中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ、アスカ頑張ってるな、俺も頑張らなきゃ。

書きたいもん書きまくったら過去最長になったよ(白目)
あとご都合主義いっぱいいっぱい裕次郎だから気をつけて。
あと感想返信ごめんよ、やるやる詐欺で。余裕出たら返していくから許して。


お腹が空いたので食ったらヒトを超えた件

 時は来た、とバルディエルは体から感じる振動で目を覚ました。

 ヒトの体を侵食し、本体を移してよかったとすら思える。

 馬鹿なやつだと蔑む余裕すらあった。

 ヒトの記憶を読み取る。自分がいることを知っていながら乗ったコイツはバカだろう。

 抵抗して自ら死のうとする姿勢には驚いたが、所詮はリリン、生命の実(S2機関)を持たない者だから死んでしまっただろう。

 体は自分が治した。

 好都合だ、知恵の実を手に入れた時点で自分はリリンがアダムと呼んでいる祖以上の存在になれた。

 あとは地下のリリスと触れ合うだけで、リリンも他の使徒もまるごと補完できる。

 自分こそがこの星の頂点になれる。

 そんな夢を見ていた。

 シンジと同化したせいか、バルディエルはそう思ってしまった。

 レリエルがこの場にいたら止めていただろう、ソイツを起こすなと。

 バルディエルはシンジの体内に生成したS2機関を起動させる。

 棺の中でシンジの体が震える。

 傷ついた神経も、肉体も、体内機能のすべてを治癒させたバルディエルは心臓を動かして(・・・・)しまった。

 ドクン! とシンジの胸が跳ねる。

 バルディエルは、神経から脳へと向かう。

 深くシンジの精神へと食い込み、その体を乗っ取ろうとする。

 体全体にバルディエルが浸透し、シンジの体は完全に使徒のそれとなってしまった。

 準備は整った、さぁ行くぞ。

 バルディエルは体を動かそうとするが、ピクリともシンジの体は動かない。

 バカな。体は再生したはず、なぜ動かない!? バルディエルは必死に電気信号を体の各部位に送ろうとするが何かが阻んでいることに気づいた。

 それがATフィールドであると気づいたときには、バルディエルの意識はシンジの精神世界へと引きずり込まれていた。

 な、なんだ!? とバルディエルは驚く。

 真っ白な空間に、青い粘膜の自分だけが存在している。

 あのリリンが何かしたのか!? バカな、リリンはそこまで強靭な作りはしていない!! それに、奴は――――。

 

「お前のせいだよ」

 

 バルディエルに声をかけるものがいた。

 三上シンジだった。

 バルディエルは、シンジの精神を侵食しようと粘膜状の体を広げ――――られなかった。

 どういう事だ!? とバルディエルは狼狽えるが、ふと目の前のシンジがいつの間にか巨大になり、バルディエルを手で掴んでいた。

 

「ゆっくり寝ていたかった、死んでいたかった、なのにお前らはいつも俺を起こしちまう」

 

 巨大な怒りが、バルディエルを焼いていく。

 全身を焼き尽くすような痛みに、バルディエルは悶える。

 バカな、なんだお前は!! なんなんだ!! とバルディエルは叫ぶ。

 

「人間だよ。どこにでもいて、お前らに怯えるただの人間だよ」

 

 ウソを吐くな!! 貴様がリリンであるはずがない! なぜだ、なぜワタシを逆に侵食している。

 まるで、まるでお前は――――。

 

「使徒、みたいか?」

 

 目の前のシンジの瞳が赤く染まる。

 ヒッとバルディエルは初めて、恐怖を覚えた。

 徐々に近づいてくるシンジの顔に、未知の恐怖を覚えたからだ。

 

「……腹、減った」

 

 な、なに――――。

 それがバルディエルの最期の思考だった。

 シンジの口が開き、バルディエルを噛み砕く。

 ベチャリとバルディエルだった肉塊が白い床に落ちる。

 

「勿体、ないな」

 

 口の中にあるバルディエルを噛み砕き、飲み込んだシンジは四つん這いになり床に落ちたバルディエルの残骸に口をつけると、まるで獣のようにバルディエルを喰らい尽くしていく。

 そんなシンジを、マリは興味深そうに見る。

 

「ヒトも獣ということだにゃー」

 

 一心不乱にバルディエルを捕食していく、シンジの体に変化が起きる。

 右腕がボコリと音を立てて隆起して、手の甲に赤い球体が出現する。

 シンジのコアが形成されたのだ。

 バルディエルの生命の実を喰らい、シンジが完全にヒトの枠組みを超えた存在になった証であった。

 マリは、そんなシンジに拍手する。

 その生誕を祝うように。

 

