中学二年で死ぬから美少女とフラグ立てたらTSした原作主人公だった件について   作:re:753

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前回のあらすじ、なんか冬月がちょっかい出してきたけどワケガワカナイヨ状態で使徒来たけどヤバイから肉体捨てて魂だけで行動するンゴ!!

シンジの使徒ボディですがゼーレ的にはマジで封印する気でやってる模様。体に使徒封印用の呪詛文様書いてるからヨシ!!(現場猫)。なおシンジにとっては多少動きにくい程度で終わる模様。
あと感想返信ですがほんとごめんなさい、今後はやらずに行きます。
流石に返せる量を超えてしまったので、本当にごめんなさい。頂いた感想は全部読んでますので、楽しみにしていた方にはホントすいません。その代わり完結させるから許して。


みんながピンチだったので精神の俺が頑張ってる間、魂の俺が槍を使う件

「どうしたんだい、アスカ。新しいママからのプレゼントだよ」

「いいの」

 

 床には引き裂かれた人形が落ちる。

 父親だった人物は幼いアスカに、困ったように笑いかけていた。

 違う、ただの愛想笑いだ、本当は私なんか要らない、だからエヴァに乗るという私の選択肢に反対も賛成もしなかった。

 

「レイ、今日はお母さんとお父さんの仕事場に招待するわ。良いものを見せてあげる」

「嫌、お家でお絵描きしてたい」

 

 母さんが笑う。

 だけど僕はお絵かきがしてたかったけど、大好きな母さんが満面の笑みでいうから着いて行った。

 その結果、わけのわからないものを見せられたけど、子供の僕はそれに心が惹かれていた。

 ガラス越しにそれを見ながら無邪気に笑っていた。

 数分後に、母さんが消えると思っていなかった。

 

「知人の子を預かることになりましてね。綾波レイといいます」

「レイちゃんね、こんにちは」

 

 私の記憶ではない、違うこれは『最初』の私の記憶だ。

 最初はどうでも良かった、赤木博士のお母さんのことは。

 でも司令とその人はずるいことをしてると思ってた。

 今ならわかる、私は嫉妬していた、赤木博士のお母さんに、だから少しイヤミを言ってしまった。

 その結果、最初の私は死んだ。

 

「ママ、ママ……」

『アスカちゃん、ママと一緒におねんねしましょうね。あぁいう子は可哀想な子なの。ママはちゃーんと貴方を見てるからね』

 

 違うの、ママ、それは私じゃないの。

 私にママがくれたお人形だよ? ママ。

 ママ、私はここにいるの、ママの娘は、アスカはここにいるの。

 どうして見てくれないのママ?

 

「いいから!! ユイくんの救助が先だ!!」

「ユイ!! ユイ!!! 頼む! 私を置いてかないでくれ!!」

 

 騒がしい場所で、僕はただ泣いていることしか出来なかった。

 そうすれば母さんが来てくれる、母さんはどこにも行かないと思っていた。

 なのに母さんはいつまでも帰ってこなかった。

 父さんも、周りの誰もが僕を無視して悲しかった。

 ただ僕は泣くことしか出来なかった。

 

「あなたの事。ばあさんは用済みだとか」

「ッ!!」

 

 違う、ただ所長がかまってくれなくなったから、引き離そうとしただけだった。

 それがどれだけ残酷な言葉かも知らないで、私は……言ってしまった。

 首を絞められる。

 苦しい? なんで? どうして?

 そう考えていくと意識が遠くなっていく。

 倒れる私、そしてそれを見る赤木博士のお母さんは狼狽していた。

 一歩一歩下がっていき、そのまま落下してしまった。

 

『一緒に死んで頂戴!』

「ママ!! 止めてよママ!! 私はお人形じゃない!! 自分で考えて生きるの!! 生きてるの!! こっちを見て! ママ!!!」

 

 人形の首を絞めるママに必死で呼びかける。

 だけどママは一度だって振り向いてくれなかった。

 振り向かずに首を絞めて、殺そうと……違う、一緒に死のうとしていた。

 悲しかった、私はここにいるのにママは見てくれなかった。

 ママと一緒にいたい、ソレ(人形)じゃなくて私の首を絞めてよ、ママ!!!

