中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ、皆笑顔! 終わり! 閉廷! ほいじゃ絶望!!

こっから暗い話が続くけど最後は皆ハッピーになるから許して……許して……主人公もどうにかなるから許して。


でも楽しいなぁ(愉悦部)


もうそろそろ精神が限界だと思ったら皆に励まされて生きようとしたらやっぱりダメだった件

 雨が降っていた。

 まるで空が泣いているかのように土砂降りの雨が。

 一人の少年が力なく横たわっていた。

 

「……脈拍、呼吸、共に確認出来ず」

 

 防護服を着ていた一人が絞り出すように報告し、リツコがその場に崩れ落ちた。

 

「シンジくん、シンジくん!!」

「葛城三佐……彼はもう」

 

 力なく四肢を投げ出すシンジを、ミサトが泣きじゃくりながら抱きしめる。

 周りの職員も気持ちは痛いほどわかったが、回収しなくてはならない。

 ミサトは天を責めるように顔を上げると、叫ぶ。

 

「子供一人助けられなくて何が大人よ!! 返して、返しなさいよ!! 私の家族を返してよ!! う、うぅうううっ」

 

 何も言わないシンジの体を抱きしめるミサト。

 シンジは満足そうな顔で眠っていた。

 だが彼はもう目覚めることはない。

 三上シンジは死んだのだ。

 

 

 

○○○

 

 

 

 時間は前日の夜にまで遡る。

 

「シンジくんを、三号機のパイロットにですか!?」

「委員会からの直接指名だ」

 

 ミサトが副司令である冬月に食って掛かる。

 米国から来た三号機は、松代にある仮説実験場でチェックされており、あとはパイロットを送るだけだった。

 当初、操縦者はミサトの判断に委ねられ、ミサトはアスカを選ぶ予定であり、それをゲンドウに報告しようとしてこれである。

 だがゲンドウも頷いて言う。

 

「しばらくはテストパイロットとして活躍してもらう」

「しかし! 彼のメンタルが危険域だと報告したはずです!」

「だからと言ってパイロットを遊ばせておく余裕はない。委員会もそう判断したのだろう」

「彼に頼り切りの現状をどうにかしなければ手遅れになります!!」

「もう手遅れではないかね? パイロットに入れ込み過ぎだぞ、葛城三佐」

 

 こんの狸ジジィとミサトは青筋を立てる。

 だが公私混同なのは事実なので、ミサトも引き下がる。

 ただシンジのメンタルが限界なのは確かだった。

 四号機消滅の際の行動、建物の三階から躊躇なく飛び降りる行為は監視役も止めようがないと悲鳴をあげていた。

 だからこそ、今は休めるべきではあるが、事態は急を要する。

 歯噛みするミサトは、姿勢を正すと宣言した。

 

「万が一の際は三号機ではなく、ロスト・チルドレンの身の安全を最優先にします、よろしいですね?」

「葛城三佐!?」

「構わん、奴が死ねばレイも悲しむからな」

 

 その言葉に、冬月とミサトは仰天する。

 ゲンドウは二人の視線を無視すると、もう話すことはないと言わんばかりに無言となる。

 ミサトは、一瞬だけ微笑み敬礼をして部屋から退出した。

 そして懐の携帯を取り出すと、加持の番号にかけた。

 

『よう、三号機のパイロット決まったかい?』

「シンジくんになったわ」

『……やっぱり、か』

「あなたに言われたとおり、アレについて調べたわ」

 

 シンジたちが通う学校、あそこはエヴァ操縦者候補生たちが集められた場所だったのだ。

 ミサトも、NERVに不信感を持ち独自に調べており、スパイである加持に協力を求めながらNERVの暗部を調べていた。

 