「ハッピーバースデー、わんこ君。さぁ、君の物語を見せてよ」

 

 瞬間、シンジを収めていた棺が爆発する。

 その爆発は十字架状に変化し、部屋を黒焦げにする。

 ビーッ! ビーッ! と警告音が鳴り響く。

 棺の蓋が天井へと吹き飛ぶ。

 ムクリとシンジは上半身を起き上がらせる。

 パチリと目を開くと真っ赤な瞳が天井を見上げる。

 天井が振動していた。

 シンジが右手を見る。

 赤い球体がそこにあり、シンジは眉をひそめる。

 

「……さよならヒト、こんにちは使徒ってか」

 

 シンジは棺から出るとペタペタと素足で歩き、天井を見るとATフィールドを使い、輪っかを作ると天井を輪切りにする。

 自由自在に扱えるATフィールドを見て、シンジは笑う。

 あぁ、もうこれで戻れない、戻ることなんて許されなくなった。

 

「レイ、皆、俺が絶対に幸せにするよ」

 

 シンジはその場から跳躍する。

 部屋には誰もいない。だがシンジが先程までいた場所には数滴の涙が残されていた。

 

 

 

○○○

 

 

 

「ダミープラグ挿入」

『了解、ダミープラグ挿入』

 

 ゲンドウは初号機頭上のモニター室から指示を出す。

 オペレーターが初号機に信号を送るが、初号機はなんの信号も受け付けずに沈黙を保っていた。

 

『ダメです、初号機プラグ挿入口を開放しません』

「……わかった。最終手段だ、パイロットをここへ」

『りょ、了解しました!』

 

 ゲンドウはそう言うとモニター室から出て、初号機の前に立つ。

 光の無い瞳が落ち込んでいるように、ゲンドウには映った。

 

「ユイ、何故だ。何故動かん」

 

 ゲンドウは言う。

 だが初号機は応えずに沈黙したままだった。

 

「……お前の責任ではない。私のせいだ、だからユイ、動いてくれ」

 

 ゲンドウは弁明するように言う。

 だが初号機は何も言わない、何も言ってくれない。

 ユイに拒絶されている、それはわかっていた。だからゲンドウは、ユイを取り戻そうとここまで足掻いていた。

 それが間違っていたのかも知れないとシンジとの会話で思った。

 遺されたものを見ず、過去だけを見ていた。

 だけれども、そう思えたものをいつだってゲンドウは喪ってきた。

 

「ユイ、レイが来てしまう」

 

 ゲンドウは訴える。

 どの口がと思わないでもない、だけれども動かないのなら使うしか無い。

 少し前のゲンドウなら無理にでも、レイを使っただろう。

 だけれども親としての自覚を取り戻したゲンドウは、レイを初号機に乗せたくはなかった。

 それはユイも一緒だろうと、ゲンドウは訴える、だけれども初号機は動かず、プラグスーツを着てストレッチャーに乗ったレイが運ばれてきてしまった。

 医者は沈痛な面持ちでゲンドウを見る。

 

「ご苦労。諸君らは退避してくれ」

「……はい」

 

 医者たちは早足でその場から立ち去る。

 ゲンドウはストレッチャーに乗ったレイを見る。

 ユイにそっくりだとゲンドウは目を細める。

 

「レイ、乗ってくれ」

「……」

 

 ゲンドウの言葉に、レイはそっぽを向いた。

 激しい振動が格納庫を襲う。外ではアスカと綾波が懸命に戦っていた。

 

「このままだと皆死ぬ」

「……乗るなら父さんが乗れよ」

 

 レイが口を開いた。

 

「もう嫌だ、アレに乗りたくない」

「……お前しか、いないのだ」

「だろうね、アレには母さんがいる」

 

 その言葉にゲンドウは驚く。

 

「気づいて……いや、思い出したのか?」

「……小さい頃、母さんが僕を実験に連れてきたよね」

 

 ――――この子には、人類の明るい未来を見せておきたいんです

 

 消える前に碇ユイが遺した言葉だった。

 それがユイの最期の言葉だった。

 試作したエヴァの実験で、ユイは消えてしまった。

 そのショックを忘れさせるために、レイの記憶を操作したのはゲンドウだった。

 思い出しているとは思わなかったが。

 

「何が起きたのかわからないよ。でも母さんは僕を捨てたんだよね」

「違う、ユイは――――」

「違わないよッ!!! 母さんは僕を捨てたんだ!!」

 