 

「いやっ!!! 思い出させないで!! ママはここにいるの!! ここにいるの!!!!」

 

 弐号機の中でアスカは頭を抑えながら叫ぶ。

 弐号機も同じように頭を抱えながら苦しんでいく。

 

「レイ、明日は良い日よ」

「……またプール行きたい。いいでしょ? 母さん」

 

 プールに行きたかった。

 あんな場所じゃなくて母さんがいつも連れて行ってくれるプールに行きたかった。

 かき氷を食べて、流れるプールに入って、疲れ果てて帰りの途中におんぶしてくれる母さんが好きだった。

 時々、悲しい顔をしてセカンドインパクト前のことを話してくれるけど、楽しいことも教えてくれた。

 雪の話が好きだった。

 寒くて雨が固まって降るらしい、僕は見たことがなかったけど白い景色は綺麗だろうなって思った。

 でも母さんと父さんと一緒に見たかった。寒いならずっと抱きしめてくれると思ってたから。

 

「なんだよ、何だよこれ!! やめろ!! 思い出させないでよ!! 母さんとの思い出を思い出させないでよ!!」

 

 初号機の中でレイは操縦桿を叩きつける。

 初号機も同じようにポジトロンライフルを固定していたビルに拳を叩きつけながら苦しんでいく。

 

「所長、所長ッ!!」

「……」

 

 ベッドの上で二人が乱れる。

 所長の顔は変わらないが、上で踊っている女は嬉しそうに笑っていた。

 ズルイ、ズルイズルイズルイ。

 私は一人で寝てるのに、あの人は所長と一緒に寝て何か楽しんでる。

 黒い感情が湧き上がり、部屋に入ろうとするが所長と目が合う。

 どこかに行け、そういう風に言っているように見えたから私は逃げた。

 布団を被りながら何故か涙が出てきた。

 

「うぅっ、うっ、うぅううう。違う、私じゃない!!」

 

 零号機の中で綾波は涙を流しながら顔を覆う。

 零号機も同じに両手で顔を覆いながら苦しんでいく。

 使徒の精神攻撃は三人の忘れていた記憶すら呼び起こしながら精神を蝕んでいた。

 力でねじ伏せる前の使徒とは違い、ヒトの精神面を攻略しようとする使徒は三人の精神の奥の奥まで入り込んでいいく。

 使徒には悪意はない、ただヒトの精神の分析を兼ねてやっているだけだ。

 悪意はない、だから全ての記憶を見ながら、効率的に追い詰めていく。

 

「ッ……!?」

 

 三人は線路の上にいた。

 後ろ向きに歩きながら、周りを見る。

 誰もいなかった。

 アスカ、レイ、綾波の周りには誰もいなかった。

 黒い影がクスクスと笑いながら通り過ぎていく、肩が当たろうが、アスカたちが避けようが誰一人見ることはない。

 アスカは手をのばす。

 レイも手を伸ばす。

 綾波も手を伸ばした。

 クスクスと笑う群衆たちから連れ出してほしいと、それに向かって叫んだ。

 

「「「助けて! シンジ(三上くん)!」」」

「……俺を助けてくれなかったくせに」

 

 そう言ったシンジが何かに握りつぶされる。

 三人の呼吸が止まる。

 内臓をぶち撒けながらシンジだったものが転がる。

 両目がコロコロと唖然とするアスカたちの足元に転がっていき、三人を射抜く。

 

「俺がこうなっても助けてくれなかったのに、どうして助けなきゃいけないんだ?」

「シン、ジ……違う、僕はっ!!」

「もう、いいよ。アスカがいるし、お前要らない」

 

 頭をかきむしりながら髪の毛を振り回すレイに、シンジは笑いながら言う。

 そのとなりにはアスカが笑っていた。

 二人の間は近づき、唇を重ねる。

 

「やぁっ、やだ!! シンジ!! 僕が最初だったんだ!! 僕がしたんだ!! そこは僕のなんだよ!!」

「あんた、バカァ? 戦場でシンジの傍にいたのは私よ」

 

 アスカは笑いながら、シンジとキスを続ける。

 レイは手をのばすが、シンジだったものが足にまとわりつき動けずにいた。

 

