中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ
バルディエル「体ヨシ! 精神ヨシ! 野望ヨシ! おっ(体の制御が)開いてんじゃーん(シンジ再起動)」
シンジ「ぱふぁ」
バルディエル「あ」

申し訳ねえ、ものっそい難産&モチベーション低下がね……失踪はしないけど展開が思いつかないのがあーもう。
とりあえずとんでも展開ばっかなのは許して。


最強は伊達ではないのでヒトではなく巨人になって喰らいつくした件

「……チッ、腕が」

 

 シンジは舌打ちをしながらへし折れた右腕を見る。

 使徒を殴り飛ばした影響だ。

 ATフィールドを纏わせながらも殴り飛ばしたが、所詮ベースは人間、肉体強度はそれほどではない。

 シンジはプラーンとする右腕を、左手で押さえると無理やり嵌める。

 するとすぐさま修復されて右腕が動くようになる。

 本格的に人間やめたなとシンジは笑う。

 

「……シ、シンジくん、なのよね…?」

 

 驚愕しながら言うミサトに、シンジは頭をかきながらどういうか迷うが、目の前にいる使徒が起き上がったのを見て拳を握る。

 使徒の瞳が輝き光線が発射されるが、シンジが展開したATフィールドがそれを防ぎ切る。

 

「ミサトさん、カタパルトまでなんとかコイツを押し戻すから全部動くようにしといて」

「無茶よ!」

「いつものことだよ」

 

 シンジの言葉に、ミサトは言葉を失う。

 シンジはそのまま跳躍し、ATフィールドで使徒を押し出していく。

 

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 使徒はあまりにも強力なATフィールドに押し出される。

 発令所から弾き飛ばされた使徒は、初号機の格納庫まで押し出される。

 その様子をゲンドウはじっと見守っていた。

 

「はああああああああああああああ!!!!!」

 

 なんとか射出カタパルトまで押し出すと、シンジは槍状にしたATフィールドで使徒の体を突き刺し、そのまま射出カタパルトに押し当てる。

 

「ミサトさん!!」

「……ッ。固定ロック、全部外して!!」

 

 一瞬躊躇したミサトだったが、そうするしかないと射出カタパルトのロックをすべて外す。

 壁に押し当てた使徒の体がリフトによって、強制的に上昇する。

 ミサトはモニターに手を突きながら、何度も拳を叩きつける。

 

「どうして!! どうしてなの!!」

「……彼の意思の強さを、私達は甘く見すぎていたのよ」

「し、シンジくんは、彼はどうなってるんですか」

 

 マヤが震える声で、リツコに問いかける。

 リツコは俯きながら言う。

 

「私にもわからない。だけどこれだけは言える、彼は……どうなろうと戦う気よ」

 

 リツコは初めて神を恨んだ。

 どうして彼にここまでするのですか、彼はただの子供なのに、どうして……。

 リツコの嘆きは誰にも届くことはない。

 シンジは使徒をカタパルトに押し当てながら、空中に放り出される。

 

「くぅたぁばぁれええええええええ!!!!」

 

 体を回転させながら巨大なATフィールドを野球のバットのように振るう。

 使徒はそれを避けられずに直撃すると、地面を削りながら転がっていく。

 シンジはジオフロントの大地に立つと荒く息を吐く。

 

「がぁっ、ぐぅあぁっ」

 

 両膝をつき、右手の甲を押さえ込む。

 S2機関は理論上ほぼ無限のエネルギーを生成できる。

 だがシンジの体、つまり人間の体では膨大なエネルギーを使い切れずに一種のオーバーヒートのような状態になっていた。無理もない、自分よりも巨大な物体を無理やり動かすなど、どれだけのエネルギーが必要なのか想像もつかない。

 使いきれなかったエネルギーが全身を駆け巡り、痛みが襲う。

 痛覚が復活してしまったシンジは必死に耐える。普通の人間の体なら痛みが続くだけだが、使徒となり修復能力も取得してしまったせいだろうか、シンジの体は破壊と修復を繰り返していた。

 常人なら耐えきれないほどの苦痛の中、それでもシンジは諦めなかった。

 

「ぐ、ぐぅううううううううっ!!」

 

