中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ (シンジの)精神が壊れるわ!! これちゃーう! (使徒)おっ、(心の傷が)開いてんじゃーん! オッスお願いしまーす! ホラホラホラ364364、お前こう思ってんだろぉ? キモティカ? キモティダルルォ!? (シンジ)おっそうだな、じゃけん開き直ってお前倒すわ (使徒)ファッ!? ウーン(死亡)

昨日エヴァの放送開始日だと今知って苦悶の肉おジャの顔してるけどかまへん! かまへん!! ただ走るだけよ。死ぬときはのはスタンディングモードってそれ一番言われてるから。


主人公はただ叫んでるだけな件

 初号機が呑まれて十二時間、現状は維持されていた。

 錯乱する零号機を弐号機が止め、アンビリカルケーブルを手動脱着させた以外は問題はない。

 

「問題しか無いわ!!」

「えぇ、そのとおり、でも相手の正体を考えたら刺激はできないわよ」

 

 発令所で臨時作戦会議をしていた、ミサトは拳を叩きつけるが、リツコは冷静にモニターを表示する。

 そこには今、第3新東京市に広がる『海』についての分析結果がでていた。

 

「『ディラックの海』と呼ばれる虚数空間、これが今回の使徒の本体よ」

「科学の授業を聞きたいわけじゃないの、シンジくんは助けられるのられないの、どっち!!」

「……葛城三佐、落ち着きなさい」

「落ち着いていられるの!? あのシンジくんを見たの!? あれじゃ、あれじゃまるで……」

 

 感情が高ぶったミサトは震える体を押さえつけて、その先は口に出来なかった。

 アレじゃまるで自殺する前みたいじゃない……そういいあぐねたミサトは、自分の弱さを呪う。

 結局家族ごっこ、と自分で形容したようにそのとおりだったのだ。

 本来なら止めるべきだったはずの、レイとアスカの諍いを止めず、日に日に弱っていくシンジから逃げ、男へと依存した。

 形は違えど自分がレイやアスカと同じことをしているとわかっていながら、ミサトはそれが止められなかった。

 その結果がこのザマだ。

 シンジの死んだような瞳に、ミサトの心は粉々になりそうだった。

 何が大人だ、何が子供を支えるだ、何一つできてないじゃない!!

 だが、そんなミサトの八つ当たりを、リツコは冷たくあしらう。

 

 

「冷静になれないなら外れなさい、邪魔よ」

「あんたねえ! ――――っ」

 

 パァンとリツコの平手打ちがミサトの頬を直撃する。

 その場にいたオペレーターたちや職員がぎょっとした顔でリツコを見る。

 リツコは涼しげな顔から、頬を真赤にして倒れ込んだミサトの胸ぐらを掴んで、力任せに立たせた。

 

「いい加減に逃げるのはやめなさい!! あなた言ったわよね、自分が保護者になるって!! この体たらくは何よ、人に当たり散らして勝手に落ち込んで!!」

「リ、リツコ……」

「悔しいのはあなただけじゃないわよ!! あんなに、あんなに追い込まれてる子をエヴァに乗せてしまった、私達全員の責任なのよ!!」

 

 その言葉に、オペレーターたちや職員が俯く。

 リツコはそのまま叫ぶ。

 

「信じた! 信じてしまったのよ!! たった十四歳の子供が救うって信じてしまったのよ!! あの子がどんな思いで戦ってるかも知らないで、どんなに傷ついてるのかも知らないで!! ただ私達は戦わせてしまったのよ!」

「ッ……」

 

 リツコの叫び声に、嗚咽を上げる職員も出てしまった。

 そう、たった一人、なんの訓練もしていない子供に押し付けた。

 その結果にリツコは怒って、懺悔していた。

 科学者としてではない、一人の大人として、羞恥心を覚えていた。

 

「無茶振りに応えてたんじゃない! 無茶しなきゃあの子は戦えなかったのよ!! それを良しとしたのは……私よ……ッ」

 

 ミサトの胸ぐらを掴む力が弱まり、俯いたリツコの肩が震える。

 床には大粒の水滴が落ちていた。

 

