中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ、主人公死亡! やっと……開放されたんやなって


そして申し訳ない、マジで気力が尽きてました。
今回のも割と書き上げるのが辛かったですが、とりあえず書かないと本気で失踪するので書きますね。
2日寝かしてこれかよはーつっかえ!! と思った人、イチジク浣腸を三本ずつ入れてやるからホォイ! まぁ、3割冗談だから(暗黒微笑)


ゆっくりと眠れて幸せだけど時々起こされる件

「米NERVは解体、か」

「当たり前だよ。四号機は消滅、こちらに押し付けた三号機は向こうのミスで使徒に乗っ取られてさ」

 

 日向と青葉は休憩室でコーヒーを飲みながら、喋っていた。

 米国NERVの解体は、本部も他NERV支部からも当たり前だと思われていた。

 強引に建造することを強行し、建造した二機がもたらした被害は酷すぎたのだ。

 特に三号機関連は、今も本部の人員の傷は癒えていない。

 

「……整備班の連中ブチギレてたよ、俺達が行ってればってさ」

「四号機も、本当に杜撰な管理体制の中で行われたんだろうな」

 

 吐き捨てるように青葉が言うと、飲み干した缶コーヒーを握りつぶす。

 重大インシデントとして、原因の究明が行われた。

 『彼』が憎くてやったのなら救いはあった。だが実情は、交換し忘れというただのヒューマンエラーというしょうもないミスであった。

 

「周りが止めてなかったら、赤木博士、件の米国職員殴り殺してたかもってな」

「殴り殺されてた方がまだマシだろ。米国政府もメンツ潰されてマジギレって話だ」

 

 件の職員はもう日本にはいない。

 リツコに九割殺しされた職員は、速やかに米国へと出荷された。三号機、四号機ともに米国政府も一枚噛んでおり、エヴァンゲリオンという強大な力に夢を見ていた。

 それが消滅、ヒューマンエラーによる全滅という結果に、流石の大国も経済が揺らいでいた。

 建造費数兆とも言えるエヴァンゲリオン、実戦用に作られた弐号機のデータを元にさらに洗練した三号機とエネルギー問題を解決するための実験機である四号機はかなりの予算が使われていた。それが両方とも失われたのだ。

 死んだほうがマシ、と言われるほどの地獄を件の職員は受けるが、本編とは関係ないので描写はしない。

 

「……心のどこかでさ、シンジくんは無敵のヒーローで死なないと思ってたよ、俺。だってあの子はいつだって奇跡を起こしてきた。今回もってさ」

「……その期待があの子を追い詰めたんだろうが」

 

 青葉は顔を俯かせて後悔するように言う。

 日向の言葉は、全NERV職員が思っていたことだ。

 それができる、いいややらざるを得なかったと気づいたときには手遅れだった。

 

「十四歳だぞ? そんな子供が使徒に勝ち続けるとか本気で思ってたとか笑えるよな……殺してくれ、苦しい、辛い、当たり前だ。俺たちはあの子に重圧を押し付けていたんだ、何が信頼してるだ、馬鹿らしいよ」

「……ホントにな」

 

 日向は目頭が熱くなり、上を向く。

 何をやっていたんだと後悔ばかりが募る。

 あぁすればよかった、こうすればよかったと気づくのはいつだってどうしようもないとわかったときだ。

 英雄、ヒーロー、そんな言葉で褒め称えていて、誰一人として三上シンジという少年を見ていなかった。

 その結果がこれだ、最期まで誰かのために血を流し、痛みに耐えて、何かを遺す、たった十四年しか生きていない子供にそうさせたのは紛れもなく自分たちだと自覚し、ここ数日の間、日向はご飯もロクに喉を通らなかった。

 

「……そういえばシンジくんの遺体は?」

「……ドグマにある特殊施設で安置されてるって話だけど、上はシンジくんの遺体を研究したいらしいぞ」

 

 その日向の一言に、青葉は驚愕する。

 