 歯を食いしばりながらシンジは立ち上がる。

 それは使徒も同じだった。

 先程のN2、そして初号機との戦闘で受けた傷は、最強の拒絶タイプである使徒をあと一歩まで追い詰めていた。

 だが使徒は逃げない。体を再生させながらゆっくりと立ち上がる。

 二人は向かい合うと同時に走り出し、ATフィールドをぶつけ合う。

 拒絶の力がぶつかり合う。

 だが負けたのはシンジだった。

 オーバーヒート状態から復帰できていないシンジのATフィールドは、ほんの少し使徒よりも強度が足りていなかった。

 そこが勝負の分かれ目だった。

 

「がぁああああああ!?」

 

 ATフィールドが砕かれ、使徒の突進をまともに食らったシンジの全身の骨と内臓がぐちゃぐちゃになる。

 クルクルと回転しながら落ちていくシンジの足を、使徒は掴むとそのまま地面へと叩きつける。

 何度も、何度も何度も何度も何度も地面に叩きつける。

 叫び声をあげなくなったシンジを使徒は――――なんだ?

 使徒は驚いた。そこにあるのはちぎれたシンジの足だった。

 叩きつけられた瞬間、これはまずいとATフィールドを使い自ら足を切断したシンジ。

 どこに……と周囲を見ていた使徒は驚愕する。

 

「あぐっ!!!」

 

 右足から血を噴き出させながらシンジが、左の帯状の腕に噛み付いていた。

 いや違う、喰っているのだ使徒を。

 使徒はあまりの悍ましさに腕を振るおうとするが、ビキィッという音とともに左手が動かなくなる。

 よく見るとシンジが食らいついている部分が青く変色していた。

 バルディエルを喰らったシンジは、そのままバルディエルの能力を受け継いでいた。

 腕を喰らいながら、シンジは使徒を侵食しようとしていた。

 使徒は悩み、残った右腕をまっすぐ伸ばすと左腕を躊躇なく切断した。

 

「ぐぅうううう!!!」

 

 左腕と共にシンジが落下する。

 シンジは口に咥えた腕を急いで侵食すると一部を切り取り、右足に当てる。

 すると帯状だった使徒の体が変化し、足の形を取っていく。

 原作で覚醒した初号機が左腕をくっつけたときのことをシンジは思い出し、気合でそれをやり遂げてしまった。

 両足で着地したシンジは、痛みでふらつく頭を正気に戻すように咆哮する。

 

「オォオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」

 

 そのまま左腕を振りかぶり、拳のように象ったATフィールドを使徒へとぶつける。

 使徒はソレを迎撃しようと、右腕を引き戻し勢いよく伸ばした。

 ATフィールドが再びぶつかり合う。

 ギチギチと音を立てながら互いを喰らうように、波打つATフィールドはまたしてもシンジが負けた。

 ATフィールドが突破され左腕が使徒の右腕に潰され、引きちぎれる。

 

「ぎゃあああああああ!!! あぅあ、アァッ!!」

 

 シンジは地面に降り立ち、千切れた肩を押さえ付けるが使徒を睨み付ける。

 殺す、殺してやると殺意をむき出しにするシンジに、使徒は恐怖した。

 明らかに目の前のリリン、いや同類は力を扱いきれていない。だがそれだけだった、使いこなせば自分より強くなる。

 そう考えた使徒は、目を光らせて光線で一気にシンジを消し去ろうとする。

 だがそれを止めたのは、活動停止したはずの初号機だった。

 

「やらせるかぁああああああああああああ!!!!」

 

 レイの叫び声が外部スピーカーを通じて辺りに響く。

 初号機の拳が顔面に直撃し、放たれた光線は見当違いの方向へ飛んでいく。

 凄まじい爆発が、初号機を照らす。

 その背にはアンビリカルケーブルが接続されていた。

 前話でほぼ整備班は殉職したと書いたが、ほぼは全てではない。

 生き残った整備班が、命がけでアンビリカルケーブルを手動で接続し、初号機を動かしたのだ。

 シンジが稼いだ時間は無駄ではなかった。

 レイはそのまま、使徒を足蹴にするとコアを殴ろうとする。

 だが使徒はソレだけはさせないと言わんばかりに、再び目を光らせ、光線を初号機に直撃させる。

 

「グギィッ!?」

 

 初号機の体が大きく吹き飛ばされる。

 直前で張ったATフィールドのおかげでなんとか貫通だけは免れたが、胸部拘束具が吹き飛び初号機のコアが露出した。

 吹き飛ばされた初号機は、かろうじて残っているNERV地上施設の残骸に叩きつけられる。

 