「本当はアスカ、次点で鈴原くんを推薦するつもりだったわ」

『……シンジくんが聞いたら、烈火の如く怒るぞ』

「覚悟の上よ。でもあの子に必要なのは戦いではなく休息よ。あの子さ、食事会のあと吐き戻したらしいのよ」

『……ストレスか』

「ばれないよう、外の公衆トイレでしたみたいだけどね……正直、食事制限もさせたいけどあの子の精神状態を考えたら――――」

『止めさせるわけには行かない、か』

「加持、あんたは私よりシンジくんに信頼されてる。何か言われたのなら教えて頂戴」

 

 ミサトの切羽詰まった声に、加持は迷うが……手元に置かれていたこの世界の、いや、シンジが話してくれた情報を言えないからだ。

 そして訪れる自分の末路も。

 加持は話す。

 

『申し訳ないが言えない。ただシンジくんが抱えていたものは、誰にも理解できないものだったんだよ』

「そんなに、酷いの?」

 

 加持はレコーダーを強く握りしめる。

 酷い、あぁ酷いだろう。

 何が起きて、何がどうなって、末路がどうなるか知りながら足掻き続けるのは地獄だと、今も足掻いている加持だからこそ理解できた。

 そしてシンジの罪悪感も、加持には理解できた。

 世界を背負っているようなものなのだ、十四歳の、いや一人の人間が背負うには重すぎる。

 

『……葛城、シンジくんと向き合うなら俺に逃げるな』

「ッ……わかってるわよ」

『シンジくんも、時期が来たら話してくれるさ。あの子は強い、これまでも何度も立ち上がってきたからな』

「そう、ね。わかったわ、できる限りサポートする、だから加持もシンジくんを支えてあげて」

 

 誤算は三つあった。

 一つはリツコの懸命な検査によって、赤いカビのような物が三号機に付着しており、それを除去したと思ってしまったこと。

 二つ目はシンジが加持に、三号機が使徒化することを話していなかったこと。

 三つ目はゲンドウが、シンジを信頼して任せてしまったこと。

 もしもリツコが最後まで見届けていれば、加持に話していれば、ゲンドウが信頼せず、別のパイロットを選出していれば後の悲劇は変わったのだ。

 以前にもこう書いた、地獄への道は善意で舗装されている、と。まさにそのとおりであった。

 そして家に帰ったミサトは、にこやかな笑みでシンジが三号機のテストパイロットになり、しばらく松代でテストをすることをレイたちに伝えた。

 

「と、言うわけで、明日から私とシンジくんは新婚旅行行ってきます!」

「ミサトさん、酢豚にしますよ?」

 

 ミサトの冗談に、レイは持っていた包丁を見せつけるように持ち上げる。

 その様子を綾波が肩を持って止める。

 

「碇さん、ダメよ」

「綾波ちゃんの方のレイ、ありがとう!」

「葛城さんだと煮込んだほうが美味しいわ」

「レイさん!?」

 

 アッハッハッハとシンジは、綾波の冗談に大笑いをする。

 シンジは吐き気を誤魔化しながら、部屋を見る。

 ミサトやアスカ、レイ、綾波が笑っている。

 ……俺がいなくても、大丈夫だと思う。

 

「……シンジ、どうしたの?」

 

 じっとシンジを見ていたアスカが心配そうに声をかける。

 シンジはそんなアスカの頭を撫でる。

 

「いや、平和だなって」

「平和、ねえ?」

 

 レイがミサトを追い回し、綾波がオロオロとしている場面を見て平和とか言えるのか? とアスカは思うが、まぁシンジが思うならヨシ!(脳内アスカ猫)

 アスカはシンジの撫でている手を持つと、はむっと口に含んだ。

 

「……アスカ?」

「……はむはむ」

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」

「あーダメダメダメ! 殺意が強すぎるッピ! シンジくん止めさせて!!」

 

 幸せそうにシンジの親指を咥えるアスカに、レイは怒り心頭という風にアスカに飛びかかろうとして、ミサトと綾波が羽交い締めにする。

 シンジは親指をアスカの口から抜く。

 キラキラとアスカの唾液がついた指を見る。

 

