中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について 作:re:753
感想で戦々恐々されてたけど、ドシリアスにするのは次回からだから、今回もほのぼの回だゾ!
「シンジさん!! ウチ、鈴原サクラって言います! よろしゅう!」
「お、おう?」
綾波の言葉から二日後、食事会当日。
レイとアスカは共同で料理しながら、俺が来客対応をしていた。
最初に来たのがトウジと小さい女の子……名前はこのときまで完全に忘れてたが、なんかテンション高い、高くない??
「み、三上シンジだ、よろしゅう?」
「わー!! シンジさんの手ごっついわ!! もっと握って、握って!!」
「すまんな、シンジ。もうちょい付き合ってくれや」
トウジの顔が凄まじい事になってるが……いや、俺も困惑してるんだけど??? なんで幼女にこんなに好かれてん? というか君が怪我したのは俺が原因だよな? 何これ?
「ウチ、シンジさんに会えるの楽しみにしてたんですぅ! 兄ちゃんから活躍は聞いてました!」
「トウジ????」
「すまん、ケンスケから聞いた情報をそのまま伝えたらこないなことになってん」
詰まるところこの子は、メガネの情報を聞いてこうなったと……あのメガネ、ビデオカメラへし折ったらぁ(ブチギレ)
「ちゃうよ兄ちゃん! ウチ、シンジさんの初戦闘見てたって言うたやん。あの荒々しい戦いぶり、かっこよかったわぁ」
「……いや、怖くなかったのか?」
初戦闘のことを思い出す。
動きづらいエヴァ、やられて暴走状態になって、気合で意識戻してむちゃくちゃにやったあの戦闘……かっこいいわけがないと思ってた。
「怖くないって言うたら嘘ですけど、シンジさん皆を守ろうとしてくれてたんですよね? ずっと、言いたかった言葉あるんですぅ!」
「……なんだ?」
「助けてくれて、ありがとう!」
その言葉に、俺は胸がつまり目頭が熱くなる。
違う、違うんだよ、俺は何も考えてなかった、ただ使徒を倒すことだけを集中して助けるなんて気持ちはこれっぽちもなかった。
だから、そんな言葉をかけないでくれ。
「シンジ、これがワシらの気持ちや。そらお前にふざけんな!! って思うやつもおったで、ワシもその一人じゃ。けどな、今じゃお前は皆のヒーローなんや」
「そんなんじゃ、ない」
「そんなんです! ウチにとって、シンジさんはヒーローなんです!! だから、だから今日はウチがんばります! 美味しいもんいっぱい食べさせて、シンジさんにありがとうって! なんべんでも言います!」
サクラちゃんは近づき、俺の胸に抱きついてきた。
「……そ、それにウチ、シンジさんに毎日味噌汁――――」
「何、してるの?」
時間が静止したように、場が凍る。
トウジは青い顔をしていた。
俺はゆっくりと振り返るとそこには能面のような無表情を貼り付けたレイがいた。
「シンジ? その子は?」
「鈴原サクラって言います! シンジさんの『友達』ですよね?」
ばちぃ!! と電流が走ったような錯覚が見えた。
あれ? シリアスくんどこ行ったん?? 俺割とシリアス風味だったよね? なんでその空気ぶっ壊されてトウジと抱き合って震えてるん?
「友達……?」
「はい! 兄ちゃんが言ってました!」
ギロリとレイがトウジを睨む。
「堪忍や、堪忍やで」
「もう逃げられないゾ♡」
「小さい子にはわからないかもしれないね、僕とシンジの関係性は」
「わかりません、シンジさーん、この人怖いわぁ」
俺の側に近寄るなァーッ!!!! とサクラちゃんに言いたいが、べったりくっついたサクラちゃんは満面の笑みで俺にすり寄る。
レイの怒気が強くなっていく……あっ、やっと、夏が終わったんやな(現実逃避)
「えーと、入っていいのかな?」
「「ナイスゥ!!!」」
いつの間にか来ていた委員長の声に反応して、俺はサクラちゃんを抱きかかえるとレイの手を引く。
「わわっ! シンジさん大胆!!」
「だまらっしゃい!! レイ、アスカに台所任せたらやばいからはよ! はよ!!」
「……今は許す、けどあとでわがまま聞いてよ」
「おっ、そうだな!(聞くとは言っていない)」
ぎゃあああああ!! とおおよそ女子が出していい声ではない叫び声が聞こえ、レイはパタパタと台所に戻っていく。アスカ、料理あんましたことなかったんやなって。
「あの、三上くん、今日はお邪魔します」
「気にしないでくれや、許してや城之内……」
「誰!? というか私は洞木よ!?」
「おっ、そうだな!」
すまん、今まで委員長しか言って無くて名前忘れてたとか言えないなこりゃ。
とりあえずサクラちゃんを抱えながら、リビングにつれていくが……おぉう、もう出来た料理があるジャマイカ。
「……ジュルリ」
「シンジ、ステイや、ステイ」
「三上くん、ダメよ」
「なんでや!! ちょっとだけ、ちょっとだけ……」
ちょっとだけ(皿を一つ)食べるだけや!!
