中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ、地獄への道は善意で舗装されている

使用BGM「今日の日はさようなら」

マジで書きなぐったのですっげー読みにくいと思うゾ。


皆頑張ってどうしようもなかった件

「すまんなぁ、委員長、サクラのわがまま聞いてくれて」

「いいのよ……正直、碇さんの料理に負けたくないって気持ちもあったし」

 

 トウジの家では委員長が台所に立っていた。

 打倒碇レイという理由でサクラが燃えていたからだ。

 

「あんなごっつう旨い料理ウチには作れへんもん! ヒカリ姉ちゃんはいつも弁当作ってるって兄ちゃんから聞いたんよ!」

「教えてくれるん言うのにコイツは……すまんなぁ、委員長」

「い、いいのよ……私も得してるし」

 

 最後の方はトウジには聞こえなかったが、委員長の顔を見てトウジは眉を顰める。

 

「なんや、風邪か?」

「違うわよ!! そういえば今日、三上くん来なかったわね。元気出たと思ったのに」

「シンジさん具合でも悪くなったん?」

 

 サクラが心配そうに聞くが、トウジは頭を撫でながら言う。

 

「阿呆、シンジはな、ワシらのために頑張ってるんや、今日もなんか実験とかで来てないだけやで」

「……大変よね。鈴原は一回戦うところ見たんだっけ? あのとき、すっごい大変だったんだから」

「すまんて、反省しとる」

 

 トウジはパンと両手を合わせて謝罪する。

 委員長はもうと呆れながら、台所で食材を用意していた。

 

「で? 今日は何作るんだっけ?」

「シンジさんの好きなもの全部!」

「阿呆! だったらこの程度の量で足りるかい!!」

 

 そっちぃ!? と委員長がツッコむと三人は笑いだす。

 委員長はクスクスと笑いながら、ドンと胸を叩く。

 

「量より質よ! 愛を込めるのよ、サクラちゃん!」

「はい師匠!!」

「なんで師匠やねん、あーワシは手伝わんからテレビでも見とるわ」

 

 ノリツッコミをしたトウジはリモコンを付ける。

 ちょうどニュースをしており、速報が流れていた。

 

『今入った情報です、松代での爆発事故ですがガス管が爆発したとのことですが、現場では巨大な人のようなものが歩いたとの情報も入っております』

「……松、代?」

 

 トウジはサァーっと血の気が引いた。

 ポケットから携帯を出して、シンジからのメールを見る。

 

『松代にミサトさんと新婚旅行行ってくるンゴwww』

「……シンジ」

 

 大丈夫、大丈夫だとトウジは早まる心臓を抑える。

 今までだってちゃんと帰ってきたんや、それに碇や惣流、綾波もおるんやなんとかなると納得させていた。

 

「鈴原ー、お皿取ってきてー」

「手伝わんって……アッハイ、すんません」

 

 叫んだが、委員長がじっと睨んできたのでトウジは素直に従う。

 窓の外は雨が降り出してきていた。

 

 

 

「今度はあたしが第3新東京市に行くべきかね」

「僕も有給とって行くよ、シンジ君の様子も見たいしね」

 

 シンジの実家では、父親と母親が団欒をしていた。

 実はシンジが電話かけていたときも父親はいたのだが、邪魔をせずに見守っていた。

 母親は、フッと笑いながら言う。

 

「嫁さんが二人来るかもね」

「僕的には綾波って子も気になるんだけどねえ」

 

 父親はお茶を啜りながら言う。

 プレイボーイだねえと言うが、この父親も現役時代に割とモテていたが気づかなかっただけである。

 

「……あの子、大丈夫かね」

「大丈夫さ、なんたって君の子供だよ? 繊細だけど図太く生きるさ」

「あんたの子でもあるんだよ。全く、何考えてるのかわからないところはあんたそっくりだよ」

 

 ハッハッハと笑い合うが母親は表情を暗くして言う。

 

「帰ってこいって言ってやりたかった、でもあの子はあそこでやるべきことがあるんだろう?」

「あぁ、何かまでは知らないけどね」

 

 父親は嘘を吐く。

 本当のことを言えば怒鳴り込んでしまうことは目に見えている。

 だがNERVという組織は父親ですら、全容がわからないほどに深い闇を持っていると軽く調べてもわかる。

 そこに一般人である母親が行けばどうなるかわかったものではない。

 悪い癖だなと、お茶を啜りながら父親は自嘲する。

 納得して辞めたはずなのに、時々こうやって「火遊び」がしたくなるのは、大人になりきれていない証拠なのか、悩む時がある。

 