「……シンジ、キスしたい」

「ぶっ殺す!!」

「駄目みたいですね!! シンジくん、レイちゃんが暴走する前に!」

「弐号機の人、ズルイ」

「綾波の方のレイもかぁ!!!」

 

 ミサトの決死なツッコミをしながら、ストロベリってるシンジとアスカだったが、シンジは動けずに近づいてくるアスカを避けられない。

 二人の距離がゼロになりそうなところで、シンジは口元を抑えて立ち上がり、素足のまま玄関へと走り去っていった。

 アスカはポカンとした顔で見送ったが、レイは腹を抱えて笑っていた。

 

「逃げられてるじゃん」

「うっさい!! 七光! 足手まとい! 役立たず!! ……どうしたんだろ、アイツ」

 

 嘲笑するレイに叫ぶアスカは、出ていったシンジを心配する。

 あの食事会から、食後はこれだ。

 そしてほんのりとシンジから匂いがするのだ、胃液の匂いが。

 

(……あいつ)

 

 吐き戻してる、とは直接言えなかった。

 シンジの精神状態が悪い、そう聞いたときにレイとアスカは休戦協定を結んだ。アイツの前では過度な諍いは禁止、と。なお守られてはいない模様。

 アスカもドイツにいた頃、ストレスから吐くという経験はあった。

 だからこそ気づけたのだが……大丈夫でしょ、とシンジを信頼してしまった。

 

(何かあれば監視してる連中がどうにかする、大丈夫よ。なんたって、アイツは私が認めてるんだもん)

 

 一方、シンジは公衆トイレに行くのに間に合わずに、駐車場の物陰で吐き戻していた。

 

「――――ッ!!」

 

 レイが作ってくれた料理を吐き戻すことへの罪悪感がよぎるが、胃の中のものを全て出し切る。

 精神が限界に来ていた。

 皆が気遣ってくれる申し訳無さと、数千人もの人を見捨てたことへの罪悪感、エヴァに乗れないかもしれないというストレス、そして三号機に乗るという恐怖感で、シンジの精神状態はかなり悪化していた。

 ベチャベチャと吐瀉物がアスファルトを汚す。

 

「ハァ、ハァ……うっ」

 

 ――――仕方のないことだろ? だって四号機を止める術なんてなかった、だから俺は悪くない。

 

 そうシンジの弱い部分が囁く。

 もう胃の中のものが無いはずなのに、さらに戻そうと胃液が喉奥からせり上がっていく。

 

 ――――レイに任せればいいさ、平時のシンクロ率が俺よりも上だ。

 

 胃液の苦味に耐えきれず、吐き出す。

 

 ――――良かったな、死ねるぜ?

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 壁を叫びながら殴りつける。

 痛みはない、だけどどこかが痛い痛いと叫ぶ。

 そのまま殴りつけていたら血が吹き出していた、どこか折れているかもしれないのに痛くない、その感覚がたまらなく気持ち悪かった。

 肩で荒く息を吐いたシンジは血が流れる拳を見つめる。

 

「ここまで、やっても痛くないんだな」

 

 シンジの精神が再構築される。

 痛みがないなら無茶ができる、辛いって叫べるならまだ心を追い込める、俺だったら死んでも(・・・・)物語に影響は与えない。

 そう開き直って、シンジは現実逃避する。

 そうしないともう立ってられないほど、シンジは自分の価値をどこまでも下げていく。

 シンジは近くの階段を登るとそこからわざと階段から転げ落ちる。

 階段から転げちゃった、と言い訳するために。

 ゴロゴロと階段から転げ落ちていくシンジの姿に、監視をする人員の胃も死にかけていた。

 

「片付けなきゃ……」

 

 フラフラと立ち上がったシンジに声がかかる。

 

「大丈夫かにゃ~?」

「……誰だよ」

 