「し、シンジさん、下ろしてください」
「あっ、あぁ、ごめん」
借りてきた猫のようにしおらしくなったサクラちゃんを降ろすと、トウジがポンと肩に手載せてきた。
「シンジ、お前を弟とは言いたかないで」
「……お兄ちゃん!」
「キモチワル!?」
なんのことかわからないが、俺が裏声でそう言うとトウジが割と本気でドン引きしていた。
ひどいわ! キャス○ル兄さん!!
「お邪魔しまーすっと、サクラちゃん久しぶり!」
「あっ、メガネさん!」
「相田ケンスケって名前あるんだけどさ、シンジ、お前のせいで最近メガネとしか言われなくなったんだけど」
「皆そう思ってただけやで、僕は悪くない」
わいわいと談笑していると、加持さんがよっと手を上げてやってきた。
「悪いな、葛城とリっちゃんはもうちょい後で来る」
「もう食べようぜ! 我慢できねえや!!」
「阿呆!! 皆待ってからや! それに主催者まだ来てへんやろ!!」
「ハッハッハッハ、子供は元気がいいな。おっと、加持リョウジだ、よろしくお嬢さん?」
「あ、は、はい……」
加持さんが委員長の手を取って挨拶する。
委員長は顔を赤くするが、トウジは面白くなさそうに見ていたので、俺は加持さんの頭にチョップする。
「彼女持ちの大人がそういうことしない」
「手厳しいな、シンジくん。まぁいいさ、何か手伝うことあるかい?」
「(やることは)ないです」
ないねー、なんもないねーと俺は床に座り込む。
そんなとき、アスカが山盛りの唐揚げを持ってやってきた。
「プリーズ! ギブミー唐揚げ!!」
「ダメよ、シンジ用の唐揚げは今揚げてるから、これは皆の分!」
「クゥーン……」
子犬のような声が出てしまう。
一杯食わせてくれる言うたから、朝から何も食べてないんだよ!! もう限界なんですがそれは……。
「ホント、三上くんって食いしん坊よね」
「ヒカリ、そこが可愛いのよ」
「シンジくん、いい姉さん女房じゃないか」
アスカと加持さんに気恥ずかしさを感じる。
というかアスカからかわいいとか言われるとは思ってなかったぜ。
しばらくするとミサトさんと赤木さん、綾波の三人がやってきた。
「あら、待っててくれたの?」
「シンジくんが腹ペコだってさ」
「大変ね……まぁ、だろうと思ってレイも沢山作ってきたから今日はいっぱい食べなさい」
「う、うぉおおおおおお!!!!」
よく見るとミサトさんと赤木さんの両手には袋が持たれており、何かが香ってくる。
唾液が口を支配し、俺はぐーぐーなるお腹の暴走を止められない。
その時、レイとアスカが大量の料理を持ってきてた、なお全部俺用な模様。
「ファーストも来たのね」
「えぇ、弐号機の人もありがとう」
「僕が一番頑張ったんだけど……まぁいいや、これ以上はシンジが耐えきれそうにないから」
レイはよくわかっておるのう、と俺は加持さんとトウジ、ケンスケに羽交い締めにされていた。
いや、ご飯がね? 目の前にね? 大好物がいっぱいいっぱい裕次郎してるからもうね? 我慢できない!