「死んでるんだぞ。なのに、あの子は静かに眠ることすら許されないのかよ!!」

「だから、赤木博士が研究中って名目で守ってるらしい……ここ数日、姿見えないのもそこに籠もりきってるからって話だ」

「俺達は、死んでもあの子を守ることすら出来ないのかよ」

 

 青葉は頭を抱えて、自分の無力さを呪う。

 死んでもなお、シンジという存在は、いや死んだからこそシンジの評価は英雄に固定されてしまった。

 死力を尽くし、使徒をその身で押し留め、最期は味方に討たれて死ぬ、美談としては最高級であった。

 内情を知らない他支部では、シンジを崇める教団すら出来ているという話も聞くほどにだ。

 そして世界中の情報機関も、人に寄生した使徒という存在にある種の可能性を見出した。シンジが生身でATフィールドを扱ったという話もどこかから漏れ、兵器転用を考える馬鹿者共が日夜NERVに突撃し、修羅と化した諜報部がその全てを叩き潰していた。

 

「……俺達は俺達の仕事をするしかないさ」

「なぁ、セカンドインパクトのとき、世界が変わったときの大人たちってこんな気持ちだったのかな」

 

 ふと青葉が溢す。

 セカンドインパクトのとき、青葉たちはまだ今のシンジたちよりも歳は下だった。

 だが四季のことは覚えているし、冬の寒さもおぼろげながらも覚えていた。

 だからこそ全てが壊され、何もしていないように見えた大人たちを恨んでいたが、いざ同じような立場に立つと違った風に見えるのだ。

 皆頑張った、だけれども駄目だったのではないかと今にして思う。

 自分たちと同じように、どうにかしようとしてそれでもダメだったんじゃないかと申し訳無さそうにしていた両親の顔が思い浮かんだ。

 情けないと思ったし、俺だったらと思わなかったことはない、だからこそ世界を救うというお題目があるNERVへの就職を決めた。

 だけれども自分は両親よりも情けなかったし、何より誰よりも傷ついていた子供を救えなかった。

 両親の偉大さが今になってわかったのだった。

 

「自分の子供だけでも守れた親って凄かったんだな」

「……あぁ」

 

 一方、地下のシンジの遺体安置所では、ミサトとマヤが話していた。

 

「……状態は?」

「肉体を覆っていた使徒は切除できました、ただ神経と同化してしまったものは……その……」

 

 マヤは口ごもる。

 厳重に封印された棺のような装置に、シンジは入れられていた。

 肉体を覆っていた使徒は綺麗に剥ぎ取られたが、シンジの内部に侵食していた使徒は切除することが出来なかった。単純に難しいという問題もあるし、ある意味シンジの遺体を守るための保険でもあった。

 

「しょうがないわ、シンジくんの遺体を守るためにはこうするしかなかったのよ」

 

 使徒に侵されたヒトの重要検体、そういう建前でここに安置することができるのだ。

 当然、委員会も要求を強めているが、科学者としてのリツコの能力の高さから表向き(・・・)は任せている。

 その時間を稼いでいる間に、シンジの遺体を――――焼いてしまうのだ。

 葬式も開かずに最低だと思っている、だがそうすることでしかシンジの遺体を守る手段はない。

 それほどまでにシンジの遺体というものは争いの元になってしまっている。

 ミサトは、そっとガラス越しに棺を見る。

 

「……パターンは検出されていないのよね?」

「えぇ、今のところは、ですが」

「だけれども使徒殲滅時の十字架は見られていない」

 

 ミサトの言葉に、マヤは体を震わせる。

 

「まだ生きてるかもしれないということですか?」

「可能性の話よ……もしそうなったときに、あの子達には任せられない、うぅん、任せてはいけない」

 

 ミサトの脳裏に遺されたパイロットたちが思い浮かぶ。

 万が一、シンジが使徒になったという仮定の話だが、ありえない話ではない。

 今回の使徒にはコアと呼ばれる部分が見つかっていない。三号機のコアも侵食されていたが、変質していないことはリツコが確認していた。

 最悪の最悪を想定しろ、とよく言われた。

 その最悪の最悪が直前に起こってしまったのだ、どんなことも起きかねないとミサトは思っていた。

 そのときに引き金を引くのは自分の仕事だとも思っていた。

 マヤは俯きながら言う。

 