 暗がりから声をかけられたのと、頭を打ってるせいで声をかけてきた人物の顔が見えない。

 だけどどこかで聞いたことがあるような声だとシンジは思った。

 

「誰でもない誰か、かな? はい、バケツとホース、あと包帯」

 

 誰かが足元にバケツ等の用具を置く。

 シンジはその人物の顔を見る、メガネだけがはっきり見えた。

 

「頑張れよ~、男の子。この世界は君の手に委ねられている」

「……知るか」

 

 シンジは吐き捨てる。

 声をかけた少女(・・)はため息をつく。

 

「名前が同じだからかな、わんこくんみたいに腐らないでよ」

「……わんこくん?」

 

 その言葉に思い当たるフシがあり、シンジは顔を上げる。

 だが顔を上げた先には誰もいない。

 幻覚か? とシンジは思ったが置かれているバケツは現実だ。

 シンジは狐に抓まれたような気分になったが、片付けないと、とノロノロと立ち上がった。

 そんなシンジの様子を、遠くからじっと見つめる少女は、先程シンジに話しかけていた人物だった。

 

「……さぁて君はどこまで行けるのかな?」

 

 そう笑った彼女は、その場から消えた(・・・)

 

 

 

○○○

 

 

 

 

「……シンジくん、無理なら」

「大丈夫、ヘーキヘーキ、へいきへっちゃら」

 

 ミサトさんが心配そうに声をかけるが、大丈夫大丈夫。

 起動前の健康診断に引っかかりかけたけど、うん。

 腕の包帯は……まぁ、傷口ふさがったしなんとかなるやろ、最近傷の治りは早いんだよなぁ。

 

「ごめんなさい、反対しといて、こんなことに」

「家でニートしてるよかいいじゃんいいじゃん」

 

 シリアスな顔を止めてほしくて、俺はおちゃらけた雰囲気で言うが、ダメみたいですね。

 ミサトさんはハンドルを握りしめると絞り出すように言う。

 

「結局、私は大人になりきれなかったわ」

「……ミサトさんはもう大人ですよ」

「でも!!」

「でももカカシもありません、それにミサトさんは過去のトラウマを払拭したいから憎む使徒と戦うことを選んだでしょ?」

 

 その一言でミサトさんの肩が跳ね上がった。

 あー、やっべと思うが、まぁ最悪死ぬかもしれないし、遺言状は加持さんに預けたしヘーキヘーキ。

 ミサトさんは震える声でつぶやいた。

 

「知ってたの?」

「あー……その、まぁ、はい」

 

 最初から知ってましたとか言えない。

 ミサトさんが戦う理由は、父親を奪った使徒が憎いから、だから戦う。

 ただ巻き込まれたから、戦った俺なんかよりも数段まともな志だ。

 

「……加持? それともリツコ?」

「最初から知ってたっていったらどうします?」

 

 取り繕うこともなく、俺は言うとミサトさんは少し悩みながらも、言葉にする。

 

「シンジくんなら、まぁ納得できる気がするわ。時々未来でも知ってるのって思うときあったし、ヤシマ作戦のとき、何も聞かずに狙撃したしね」

「……実は俺は未来人で、全部知りながら皆を騙してたんです!」

「嘘よ、それはわかるわ」

 

 ミサトさんがそう言って、ハンドルから片手を離して、俺の頭を撫でてくる。

 ……なんで、優しくするんだよ。

 

「あなたは優しい子よ。バカで向こう見ずだけど、決して悪い子じゃない、むしろ頑張りすぎて心配するの」

「全部、知ってたんだ。なのに俺は何もしなかった!!」

「それは違うわ、あなたはあの日、エヴァに乗ったのよ」

 

 ミサトさんが笑いかけてくれる、だけど俺は申し訳無さで顔をそむける。

 