「それじゃ子供組はジュース、大人組……もこの後仕事だからジュースで乾杯しましょうか」
そうミサトさんが音頭を取り、皆のグラスにジュースが注がれる。
そして皆にジュースが行き渡り、グラスを抱える。
ミサトさんは「ホラ、レイ、言いなさい」と綾波の肩を叩く。
綾波は恥ずかしそうにしながら、言葉を紡ぐ。
「今日は、来てくれて、ありがとう。その、三上くんを元気づけたいって思って……その、えっと」
綾波が言葉をいいあぐねているので、俺は声をかける。
「綾波、難しく考えなくていい……というかお腹がね? もう限界だから、はよ、はよ」
「……今日は楽しんで、乾杯」
『かんぱーい!』
顔を綻ばせる綾波に、皆が笑いグラスを掲げる。
俺はジュースを飲み干すと、目の前に広がる桃源郷を見る。
スパゲッティ、ラーメン、唐揚げ、オムライス、春巻き、餃子……etcetc、どれもこれも俺の大好物だ。
箸を持ち、勢いよく食べ始める。
「うめっ……うめっ……」
「はえー、すっごいわぁ」
サクラちゃんが何か言ってるが、バクバクと目の前の料理を食べ進める。
あー、うまい、本当にうまい……今死んでもいいやと思えるくらいには満たされてる。
「そ、そのシンジ、どう? 私もやったんだけど」
「バクバクバクバク」
「なんか言いなさいよ!!」
「うまい」
ご飯食べてるときはね、静かで、一人で食わなきゃいけないんだ、余計な感想などフヨウラッ!!
ただ時々焦げてるのはアスカ作なんだろうが、うん、おいC。レイが下味付けとかしてたんだろうが本当に美味しい。
「当然、当然よ! このアスカ様が作ったんだから!」
「僕が仕込みしたんだけどね」
「ほう、大したもんだ。人造肉がここまでうまいとはな」
「レイちゃんの料理は天下一品よ!」
「あら、私のレイの料理の腕前もいいのよ? シンジくん、これ食べてあげて」
赤木さんが小皿に乗せた野菜炒めを持ってきた。
モグリと一口食べると、にんにくと醤油ベースで作っているのだろう、味がしっかりしていた。
あと肉も入っているのでびっくりする。
「綾波、肉大丈夫なのか?」
「少し、なら……それに野菜だけだと三上くん物足りないでしょ?」
うーむ、気を使わせてしまったかと思うが、俺は野菜炒めを食べきると小皿をレイに差し出す。
「おかわり!」
「……うん」
山盛りにされた野菜炒めを箸休めに、俺用の料理を食べていく。
途中にサクラちゃんが味噌汁を持って来てくれたが……うん、普通! 36点! という感じだが、頭を撫でて美味しいと伝える。
「やったー!! 毎日食べてくれます?」
「作ってくれるなら?」
わーい!! と喜ぶサクラちゃんに俺は苦笑する。
元気いいなと思うが、こんな子がルートによっては「エヴァに乗らんでくださいよ!」って言うと思うとこの世界の残酷さがな。
旧劇でもこの子も溶けたと思うと……いかんいかん、今は楽しもう、暗い気分考えてたらまた落ち込む。
そんなときだったピンポーンとインターホンが鳴った。
「ん? 誰だ?」
「シンジくん、行ってくれる?」
ミサトさんが両手を合わせてくる……なんか引っかかるが、まぁ現状食い切ってるのは俺だしな。
よっこいしょと腰を上げると、レイも腰を上げる。
「僕もついていくよ」
「別に二人じゃなくても……まぁいいか」
「あっ、ちょっ!?」
焦るミサトさんの声が聞こえたが、俺は無視して玄関に向かう。
誰だろうかとスライドドアを開けると、そこには
「「……」」
ピシャリと一回ドアを閉める。
待って? なんでいるの? というかレイが言葉失ってたから幻覚じゃねえな???