「先輩、この三日間寝ずにシンジくんの傍を離れなかったんです」

「……見過ごしてしまったのは事実だしね」

 

 今回の使徒侵食事件は、発端はヒューマンエラーであるが、実験統括責任者であるリツコの責任を問う声もあった。

 だがそんなことはリツコ自身が一番良くわかっていた。

 だからこそ後悔しているのだ、誰よりも。

 

「そういえばリツコに渡してくれた?」

「……はい、渡して読んだら、先輩どこかに行ってしまって」

 

 マヤは心配そうに言うが、ミサトはシンジからの遺言で何か書いてあったなと思う。

 ミサトの遺書には今までの感謝と次に襲来する使徒の情報、加持との仲を心配する言葉と……なぜセカンドインパクトが起きたのかという情報が書かれていた。

 読んで衝撃を受けたが、シンジの言葉だからミサトは信じたし、今までも使徒のことを知っているふうな節があったのでぼんやりとだが何か知っていることは気づいていた。

 それに家族の言葉を信じられない奴がいるのか? という話である。

 そしてミサトでこれなのだから、NERVの深部を知っているリツコにどんな事が書いてあるのか、ミサトには想像がつかなかった。

 

「大丈夫よ、コーヒーでも飲みに行ったんじゃない?」

「で、でも……」

「大丈夫、リツコはお母さんになったんだもの、母は強しってね」

 

 ミサトはウィンクをしながら言うが、実のところ不安であった。

 気丈に振る舞っているが、意外と繊細なのがリツコという人間だった。

 シンジを殺す原因を作ってしまった罪悪感と遺書の言葉の衝撃に耐えられるのか考えてしまう。

 だが親友として、ミサトはリツコを信じた。

 きっとリツコなら乗り越えてくれると願う。

 暗い雰囲気を払拭するように、マヤは話題を変える。

 

「そ、そういえば大規模避難訓練、この時期にやるなんて無茶通しましたね」

「あぁ、アレ? この間の宇宙から落ちて来た使徒もあるし、ここいらで訓練しておいたほうがいいかなぁって」

 

 ミサトは嘘をついた。

 シンジの遺書に書いてあった、次の使徒の情報を元にシンジの遺言を聞いただけだった。

 

『次に来る使徒で大勢の人が犠牲になります。一人でも多く生き残れるように、避難させてあげてください』

 

 読んだときミサトは号泣してしまった。

 どこまで、どこまで人を守れば気が済むんだと感情が荒ぶった。

 罵倒してほしかった、蔑んでほしかった、なのに遺書には感謝の言葉とこれから起きることへの備えと自分を心配してくれる言葉しかなかった。

 シンジ自身も苦労して、精神が摩耗していたのになんでここまでとボロボロと泣いた。

 だからこそ、シンジの遺言を叶えられるように、強権を使い避難訓練という形で、明日から三日かけて避難させるつもりであった。

 いつ襲来するのか、それはシンジにもわからなかったが、近々だとシンジは推測していた。

 それをミサトは信じたのだった。

 

「よく通りましたね」

「NERV様様よん♪」

 

 指でVの字を作るとミサトは笑う。

 そしてシンジの眠る棺を一瞥すると、仕事するわよとマヤの背中を叩いて歩き出す。

 部屋から誰もいなくなり静寂が支配する。

 棺内では綺麗にされたシンジが横たわっていた。

 動かないはずのその体、だが一瞬だけ指が動いた。

 それに気づくものは誰もいなかった。

 

 

 

○○○

 

 

 

「まずった、な」

 

 加持はハハッと苦笑する。

 左脇腹を抑えながら加持は血を吐き出す。

 撃たれたのだ。

 シンジの遺言を保安部が確保する前に全員に届けたのがまずかったのか、それとも単純に自分が要らなくなったのか、撃たれたのだった。

 

「くそっ。シンジくん、もうちょいあとじゃなかったか?」

 