「僕たちの息子はすごいやつさ、誇ってやろう」

「……あんたがそう言うならそうなんだろうね」

 

 母親は立ち上がり、リビングに飾ってあるシンジとレイが映った写真を見る。

 

「……あの二人、大丈夫かね」

「大丈夫さ、あの二人なら」

「そうさ――――あっ」

 

 その時、母親の手が滑り写真立てを床に落としてしまう。

 バリンとガラスが割れ、床に飛び散ってしまう。

 

「アタシもホント歳かな?」

「まだ三十代でしょうが……怪我しちゃうから僕に任せて」

「いいよ、ちりとり持ってくるよ」

 

 パタパタと走っていく母親の背を見ながら、父親は写真を手に取り、じっと見る。

 にこやかに笑っているシンジと困惑しながらもシンジの服を握るレイ。

 いつまでもこうあって欲しいと思うのは、親のエゴだろうか?

 

「……大丈夫だよね、シンジ君」

 

 母親の前で見せなかった不安を漏らした。

 でも、大丈夫、大丈夫だと言い聞かせる。

 きっとエヴァンゲリオンが守ってくれる、そう、信じていた(・・・・・)

 

 

 

○○○

 

 

 

 咆哮した初号機が三号機を突き飛ばす。

 発令所では混乱の極みであった。

 なぜなら初号機は現在、誰ともシンクロをしていなかったからだ。

 

「何が、何が起きてるのよッ!!!」

『まさか、暴走……?』

『そんな、なんでっ、なんでなのよ!!』

 

 マヤは困惑していた。

 全神経接続はカットしており、初号機は動くことは出来ないはずだった。

 ミサトは憶測を言うが、全てを理解しているリツコは慟哭をあげる。

 殺す気なのだ、初号機は、シンジを。

 

『マヤ、アンビリカルケーブルを脱着して!! 早く!!』

「は、はい!!」

 

 マヤが強制脱着ボタンを押し、アンビリカルケーブルが初号機から外される。

 外部電源が、内部電源に切り替わりカウントダウンが始まる。

 

「何をしている!! 敵に塩を送るつもりか、赤木博士!」

『じゃあ早く初号機を止めてください!! このままでは初号機がシンジくんを殺します!!』

「なっ……」

 

 リツコの叫び声に、冬月は驚愕する。

 そしてオペレーター含めた発令所の職員は混乱し、モニターを見る。

 三号機を突き飛ばした初号機は、飛び上がり倒れ込んだ三号機を殴りつける。

 

『ぐあぁっ!?』

「シンジくん!!」

 

 通信が入りっぱなしになっており、初号機が三号機を殴るたびにシンジの悲鳴が発令所や仮設指揮所に流れる。

 描写しなくてもお通夜状態といえば悲惨さはわかるだろう。

 初号機は左肩から生えていた腕を掴むと、力任せに引き千切る。

 

「もう、もうやめて!! やめてあげて!!」

「なんとか止められないのかよ!!」

「無理だ……内部電源が切れない限り初号機は止まらない」

 

 引き千切った腕が空高く飛び、近くの川へと落着する。

 国連軍は動けずにいた、いやむしろ敵であった三号機を守ろうと動き出そうとする隊員を押し止めるべく、こちらも混乱の極みになっていた。

 

「行かせてください、これはあまりにも、あんまりです!!」

「馬鹿者!! 動くなと命令が出ている!! それに……使徒殲滅が彼らの任務だ」

「アレが戦いなものかッ!! あんな、ものが、戦いであってたまるか……」

 

 子供が乗っている、この情報がまずかった。

 おそらく隊員たちも大人が乗っている、もしくは誰も乗っていないとの情報であればここまで取り乱すことはなかった。

 中には自分の子供と重ねる者もいた。

 現場指揮官である立花も、立場がなければまっさきに飛び出しているところだったが、軍人としての義務と使徒殲滅という使命でそれをねじ伏せる。

 

「あのままではパイロットが死にます!! 彼らは救出する予定ではなかったのですか!!」

「……紫しか残っていないのだ、仕方あるまい」

 