俺は一回息を吐いて、吸って、扉を開けた。
そこにはゲンドウが立っていた。
「……どうも」
「……レイ、綾波レイに呼ばれて来た」
あぁ、そうか、これ新劇で実現しなかったピクニックイベントかと俺は理解した。
新劇でも、綾波が主催してシンジとご飯を食べようとするが、そこにゲンドウも呼ばれていた。ただ三号機の事件があり、あえなく頓挫ということになった。
だが今回は、赤木さんが向こうでも一度確認して万全の態勢を取るため、時間があったからこうなったのだろう……レイを連れてくるべきじゃなかった、そう思ったが遅い。
「どうして、どうして顔が出せた!!!」
○○○
「どうしてだよ!!」
レイは叫ぶ。
ゲンドウの表情は見えないが、レイは溢れる感情を抑えきれなかった。
シンジを楽しませよう、喜ばせようという気持ちは吹き飛んでいた。
目の前の父親に怒気を放つ。
「今更来てなんだってんだ!!」
レイの心は荒ぶる。
分かり合おうとするなと言ったのは父親だった。
レイもそれを了承した。
そして親子は決別したはずだったのに、今更なんで来たんだ!!
「……」
ゲンドウが背を向けた。
想像通りだった、娘が迎え入れてくれるはずがない。
わかっていたはずなのに、ゲンドウも溢れ出る気持ちを抑えるのに必死だった。
だがユイの面影に、ゲンドウは甘えてしまった……その結果がこれだった。
帰ろう、そして自分の目的のため――――なんだ?
ゲンドウは自分の手をにぎる感触に振り向いた。
「食ってけよ」
握っていたのはシンジだった。
レイは驚いたようにシンジを見ていた。
それはゲンドウも同じだった。
「だが……」
「逃げるなよ」
シンジは握る手を強める。
ゲンドウはその言葉に、眉をひそめる。
逃げる? 誰がだ?
「……」
「あんたのことはぶん殴らなきゃいけないし、ぶん殴りたい。けど今日は飯食って笑おうと思ってるんだ……だから食ってけよ、オトウサン」
「……シンジッ!!」
「レイ、お前も逃げるな」
シンジはレイを見て厳しい声をかける。
「どうせこのマダオに分かり合えるわけ無いだろとか言ったんだろうが、それに甘えんな。十年分の恨み晴らせるチャンスやぞ」
「……でもっ」
「でももカカシもありません。で、どうする? オトウサン?」
ごねるレイを諌めて、シンジはゲンドウを見据える。
真っ直ぐな瞳に、ゲンドウは複雑な気持ちを抱いたが、一歩前に進んだ。
「……頂こう」
「おう、大量にあるんだ、食え食え」
「……知らないっ!!」
ズンズンとレイはリビングへと歩いていく。
シンジは頭を掻きむしるとゲンドウに向き直る。
「逃げんなよ、オトウサンなんだろ、お前」
「……だが」
「フォローしてやるからいい加減娘と向き合えつってんだよ! まどろっこしい! 娘は大事だくらい言いやがれ!!」
シンジが力任せに、ゲンドウの手を引いていく。
ゲンドウは困惑していた。
恨まれていると思っていた、いい感情も持たれていない、一度再起不能にした相手なのはわかっているだろうに、なぜここまでするのか、ゲンドウにはわからなかった。
シンジはゲンドウの手を引っ張りながら、ぶっきらぼうに言った。
「怖いんだろ、レイと向き合うのが」
「何?」
「レイの側にいると傷つけると思ったんだろ」
ゲンドウが足を止める。
何を言っているのか、わからない。
「人から愛されない、そんなこと思ってたんだろ」
「……」
「沈黙は肯定だってはっきりわかんだね」
ゲンドウはシンジの背を見る。
子供のはずだ、だが今は得体のしれない何かに見えてしまう。
自分の隠された本心を言い当てられたことにゲンドウは狼狽していた。
「でもあんたは愛したんだろ、人を。だからレイが産まれたんだ」
「お前は……」
「俺はレイの母親のことは知らないよ。けど、アンタみたいなやつと結婚したなら優しい人ってのはわかるさ」
シンジは嘘をついた。
本当は知っているし、ゲンドウが本心では娘のことを愛しているのは見ている。
不器用なのだ、本当に不器用で人を多く愛せない人、それが碇ゲンドウという人間であり、紛れもなくその性質は娘に引き継がれていた。
「あんたがどうして今更レイをここに呼んだとか、何企んでるのか知らないけどさ、それでもレイのこと捨ててなかったんだろ、だから頼ったんだ」