 苦笑する加持だったが、真実を知れてスッキリとしたし灯台下暗しという言葉が思い浮かんで馬鹿だなぁと自嘲する。

 シンジが遺してくれたボイスレコーダーに、これからのことと真実は語られていた。

 だが三号機のことは知らせてくれなかった。

 加持は後悔していた。シンジにとって、俺は信じられるキャラクター(・・・・・・)ではあったが信頼できる大人ではなかったんだろう。

 助けてと言えるほど信頼を築けなかったことを後悔していたが、死にそうになっている現状で加持は三号機に乗り込むときのシンジの気持ちがわかった気がした。

 

「……どうにかなると思ってたんだな、シンジくん」

 

 今の自分と同じだ、どうにかできると誰にも相談せず、死にかけている。

 意識がボーッとしてきたが、加持は傷口を殴りつけて意識を戻す。

 

「しっかりしろ、俺。まだ生きてるだろうが!!」

 

 シンジくんに毒されたなと加持は苦笑する。

 だが悪い気分ではない、諦めないというのは希望を持ち続けるということだ。

 きっとシンジもそうだったに違いない。

 世界に絶望し、人に絶望したシンジだったが、きっと心の奥底には人への希望を持っていたのだろう。じゃなければあそこまではしないし、あそこまでやれない。

 じゃあたかが撃たれた程度の自分が諦めていいのか? んなわけねえだろと加持は脚を踏ん張る。

 だが足音がし、暗がりから銃を向けられたのがわかった。

 加持は立ち止まり、銃を真正面に捉える。

 ここまでか、と思うがシンジの遺してくれたボイスレコーダーはもうあの人(・・・)に届いているはずだ。

 どうするかわからないが、加持が知る中でアレを活用できるのはあの人しかいない。

 

「よう、遅かったじゃないか」

 

 加持は笑う。

 シンジくん、向こうに逝ったら弟を紹介するよ、と思っていた。

 銃口が光り、発砲される。

 銃弾が加持の心臓を――――突き抜かずに後ろの換気扇に当たる。

 おいおい、ヘボいなと思ったが違う、銃が床に落ち自分を狙っていた保安部職員が床に倒れ込んでいた。

 

「……おいおい、どうなってんだ」

「逃走経路は確認しろって僕言ったよね?」

 

 その声に、加持は固まる。

 柔らかい声だが、怒りに満ちている声に加持は笑いもせず顔を青くする。

 暗がりから出てきたのは、柔和な表情を消し去ったシンジの父親だった。

 黒いスーツを着こなし、手には手袋という現役時代の格好だった。

 

「せ、先輩、どうしてここに?」

「加持くんの後を追って。安心しなよ、ここに来るまで全員気絶させたから」

 

 加持はへたり込むと頭を下げる。

 

「先輩、俺……ッ」

「いいよ、加持くんのせいじゃないし、送ってくれたボイスレコーダーでようやくシンジ君が理解できたから許してあげるよ」

 

 父親はニコリと笑うが、加持はこの瞬間にドタマぶち抜かれるんじゃないかと恐怖していた。

 そして加持に手を伸ばすと、肩を貸しながら歩く。

 

「にしても先輩、奥さんは?」

「あぁ、安全な場所にいるよ。一ヶ月の温泉旅行と銘は打ってるけどね」

「あんた現役引退したんですよね?」

「仕事は止めたけど火遊びは好きなんだ」

 

 ニコリと笑う父親に加持はため息をつく。

 あぁ、うん、この無鉄砲なのにやってしまうところは間違いなく親子だなと加持は思ってしまう。

 だが加持は疑問を口にする。

 

「どうして俺を助けたんですか?」

「単純に君の使い勝手がいいから、じゃなかったら助けるものかよ」

 

 そりゃそうだと加持は再びため息をつく。

 息子を殺してしまった組織の一員なのだ、今助けてもらってるだけでも最上級の扱いである。

 

「……この後のシナリオは確か、最強の拒絶タイプだったっけ? 勝てるのかい?」

「シンジくんが言うには、初号機が倒すとのことですが……肝心のパイロットが」

 