「エヴァに乗って、戦って、大勢の人を救ったの」

「でも、救いきれなかった」

「全部救えるはずないじゃない、あなたは神様じゃない。十四歳の子供なのよ」

 

 ミサトさんが優しく俺の頭を撫でてくれる。

 そしてミサトさんは懺悔するように言う。

 

「私ね、あなたを復讐の道具だと思ってたわ。でも一緒に生活して、一緒に戦ってさ、勝手だけど、あなたやレイちゃん、アスカが家族みたいに思えたのよ。バカよね、そんな資格あるはずないのに」

「そんなことない」

「そういうことよ、シンジくん」

 

 ミサトさんは優しく言う。

 

「自分が否定しても、周りはそうだと言ってくれるわ。それが苦しいときもある、けど救われることだってあるのよ」

「……」

「シンジくん、あなたの苦悩はわからないわ。けどね、忘れないで、あなたを慕う人はレイちゃんやアスカ、綾波レイだけじゃない。他にも大勢いるのよ」

 

 ミサトさんの言葉が終わると車が止まる。

 俺は間髪を容れずに車から出る。

 

「シンジくん! ……お願い、自分を大切にして」

「無理ですよ、ミサトさん。俺は自分が一番キライなんだ」

 

 嫌い、嫌いだ、レイを好いてる自分が嫌いだ、御飯を食べる俺が嫌いだ、アスカと触れ合って喜ぶ俺が嫌いだ、綾波とポカポカする自分が嫌いだ、赤木さんと実験とかこつけて無茶苦茶やるのが嫌いだ、トウジと遊んで心休まる俺が嫌いだ、全部嫌いだ、自分という存在が嫌いだ。

 なのに、そんな自分が嫌いになりきれないのも事実だった。

 矛盾する気持ちを持ちながらも俺は歩いていく。

 ミサトさんは何も言ってこない。

 それでいい、加持さんはきっと上手くやる、アニメ版のように別れることはない。

 そう思っていると、リツコさんが立っていた。

 その表情は硬かった。

 

「なにかあれば即座にエントリープラグを強制射出します」

「……何か問題が?」

「おそらくは建造中の杜撰な管理のせいね。赤いカビのようなものが見つかったのよ」

 

 その言葉に俺は思い当たることがあった。確か今回の使徒は赤いカビ状のものだったと。

 それが見つかった……?

 

「除去したんですか?」

「高圧洗浄で、全て取れたわ。ただ心配だから実験中止を具申もしたんだけど、委員会と米国からの圧力がね」

「大人って大変だぁ」

「……子供もね。シンジくん、いい? 私が言えた義理じゃないのはわかってる、けど逃げてもいいのよ。なんでも当たってたら壊れちゃうわ」

 

 今日はなんか皆に心配されるな。

 俺は何も言わずに、すれ違うと俺の背に向かって赤木さんが叫んだ。

 

「レイがね!! 綾波レイが、あなたの好物作って待ってるって言ってたわ」

「……そっか」

 

 俺はそのままゴンドラのようなものに乗り込む。

 赤木さんが心配そうにこちらを見るが、俺はボタンを押して外から見えないようにブラインド機能を付けた。

 その時、ガコンと部屋が動く……確か劇場版で移動隔離室とか言われてたっけと思い出す。

 俺は服を脱ぎ捨てると、密封されたプラグスーツを手に取る。

 真っ黒なそれは三号機をイメージしてデザインされているのか。

 ちなみに劇場版のアスカはプライバシー保護もあったのか胸とかは隠されていたが、俺のは股間以外はノーガードなプライバシーのへったくれもないものだった。

 新劇のアスカとは違い、俺の着替えはソッコーで終わった。

 手持ち無沙汰になりブラインド機能を解除する。

 ……下を見るとかなり高い場所にいて、ソッコーでブラインド機能をまた付ける。

 景色は最高だけど、おっかねえや。

 俺は備え付けられた椅子に座って携帯を見る。

 トウジ、ケンスケ、親父と母さんから着信が入っていた。

 百件近くあったレイとアスカからの着信は見なかったことにしよう。昨日、吐いたあと二人を寝かしつけて、夜なべして遺書を書いてたからな。

 ……俺は母さんの電話番号に掛けた。

 少しのコール音の後、繋がる。

 