 レイがゲンドウの方へと向く、その目から涙が溢れていた。

 

「何をしたかったのかわからないさ!? でも母さんは僕よりも世界を取ったんだろ!! 何が明るい未来だよ!! 僕は、僕は母さんに側にいて欲しかった、抱きしめて欲しかった、笑って欲しかったのに」

「レイ……」

 

 ゲンドウはレイの言葉に共感していた。

 自分だってそうだ、傍にいて欲しかった。暗く、なんの救いもない世界に差した一筋の光、それがユイだった。

 もっと反対すべきだった、後悔もした。

 研究なんてどうでも良かった、ただユイの笑顔が見たかった、それだけなのだ。

 

「あんたもだ、僕から背を向けて逃げ出した!! そして必要とか言って僕を呼び寄せて――――シンジを殺したんだ!!!」

 

 憎しみを持った瞳で睨むレイに、ゲンドウはかつての自分を見た。

 ユイを奪ったのはこの世界だ、と憎しみを持っていた頃の自分。

 親子、というのはどこか似ると言うが、鏡写しのように似ている部分の業が深すぎた。

 愛すべき者を奪われた者同士、だがゲンドウはレイの方が傷ついていると思ってしまう。

 

「バカだった、僕がバカだったからシンジを殺したんだ!! 僕がここに来なければ、シンジに押し付けなきゃ、シンジはまだ笑って僕の隣に居てくれたんだ!!」

「……」

「僕がバカだったから! 逃げ続けたから、シンジが頑張りすぎたんだ……僕は、僕はただシンジが傍に居てくれるだけで良かったのに。あいつに嫉妬して、シンジに迷惑かけて、それでいいと思ってしまったから!!」

「レイ」

 

 レイは涙を流しながら後悔の言葉を言う。

 わかっていたのだ、アスカとの喧嘩がシンジを苦しめていたのが。

 だけれども自分の感情をコントロール出来ずに、二人してシンジに甘えていた。

 その結果、シンジが追い込まれるとわかっていながら、どうにかしようと思わなかった自分が憎かった。

 

「だから乗らない、僕が頑張っても……シンジには届かないんだ」

 

 レイは諦めにも似たつぶやきを言う。

 これまでもレイはエヴァに乗ってきた。

 だが結果が出たことはない。何度もシンジがピンチを救うか、代わりに搭乗してどうにかしてきた。

 どんなに頑張っても自分はシンジのようになれない。

 それが三号機との戦いでわかったのだった。

 

「きっとシンジはあぁなってもどうにかしてたよ。機体動かして、パイロットを救おうとしてた……僕は叫ぶしかなかった。僕はシンジみたいにエヴァを、母さんを扱えないんだ」

「……レ――――」

 

 ゲンドウが声をかけようとした瞬間、凄まじい振動が格納庫を襲う。

 きゃあ!? というレイの叫び声が聞こえ、ゲンドウは必死にストレッチャーとレイの体を掴む。

 だが運が悪いことに天井の照明が落下してくる。

 

「レイッ!!!」

 

 とっさにゲンドウは、レイの体をかばうように抱きしめる。

 

「父、さん……?」

 

 レイは驚愕しながらも、自分を守ろうとするゲンドウの行動に驚いた。

 ゲンドウはレイを見て、微笑みながら言う。

 

「すまなかったな、レイ」

「父さんッ!!!」

 

 レイの叫び声が響く。

 落下してくる照明に、レイはデジャブを覚える。

 あの日、シンジがエヴァに乗ろうとした日もこうだった。

 こうやって照明が落ちてきて、エヴァが――――えっ?

 凄まじい轟音が響く。

 ゲンドウはレイを抱きしめながら、いつまでもやってこない衝撃を訝しげに思い、顔を上げる。

 そこには二人を守るように両腕を上げていた初号機の姿があった。

 

「ユイ……」

「母、さん」

 

 呆然と呟くゲンドウとレイの声に、反応するように初号機の瞳から一筋の涙が流れた。

 同時に頭部がスライドし、エントリープラグが突き出る。

 まるで乗れと言わんばかりの行動に、ゲンドウは驚く。

 

「ユイ……ッ」

「……乗れっていうのか、母さん」

 

 レイは初号機を見ながら呟く。

 良いことなんて何一つなかった、正直乗ったところでどこまでやれるのかわからない。

 何も出来ないかも知れない、だけどとレイは腰に付けたシンジの遺書に手を当てる。

 読んだ内容が頭に思い浮かんでくる。

 