 立花は歯噛みする。

 何をしている紫、いつもどおり奇跡を見せてくれと祈る。

 だが彼の願いとは裏腹に、激痛で動けないシンジから制御権を奪い返した使徒が初号機の首を掴もうとまるでゴムのように腕を伸ばす。

 

『させるかよぉ!!』

 

 ギリギリで操縦権を取り戻したシンジが、伸びた腕の軌道を変える。

 無理やり伸ばされた腕の痛みとシンジを掌握しようとしている使徒が体内で暴れ、シンジには想像もできないほどの激痛が走り、叫び声を上げる。

 フッと意識が飛びそうになり、シンジは自分の頭を操縦席にぶつける。

 痛みで無理やり意識を保たせ、笑う。

 

「ザマァ見ろ、お前は俺とここで死ぬんだよ」

「やだ!! やだよ!!! 誰か止めてよ!!」

 

 レイが狂乱し、操縦桿を必死に動かす。

 だがシンクロしていない今では、ソレはただの動くオモチャに過ぎない。

 だがそれでもレイは叫び続ける。

 発令所では残り三分という時間表示と、聞こえてくるシンジとレイの悲鳴に職員たちは嗚咽を漏らすもの、目を背けるもの、なんとか止めるべく奔走するものに分けた。

 

『碇司令、どうにか、どうにかできないんですか!!』

 

 ミサトが髪を掻き毟りながら藁にも縋る気持ちで叫ぶ。

 だがゲンドウは、いつもの姿勢を保ちながら何も答えない。

 見えない唇を食いしばり、血が出ていると気づくのは側にいる冬月のみ。

 そんな冬月は、冷めた口調で話す。

 

「碇、予定が早まっただけだ。奴はいずれ邪魔になっていた」

「…………」

 

 ゲンドウは答えない、モニターを見続け、全てを見届けるつもりであった。

 冬月はため息をつく。

 

「今更だろう?」

 

 そう、今更だ。

 今更であるが、ゲンドウはシンジの言葉が脳裏に過ぎっていた。

 

 ――――でもあんたは愛したんだろ、人を。だからレイが産まれたんだ

 

 その一言で、ゲンドウは完全に思い出したのだ。

 初めてレイと出会い、その小さな手が自分の指を握ったのを。

 小さな手がしっかりと握りしめ、その力強さと愛おしさを思い出した。

 そして自分がしてしまった過ちも全てに絶望したことも、だからこそゲンドウはレイを遠ざけた。

 眩しい光だったからこそ、この地獄を作り出してしまった自分には尊すぎると……だからこそ、それを思い出させてくれた恩人を救うべく、ゲンドウは立ち上がった。

 

「シンクロだ」

「はっ?」

 

 ゲンドウの一言はオペレーターたちの思考に空白を生んだが、リツコが叫んだ。

 

『そうだわ、もう一度レイちゃんとシンクロさせるのよ!! そうすれば初号機を止められるかもしれない!』

「了解ッ!! 伊吹!! 泣いてる暇あるなら手を動かせ!!」

 

 オペレーターの青葉が、そう叱咤する。

 だがマヤはあまりの光景に目を逸らしたかった。

 バラバラに解体されていく三号機の惨たらしさ、それをする初号機、その全てが気持ち悪かった。

 だけれども、シンジを救うため彼女も顔を上げてキーボードを叩く。

 三号機はもはや、人の形を取ることを諦め、体中から無数の手を生やして初号機を絡め取る。

 

『ぎぃ――――――ッ』

 

 シンジの声なき悲鳴が響く。

 無理もない、体の内側から無理やり突き破ってきているようなものだ、その痛みに耐えきれずシンジは失神する。

 無数の手が初号機の全身を掴みかかる。

 だが初号機は腕を前に出して、ATフィールドで受け止める。

 中和しようとする三号機であったが、初号機(母親)の強固なATフィールドに阻まれ文字通り手が出ない。

 一方、発令所ではシンクロの準備に入り、レイに通信を送った。

 

「レイちゃん、今からシンクロをスタートするわ!! お願い、初号機を止めて!!」

「……早く、早くして!!」

 

 操縦桿を動かしながら、レイは叫ぶ。

 マヤは全ての確認作業をすっ飛ばして、レイと初号機のシンクロをスタートする。

 これで行ける、そう思った瞬間、赤い表示でErrorと示される。

 

