自殺、死ぬって自分で言ったのがトリガーだろう。

 

「いやぁああ!!! いやよぉおお!! もう、いやぁ!! 憎むのいや! 好きになるのも嫌!!」

「アスカ、悪い!!」

 

 アスカの唇を奪う。

 逃さないように、頭をしっかりと抑える。

 酸欠になりゃちったぁ落ち着くだろ!!

 アスカがじたばたと暴れるが、次第に力が失われていく。

 次第に、アスカの手が俺の首に回される。

 ドキリとするが、今は正気に戻すことだけに集中する。

 一分、そこらだったのだろうが体感では長い時間キスしていた気がする。

 どちらかが離れたのかわからない、顔が離れ、アスカが虚ろな目でこちらを見る。

 

「マ、マ……?」

「……違うぞ、俺はシンジ、三上シンジだ」

 

 アスカの瞳に力が戻っていく。

 俺に抱きつき、顔を上げずに言う。

 

「シ、シンジ……? わ、私、私……」

「……気にしてない」

 

 アスカに心配かけまいときつく抱きしめる。

 離さないとアスカに示すように。

 

「大丈夫、このことは二人だけの秘密だ」

 

 まぁ、監視にバッチリ見られてるだろうがな。

 ここに踏み込まないってことは様子見してるか……どうだろうな。

 

「秘密」

「あぁ、秘密だ……アスカ、別に俺は抵抗しない。殺したきゃ殺せ」

 

 ギュッと抱きしめていると、アスカも抱きしめ返してくる。

 ドクン、ドクンとお互いの心臓の音が聞こえる。

 アスカは顔を上げて、俺に言う。

 

「……なんで? どうして死のうとするの?」

「……本当は、レイに会わなきゃ死のうと思ってたんだ俺」

 

 アスカに誰にも話していないことを話す。

 アスカの瞳が揺れる。

 

「だから、アイツを守ってるの?」

「あぁ、俺の生きる希望だからな。俺がどうなろうとレイが生きているならそれでいい」

「そっか……あぁ、そっか」

 

 アスカがぽすんと俺の体にさらに密着する。

 そしてニコリと笑う。

 

「あぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その笑みを俺はただ見つめていた。

 どういう意味を持っているかわからずに。

 

 

 

 

 




どうしてアスカがこういうことしたのかというと、憎しみ=憧れがあってシンジのことは嫌いじゃなかった。ただくっっっっっそ拗らせてるので、シンジという存在の大きさに惹かれていって、アスカのプライド刺激してた。そこで前回の使徒戦で何も出来なかった自分に、戦う前から称賛されていたシンジという嫉妬で殺すしか無いとガンギマリに。で、デートとかこつけて殺す気だった。
ただアスカ以上に拗らせていたシンジは、無抵抗で殺されそうとして、首絞めたときに水族館のせいもあるけど母親が首つっていた場面がフラッシュバック。殺そうとしてたのに優しくされて乙女心ギュンギュンなところに、まさかの自分でナイフ振り下ろすシーンで母親を完全に思い出して発狂。
もう終わりだぁ!! ってところでシンジの声掛けとキスでなんとか精神が再構築、うわぁとんでもないことになっちゃったゾ、あっキス気持ちいい、ほぼイキかけましたねと賢者モードになったところで、シンジのレイがどういう存在か聞いて、あっ、アイツ恋敵じゃねえわと思い、心の中でガッツポ。
まぁ、ぶっちゃけごちゃごちゃ書いてたけど、あんたが憎い(ANKNボイス)、だからあんたを殺して私のものにするってしたかっただけ、なお相手が精神ガンギマリで死にたがりじゃなかったらふっつうに首絞めて殺してたゾ。アスカがやべー回と思いきや、シンジがどれだけヤバイか描写した回でした。

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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