 父親はボイスレコーダーで聞いていたシナリオを思い出す。

 だが加持の表情は暗い、頼みの綱の初号機パイロットは……入院していた。

 視点は、病院へと変わる。

 管に繋がれて、生気のない表情でボーッと天井を見上げるのは碇レイだった。

 シンジを握りつぶしたとき、レイはシンクロしていなかったため感触は知らないが、シンジを殺してしまったという罪悪感とシンジを失ったという喪失感で精神が壊れてしまった。

 自殺する気力もなく、ただただ目を開けて天井を見上げるだけだった。

 それを見ていたのはアスカと綾波だった。

 

「……」

「弐号機の人……」

「アスカでいいわよ、私も綾波って呼ぶから」

 

 綾波に顔を合わせず、アスカはそうぶっきらぼうに言う。

 アスカもこうなりかけた、みっともなく泣き、狂いそうになり、逃げかけたアスカを救ったのはシンジの遺言だった。

 縋るように開けたそれには、アスカへの感謝の気持ちとパイロット、いいや惣流・アスカ・ラングレーを認めてくれる言葉と弐号機の真実が書いてあった。

 

『今までありがとうな、アスカ。

 きっと俺は死んでるけど、アスカなら大丈夫、絶対にアスカならどんな使徒にだって打ち勝てるはず。

 だってずーっと努力してきて、勝ち取ったものだろ? ならそれを忘れずにいればきっとエヴァは答えてくれる。

 だってオカアサンだもの、弐号機は。

 アスカが信じればきっと力を貸してくれる。

 誰も信じなくても俺はアスカを信じてる、だから……絶対に負けるな! アスカ!!』

 

 涙が枯れるほど泣いて、アスカは立ち上がった。

 シンジが信じてくれている、そう思えば勇気がどんどん溢れてきていた。

 だから、許せないのだ、目の前のコイツが。

 

「何やってんのよ、あんたは」

 

 アスカは怒りを顕にして、横になるレイに近づく。

 

「起きろっての! あんただけ逃げるなんて許さない!!」

「アスカ!!」

 

 綾波は声を上げるが、アスカは強引にレイの腕を掴むと引っ張る。

 レイは何も反応せず、ただ身を任せていた。

 その動きが人形っぽくてアスカの癇に障る。

 

「ッ!! いつもみたいに言い返しなさいよ!! 睨みつけなさいよ!! 私に感情をぶつけなさいよ!!」

「お願い、アスカ、そっとしてあげて!! 碇さんのせいじゃない!」

「そうよ、こいつのせいじゃない。私のせいでもある」

 

 アスカは、必死に腕にしがみつく綾波を振りほどくと、レイの胸ぐらを掴む。

 そして絞り出すように言う。

 

「私が真っ先にやられたから、あんたらに負担をかけた。だから私も悪い」

「だったら……」

「でもね! だからってコイツが逃げていい理由なんてないのよ!!」

 

 アスカは胸ぐらを掴んだまま、レイの体を揺らす。

 八つ当たりだとアスカもわかっている。だが許せないのだ、皆悲しいのに、コイツだけ逃げ出してしまった。

 そんな権利はない、だってコイツは――――。

 

「あんたはシンジを殺したんでしょう!! だったらあいつの分まで生きなさいよ!!」

「アスカッ!!」

「……」

 

 ピクリとレイの指が動く。

 アスカは言葉を止めない。

 

「シンジは死んで! あんたは生き残った、ならシンジの代わりに戦いなさいよ!! あいつは、あの馬鹿は最期まで戦ったわよ!!」

 

 気絶していたアスカは、あえて三号機の戦いを全て見直した。

 体を使徒に侵食されて、生き残る術はなかったのにも関わらず、シンジは最期まで戦い、そして死んだ。

 抗わずに使徒に身を任せてしまえばいいのに、抵抗した。なぜか?