「レイ!? ガァハッ!!」

 

 シンジの注意が一瞬ソレてしまった。

 横薙ぎにされた腕にシンジは直撃し、まるでボールのように地面に吹き飛び何度もバウンドしながら地面に叩きつけられる。

 シンジの体がジオフロントの大地に倒れ伏す。

 その時、発令所から上がってきたミサトたちはあまりの惨状に言葉を失う。

 倒れ伏す初号機、それを無視しシンジへと向かう使徒、血まみれで倒れているシンジにミサトは叫んだ。

 

「シンジくん立って!! 立って逃げるのよ!!!」

 

 だが横たわっているシンジはピクリとも動かない。

 使徒は、帯状の腕を細分化しシンジの全身に巻きつけると自らの顔に近づける。

 そのまま細分化した腕の先端を鋭く尖らせると、シンジの全身を串刺しにする。

 シンジの全身から大量の血が噴き出す、

 

「いやぁああああああああああっ!!!」

 

 マヤの絶叫が響くが、他の面々も似たようなものだった。

 地上施設に倒れ伏しているレイも、涙を流しながら串刺しになったシンジを見て叫ぶ。

 

「殺す、殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる!!」

 

 だが痛みで体がうまく動かない初号機は手を伸ばして怨嗟の視線を使徒に向ける。

 動けよ、動いてよ、動け、動け、動け!! とレイは願う。

 それに応えようと、ユイは原作のようにレイと溶け合おうとした瞬間、使徒が体を大きく震わせた。

 ガクガクと体を震わせる使徒、ミサトたちも訝しげに見た。

 

 ――――ドクン!

 

 と心臓が脈動する音が辺りに響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

 日向が疑問の声を上げるが、答えはすぐわかった。

 刺し貫かれていたシンジの体が、刺さっている使徒の体を侵食するように広がっていく。

 

「ヒトの形を捨てるというの?! シンジくん止めなさい!! ソレ以上は本当に戻れなくなるわ!!! あなたがあなたで無くなってしまうのよ!!!!」

 

 リツコの叫び声が響く。

 だがシンジは完全にヒトの形を捨て去り、自身を刺していた使徒の体と一体化していく。

 使徒はガクガクと体を震わせる。

 このままでは自分が乗っ取られる、そう判断した使徒は最後の力を振り絞って、レーザーのような光線で右肩から斜めに体を切断する。

 血が吹き出し、使徒が地に倒れ伏す。

 シンジだったものは残った使徒の肉体を飲み込むと、弱々しく体を震わせてベチャリと音を立てて落ちた。

 

「シン、ジくん……」

 

 ミサトは全身から力が抜けるの感じ、その場にへたり込んだ。

 絶望がNERVを襲う。

 離れた場所でゲンドウと冬月は見ていた。

 冬月は地面に散らばった粘液を見る。

 

「ヒトを捨てた者の末路か。おぞましいにも程がある。生命への侮辱だよ」

「……違う、アレはまだ終わってはいない」

 

 ゲンドウの言葉に冬月は目を丸める。

 終わっていないだと? もはやヒトでも使徒でもなくなったあの状態でどうにかするとこの男は言うのか!?

 冬月は叫ぶ。

 

「終わった! ヤツはヒトを捨てた!! もう二度と奴は立ち上がらんよ!!」

「……冬月先生、あなたは潔癖主義だった。そんなあなたが私は好ましかった。何故、信じないのです」

「信じる!? 計画をめちゃくちゃにされたアイツを好ましく思うお前のほうがどうにかしているぞ!!」

 

 激昂する冬月は、ゲンドウが知っている冬月ではなかった。

 確かに人間として頑固な面はあった、だが以前の彼であれば静観している状況にも関わらず、冬月の口の端は笑っていた。

 ゲンドウはかつて、自分に食って掛かった冬月が消えていくのを感じた。

 あのときの義憤に燃えた冬月がここまでネジ曲がった理由は、自分と彼なのだろうとぼんやりと思った。

 ゲンドウは地面に広がっていくシンジをただ見つめていたが、耐えきれずに叫ぶ。

 

「どうした三上シンジ、レイを守るのだろう! だったら立ち上がれ!!」

「碇、お前は――――」

 