「何が科学者よ、何が天才よ、子供一人救えやしないじゃない、私は……」

「……ごめんなさい」

 

 この場にいる誰よりも後悔してるのは、リツコだろう。

 これでいいや。わからないけどシンジならやれる。使徒を倒せる。

 そうしてパイロットではなくエヴァだけを見ていたリツコは気づけなかった。

 あの笑顔の下にどんな思いを隠していたのか、考えることはなかった。

 だから、リツコは必死にシンジをサルベージする計画を立てていた。初号機? 知るかそんなもの、子供の命に代えられるか! と初号機サルベージを優先しようとした冬月に言い放ったのはリツコだった。

 だが理論上は不可能だった。

 『ディラックの海』と便宜上呼称しているが、あれは厳密にはディラックの海ではない、言うなれば別宇宙につながるポータルなのだ。

 その広大な空間から初号機を見つけ出すなど、砂漠に落ちた石を探すように困難だった。

 だが、方法はないわけではない。

 そのためにゲンドウは席を離れ、国連軍や関係各所に話をつけにいった。

 

「……現存する全てのN2爆雷による、一極集中破壊、こんなことしか考えつかないのよ」

「あなたはよくやった、うぅん、この短時間で敵の正体も、シンジくんを助け出す方法も考えついたじゃない」

「MAGIの計算によると初号機が大破する確率は99.9%、シンジくんが生き残れる可能性は0.1%……こんなの救出作戦でもなんでも無いわ」

 

 リツコはミサトの胸の中で自嘲する。

 実質救えないのだ、だが現状ではその作戦しか思いつかない。

 使徒は静止しているが、いつ動き出すかわからない。

 そしてエヴァ全機が、この第3新東京市が飲み込まれたら終わりなのだ。

 だから、倒せる方法と助け出せる僅かな可能性に賭けるしかなかった。

 ミサトは、リツコの体を引き剥がし目の前に見据える。

 

「信じるのよ」

「あなたはそうやって!!」

「違うっ!! 帰ってくるのを信じるのよ」

 

 ミサトの強い口調に、今度はリツコが押し黙る番だった。

 ミサトは決意を胸に、胸の十字架を握りしめる。

 

「帰ってきて、あの子と向き合う。もう逃げないわ……うぅん、話し合うの、家族として」

「……ダメだったら?」

「思いつきを数字で語れるもんですか!!」

 

 ミサトの言葉に、オペレーターたちが涙を拭ってキーボードをひたすらに打ち込む。

 

「爆発範囲の予測と起爆のタイミングを再度シミュレートします!」

「MAGIの予測? バカですか? シンジくんは何度も乗り越えたんですよ? 自分たちだってできるさ!!」

「先輩、諦めちゃダメですよ。最後まで、最後まで足掻くんです。それが私達ができる精一杯なんです」

 

 職員たちも動き始める。

 ミサトの一言は馬鹿らしいものだ。

 開き直りと言っても良い、だがそれでいいじゃないか、最後まで子供に胸を張ろうとする。どんなに失敗しても、かっこ悪い姿を見せても良い、ここで踏ん張れないやつは大人じゃない。

 その思いで発令所にいる職員たちは動いていた。

 

「あなたたち……」

「リツコ、私達は情けない奴よ。逃げて、見ないふりをして、押し付ける、サイッテーな部類の大人よ……けどまだ失ってないわ、シンジくんを。可能性が残ってるなら足掻きましょう。彼はそうしてきたわ」

「ミサト、あなた」

「だから、お願いよ。赤木リツコ博士、あなたの協力が必要なの」

 

 ミサトが手を差し出す。

 非効率的だと、科学者である赤木リツコが言う。

 あの人のためじゃない、女の赤木リツコが言う。

 だがそれらをまとめてぶん殴った大人の赤木リツコが叫ぶ。

 気合と根性は! 全部乗り越えるのよ!!!!