「よっ、久しぶり」

『突然どうしたんだい? 帰りたくなったのかい?』

「いや、親父も友達も今の時間は仕事か、授業かなって消去法で」

『あんたまた授業サボったんか!!!』

「うるせえ!!!」

 

 キーンと響く母さんの声に、俺も負けじと大声を返す。

 

「ったく、前回もそうだけど叫びすぎだろ、血管切れるぞ? おばちゃん」

『あんた実家に帰ってきたら覚悟しな』

「四十代見えてんだから無茶すんなよ」

『お前ー!! お前なぁ!! 年齢をなぁ!! 子供がなぁ!!』

「……まぁ、冗談は抜きにして、親父はどうよ、元気?」

 

 母親を弄りながら、俺は近況を聞く。

 母さんはため息を吐きながら言う。

 

『第3新東京市はいい街だったよーとか呑気なもんだったよ。ただあんたが電話に出ないってしょげてたよ』

「申し訳ないが、十四歳の子供に毎日電話かけてくるのはNG」

『そりゃあの人が悪いね』

 

 いやー、だって毎日毎日同じ時間にかけてくるんだもん恐怖だよ恐怖。

 子離れできないのはなぁ、ただマダオみたいなのもNG。

 

『ただあの人ね、あんたの死にたいって気持ち、気づいてたみたいだよ」

「……あんたらはエスパーか何かか?」

 

 ドキリと心臓が跳ね上がる。

 というか気づいたみたいって母さん前から気づいてたのか???

 

『驚くことかい? 母親はなんでもお見通しなんだよ』

「女は強い、はっきりわかんだね」

『……まだそう思ってるのかい?』

 

 母さんの不安そうな声なんて初めて聞いたよ、まぁ息子が死にたいって思ってることに気づけばこうもなるか。

 

「その……なんていうんだろ、ごめん」

『そう言うなら考え直してくれないかい?』

「……ごめん、親不孝な息子で」

『謝るんじゃないよ!! むしろ謝るのはアタシらのほうさ』

 

 電話越しの声に嗚咽が交じる。

 胸が痛いけど、ごめん、本当にごめん。

 

『怖かった、アタシの育て方が悪かったって思ってさ』

「違うよ、母さんのせいじゃない。ソレだけは絶対にないし、親父のせいでもない……俺、のせいだ」

『バカッ! こういうときは罵ってくれたほうが気持ちが楽なんだよ!』

「あー、ごめん。その気持ちよーく分かるわ」

 

 苦笑しながら、携帯越しに聞こえる母親の嗚咽を全て聞く。

 ……ハハッ、マジで今までで一番堪えるわ、これ。

 

『あんたが死んだら、レイちゃんはどうするんだい。そっちの友達も』

「生きていくさ、そのために俺はここにいる、で終わったら消えるさ」

 

 そうだ、レイを生かすために戦うんだ。

 そして全部終わった後に、消える。これが一番良いことなんだよ、母さん。

 だけど、人生の中で一番の怒鳴り声を聞いた。

 

『バカたれ!! 逃げてんじゃないよ!! あんたのそれは逃げだ!! 向き合いたくなくて、逃げてるだけさ』

「じゃあどうしろってんだよ!!!!!」

『受け入れな、バカ息子』

 

 怒号に怒号を返したら、優しい声でそう言われた。

 

『受け入れるんだよ。あんたがしたこと全部を』

「……そんなの」

『やりな、意気地なし!! あんたはレイちゃんを守るんだろ!! だったら人生の最後までやり通しな!!』

「出来っこないだろ!! 誰かの人生を支えるほど俺は強くないよ!!」

『うっさい!! あんた一人でやれって言ってんじゃないよ!! レイちゃんと一緒にやりな』

 

 その一言に、キョトンとする。

 一緒に、やる?