『レイ、今までゴメンな。

 ずっと、ずぅーっと一緒に居たかった。

 こんな世界に、俺なんかを頼ってくれて本当に嬉しかった。

 だけどレイを縛ってたのは俺だ。

 レイには俺だけを見て欲しかった、俺だけに頼って欲しかった……バカだよな、お前は俺なんかが独占していい人じゃないのに、俺は、レイの全部が欲しかった。

 ゴメンな、レイを縛り付けて、きっと最初からお前に世界を見せてたらまた違ったこともあったのに、俺の都合でレイが欲しかった。

 レイ、俺の活躍は信じられないだろうけど、お前がやるべきものだったんだ。

 だから苦しかった、お前やアスカや綾波の活躍を奪ってるようで心苦しかった。

 いっつも称賛されてたけど、本来ならレイたちが受け取るべきものを俺は掠め取ってたんだ。

 本当に、ごめんな。

 オカアサン、碇ユイさんのことは最初から知ってた。

 でもレイ、ユイさんはな。お前のことを大事に思ってる。

 今だってそうだ、ヒトの形を捨てようがお前を守るためならなんだってする。

 ん? 今なんでもするって言ったよね? と思うかも知れないけどマジで何でもするよ、世界も滅ぼしてくれる。

 けどレイ、それを選ばないでほしいんだ。

 確かにそれを選んだら楽だよ。

 皆がいない世界、静かで、穏やかで、なんもない世界。

 俺はそれを望んでるのかも知れない。

 死にたかったし、こんな世界と何度も思った。

 けどな、こんな世界でもレイに会えたんだ、きっと幸せは見つかるよ。

 苦しいし、痛みも伴う。

 でも、それでもレイには進んでほしいんだ、俺がいない世界を。

 お前の気持ちは知ってた、けど俺は応えられなかった……ごめんな、意気地なしで。

 きっと全部終わったとしても、苦しいことは続く、もっと苦しいことだってあるかも知れない。

 けど、それを確かめずに死ぬなんて、レイにはしてほしくないんだ。

 勝手だよな、でも人間ってそんなもんだと思う。

 自分勝手で、勝手に期待して、羨んで、妬んで、傷つけあって、それでもつながろうとするんだ。

 ゲンドウだってそうだ。お前が大事で、だから手放して、けれどもやっぱ気になってさ。

 不器用だよな、いや不器用ってか最低の屑だと思うけどさ。

 それでもやっぱゲンドウも親なんだよ、食事会で思った。

 お前が大事すぎたから引き離したんだろう、決心が鈍るから。

 恨むなとは言わない、蔑むなとも言わない、けど赦してあげてほしい、世界でたった二人しかいない親なんだから。

 オカアサン、ユイさんもそうだ。

 最初に書いたけどお前が大事だから、エヴァと一緒になって見守ろうと思ったんだろう。

 理解は出来ないよ、ただそれがユイさんなりの愛だから、似たもの夫婦ってこういうことを言うんだろうな。

 レイ、多分お前はオカアサンと約束したことがある。

 もう忘れてしまったかもしれないから、改めて俺の言葉で書くよ。

 これから何があっても、世界中の人たちの幸せを守ってやってくれ。

 ……ごめん、やっぱなし、書いてて思ったけど無茶振りがすぎるや。

 うん、改めて俺との約束。

 生きてくれ、これからどんな事があっても、どうなっても、生きてくれ。

 ずっと、俺は待ってる。

 レイが結婚して、子供産んで、お婆ちゃんになってもずっと待ってる、だから気長に来てくれ。

 話したいことや謝りたいこと沢山あるんだ。

 だから生きてほしい、俺が見れなかったものを一杯話せるように、ずっとレイを見てる。

 長々とごめんな、遺言って何書けばいいのかわからないからとりあえず書いた。

 最期に、ずるいこと書くよ。

 碇レイさん、初めて会ったときから、好きでした』

 

 今日、この遺書を読んでレイは泣いた。

 嬉しいのと訳のわからなさとシンジの身勝手さへの怒りがごちゃまぜになった。

 でも、レイはこの遺書を読んでよかったと思う。

 生きる、苦しいけどシンジが言うならそうする。

 でも結婚とかはしない、シンジにまた会えたときまで取っておく。

 レイは、遺書を力強く握りしめると体を抱きしめていたゲンドウの体をそっと引き剥がす。

 

「……父さん、僕は許さないよ」

「当たり前だ、私は――――「けど!!」」

 

 絞り出すように言葉を言うゲンドウに、レイが叫び声を上げる。

 