 冬月の言葉が続くことはなかった。

 時間は一分ほど巻き戻る。

 ゲンドウと冬月が言い合ってる中、使徒はATフィールドを使い、なんとか浮き上がる。

 体はボロボロ、胸のS2機関もずたずただった。

 外部からのエネルギー補給が必要であるため、周りを見渡す。

 そこには倒れ込んでいる初号機が見えた。

 アレを食べよう、そして体を再構築するんだと使徒は再び仮面の下から口のような器官を出――――せなかった。

 使徒の体を何かが掴む。

 それは白い巨大な腕だった。

 

「そこまで、するの、シンジくん」

 

 リツコが呆然と呟く。

 シンジだったものからその腕は伸びていた。

 広がっていた白色の粘膜が徐々に集まって何かを形成していく。

 それはヒトだった。

 白い肌、白い髪、赤い瞳、だがそれはシンジにそっくりな形をしていた。

 ヒトの形をシンジは捨てていなかった、むしろ使徒に対抗するためより巨大に、S2機関を使いこなせるように体を新生させたのだった。

 ゆっくりと起き上がったシンジは叫ぶ。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 そのまま使徒の体を投げ飛ばし、シンジはゆっくりと使徒に向かって歩き出す。

 その頭上には光の輪が出現する。

 ミサトはそれに見覚えがあった。十五年前、消滅した南極で見たあの光の巨人、それと酷似していた。

 ゆっくりと歩きながら、シンジは言葉を発する。

 

「俺の、体がどうなっても、いい。世界なんかどうなってもいい、でもレイや、ここにいる皆は……絶対に守る!!!」

 

 シンジが右腕を突き出す。

 手の甲のコアが光り輝き、光線が発射される。

 倒れ伏していた使徒はATフィールドを張るが、紙障子のように一瞬でATフィールドが消し飛ばされる。

 使徒が血をぶち撒けながらジオフロント内に倒れ伏す。

 シンジは歩いていく、その背にミサトが声を上げる。

 

「行かないでシンジくん!!」

「ミサト……」

 

 誰もがシンジの姿に怯えていた。

 だが、ミサトは目をそらさずに叫ぶ。

 

「それはあなたの願いじゃないでしょう!! あなたの本当の願いは、レイちゃんを守りたいってことでしょう!!!」

 

 ボロボロと涙を流しながら、ミサトは叫ぶ。

 そうだ、最初からシンジはレイのために戦っていた。

 なのに今は関係もない自分たちや第3新東京市の市民のために戦っている。

 違う、そうじゃない、身勝手なのはわかっている。

 だけどこれ以上シンジに傷ついてほしくないのだ、レイを守るだけなら彼はここまで無茶しなかったとミサトは思う。

 ミサトの言葉に、他のNERV職員たちがハッとした顔をして、シンジの背を見る。

 シンジはピタリと足を止めて振り向く。

 

「――――」

 

 何か口を動かして、ニッコリと笑ったシンジはそのまま前に進んでいく。

 使徒が最期の抵抗として帯状の腕を伸ばすが、シンジは右腕を開きながら振り下ろす。

 すると伸ばした腕ごと使徒のATフィールドが何かに切り裂かれ、使徒は全身に深い切り傷を負い、音を立てながら崩れ落ちる。

 

「ぐっ、がぁっ……」

 

 シンジが腹を押さえて蹲る。

 そしてポツリと一言喋った。

 

「オナカ、スイタ……」

 

 シンジの口が開きダラダラと唾液が溢れる。

 その様子を見たリツコは気を失いかけながらも、震える声で言う。

 

「だ、ダメよシンジくん!! それだけはいけないわ!!」

 

 だがシンジはその言葉を無視して、弐号機の獣化形態のように四つん這いになると使徒へと近づいていく。

 NERV職員たちはまさかだと思っていたが、外れてほしいと願う。

 ちょうどその頃、弐号機からなんとか脱出したアスカが、零号機から綾波を引きずり出していたところだった。

 巨大化したシンジを見て、アスカは震えていた。

 

「なん、なのアレ……」

「ヒトを超えた存在、神様って言えばいいにゃー」

「ッ!?」

 

 いつの間にか、アスカの傍にメガネを掛けた少女が立っていた。

 興味深そうに四つん這いのまま移動するシンジを見て笑う。

 

「でもアレは違う。神様になれず、ヒトに戻りきれず、獣ですら無い中途半端なシン化」

「わけのわかんないことをッ!」

「……いいの? アレ、使徒を食う気だよ?」

 

 少女の言葉にアスカは固まる。

 何を、食べると?