 答えは簡単だ、ここで逃げているヤツを守るためだ。

 

「あんたを守るため!! あんたが何よりも大事だから!! なんで……なんであんたなのよっ……」

 

 アスカは慟哭するように、レイの胸に顔を当てて絞り出す。

 シンジに大切にされ、守られ、殺した、それが羨ましかった。

 シンジの最期を看取ったのはレイで、自分は真っ先にやられた、それが悔しくて憎くてしょうがなかった。

 私が大切にされたかった、私も守られたかった、私が殺したかった。

 苦しんでいるシンジを楽にしてあげたかった、なのに全部奪い取られた。

 愛することも、愛されることも、殺すことも全部だ。

 なのにその全てを奪い去ったレイは、現実から逃げようとしている。

 そんなことを許すわけには行かなかった。

 

「起きなさいよ!! 起きろ!! 逃げるなんて許さない、シンジ(好きな人)殺しといて、あんたが逃げるなんて私は絶対に――――うっ」

「アスカ!? 碇さんだめっ!!」

「あ、あああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 突然、レイが狂ったように叫んだ。

 そして胸ぐらを掴んでいたアスカの手を振りほどく。

 アスカは凄まじい力に押され、床に倒れ込む。そこに馬乗りになったレイが手を伸ばし、アスカの首を絞める。

 綾波はなんとか腕を引き剥がそうとするが、万力のような力で押さえているレイの手を引き剥がすことは不可能だった。

 

「きゃああああああああああああああああ!!! ああああああああああっ!!!」

「ぐっ、うっ、かはぁっ」

「アスカっ!! アスカっ!!」

 

 アスカもジタバタと抵抗するが、錯乱したレイの力に対抗できない。

 あっ、死ぬとアスカは思う。

 それもいいか、シンジと同じ場所行けるしと意識を手放そうとした瞬間、レイの手がアスカの首から離れた。

 激しく咳き込むアスカとそれを介抱する綾波。

 レイはアスカの体から転げ落ちるように、床に這いつくばると体を抱えて全身を震えさせる。

 

「僕は違う僕じゃないぼくのせいじゃない、母さんだ母さんのせいだ母さんが殺したんだ!!」

「げほっごほっ、何、言ってんのよ」

「シンジを殺したのは僕じゃない!! 母さんだよ!! 僕は何もしてない!! 僕じゃない!!! 僕じゃない!!!!!!」

 

 ガタガタと震えるレイに、アスカは侮蔑の視線を送る。

 

「そうやって誰かのせいにするの?」

「だって僕はシンクロしてなかった!!! シンジを握り潰したのは母さんだろ!! だから――――」

「あんたが操縦してたんでしょ、初号機は」

 

 アスカは立ち上がり、怯えるレイを見下す。

 レイはヒィッと声を上げると頭を抱えながら、アスカの視線から逃げる。

 

「あのときのパイロットはあんたで! あんたは中にいたでしょうが!!」

「僕はやったよ!! 止まれって! 操縦桿を握って!! お願いしたよ! 止めてって! でも、でもダメだった!! ダメだったんだよ!!」

「シンジは使徒に侵食されながらも抗ったわよ」

「僕はシンジじゃない!! 僕にはムリだよ!!」

「私は出来たわよ」

 

 ピタリとレイの体の震えが止まる。

 アスカは勝ち誇った笑みを浮かべながら言う。

 

「シンジと同じようにATフィールドを自在に操って使徒を倒したわ」

「うっ、あぁ……」

「出来んのよ、気合と根性さえあれば、エヴァは……応えてくれる」

「アスカ……」

 

 成り行きを見守っていた綾波は、アスカの言葉に驚く。

 だが、レイはボロボロと涙を流しながら言う。

 

「わからないよ、わからないよ!!!! どうしたら良かったのか、わかんないよ!!」

「……生き残った私達には義務があるのよ、役立たず」

 

 アスカはそのまま踵を返すと病室から出ていこうとする。

 病室の扉まで行くと振り返って言う。

 

「使徒は待ってくれない。必ずまた来るわ、その時あんたはまた泣いてるの? もうシンジは助けに来ないわよ」

「……シンジがいない世界なんて、どうだっていいだろ」

 