『どうなってるの、ねえリツコ、どうなってるのよ!!!』

『マヤ、もう一度よ、もう一度やりなさい!!』

「やってます!! やってるのに、どうしてぇ……」

「ねえ、何してるんだよ、父さん、何やってるんだよ皆……なにやってんだよ!!!!!」

 

 何度しても初号機がシンクロを拒否するのだ。

 絶望が職員間に広がっていく、残り一分三十秒の表示が長い。

 無数の手を受け止めていた、初号機は目を赤く輝かせてATフィールドを掴むとそのまま受け止めていた腕ごと三号機を振りかぶった。

 初号機を抑え込むために急造した腕のせいか、体中から生えていた腕がその一撃でバラバラに砕ける。

 三号機は山に激突すると、全身を大きく痙攣させる。

 誰がどう見ても戦闘不能に見える三号機に、初号機が近づく。

 

「やめろぉ!! やめるんだぁ!!」

 

 後方に待機し、事態を見守っていた立花もこらえきれずに叫ぶ。

 だがその言葉も虚しく、初号機の脚が三号機の胸に降ろされる。

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 エントリープラグごと胴体を踏み潰す気だと思った日向が叫ぶ。

 だが、その前に三号機の口がガバっと開き何かが出ようとした。

 それが確認される前に、大きく振りかぶった初号機の右脚が三号機の顔面を踏み砕いた。

 血しぶきと臓物が地面を転がる。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!! 痛い、痛い痛い痛い、痛いよぉ……』

 

 顔面を砕かれたシンジが痛みで意識を取り戻すが、あまりの激痛に呻くだけだった。

 その言葉を聞きたくないのか、青葉はシンジとの通信を切ろうとする、だがそれを止めたのはゲンドウだった。

 

「通信そのまま」

「しかし、これ以上は、これ以上はもう!!」

「我々の罪だ、最後まで聞くんだ」

 

 その言葉に青葉は、モニターを両腕で叩き畜生と呟く。

 冬月はゲンドウの行動にため息を吐きながら、痛みに悶えるシンジの声にある感情を抱いていた。

 だがそれを出さずにあくまでも冷静に見守っている風を保っていた。口の端がつり上がっているのを指摘するものは誰もいない。

 

「シ、ンジ……くそっ、止まれっ!! 止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ、止まってよぉ!!」

 

 シンジの声に、レイは無駄だと理解しながらも操縦桿を何度も引く。

 だがマヤが涙を流しながらも、希望の光を見つけて報告する。

 

「な、内部電源終了まであと十秒!!」

 

 その言葉に沸き立つNERV職員だったが、またしても絶望に落とされる。

 十秒経った。そう、内部電源が終了したはずなのに初号機の目から光が消えない。

 むしろ今までよりも荒々しく、三号機の装甲や肉を引っ剥がしていく。

 

『……無駄よ、彼女が止まるまで初号機は止まらないわ』

『ッ、諦めてんじゃないわよ! あんたが作ったんでしょう!! どうにかしなさいよ!!』

『……』

 

 ミサトが消沈するリツコを殴ろうとするが、嗚咽が混じりリツコの胸に顔を埋める。

 もう、無理だと誰もが諦めた。

 肉が飛び散り、血が吹き出し、悲鳴が木霊する、地獄というのがあるとすれば今の現状が地獄であった。

 三号機を解体していた初号機が何かを見つけ、右腕で引き抜く。

 それはエントリープラグだった、青い物体が付着していた。

 ぐぐぐっと初号機の右手が力がこめられる。

 

「もういい、もういいだろぉ!!」

「もうやめて!!!」

「ちくしょー!!!!!」

 

 NERV職員が叫ぶ。

 だが初号機の力が徐々に強まり、エントリープラグがひしゃげていく。

 そしてへし折られる寸前、初号機の動きが止まった。

 

「と、止まった……?」

 

 日向が恐る恐るモニターを見るが、初号機の目から光は消えていない。

 だが腕が震えていた、まるで迷っているかのような動きに発令所の人員やミサトたちは息を呑む。

 ゲンドウだけはそれを見て、目を細めた。

 震える初号機の手から徐々に力が抜けていく、だがそれを止めたのはシンジだった。

 

『ダメ、だろ、オカアサン、最期までやらないと』

『何を、言ってるの? シンジくん、終わったのよ、三号機は、使徒は殲滅したのよ!!』

 