 

「だから使徒、S2機関って言ったほうがいいかにゃ。アレだけ体を変質させたら、そりゃエネルギーが足りなくなるよね」

 

 アスカは呆然と使徒に覆いかぶさるシンジを見た。

 使徒は荒く息を吐くだけで、動こうとしない。

 シンジは使徒の頭部を潰すと涎を垂らしながら笑った。

 

「イタダキマス」

 

 肉を噛み砕き、咀嚼する音が響く。

 シンジは一心不乱に使徒の体に食らいつき、自らの力としていく。

 異様な光景に、ミサトたちはただ呆然と見ているしか無い。

 

「使徒を、喰ってるの?」

「おそらく本能のまま、彼は喰らっているの、お腹が空いたから」

「うぅっ」

 

 マヤが口元を押さえるが、周りにはあまりの光景に耐えきれず吐き出すものが出ていた。

 これが、これがあのシンジかとNERVの面々は思う。

 だが同時に、こうしたのは紛れもなく自分たちだと理解する。

 シンジは使徒に食らいつき、骨すら噛み砕き自らの血肉へと変えていく。

 美味い、美味い、美味い……でもなんでだろう、悲しい気分になる。

 トッテモ、オイシイノニ、ナンデコンナニモカナシイノ?

 咀嚼しているシンジの目から涙が溢れていた。

 

「シ、シンジ」

「……悍ましいあの姿、でもアレこそがヒトの本質なのかもね。何かを喰らい糧とするあの姿こそヒトらしいのかもしれない」

 

 あまりの凄惨な状況に、アスカはへたり込む。

 少女は笑いながらシンジの食事をじっくりと見ていた。

 離れた場所で、加持とシンジの父親もその光景を見ていた。

 

「初号機の覚醒ではなく、シンジくんの覚醒……」

「……シンジ君」

 

 加持はシナリオと違いすぎる展開に頭を悩ませた。

 父親は使徒に食らいつく息子の姿から目を離さずにいた。

 使徒を食い尽くしたシンジは口元を真っ赤に染めながら叫ぶ。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 シンジの左腕が膨れ上がり、右腕と同じ様にコアが手の甲に生成される。

 シンジの頭上に出現していた光輪が赤く染まり、広がっていく。

 

「ヒトを超え、使徒も超えた存在……まさしく神に等しい存在ね。今の彼はもはや三上シンジではなく、純粋にヒトの願いを叶える、そんな存在よ」

「でも、アレは三上シンジよ、リツコ」

 

 ミサトの言葉に、リツコは呆然とする。

 ミサトにとってはトラウマそのものだろう。

 十五年前、セカンドインパクトの中心から生き残った彼女にとっては、これはアレの再来だ。

 だがミサトは目をそらさずに、シンジを見る。

 

「彼は三上シンジよ」

「……でも、もう止められないわ。この世界の理を超えた新たな生命の誕生よ、セカンドインパクトの続き、サードインパクトが――――えっ?」

 

 ミサトの強い言葉を否定したリツコは、諦めていた。

 だが目の前の光景に目を見開いていた。

 シンジの手を初号機が、レイが強く握っていた。

 

『帰ろう、シンジ、もういいんだよ』

 

 高密度のエネルギー体となったシンジの体に触れている初号機の腕、いや体全体が焼かれていく。

 だが初号機はATフィールドを張っていなかった、拒絶せずシンジから受ける全てを受け入れていた。

 凄まじい痛みがレイを襲っているのに、レイは笑っていた、いつもシンジにしてもらっていたときのことを思い出しながら。

 いつもシンジは手を握ってくれた、だから――――泣いてるシンジを今度は僕が握り返すんだ。

 

『シンジ、帰ろう、皆待ってる』

「レ……イ……」

 

 シンジの顔が初号機に向く。

 レイは操縦桿を握りしめ、シンジの体を抱きしめる。

 初号機の装甲が焼かれていくが、レイはシンジを抱きしめた、どこにも行かせないように。

 いつの間にか、シンジの頭上の光輪が動きを止めていた。

 

『どんなになっても、シンジはシンジだよ。僕が一番好きで、僕に優しい、僕を愛してくれる三上シンジだ……だから、帰ろう、美味しいもの幾らでも作ってあげる』

「……レ、イ……」

『僕は、絶対にシンジを見捨てないから』

 