「……違う、私は」
シンジは振り向いて、ゲンドウの瞳を見据える。
「人が人を理解するのは難しいけどさ、それでも一緒にいられるように言葉っていうものがあんだろ」
「……」
「100%理解しろなんて言わないさ。けどあんたが親だってことを捨てきれないなら、向き合えよ……もっとも俺も人のことを言えないけどさ」
自嘲するように笑うシンジに、ゲンドウは何も言えなかった。
そして二人はリビングに行くと、そこにいた面々は複雑そうな表情をしていた。
レイの声を聞いたのだろう、ゲンドウは居心地の悪さに背を向けようとしてシンジが強制的に手を握って座らせる。
そしてまだ手を付けていなかった料理を差し出す。
それはカレーだった。
「食えよ、口に合わないなんて言うなよ」
「……カレー、か」
カレーを見るゲンドウは昔を思い出す。
ユイと出会ったときに食べたのがこれだった。
正確に言うと、定食を頼もうとしたらゲンドウのところで終わってしまい、ユイはカレーライスを頼んだが、悲しそうな顔をしているユイを見てられずに自分の物と取り替えた。
それがきっかけだった。
だからゲンドウにとってカレーライスは大切な思い出の一つであり、ユイの手料理の中でも特に好きなものだった。
ユイ以外のカレーを食べないと思っていた、ゲンドウだったがふと具材を見て衝撃を覚えた。
「……これは」
「ん? あぁ、レイってじゃがいもは甘く煮込むんだよな。おかげでゴロゴロじゃがいも大好物だよ」
「……そう、か」
煮込まれているはずのじゃがいもが、比較的に形が残っていた。
ユイも、そうだった。
思わずスプーンを持った、ゲンドウはじゃがいもを掬って食べた……しっかりとした歯ごたえと中辛の味わい……ユイ、のカレーだった。
「……おじさん」
「……なんだ?」
「どうして泣いてるの?」
サクラがそう言い、ゲンドウは目を手袋で拭う。
そこには水滴がついており、手袋を濡らしていた。
泣いているのか、私は……。
「……」
「悲しいの?」
「違う……」
否定しながらもゲンドウは一口、もう一口とカレーを食べていた。
懐かしい味が味覚と腹を満たしていく。
二度と食べられないと思っていた物が確かにあった。
「料理もさ、母親からの贈り物だろ」
「……だが、あの子はそのとき四歳だった」
「意外と覚えてるもんだよ。記憶がなくなっても、その人がいなくなっても、残るものがある……それはモノだったり、意思だったり、後悔だったり、良いもんばっかじゃない」
シンジの言葉に、ミサト、リツコ、加持は思うところがあったのか、俯く。
子どもたちは見守っていた、どうなるかを。
「それにさ、実はレイ、第3新東京市に来る前、あんたからの手紙が来たとき怒ったけど機嫌良かったんだぜ?」
「そんなはずはない、私はあの子を捨てたんだ」
「じゃあなんで親戚の家に預けたんだよ」
その言葉にゲンドウは言葉に詰まった。
後にも先にも、人に頭を下げたのはあの一回だけだった。
レイを預けた先に選んだのは、妻の兄のウチだった。
邪険にはされない、そう思っていたがやはり人というのは分かり合えないと監視からの情報で絶望していた。
例え身内の子供でも、邪魔なら切り捨てる、そんなものだ。
「……外聞が悪かったからだ」
「んなもんを気にするタマかよ。あんたは期待してたんだろ、レイを愛してくれるかもって」
「……お前は、なんだ?」
ゲンドウはカレーを食べる手を止めて、シンジを見る。
シンジはニヤリと笑うと言う。
「レイの友達だ!!」
サクラ以外の聞いていた者たちが頭を抱えて、ため息をつく。
シンジは口を尖らせる。
「な、なんだよ!? そこはおぉ!! っていうところだろ!?」
「シンジくん、それはないわ」
「鈍感もいいかげんにしろって感じね」
「三上くん、ソレはダメだと思う」
「シンジ、お前さんアホなんとちゃうか?」
「シンジ、ぶん殴らせて」
「三上くん、流石に碇さんが可哀想かなって」
「シンジくんには女心の把握が必要だなって」
ボコボコだった。
シンジは涙目になりながら、唯一口を開かなかったアスカをみるが、アスカはため息をつく。
「あんたらバカァ? シンジのかの――――」
「デザート持ってきた」