「けど、赦すよ。シンジが遺したんだ、赦せって……だから今までのことは赦す」

「レイ」

「……乗りたくないけど、乗らなきゃ僕は死ぬんだよね」

 

 レイは初号機を見上げる。

 紫色のボディのエヴァは何も言わずにいる。

 乗りたくない、けど乗らなければ死ぬのだ……なら。

 

「やるよ、僕が乗る。シンジと約束したんだ、生きるって」

「……レイ、頼んだぞ」

 

 ゲンドウはレイの体を支えると一緒に歩き出す。

 そしてエントリープラグの搭乗口まで行く。

 レイはそのままLCLのが満ちるエントリープラグ内に沈んでいく。

 

「……母さん、あなたのことは嫌いだよ、大嫌いだ。僕の好きな人を殺したあんたを許さない」

 

 レイは吐き捨てる。

 だが操縦桿を握りしめて、前だけを見る。

 

「だけど死ぬわけにはいかないんだ。だから!! 僕に力貸してよ!! エヴァンゲリオン初号機ッ!!」

 

 ギィン!! と外では初号機の瞳に光が灯る。

 ゲンドウはそれをモニター室から見守る。

 そして祈った、娘の道に未来があれと。

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 初号機がカタパルトから射出され、空高く飛び上がる。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!」

 

 叫んだレイの気迫に答えて、初号機の顎の拘束が弾け飛び咆哮する。

 そのまま使徒に向けて落下すると、初号機の腕が使徒の体を掴む。

 強力なATフィールドを単騎で中和したのだ。

 そのまま地面に使徒をねじ伏せた初号機は使徒に蹴りを入れる。

 

『しょ、初号機単騎でアレだけの力を!?』

『初号機のシンクロ率100%を超えてます!! い、いえどんどんシンクロ率が上昇していきます』

 

 発令所は圧倒的な力を見せる初号機に唖然としていた。

 リツコだけが、レイと初号機の結びつきの強さに懸念を持っていたが、口に出さずに事態を見守る。

 蹴り飛ばされた使徒は、地面を転がりながらも帯状の腕を体に引き寄せると鋭く突き出す。

 初号機はそれを避けるが、運悪くアンビリカルケーブルに当たり外部電源から内部電源へと切り替わる。

 

「碇さん!!」

 

 零号機がカバーするようにパレットライフルを連射する。

 使徒は器用に帯状の腕を再び引き寄せ、地面に叩きつけると凄まじい速度で後方へと下がる。

 その時零号機の撃っていたパレットライフルの弾薬が切れる。

 

「しまった!?」

 

 とっさに武器を捨てようとした零号機の動きが止まる。

 地面を削り勢いを殺した使徒の目が光――――。

 

「どこ見てんのよぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 る前に、猛追してきた弐号機が飛びかかる。

 使徒は光線を中断し、ATフィールドで弐号機を受け止めるが、先程よりも強い力により使徒のATフィールドが全て叩き壊され、弐号機の拳が使徒に当たる。

 

「……赤木博士、N2誘導弾がありましたよね」

『レイ……まさか!? やめなさい!! この場で使ったら』

「あの二人が動けなくなる前にどうにかしないと!!! だから、お願いします」

 

 何も出来ないと判断した綾波は、リツコに通信を送る。

 リツコは何をするのかわかったから、綾波を止めようとする。

 だが綾波の硬い決意を感じ取り、リツコは拳を握りしめて言う。

 

『用意、するわね』

「ありがとう……」

 

 一方使徒は痛みからか身じろぎをし、殴り続ける弐号機をATフィールドで吹き飛ばす。だがその隙に突進してきた初号機が使徒の体にタックルをしかける。

 そのまま使徒を引きずりながら、初号機は左肩からプログレッシブナイフを取り出す。

 使徒のコアは丸わかりの位置にある。

 レイはそれを狙う。

 

「うわぁああああああああああああああっ!!!!」

 

 レイが叫び声を上げながらプログレッシブナイフを突き出す。

 だが、シャッターのように使徒のコアが何かに覆われて、プログレッシブナイフが弾かれて刃が折れる。

 

『そんなっ!?』

「まだだっ!!」

 

 初号機は使い物にならなくなったプログレッシブナイフを放り投げると、使徒の肩を掴み強引に地面に押し倒す。

 マウントポジションを取る形で初号機が使徒の上に馬乗りになる。

 そしてコアを覆っているシャッターに連続して、拳を叩きつける。ビシッビシッと何かが割れる音がした。

 このままなら割ることができる、そうレイが油断した瞬間、使徒の目からレーザーのような光線が出て初号機の左腕を切断する。

 