 その考えの元、リツコはミサトの手を力強く握った。

 

「やるわよ、泣き言は終わり! 閉廷!! はっきりわかんだね」

 

 リツコの言語野がガバガバになっていた頃、使徒から少し離れた高台にチルドレンたちは集まっていた。

 だが誰もが俯いており、葬式かと見間違うほどだった。

 周囲は国連軍が包囲していたが、全員が暗い『海』の底に沈んだ初号機パイロットを案じていた。

 全員が、ヤシマ作戦等、使徒戦に参加しシンジに命を救われ、その活躍を見ていた兵士たちだった。

 

「オイ、あの子たち……」

「そっとしてやれ、あの紫がいなくなったんだ。精神的に参ってんだろ」

「だけどよ、俺たち何かできないのか?」

「職務を遂行する……俺達は大人の前に軍人だ。子供をあやすのは親の役目だ」

 

 そんな会話の中、俯いていたレイが立ち上がる。

 そして使徒の方に向かおうとして――――その手を綾波が掴んだ。

 

「離せよ」

「……」

 

 怒りに震える声にレイは、綾波を睨む。

 だが綾波は何も言わずに、俯いたままブンブンと頭を振って、行かせないと意思表示をする。

 レイが激高する。

 

「離せよ!! 僕が行けばシンジは帰ってこれるかもしれない!!」

 

 レイは悔やんでいた。

 なんであのとき一緒に行かなかったのかと、一緒に行けばいつもみたいにどうにかできたと思い込んでいた。

 ボロボロの笑顔をみせて、自分を守ろうとするシンジをそのまま見送ってしまった。

 結果シンジは帰ってこず、もうすぐ生命維持の限界時間が迫っていた。

 原作のシンジくんとは違い、シンジはプラグスーツの生命維持機能なしでいるのだ。原作よりも持てる時間は少ない。

 レイは罪悪感とシンジが死ぬんじゃないかという恐怖心でどうにかなってしまいそうだった。

 だからこのまま使徒の内部に入ってしまおうと考えていた。

 

「僕が一緒ならシンジはどんなことだってできる!! あんな使徒、やっつけ――――」

「あんたさ、ホントバカよね」

 

 ゆらりと今まで俯いて、膝を抱えていたアスカが立ち上がり、レイを睨みつけた。

 

「なんだって?」

「七光、うぅん、七光でもないか足手まとい、だからシンジが追い込まれたってわかんないの?」

「お前がそれを言うのかよ!! あの日からシンジはおかしくなったんだ、お前なんかとデートしたから!!」

「シンジはね、最初からぶっ壊れてたのよ。あんたに出会う前から」

 

 アスカはレイの目の前に立つと、哀れみと嫉妬の瞳でレイを睨む。

 レイは、アスカの言葉の意味がわからずに叫ぶしかなかった。

 

「どういうことだよ!!」

「アイツね、言ってたわよ。レイと会わなきゃ死のうと思ってたってさ」

 

 その一言に、レイはガツンと頭をハンマーで殴られたような感覚に陥った。

 死ぬ? 誰がだ? シンジが? なぜ?

 理解できずにフラフラと頭を抱えるレイはへたり込む。

 アスカは、そんなレイを見下ろして言う。

 

「俺の生きる希望だから守る。別にね、アイツはあんたじゃなくたってよかったのよ」

「違う!! シンジはそんな人じゃない!! 僕を受け入れてくれた!」

あんた(・・・)だけじゃないわよ。アイツは誰でも受け入れる、うぅん、守るのよ」

 

 その一言にレイは頭を振り回して否定する。

 違う!! 違う!!!!!! シンジは僕だけを見てくれてる! 僕だけの人なんだ! 僕を、僕を拒絶しない世界で唯一の人なんだ!!