アスカが顔を真赤にしながら自信満々に言おうとしたところで、レイがドンと邪魔するようにテーブルにデザートを置く。
アスカはレイに掴みかかる。
「あんたねえ!!」
「うっさい……あとそこのヒゲ、カレーでメソメソしながら食わないでよ。僕はお前なんかのために料理を作ってやらない」
レイはゲンドウを睨みつける。
周りに緊張が走る。
「お前と僕は分かり合うことはないよ」
「……あぁ、そのとおりだ」
「だけど!!」
レイの声に、ゲンドウは初めて同じ目線でレイを見た。
レイは手を震わせながら、ゲンドウを見据える。
「けど、僕をあそこに預けてくれたことは感謝するよ。じゃなかったらシンジと出会えなかった」
「……そう、か」
ゲンドウはそれを聞いて、胸につかえていた何かが取れるのを感じた。
そしてカレーを食べきると、レイを見る。
「その、なんだ……」
「レイ、俺とオトウサンの分のカレーおかわり!!」
シンジが元気よく手を挙げる。
ちなみにカレーはこれで5杯目である。
「……コイツのも?」
「そうだよ、だよな?」
「い、いや、私は」
「うるせえ!! 腹いっぱいになるまで帰さねえからなぁ? 仕事? 副司令に投げときゃええやろ!」
そう笑い飛ばすシンジに、ゲンドウは圧倒されていた。
精神はボロボロのはずなのに、なぜここまでする? ゲンドウには理解できなかった。
だから疑問を投げかけた。
「なぜだ? なぜお前はそこまでする?」
「……レイのためだよ」
ジュースを飲み干して、シンジはあっけらかんと笑う。
「最初に言ったぞ、俺は。レイのために戦うって、だから今やってんのもレイのためだ」
「……お互いに傷つくだけだ」
「言ったじゃん、逃げるなって」
その言葉に、ゲンドウは羨ましさを感じる、だがそれは出さない。
「あんたがどうして、なんでレイの前からいなくなったのか、んなもんは知らねえよ、だけどさ、言葉にせずにいるのは卑怯だ。お互いが傷つく? 当たり前だろ、むしろ罪悪感あるなら捨てんなや」
「……」
「はっきり言うぞ、あんたのことは気に食わないし、最悪の親だって思ってる。けどあんたはどんなになろうが、レイの父親なんだ……だから見捨てない。見下すし、嫌悪するけど絶対にレイと和解させてやる」
「無駄だ」
「うるせえ!! 何回無理だ、無謀だって作戦成功させてきたと思ってんだよ! 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!」
シンジの言うことは無茶苦茶だ、合理性もない、ただの子供の癇癪に過ぎない。
だが、だけどそんな真っ直ぐな気持ちだからこそゲンドウの強張った心に響いた。
「……無駄だぞ、三上シンジ」
「黙ってろマダオ。お前の心強引にオープンセサミして、レイと笑わせてやる!!」
「はいはい、シンジ、どうでもいいけどカレーおかわり持ってきたよ」
「わーい!」
山盛りのカレーライスに、シンジは集中する。
マダオと大好きなカレーライス、どちらを取るのかと言われたら圧倒的にカレーである。
そんなシンジを微笑ましく見る周囲、レイはため息を吐きながら普通量に盛ったカレーをゲンドウに差し出す。
「……シンジのことがあるから、とりあえずはお前を父さんって呼ぶよ」
「……あぁ」
「シンジのことがあるからだ!! いいね! ……だから、もう僕を裏切らないでよ、父さん」
レイの言葉にゲンドウは答えない。
だがサングラスの下の表情は柔らかかった。
それを見ていたミサトは小さくガッツポーズをし、リツコは複雑な心境を表に出さずデザートを食べていた。
綾波はホッと一息ついていた。
その後は険悪な雰囲気もなく、その後は和やかに時間が過ぎていくが、ミサトたち大人組は時間だということでお開きとなる。
そのときにトウジが申し訳無さそうに、保冷バッグから棒アイスを出した。
「すんません、妹のために買ったんやけど食い切れなくて」
「ボリボリくんやん!! マーゲンハッツのほうが食いたいの!」
「良いじゃないの、たまにはこういう安いもの食べないとありがたみが無くなるわよ?」
そう言って、全員に棒アイスが配られる。
しばらく全員が食べ始めて、アスカが疑問の声を上げる。
「ハズレ……?」