「あぐあぁああああああああああっ!?!??」

「役立たず!!」

 

 アスカが叫ぶが、高いシンクロ率を保っていたレイの左腕に激痛が走った。

 左腕を押さえた初号機を、使徒はATフィールドを使って吹き飛ばす。

 土煙を上げながら転がっていく初号機を受け止めたのは、弐号機だった。

 初号機を背中で支えると、そのまま初号機を背に乗せて走る。

 使徒は現状で最も危険だと判断した初号機を倒すことを優先したのか、ATフィールド、光線、帯状の腕全てを使い、初号機に攻撃を加えようとする。

 

「役立たず、動ける!?」

「……なん、とか」

「わかった、振り落とされないでよ!!」

 

 そのままアスカは縦横無尽にジオフロント内を走り続ける。

 チャンスを窺うが、何が何でも初号機を倒したいのか使徒の攻撃は苛烈さを極めていた。

 接近するチャンスがない、とアスカが歯噛みをする。

 時間もないが、無鉄砲に立ち向かえばやられる。

 

「くそ……なっ!?」

 

 アスカがどうするか迷っていると後方から零号機が何かを抱えて走っていた。

 使徒の死角、後方からの奇襲。

 使徒も気づいたのか振り返り、ATフィールドを張る。

 零号機はそのまま抱えていた、N2誘導弾を突き出す。

 ロケットノズルが点火する。

 

「ATフィールド、全開ッ!」

 

 零号機のATフィールドを全開にして、使徒のATフィールドを中和しようとするが食い込んでいた零号機のATフィールドが徐々に押し戻されていく。

 綾波は歯を食いしばりながら、悔しさを滲ませる。

 代わりはいると、レイに言ったが、なぜか綾波は恐怖を感じた。

 以前の『綾波レイ』を今の綾波は知らない。

 自分が死んだらどうなるのか、わからないから――――死ぬ? と綾波は呆然と思ってしまった。

 死ぬとはなんだ? 自分には代わりが幾らでもいる、ヒトとは違う、そのはずなのに綾波は思ってしまうのだ、死にたくないと。

 プラグスーツ内に入れているシンジの遺書の内容が頭に思い浮かぶ。

 

『死んだらおしまいだぞ? 綾波レイはたしかに代わりがいるだろう。

 けどお前はお前しかいないんだ、3人目とか俺は絶対に綾波だとは思わないゾ。

 だから、死ぬな。せっかくご飯作れるようになったんだからうまいもん沢山食え。

 この世界にはいっぱいうまいもんあるんだからさ』

 

 違う、私が料理を始めたのは喜んでほしかったからだ。

 碇司令や三上くんにポカポカしてほしかったから。

 それを教えてくれたのは三上くんなのに、なのに、一人で食べる料理は不味かった。

 知らなかった、料理は一緒に食べる人がいないとあんなにも味気ないなんて。

 知らなかった、食べて欲しい人達が食べてくれないとあんなにも苦しいなんて。

 知らなかった、自分がこんなにも――――三上くんが好きだったなんて。

 

「返して、返してよ!!!」

 

 綾波の目から涙が溢れる。

 非力、あまりにも力の差がある。

 だから綾波は叫ぶしかなかった。

 何故シンジが死ななければならなかったのか、理解できない。

 そして目の前の使徒を倒したくても、零号機では無理だった。そう零号機だけでは、だ。

 

「綾波ィッ!!!」

 

 弐号機の左腕がATフィールドを切り裂く。

 流石の最強の拒絶タイプと呼ばれた使徒も、三機のエヴァからATフィールドを中和されていると零号機の突貫を防ぐことだけで精一杯だったらしい。

 ATフィールドが砕け散り、N2誘導弾をさらに突き出そうとした零号機だったが、使徒の帯状の腕が零号機を刺し貫こうと向かってくる。

 だがそれを許さなかったのは初号機だった。

 

「シンジ、力を貸してよ!! 母さん!!!!」

 

 帯状の腕に向かってATフィールドを突き出す。

 槍のように尖ったATフィールドが使徒の腕とコアを覆っているシャッターを切り裂く。

 使徒の腕から血が噴き出す。

 そのまま零号機はN2誘導弾を使徒のコアにぶつける。

 弐号機が零号機を抱えると、その場から逃げるように駆け出すが爆発は使徒ごとエヴァ三機を飲み込む。

 凄まじい爆発と衝撃波がさらに地下にある発令所を揺らす。

 