 

「私ね、アイツが嫌いだったのよ」

 

 アスカはそんなレイの感情をお構いなしに話す。

 

「大嫌いだった、私の努力を全部乗り越えて、欲しい物が全部あって、誰もがアイツを注目してた。憎くて憎くてしょうがなかった。だから出会ったときにぶつけたわ」

 

 アスカの脳裏に、シンジとのファーストコンタクトが思い出される。

 感情のまま叩いた、その後も事情お構いなしにシンジを連れ出して弐号機を見せて、使徒が来て、一緒に乗って――――

 

「でもアイツは何も言わなかったわ。それどころか私を信じてくれた」

 

 ――――でも俺はアスカを信じてるぞ。

 

 あの一言がアスカの恋心に火をともした。

 元々気になっていたのが、自分を認めてくれたという事実とシンジの優しさに惚れた。

 そして一緒に生活して、一緒に戦って、一緒に寝て、それでもアスカはシンジを憎む気持ちを捨てられなかった。

 憎悪が最高潮になったのは、宇宙から降ってくる使徒をシンジが単独撃破したとき。自分なんて必要ないと見せつけられて、憎んだ。いいや違う、寂しかったのだ。

 アスカは母親をシンジに重ねていた。

 顔も、性別も、性格も何もかもが違う。だけどアスカを信じてくれたのは母親とシンジだけだ。

 だからあのときの憎しみは、自分というエリートの立場が脅かされる恐怖と、エヴァの力を引き出した嫉妬、そして置いていかれたときの寂しさがごちゃまぜになったものだった。

 だから殺す、自分を見て、自分を感じて、自分を思って欲しかったから。

 今にして思えば、人形である『アスカ』と心中した母親と過程は違えども、結果似たようなことをしようとした自分に笑う。親子というのは似ると言うがここは似ないで欲しかった。

 

「僕のほうが信じられてる、最後に頼るのはいつだって僕だ!!」

 

 レイが歪んだ笑顔を見せる。

 嫉妬と優越感が入り混じった顔。

 そうだ、最後は僕を頼ってくれる、僕を守ってくれる、僕を見てくれる。

 そう考えていたレイに、アスカはため息を吐きながら指摘してやった。

 

「じゃあなんで今回はあんたと一緒に乗らなかったのよ」

「えっ……?」

 

 アスカの言葉に、レイは呆然とする。

 

「あんたを信じてる、頼ってる、そうね、あんたと一緒に乗ってるときのアイツはどんな無茶だってやってきたわ。けど、今回乗せなかったのはなんで?」

「そ、それは……」

「わかんないの? あんた、バカァ?」

 

 アスカはレイを見下しながら言葉を紡ぐ。

 

「結局、あんたは必要ないのよ。追い詰められたシンジが選んだのは自分自身。あんたはね、都合が良かったのよ。アイツが生きる希望って思ってるだけで、最初に出会ったのがあんただから守ってた、ただそれだけ」

「ち、違う!!」

「違わないわよ。多分、アイツは私でもよかったと思うわ」

 

 自嘲気味に笑うアスカに、レイは否定を重ねる。

 違う!! 違う!!! 違う!!!!

 何か理由があったんだ、じゃなきゃ僕を置いてったりしない!! シンジはずっと僕の手を握ってくれたんだ!

 側に居てくれるって約束した!!!

 してくれたんだ……一人ぼっちにしないって。

 

「あんたは運が良かっただけ、ただそれだけなのよ」

「うるさい、うるさいうるさい!! 僕は、僕はァ!!!」

 

 激高したレイはアスカに掴みかかろうとする、だが手を握っていた綾波が叫ぶ。

 

「もう止めて!!!!」

「「ッ!?」」

 

 ボロボロと泣きながら叫ぶ綾波に、レイとアスカは驚いた。

 綾波レイの印象といえば、無表情だった。

 シンジとのふれあいで多少は感情が出てきたが、ここまでとは思っていなかった。

 綾波は叫ぶ。

 

「三上くんはこんなの望んでない! 教室で二人が諍い合っても三上くんは笑ってた!! でも最近の三上くんは笑ってない。手を握っても笑ってくれないの! 胸がポカポカしない、ズキンズキンって痛いの!!」

「……ファースト、あんた」

 

 まるで小さい子供の癇癪みたいだと、アスカは思う。

 だがレイは、泣き叫ぶ綾波を見て心がズキンズキンと痛み始める。

 忘れかけていた誰かが泣いているようで、レイは不快感を顕にして同じように叫ぶ。

 

「うるさい!! うるさい!!! その声で泣くな! その顔で泣くな! 母さん!!」

 