 その言葉に安心したように、シンジの頭上にあった光輪が粉々に砕け散り、シンジの体から力が抜ける。

 輝いていた両手のS2機関からも光が消えて、静寂だけがその場を支配する。

 

「……止まった、の?」

「おそらくは……だけどね」

 

 ミサトとリツコは体から力を抜き、シンジを抱きとめ、頭を撫でている初号機を見て複雑な表情を浮かべた。

 原形を留めていない地上施設のてっぺん部分に、マリはいて動きを止めたシンジをつまらなそうに見る。

 

「……都合のいいヤツ。一切合切壊したほうが楽なのにね。まぁ、いいさ、それも君の選択だ」

 

 マリは重心を後ろに倒して、そのままてっぺんから真っ逆さまに落ちていく。

 

「神から転げ落ちても、君はもうヒトじゃない。精々地上でもがいてみせてよ、わんこ君」

 

 頭が地面に接触する瞬間、マリの体が消え、笑い声だけが木霊した。

 

 

○○○

 

 

 

「ロスト・チルドレン、ただのイレギュラーだと思っていたがそうではなかった。リリンの身でありながら、生命の実をその身に宿し、神へと至ろうとした」

「シナリオから大きく逸脱した行為だ」

「だが、大いなる福音とも言える。彼の者のS2機関のデータさえあれば我らの目的は達せられる」

 

 ゼーレたちはシンジの戦闘記録を見る。

 逸脱した行為であるが、ゼーレにとっては予行演習のようなものであり、人が新たなステージへと到達できるという確証そのものでもあった。

 

「だが、奴はどうする? 紛れもないイレギュラー、データを取れば即時破棄が妥当だが」

「二基のS2機関を持つ者を害すればどうなるか予想もつかん。動かぬのであればそのままにしておくのも」

「奴は動く」

 

 バイザーを着けた老人、キールは確かな自信を持って答える。

 

「これまでのロスト・チルドレンの行動は常軌を逸しているが、奴は諦めん。どうなろうとも動き続けるだろう」

「ではどうする?」

「首輪をつける」

「『鈴』は消えたぞ?」

「僕が行くさ」

 

 老人たちが目を向けると一人の少年が立っていた。

 白い髪、赤い瞳のその少年は言葉を続ける。

 

「シナリオは破綻した、ならば早期に僕が行っても変わりはないだろう?」

「しかし――――」

「決定事項だ。それに彼の者を抑えられるのは白き月の使徒、その始祖であるアダムの魂を持つ、この者以外におるまい」

 

 キールがそう言うと、他のゼーレたちは渋々と言った様子だが、納得しその場から消えていく。

 この場にはキールと少年しかいなくなる。

 

「機が熟すまで動くな。貴様は監視者として逐一連絡を入れるのだ」

「わかっているさ」

 

 キールの姿が消え、そこには少年しか残っていない。

 少年は空を見上げて、呟く。

 

「三上、シンジ、か」

 

 少年は面白くなさそうに顔を歪めると、自分自身では説明しきれない感情に少年は襲われていた。

 胸がチクチクするような、ムカムカするようなそんな気持ち。

 だがソレを表現できるほど、少年はヒトらしくなかった。

 だが頭上に見える地球を見て、少年は言う。

 

「碇シンジくん、いいや碇レイさん、今度こそ君だけは幸せにしてみせる」

 

 




シンジですがぶっつけ本番で使徒相手に生身で勝てるほど甘くはないってそれ一番言われてるから。まぁ、シンジの意思の力が強すぎてS2機関が「アーダメダメダメ(出力が)太すぎるッピ! (体が)アッツ! 許してお兄さんお体が壊れるわ」みたいな感じでオーバーヒートしてました。体を巨大化させたのは使徒の学習能力で、使い切れないなら大きくなればいいじゃんアゼルバイジャンってノリで侵食したゼルエルくんの体を素材にでっかくなりました。
で、覚醒です、って感じで使うはいいが体の形状変化とかで一時的にエネルギー不足、どうすっべ、あっ、ゼルエルくんおるやん! いっただきま~すってノリで食いました。ちなみにレイが止めてなかったら、第3新東京市以外の人類滅ぼして、強制的にメリーバッドエンドルートです。シンジっていう神が守っていくから安心!
とりあえずこれからハッピーエンドとか無理じゃねえのと思う人がいるからもう一回言っとく。ご都合主義舐めんな、三流のハッピーエンド見せてやんよ! ヨシ!(現場猫)

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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