「レイちゃん! アスカ!! レイ!! 応答して!!」

 

 閃光がモニターを塗りつぶし、状況は不明だった。

 ミサトは身を乗り出して叫ぶが、通信からはなんの返答も来ない。

 固唾を呑んで状況を見守っていたオペレーターたちは、モニターをじっと見る。

 映像が回復すると折り重なって倒れる零号機と弐号機の姿があり、初号機は塗装が全て剥げた状態でまだ動いていた。

 ジオフロント全体を覆うような土煙の中から、光線が飛び出る。

 使徒はまだ生きていた。

 

「そん、な!? N2が直撃したのに!?」

 

 そう直撃はしたのだ、だが使徒本体の外皮も固くとっさにATフィールドを張り直した使徒はコアも守っていた。

 レイは全身を焼かれるような痛みに耐えながら使徒に向かう。

 

「いい加減、死ねよぉ!!!」

 

 右腕を振りかぶり、使徒の顔面を殴りつける。

 使徒も表面上は無事だがN2のダメージが大きいのか、ATフィールドを張ること無く初号機の攻撃を受ける。

 レイは荒く息を吐きながら、地面を転がった使徒に近づき足で使徒の体を踏みつける。

 

「このっ!! この!! こんのぉっ!!!!」

 

 ガン!! ガン!!! という音と共に使徒のコアがひび割れていく。

 

「やったな」

 

 今まで事態を見ていた冬月がそう呟くが、もう少しでコアを破壊するというところで初号機の動きが止まる。エネルギーが切れたのだと気づいたときには、初号機の体に使徒からの光線が直撃していた。

 力なく倒れる初号機に、発令所の面々が絶望の声が上がる。

 

「動けよ!!! 動いてよ!!! なんで動かないんだよ母さん!!!」

 

 操縦桿を何度も引きながら叫ぶレイ。

 ユイのミスであった。内部電源を充電していなかったためフル充電されておらず、裏コードを使っている弐号機よりも初号機の活動時間は少なかった。

 あと一秒保っていれば使徒は殲滅できたはずだった。

 

「あのとき動いたじゃないか!! 動いてよ!! 母さん!!」

 

 必死に叫ぶレイだったが、初号機はうんともすんとも言わない。

 それを見下ろしていた使徒は、仮面のような顔の下から巨大な口のような器官を出す。

 

「レイちゃん!!!」

 

 ミサトが悲鳴を上げる。

 使徒の口が初号機に食らいつく瞬間、なんとか動けた弐号機と零号機が走り込み、初号機を引きずってかばう。

 

「あぁっ!?」

「綾波ぃ!!」

 

 だが零号機の下半身が使徒の口に捕食され噛み砕かれる。

 幸いにしてエントリープラグまでは達さなかったが下半身をまるごと喪った零号機の痛みをフィードバックされた綾波は、叫びながら意識を失う。

 

「神経接続を全面カット!! 急いで!!」

「は、はい!! ……待ってください、使徒の信号が!?」

 

 リツコの声を聞いて、マヤは零号機とレイの神経接続をカットした。

 その時モニターしていた使徒の信号が徐々に変わっていくのも確認したのだった。

 パターン青からオレンジへと切り替わり、その識別信号は零号機になっていた。

 

「まさか……使徒がエヴァを捕食して擬態してるとでも言うの!?」

「ドグマの自爆装置を手動に切り替えて!! 早くっ!!」

「ダメです! 戦闘の衝撃で直結回路が故障しました!」

 

 発令所は大混乱に陥っていた。

 万が一ターミナルドグマに使徒が侵入したときに本部諸共破砕するような設計になっているのだ。

 だが信号がパターンオレンジでは作動しない。

 このままでは使徒が素通りしてしまうが、よりにもよって戦闘の余波で破壊されるとはとミサトはわなわなと体を震わせる。

 

「エヴァは!?」

「三機とも活動停止! ま、待ってください!? 整備班が外に出ていきます!!」

 

 マヤの言葉に、ミサトがモニターを見る。

 零号機、初号機、弐号機の元に車両や人が走っていた。

 

「止めなさい!! まだ使徒がいるのよ!!」

『ここで命かけないで、シンジの坊主に顔向けできるか!!!』

 

 整備班長の叫び声が発令所に響く。

 使徒の帯状の腕が、整備班を襲い爆炎が上がる。

 だがそれにひるまずアンビリカルケーブルを接続しようとする車両を守るように、VTOLや車両が使徒へと向かう。

 

『子供に、命かけさせといて……ここで逃げら――――』

 