 レイは俯きながら言うが、アスカはお決まりのセリフを言う。

 

「あんたバカァ? あいつがいないからこそ守るのよ」

「……なんでだよ」

「だって、アイツが守ろうとしたものはまだ残ってるのよ」

 

 その言葉に、レイは顔を上げる。

 自信満々に言うその顔に、レイは羨望を感じた。

 だが、アスカもそうやって泣き崩れる事ができるレイの弱さが羨ましかった。

 

「私は戦うわよ、あんたはどうすんのよ」

「……僕は」

 

 レイは口ごもってしまった。

 アスカはレイの返答を待たずに、さっさと歩いていってしまう。

 綾波はレイの肩を持って、とりあえずはベッドへと戻す。

 

「……」

「碇さん、私、あなたは戦わなくてもいいと思うわ」

 

 綾波は俯くレイにそう言う。

 

「きっとまた辛い戦いが待ってるわ……もしかしたら死ぬかもしれない」

「……」

「でも私は戦うわ」

 

 綾波の言葉に、レイの肩が跳ねた。

 綾波はそんなレイの様子を指摘せずに言葉を続ける。

 

「三上くんはもういない、だけどまだ私達がいる。三上くんみたいには出来ないけど、彼が守ったものを守るくらいはできるわ」

「……なんで、そこまでするんだよ」

「……わからないわ。私、まだこの感情が何なのか理解できてない。苦しいし、辛いけど、温かいモノも感じるの」

 

 綾波は悩みながらも、自分の考えをレイに話す。

 

「だから、この温かさを胸に戦うわ」

「……綾波、君は」

 

 綾波も背を向けて振り向かずに言う。

 

「私の代わりは幾らでもいる。でも、あなた達の代わりはいない、だから戦うの」

「何を言ってるの……?」

 

 レイは、綾波の言っていることがわからなくて困惑する。

 だが、綾波はレイの顔を見ずにそのまま立ち去った。

 一人残されたレイは、ベッドに横になろうとして、茶封筒が備え付けのタンスに置かれているのが見えた。

 ただ一言、『碇レイ様江』と書かれたもの。

 その字には見覚えがあった、シンジの字だった。

 だがレイは、それの中身を見ること無く布団を被り目を閉じる。

 どうだっていい、こんな世界、あんなエヴァンゲリオンも、信じようとすると裏切ってくる世界にも……疲れた。

 だから目を閉じる。

 現実から目を逸らすように。

 

 




件の職員ですが、殺すのは楽にできるという元米NERV第一支部の人間からの嘆願と米国政府のブチギレで、ずーっと生かされることになりました。死は救いだってはっきりわかんだね。
NERV本部ですが意外と士気は落ちてないです。まぁ、シンジが死んだと実感沸かないのと仕事して、気を紛らわせてるから。あと一週間くらい使徒の襲来が遅いと士気がすげー下がってた模様……また戦犯使徒だよ、壊れるなぁ。
とりあえず加持さんはゼーレから「最近鈴鳴ってない、鳴って無くない? あとなんかしてるから殺そうぜ!」という死亡フラグおっ立てたら、ブチギレ父ちゃん介入で生存。ちなみに父ちゃん、この道中で十人以上の保安部を一人で叩きのめしてる模様。銃弾? 銃口見れば避けれるじゃん(本人談)なお母ちゃんはマジで何も知らなくて、ガチで温泉旅行に行ってる模様。
で、レイちゃんですが原作で精神破砕されたアスカ状態になってたけど、アスカの呼びかけで復活&殺意満点、ただし首締めるという行為がトラウマになってたから途中で我に返って止めました。アスカの煽りは、嫉妬や羨ましさ、憎しみが混ざってるけど同年代の友達(無自覚)を助けたかったって気持ちもあった模様。ただシンジのように出来たとドヤ顔してるときはガチの煽り100%。

とりあえず感想返信も滞っていて申し訳ない。今日は休みなんで、用事終わらせたら返して行くゾ……ただ前の感想が一杯一杯裕次郎でビビるわ。

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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