 

『男ってのは馬鹿ばっかだねえ。女にも背負わせるんだよ、独りよがりなとこはお父さんそっくりだよ、あんたは』

「で、でも、レイは……」

『直前で尻込みする男より、女の方が肝っ玉でかいんだよ!! あんたはレイちゃんに過保護すぎるんだよ、バカ!! あの子だってやるときはやる子さ、アタシにはわかる!』

「こ、根拠は?」

『女の勘だよボケ息子!!』

 

 俺は盛大にずっこける。

 お、女の勘ってあーた……というか、さっきから一緒にやれってそれ。

 

「ふ、夫婦みたいじゃんか」

『あぁん!? そんじょそこらの夫婦以上のことしといて逃げる気かい?』

「レイはそういう対象じゃなくて……」

『レイちゃんから報告してもらったよ、あんたらキスしたんだって』

 

 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??!!??!?!???!?!?!??!?!

 なんで!? ナンデ!? なんで知ってんのってレイイイイイイイイイイイ!!!

 

「ち、ちが……」

『それとアスカちゃんだったかい? それともしたらしいね」

「ンンンンンンンンンンンマッ!? アァッ!!」

 

 そこまで報告されてるってどういうことやねん!!! ていうかなんでアスカのことも知ってるねん!!

 

『お父さんが教えたって』

「あんのくそオヤジやろうてめえブッコロっしゃああああ!!!」

『国際結婚とかわからないけどさ、あんたもモテるとは驚きだよ。で? そういう対象じゃないって?』

「い、いやその、レイは友達だし、アスカは……その、憧れといいますか、尊敬と言いますか」

『責任、取りなよ。別に一人、二人嫁さん増えようが気にはしないから』

「カッチャマ??????」

 

 おいおいおい、この人ハーレム推奨とかエロゲ主人公の親かよ、ここエヴァンゲリオンなんですけど!!

 

『それであんたが死ぬのを思い直してくれたら、何人でも受け入れるさ』

「……」

 

 母さんの愛情を感じて、俺は胸が熱くなる。

 ……責任、か。

 

『わかったかい、母ちゃんは強いんだよ』

「……俺は」

『答えなくていい、しばらくは生きるつもりなんだろ? けど忘れるんじゃない、あんたが死ねばあたしは泣くからな? やっとの思いで授かった命なんだ……だから、だからさ』

 

 ガコン! と部屋が止まった。

 長話しすぎたらしい、俺は母さんに言う。

 

「んっ、考えとくよ。心配すんな、これでも英雄とか言われてるからさ」

『ハン! ガキが粋がってるんじゃないよ……気をつけな、体、大事にするんだよ』

 

 母さんの優しい声に、俺は自然と笑みを浮かべていた。

 外には作業員が待っているが、どうやら待ってくれているらしい。

 ……さて、行くか。

 

「ごめん、母さん。今日はありがとうな、父さんによろしく」

『あぁ、元気でいるんだよ』

 

 俺は通話を切り、携帯を放り投げる。

 ……母親の言葉ってすげえな、死にたいって気持ちが綺麗サッパリなくなったわ。

 それにレイとアスカのことはいずれ答え出さなきゃいけなかったしな……まぁいいや! 今日の実験終わってから考えよう!!