「なんや、惣流知らへんのか?」
「あー、あんまし食べてなかったわよねえアスカは。あたりの棒が出ればもう一本無料でもらえるのよ」
「フーン、日本人ってよくわかんないことしてるわねえ」
アスカの疑問に答えたミサトの言葉に、興味ないとばかりに空返事したアスカは、ハズレと書かれた棒をゴミ箱に捨てる。
そうして食べていないのはシンジとゲンドウの二人になった。
「「……」」
大人組は静かにアイスを舐めるゲンドウを見て、顔をそむける。
そらあの仏頂面で淡々と舐めている姿を想像してほしい、いつもの厳格な上司の威厳なんぞ粉砕されていた。
一方シンジは、舐めずに噛み砕いて食べていた。
ゲンドウは半分ほど舐め終わったときに、ポツリとつぶやいた。
「ハズレか」
「碇司令、お揃いですね」
隣に座っていた綾波が、嬉しそうに顔を綻ばせると、ゲンドウも少し笑ったように口の端に上げた。
レイはその様子に、ムッとするが声を荒らげる必要はないと自制する。
リツコは感慨深そうに、二人の様子を見ていた。
一方、シンジは棒をじっと見て固まっていた。
「なんや、シンジ? 腹でも壊したか?」
「おっ、シンジすごいじゃん!」
側にいたトウジとケンスケが話しかけ、ケンスケは棒に書かれた言葉を見て、シンジの肩を叩く。
シンジはその棒をじっと見て、笑った。
「アタリだ」
運命は定まった。
「三上シンジを三号機パイロットに?」
「そうだ」
委員会の報告に、冬月は眉をひそめる。
計画どおりだが、ゼーレからの提案というのが気になった。
だが冬月は考える、もしも四号機のような事故が起きれば……その結果どうなるかも考えずに、冬月は考えてしまった。
「最新鋭機だ、彼の力も合わさって主戦力足り得るだろう」
ゼーレもヤツを評価しているのかと冬月はため息をつく。
「使徒殲滅、そこからだ……だが碇ゲンドウ、ヤツの動きにも疑問が残る」
「……」
冬月は表情を動かさない。
いけしゃあしゃあと思うが、ゼーレが本気を出したら現状では自分たちの計画に支障が出る。
ピースは揃いつつある、だがまだその時ではない。
しかしゼーレの次の言葉に、冬月は動揺する。
「君をヤツの後釜に据えてもよい」
「なんですって?」
「……まぁ、それもまだだろう。だがいざとなればヤツの後釜は君だ、冬月先生」
それを最後に部屋の電気が消え、緑一色の部屋が照らされる。
本来なら、ここにはゲンドウもいた。
だが食事会、という馴れ合いに行ってしまった……そんな資格はないのにも関わらずに。
「全く、度し難いな」
冬月は侮蔑を隠さずに言う。
今更向き合ってどうすると冬月は思う。
逃げ続け、これしかないと誘ったお前がどうしてだと冬月は裏切られたような気分になる。
「六分儀、やはり嫌な男だよ、貴様は」
ゲンドウの昔の名字を呟いた。
一応、和解というか、シンジの顔を立てて話し合おうとしようとするレイ。ちなみにシンジの精神ガタガタなのにも気づいてるから、なるべく負担をかけないようにしよう! と頑張ってる模様、なおダメな模様。
あとシンジは、ゲンドウのこと嫌いじゃないけど好きでもないっていうどっちだよ、みたいな感じ。ゲンドウのこと理解はできる、ただレイのことは許さん、和解して父親やレや(自分のことは棚上げ)
さぁってと、次回からニッコニコ笑顔で書けるゾ。
ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?
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いいゾ~これ(両方ともIKEA)
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(ifストーリーだけ)INしてください?
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(その後の話だけ)はい、よういスタート
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どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)