 ハッと、レイは自分が言った言葉に驚いて、忘れていた記憶が蘇った。

 笑いかけながら、レイを抱っこしてくれた母親。

 

 ――――レイ、いつかレイも出会えるといいわね、お父さんみたいな素敵な人に。その人と笑っていられるようにお母さん頑張るから。例え()()で無くなったとしても、お母さんはレイをずっと見守ってるから。

 

「母、さん、母さん……? なんで、僕、やだ、思い出したくない、思い出したくない!!!!!」

 

 まるで洪水のように母親の記憶が、レイの頭の中になだれ込む。

 笑っていた、優しく、慈しむように母親が笑っていた、その隣で()()()父親。

 そっと差し出した父親の手がレイの頭を撫でる。

 不器用なほどに乱雑な手、だがそれがレイは()()()()()

 

 ――――頑張ったな、レイ。

 

「うあああああああああああああああああああああああ!!!! 今更!! 今更思い出させないでよ!! 僕を捨てた奴らの記憶なんて思い出させないでよ!!」

「足手まとい!!」

 

 錯乱するレイの様子に、アスカは先程までの感情を忘れて駆け寄る。

 周りの兵士たちもぎょっとしながら見ていたが、自分たちが行けばさらに錯乱させると思い、様子を見ていた。

 レイが頭を掻きむしりながら叫ぶ。

 

「ヤダ!! ヤダよ!! シンジ!! 僕を置いてかないで!! 僕を捨てないで!!」

 

 レイが暗い海に手を伸ばす。

 助けて、助けてよ、シンジ、僕を助けて、僕を助けてよ!!

 

「シンジィ!!!」

 

 瞬間、海が揺れた。

 

「な、何!?」

 

 発令所では警告音が鳴り響き、オペレーターたちは振り切った計器を見て困惑していた。

 

「わ、分かりません」

「メーターが振り切られてます……まさか!?」

「そのまさかよ……結局、私達は何も出来なかった」

 

 悔しがるリツコの声とともに、暗い海から光り輝くATフィールドがいくつも突き出し、海を引き裂いていく。

 誰もがその様子を見て、確信していた、三上シンジが何かしたと。

 空中に浮いていた球体がまるで苦しむように動く。

 内側から出てくるナニカを抑え込むように、だがそのナニカは球体を突き破り出てきた。

 足を突き出し、全身を真っ赤に染めた初号機が飛び蹴りの姿勢で出てくる。

 球体はおびただしい量の血を噴き出させるとそのまま光り輝き光の十字架となって爆散した。

 初号機が砕け散った海をさらに踏み砕きながら立ち尽くす。

 

「……なんてものを、なんてものに私はシンジくんを乗せたの………」

「リツコ……」

 

 わなわなと震えながら、一歩ずつ下がっていくリツコを見たミサトはモニターを見る。

 全身を赤く染めた初号機は、シルエットも相まって鬼のようだった。

 宇宙そのものを破壊したようなものなのだ、今回の初号機は。

 その力に恐れ慄いてしまうのは無理もない、そしてその力を引き出したと思われる三上シンジの安否を気遣うことも。

 

「し、シンクロ率、99.9%……」

 

 マヤが呆然と、辛うじて初号機から受け取れた情報を読み上げる。

 もはやエヴァと一体化している数値に、動揺が広がる。

 

「し、シンジ……」

 

 辛うじて声が出せたレイは、国連軍のライトで照らされた初号機の姿に恐怖を覚えた。

 いや違う、思い出してしまったのだ、なぜ母親が死んだのか、なぜ父親が自分を捨てたのか思い出してしまった。

 その原因が、目の前のエヴァンゲリオンだということを。

 アスカも綾波も声を出せなかった。

 立ち尽くす初号機に、国連軍もいつもの頼もしさではなく、得体のしれぬ恐怖感にも似た感情を覚える。

 初号機の口が開き、全周波数にシンジの声が響き渡る。

 

『うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!』

 

 シンジに呼応するようにエヴァも咆哮する。

 大気が震え、ビリビリと体が震える衝撃波が辺りに響き渡る。

 何かを振り切るように叫び続けるシンジに、声をかけられるものはいなかった。

 誰もが言葉を失い、ただ咆哮するエヴァを見続ける。

 希望の光だと思った、なんでもやってくれるものだと思っていた、だが違う、この姿は違う。

 福音を告げる天使とは程遠いその姿はまさに――――悪魔と呼んで差し支えないのではないのか?