 震える声で返答したのはミサトだった。

 推定使徒である三号機はバラバラに解体されており、動く気配はない。

 終わったのだ、そう終わりであってほしいとミサトはモニターに手を伸ばして泣きながら懇願する。

 

『まだ、ここに、エントリープラグに、残ってる』

「脱出するんだシンジくん!! 難しいなら回収班が行く!」

『無理ですよ、俺の中に、使徒がいる』

 

 その一言に全員が絶句した。

 だから殺せと言ったのね、とリツコが俯きながら言う。

 

「なら俺たち医療班に任せろ!! 使徒なんか切除してやるからさ! だから……だから生きてくれ、シンジくん」

『嬉し、いなぁ……けど、コイツ侵食型だからさ……設備あるところじゃ、乗っ取られる、よ』

「シンジくんお願い、お願いだから言って頂戴!! 助けてって!! 私達に言ってよ!!」

 

 オペレーターたちの言葉に、シンジは涙を流しながら嬉しがる。

 あぁ、ホントいろいろな人が慕ってくれてたんだなと通信から聞こえる声に、シンジは今更ながら勇気をもらう。

 だけど、もう無理なのだ。どの道、シンジは助からない。

 シンクロの影響か、それとも侵食していた使徒の腹いせか、シンジの体はもう半分以上が青い粘膜で覆われていた。

 気合で意識を保っているが、いつ乗っ取られてもおかしくはなかった。

 だからこそ、シンジは最後の力を振り絞って話す。

 

『ミサト、さん、今までありがとうございました。割と楽しかったですよ、一緒に生活、するの』

『これからも一緒に暮らすのよ!! 加持も一緒にいるわ!! 諦めないで!!』

 

 シンジは笑う。

 

『楽し、そうですね』

『うん、あのバカならシンジくんも気にいるわ! 結構料理とか上手いのよ、だから、だから…………うぅっ、お願い、シンジくん、死なないで』

 

 シンジは泣くミサトの声に苦笑する。

 泣き虫だなぁと思いつつも、自分も泣いていることを思い出し目の前を拭おうとして、腕が動かないことに気づく。

 もう頭以外は使徒に侵食されたらしい。

 

『赤木さんも、ありがとう……綾波と、仲良く、な』

『その資格は無いわ、私は』

『ある、よ。赤木さんなら、きっと、綾波とうまくやって、いけるさ……うん、きっとさ』

 

 リツコは俯きながら、シンジの最後の言葉をしっかりと聞き届ける。

 だからリツコはこれだけは聞きたかった。

 

『シンジくん、私を、恨んでない?』

『ふざけんな! って言えば楽に、なる?』

 

 シンジは笑いながら言った。

 リツコは苦笑しながら言う。

 

『えぇ、なるわ』

『じゃあ、言わ、ない。綾波とずっと仲良くしない、と、赦さな、い』

『……今更、母親になれというの?』

『そうだよ。だから、さ……赤木さんは幸せになって』

 

 その一言に、リツコは顔を上げる。

 優しいシンジの声にワナワナと両手を顔に当てると、嗚咽を上げる。

 シンジは徐々に顔に迫ってくる粘膜を睨み、一喝する。

 

「もうちょいで死ぬから抵抗すんなよ」

 

 そうシンジが言うと、粘膜がシンジの顔に覆い被さろうとし――――ATフィールドがそれを防いだ。

 できる自信なんてなかった、ただ使徒とほぼ同化している今ならできるんじゃないかと思いやったら出来ただけだった。

 ……なんとか全部言えそうだな、とシンジは思う。

 心なしか、声も滑らかに出そうだと他人事のように思い、口を開く。

 

『マダオ……いや、ゲンドウさん。あと頼んだわ』

『……あぁ』

『任せろぐらい言ってくれよ。こんなのが司令とか辞めたくなりますよーNERVぅ~』

『……恨みはないのか』

『無いと思ってんのかこの野郎』

 

 シンジは叫ぶ。

 

『殺されかけてんのに恨まないわけねえだろ、このマダオ!! ぶん殴りたかったわ!! というかこの間の食事会で殴っとけばよかったわ!!』

『……そうか』

 

 ゲンドウはモニターをまっすぐ見ていた。

 