 そう思い、俺は部屋から一歩踏み出した。

 

 

 

○○○

 

 

 

「アレが、母親か……」

「私達には真似できないわね」

 

 ミサトとリツコは申し訳ないと思いつつも、隔離室の電話を聞いていた。

 母親は強い、改めて見せつけられた形だった。

 シンジがエントリープラグに乗り込む。

 

「……実験を開始します」

「了解、エントリープラグ挿入」

 

 日本語を話すオペレーターと並行して英語でのオペレートも行う。

 三号機は米国主導で建造したエヴァのため、米国のスタッフも来ている配慮だった。

 エントリープラグが挿入され、LCLが電荷されシンジは周囲の情報を視認する。

 第一次接続は問題なく行えている、精神状態も安定しているのを確認したリツコはその一言を言ってしまう。

 

「第二次接続開始」

 

 エントリープラグ内では、シンジは久々に飲み込むLCLに安堵していた。

 やっぱここが一番だと。

 安心しきっていた、赤いカビ、今回の使徒は排除されたと気を抜いていた。

 だがどんなに最善を尽くそうが、人が集まれば必ずミスは起きる、いや起こされてしまう。

 エントリープラグの担当者が、事前に言われていたLCLの交換を忘れていたと思い出したのは第一次接続のときだった。

 彼は米国のNERV職員で、シンジに関しては使徒を倒すすごいやつ、程度にしか考えていない。だからこそ、今更実験を止めて自分のミスを言うことを止めてしまった。

 微粒子化した使徒が敷き詰めてあるLCLをそのままに、リツコには交換したと虚偽報告をしてしまったからだ、いくらリツコでも一人ではチェックしきれなかった。

 

「……あっ」

 

 エントリープラグ内が赤く染まっていく。

 シンジはそれを見て、悟った。

 自分が甘かったことを。

 笑い声が聞こえる、ケタケタと嬉しそうに笑う子供の声、次の瞬間シンジの体に青いナニカがへばりついた。

 コントロールルームでは、切羽詰まったオペレーターの声が聞こえた。

 

「プラグ深度、100オーバー! 精神汚染濃度も――――」

「実験中止、搭乗者の安全第一に、プラグを強制射出して!」

 

 ミサトが間髪を容れずに、実験中止を具申し、リツコが有無を言わさず、プラグの強制射出ボタンを押す。

 だが、煙は上がったものの、粘膜状のナニカがエントリープラグを包み込み、射出を邪魔する。

 

「何!?」

「ならば回路切断!!」

「ダメです! 体内に高エネルギー反応!」

 

 アンビリカルケーブルが脱着されるが、オペレーターは悲鳴のような声で報告する。

 高密度のエネルギーが三号機内部から観測されたのだ。

 三号機は各部位を固定されている。

 マズイとリツコは叫んだ。

 

「総員退避!!」

「間に合いません!!」

 

 本来であれば、邪魔な拘束を取っ払うために三号機は大爆発を引き起こすはずだった。

 だが内向きのATフィールドが、爆発を三号機の周囲に押し止める。

 衝撃がコントロールルームなどを揺らすが、三号機周囲が吹き飛んだだけで済む。

 

「何が!?」

「ATフィールドで、爆発を内側に閉じ込めたんだわ……シンジくんが」

 

 拘束具が弾け飛んだ三号機は、赤い血を流しながらもズシン、ズシンと歩いていく。

 ミサトは後悔するのは後回しにし、指示を出す。

 

「NERV本部へ通達。三号機、いいえ使徒出現、至急エヴァンゲリオンを松代方面に配備させて」

「りょ、了解!!」

「ミサト、わた、私……」

「後悔するのは後回し、助けに行くわよ、シンジくんを」

 

 ミサトはリツコに活を入れると、リツコは立ち上がり頷いた。

 

 

 




自殺願望と罪悪感とストレスと恐怖心で精神が折れたぁ!! ちなみに痛覚がほぼなくなってるせいで、生きてる実感も薄れてきててあーもうヤバい(ヘドバン)。
ちなみに現場猫案件だけど米国ネルフの安全管理云々よかそこの担当者がまぁええやろとテキトーやっただけだからそこ以外はきっちりやってたので、ガチ戦犯の模様。
さぁ、次回か次次回で主人公解体ショーの始まりや……。

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)
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