 

「……アレが、エヴァンゲリオン、NERVの決戦兵器か」

 

 使徒を包囲していた戦車から顔を出した春本がそう畏怖もこめてつぶやく。

 彼もこの場にいた、というか彼が主導で兵力を集めて支援に向かったのだ。

 だが間違いだったのかもしれないと、春本は思った。

 シンジという少年は好ましい、だがエヴァンゲリオンという兵器に関して一抹の不安を覚えていた春本は確信する。

 アレに頼ってはダメだ、アレは兵器ではない、アレは――――

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!』

 

 だがその場にいる誰もが気づいていなかった。

 体から滴り落ちる血、それを流すように初号機の目から何かが流れ落ちているのを。

 もしも誰かが気づいていたら、エヴァは悪魔ではないと言ったのかもしれない。

 今響いている咆哮もまた違った意味を持てたのかもしれない。

 だがそうはならなかった、そうはならなかったのだ。

 

 

 だからこそ、エヴァンゲリオン初号機、いいや、碇ユイは、三上シンジを殺すことになったのだ。

 

 

 

○○○

 

 

 

「碇、お前は何を考えている?」

 

 発令所から立ち去り、以後の処理をミサトに一任したゲンドウは、司令室に戻っていた。

 冬月はそんなゲンドウを詰問する。

 下手をすれば初号機を失っていたのだ、彼らの、いや冬月の目的からすれば初号機を失うことは何よりも耐え難く、恐ろしいことだった。

 だからこそ、そのきっかけを作ったゲンドウに、冬月は怒り狂っていた。

 ゲンドウは、そんな冬月をじっと見る。

 

「……計画を修正しただけだ」

「修正? 破綻の間違いだろう!」

 

 冬月の言葉に、ゲンドウは眉一つ動かさずに答える。

 

「今の初号機パイロットの状況では、初号機には乗せられまい。周りが反対する」

「……たしかにそうだが、ここまで危険を犯す必要はなかった、違うか?」

「ヤツを初号機から降ろすにはこれしかない。ヤツの無茶は無茶ではなく、やりきることだ。そしてその結果奴は勝ち続ける。だからこそ、今回の使徒は都合が良かった」

「まぁ、職員たちはまず間違いなく止めるだろうからな」

 

 ミサトとリツコのことを思い出し、冬月は嘲笑った。

 片方は元はこちら側、全てを知りながら子供を地獄に叩き落とした罪人だろうに。

 

「それにやつのメンタルも限界だ。しばらくは三号機のテストをしていてもらうさ」

「……しかし四号機の状態は良好だと聞くぞ? 本当に来るのか? 死海文書にも記載はないのだろう?」

「来るさ、十五年前、なぜセカンドインパクトが起きたのか、アレも人の業だよ」

「人ではなく、お前や委員会の業だろうが……全く、ままならんな」

 

 冬月がそう呟くが、ゲンドウは初号機の状態が気になっていた。

 咆哮するエヴァ。だが、ただ叫んでいるだけなのか? とゲンドウは思う。

 

(ユイ、お前は何を思って叫んだ?)

 

 その疑問がシミのようにこびりつき、ゲンドウは冬月の言葉を聞くふりをしてずっと考えていた。

 

 




大人たちが頑張ろうとこの世界はエヴァンゲリオンなんやなって。
とりあえず休んだらダメだということがよーわかった……書く気力が抜けそうになったから書き続けます。無理してる? してなきゃ書けるわきゃねえだろ!! もう小説書くのが趣味みたいなもんやぞ!!!! 休日とか一日中書きっぱなしでキーボード壊れるわ。
あっ、あと自分はハッピーエンド至上主義者なんで、どんだけどん底に落としても、最後は皆笑えるENDにするぞ、その過程で主人公に無茶振りするけど(暗黒微笑)

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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