 それが最期の言葉だった。

 仮面から光線が放たれ、陽動をしようとしていた車両やVTOLごと整備班が飲み込まれる。

 ザーッという音が発令所に響く。

 

「整備班、通信途絶……ッ」

「畜生!!!」

 

 ダン!! 日向が拳をモニターに叩きつける。

 使徒はそのまま仮面をジオフロントにそびえ立つピラミット型の地上施設に向けると光線で破壊する。

 大爆発が起こり、そのまま地上施設が消滅し地下へと続くメインシャフトが丸裸になる。

 

「地上本部消滅!! 最終装甲板も融解してます!!」

「メインシャフトに使徒が侵入しました!!」

 

 全ての障害を排除した使徒はゆっくりとメインシャフト内に侵入し、降下していく。

 

「総員緊急退避!! ここに来るわよ!!」

 

 ミサトの言葉は全員が聞いたが、戦闘員が駆けつけてバズーカや銃器を発令所内に設置していく。

 そしてそれを非戦闘、つまりは発令所のオペレーターたちも設置を手伝っていた。

 ミサトは叫んだ。

 

「何やってんの!! そんな武器で使徒に勝てるわけ無いでしょ!」

「何もしないよかマシですよ! ミサト三佐……それにエヴァ全機動けない時点でもう早いか遅いかの違いでしょ」

「けれどっ」

「……あのとき、シンジくんを見殺しにした罪滅ぼしじゃないですけど、あの子みたいに最期まで足掻きましょうや。で、皆でシンジくんに謝りに行きましょうや」

 

 戦闘員の言葉に、ミサトは胸が詰まった。

 日向含めたオペレーターたち3人も銃器を用意する。

 

「撃ったことあるよな?」

「訓練ですけどね」

「もうちょい武器の予算増やしてくれたら良かったですね、これなら」

「……バカよ、皆大馬鹿よ」

 

 ミサトはそう言うが、覚悟は皆と一緒だった。

 デスクから自動拳銃を引き出すと、コッキングする。

 その様子を冬月は呆れるようにため息をつく。

 

「総員玉砕する気かね?」

「えぇ、どうせ死ぬなら最期まで抗います。それが私達の思いです」

「……勝手にしたまえ」

 

 冷ややかに見る冬月は、いつもと変わらない様子でモニターを見据える。

 使徒はセントラルドグマを降下し、もう間もなくここに来ることを表示していた。

 ミサト含め、その場にいる全員が銃を構える。

 総員玉砕、あぁそうだ、こんなことに意味はない。

 だがただ死ぬわけには行かなかった、最期まで抗う。

 たとえ死ぬとしても何もせずに死ぬのだけは嫌だった。

 警告音が常時鳴りっぱなしになっているのが煩わしく、ミサトはモニターの電源を全て切る。

 マップも、モニターに映ってたものも全て消え、発令所が暗くなる。

 それと同時に、中央のモニターから使徒が侵入してきた。

 

「攻撃開始!!」

 

 ミサトの号令で、射撃が始まる。

 使徒はATフィールドを使うまでもないと全てを体で受け止める。

 そして目を光らせる。

 全員が覚悟した、ここで死ぬのだと――――だが今日ではない。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

 

 床から誰かが叫びながら飛んできて、使徒の顔を殴り飛ばした。

 突然の攻撃に使徒はひっくり返る。

 殴った人物はクルクルと回転しながら、ミサトの後ろに着地する。

 その顔を見て、ミサトは銃を取り落して呟いた。

 

「シンジくん……」

 

 赤い瞳が前を向いた。

 

 

 




ぶっちゃけ初号機なんなんお前ってレベルで強いよねって話。ふっつーにゼルエルくんのATフィールド中和するわ、殴り倒すわで……わりと土壇場の爆発力は原作シンジくんもあるよね、エヴァの中の人補正もあるだろうけど。レイちゃん活躍させたいと思ったけどアスカも踏ん張らせなきゃアカンし……って感じでこうなりました。
整備班ですが、何が起きてもいいように全員スタンバってました。ぶっちゃけシンジの死にリツコ並に後悔してた連中なので、命? んなもん知るかと突撃、ほぼ殉職です。
シンジに関しては、精神乗っ取りかけようとした使徒を逆に侵食し返して食べつくしました。ぶっちゃけ心臓動かさず、そのままS2機関で動かせばシンジをワンチャン乗っ取れたのにね、体の治癒とか全部してくれたから元気いっぱいシンジくん再誕です。また使徒が余計なことをしていらっしゃる(ガフの扉に)咥えて差し上げろ。

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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