『……レイから逃げるなよ。俺が死んだら、後は親の仕事をしろ。さんざんサボってたんだ、苦労しやがれ』

『……あぁ』

『一つだけ教えといてやるよ。きっとレイは否定するよ、あんたが思い描いてることは』

 

 シンジの一言に、ゲンドウが動揺したが口を開いたのは冬月だった。

 

『貴様、何を言っている!!』

『さぁな、冬月せーんせっ。精々俺が死んだ後悩んどけ……さて、レイ』

 

 冬月が騒いでいるが、シンジは器用にATフィールドを使い、発令所からの通信を切る。

 そして優しい声で語りかける。

 

『ごめんな、つらい思いをさせちゃって』

『……』

『こんなはずじゃなかったのにな、油断しちゃった。ホント、ごめん』

 

 レイからの反応はない。

 だがそれでもシンジは語りかける。

 いつの間にか空は曇り、ポツポツと雨が降ってきていた。

 

『レイ、よく聞け。あとはお前とアスカと綾波が頑張るんだ』

『……』

『大丈夫、お前らなら俺がいなくたって――――』

『嫌だ』

 

 レイの無感情の一言に、シンジは苦笑する。

 言うと思ったとシンジは笑う。

 

『嫌だ! 嫌だよ!! シンジがいない世界なんか生きていく価値なんてない!!』

『あるよ』

『ないよ!! 僕にはシンジしかいないんだ!!』

『んなことはない。レイ、お前の味方は傍にいるし……お母さんとの約束を思い出せ』

『なんで、今母さんの話が出てくるんだよ!! 何を言っているのか分かんないよ!』

 

 シンジは最期だからと気を抜いていた。

 このレイにあれを言ってるかわからないが、シンジは伝えたかった。

 

『レイ、忘れているだけだよ。お前は両親から愛されてた、見捨てられてない』

『違う!! 違う!!! 捨てたんだ!! 父さんが母さんを殺して!! 僕が疎ましいと思ったから遠ざけて捨てたんだ!!』

『……レイ、なんで俺がオカアサンって呼びかけたのか、その意味を考えてみろ』

 

 初号機の震えが止まり、愛おしそうに手に持ったエントリープラグを撫でる。

 その姿はまるで母親のようであった。

 

『遺言みたいなこと言わないでよ、シンジ』

『遺言だな。まぁ、俺の机の引き出しに遺書書いてあるから読んでおいてくれ』

『諦めないでよ!! いつもみたいにどうにかしてよ!!』

 

 レイは叫ぶが、シンジはエントリープラグ内を包むように広がる使徒を見て諦めるように言う。

 

『無理、今回ばかりはどうしようもない』

『シンジ!! ……僕を一人にしないで』

『もう、独りじゃないよ』

 

 シンジの張るATフィールドが徐々にひび割れていく。

 拒絶の気持ちはなかった、ただ死を受け入れようとするシンジの気持ちがATフィールドを弱くしていたのだった。

 

『ミサトさんがいる、アスカも、綾波だっている……もう、俺がいなくてもレイは一人ぼっちじゃない』

『嫌だ!! 僕は、シンジがいいんだ!! シンジさえ傍にいてくれればいい! 他の何も要らないよ!!』

『……レイ、今までありがとうな。俺さ、レイのおかげで今まで生きてこられた、生きようって思えたんだ』

 

 シンジはできる限りの笑顔で、レイに感謝を伝える。

 レイは耳を塞ぐ、嫌だ、聞きたくない!!!!

 

『レイと出会えて本当に幸せだった』

『シンジ、嫌だよ!! 僕の前からいなくならないで!!』

『……レイ、約束してほしいんだ』

 

 シンジは敢えて、レイの言葉を無視する。

 独りよがりだってわかっている。

 だけど、これだけは言わなければと最後の力を振り絞る。

 

『生きて。レイだけは生きてほしいんだ』

『シンジ!!』

『オカアサン……おまたせ、一思いにやってくれ』

 

 エントリープラグを撫でていた初号機の動きが止まる。

 ゆっくりと頭を動かして、エントリープラグを見つめる初号機はまるで祈るようにエントリープラグを両手で包み込む。

 

『今までありがとう。レイを……宜しくお願いします』

『いや、だ、止めろ!!! 止めてよ!! 母さん!!!!!!!!!!!』

 

 レイの叫び声が響く。

 だが初号機は両腕に力を込めると手に持ったエントリープラグを一気に潰した。

 初号機の手からLCLが噴き出す。

 

『あ、あぁぁあああ、アアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!!!!!!』

 

 レイの叫び声が響き渡る。

 そのまま頭を垂れた初号機の目から光が失われる。

 それを見守っていた発令所は呆然と潰されたエントリープラグを見ていた。

 ゲンドウが号令をかける。

 

「目標沈黙、作戦終了だ」

「……回収班は、どうしますか」

「使徒に汚染された検体を回収するため、防護服を着用したまえ」

『碇司令、私に行かせてください』

 

 硬い声で言うミサトの通信に、ゲンドウは平坦な声で短く返答する。

 

「好きにしたまえ」

『ありがとう、ございます』

「……何をしている諸君、君たちの仕事は泣いていることか?」

 

 ゲンドウの静かな一喝に、我に返った職員たちは目元を何度も拭いながらも自分の仕事に戻っていく。

 何もしないよりは動いたほうがいい、そんな現実逃避だったが。

 誰もが理解していたが、口には出さなかった。

 三上シンジが死んだということは。

 

 

 

○○○

 

 

 

「うっ……ここ、は?」

「起きたのね、アスカ」

 

 ベッドで寝ていたアスカは目を覚ます。

 傍にはミサトが着いていた。

 アスカは頭の中を整理する、一体何が、確か三号機を……三号機!!

 

「シンジ!! うっ……」

「……アスカ、頭を打ったのだからすぐに動いちゃダメよ」

 

 勢いよく起き出そうとしたアスカだったが、体がふらつきベッドへとまた横たわる。

 そんなアスカの様子を気遣いつつ、ミサトは言わなければならないことを思い、拳を握りしめる。

 アスカは、ミサトを見て聞く。

 

「三号機は?」

「……三号機は使徒として処理されたわ」

 

 処理、つまり倒されたのかと理解したアスカはひとまず安心するが、悔しさを思う。

 あれだけ大口叩いて真っ先に脱落とはエースパイロットの名が泣くと思っていたが、ミサトの顔が暗いことに気づき、疑問に思ったがハッと気づく。

 三号機は使徒として処理された、乗っていたシンジはどうなったのだ? とすぐに思い当たる。

 

「ねえ、ミサト、シンジはどうなったの?」

「アスカ、落ち着いて聞いて頂戴……シンジくんは……その、その」

 

 震えてしまう声を抑えようとするが、ミサトは耐えきれずに涙を流す。

 その反応で、アスカは最悪の事態を思いつくが、それだけはない、ないのよと否定する。

 ミサトは自分を遊んでいるだけだ、だってありえない、あのシンジがそんなことになるなんてありえない。

 だが、ミサトは泣きながらアスカの思考を否定した。

 

「シンジくんは、死んだわ」

「…………うそ」

 

 アスカはぐわんぐわんと歪む頭を抑える。

 嘘、嘘よと首を振るが、ミサトの反応で嘘じゃないと理解してしまう。

 だが理解したくない、そんなはずはないと叫ぶ。

 

「嘘よ!!!」

「……アスカ」

「嘘よ、嘘……なんでよ、なんでシンジだったのよ!!!」

 

 アスカの慟哭が病室に響いた。

 

 

 




主人公、死亡確認!!
はい、お疲れさまでした……なんて言うかよ、最期まで生きて♡ 生きろ(豹変)
ぶっちゃけシンジはすげー嬉しがってます、皆から生きろって望まれて、泣いてくれて、人として死ねて満足してます。このまま眠りにつけば幸せでしたね(暗黒微笑)。そんなんじゃ甘いよ。
あと初号機の中の人は、シンジのため、レイのために全部自分が罪をかぶる気持ちで気合で動きました。流石にエントリープラグを握りつぶすことに躊躇したけど、人として死にたいというシンジの願いを聞いてグチャリ。ちなみに遺体はもう色々と見せられないよ! 状態になっているので防護服来た回収班は軒並みトラウマになった模様。もうお肉が食べられないねえ。
とりあえず書きたいもん書けて満足したけどめったくそに疲れた……流石に精神が……ニコニコ笑顔で書けてたけど、BGMをずーと「今日の日はさようなら」流してたから、耳が壊れちゃう、壊れちゃう……四時間近く流してたからあーもう(SAN値減少)

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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