「三上、くん」

「マズイよ、お前の料理」

 

 綾波の作った野菜スープが鍋ごとひっくり返される。

 湯気が上がり、マンションの床に広がっていく。

 

「マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、人が食えたもんじゃないよ」

「お、美味しいって、赤木博士やみんなが美味しいって!!」

「ヒトもどきのご飯なんて食えたもんじゃないよ」

 

 綾波は泣きながら言う。

 そう美味しいと評判だ、最近は碇さんも食べてくれる。

 赤木博士は楽しみにしてくれてる。だからお願い、食べて、そんな目で私を見ないで。

 

「言ったでしょ、貴方の代わりなんて幾らでもいるって」

「ッ!! 違う!! 認めてくれた、三上くんは認めてくれたわ!!」

 

 綾波は耳を塞ぎながら蹲る。

 認めてくれた、ヒトだって認めてくれたんだと綾波はそう思う。

 だけど目の前の景色は、あそこを映し出していた。

 自分が生まれ、取り出され、今でも『自分』がいるところ、ダミープラグのプラントがそこにはあり、無数の『綾波レイ』が眠っていた。

 その全員が目を同時に開き、笑った。

 

『私の代わりは幾らでもいる』

「あ、あぁあああ、あああああああああああああああ!!!!」

 

 頭を抱えて綾波は泣きじゃくる。

 自分の言葉がブーメランのように帰ってきた。

 嫌、嫌っ!! 私は私でありたい、なんで代わりがいるの、なんでと綾波は錯乱する。

 

「シンジ、ねえシンジ!! 私を見てよ、私を見てよ!!」

「アスカ、アースーカ」

 

 シンジは笑いながらレイと綾波と人形を抱きしめる。

 違う、それは私じゃないとアスカは言う。

 いつの間にか手が人形のソレになっていた。

 そしてシンジが抱きしめているのは人間のアスカになっていた。

 

「いやっ!! いやぁっ!! 私は人形じゃない!! 人形じゃないの!! シンジ、シンジ!!」

「なんで人形が喋ってる?」

 

 シンジが急に巨大になり、人形となったアスカを掴む。

 違う、アスカが小さくなっていたのだ。

 シンジは人形(アスカ)の首に首吊用に、輪っかを作ったロープをくくりつける。

 

「うん、人形はこう飾らないとな」

「いやっ!! いやぁあああああっ!!」

 

 動かない体に狂乱しながらアスカは叫ぶ。

 シンジの手が離れ、人形(アスカ)が力なく四肢を投げ出す。

 苦しくはなかった。

 体に力が戻っていく、だが動かせるのは首だけで前を向いた。

 そこにいたのは母親だった。

 首を吊りながら、眼球が飛び出し、舌も出ていた。

 床には糞尿がこぼれ、苦悶の表情で死んでいた……あの日のように。

 

「マ、ママ、嫌、嫌ぁあああああああああああああああああああっ!!!!!」

「どうして、どうして拒否するの? ママと死んでくれるんでしょ?」

 

 グリンとアスカの母親の首が動く。

 ぎこちない手でアスカへと手をのばす。

 

「アスカ、ちゃ、ん。一緒に死んで頂戴ッ!!」

 

 母親の手がアスカの首を掴み、床に押し倒しながら絞め上げていく。

 

「ぐぎぃっ、マ、ママ……あぁっ」

「死んで、死んでくれよアスカ、死ねよっ!!!」

 

 いつの間にかシンジになっていた。

 違う、母親だ。

 違う、シンジだ。

 母親。

 シンジ。

 母親。

 シンジ。

 母親シンジ母親シンジ母親シンジ母親シンジ母親シンジ母親シンジ。

 入れ替わり立ち替わり目の前の人物が変わっていく。

 

「シンジ、シンジィッ……」

「あなたの前には誰もいないのよ、レイ」

「そうだ、誰もいない」

 

 体育座りで泣きじゃくりながら、シンジに縋るレイに冷たい表情をした両親が上から見下す。

 そして歩き去っていく二人に、レイは叫んだ。

 

「行かないで!! 行かないでよ母さん! 父さん!! 僕いい子にしてたよ! いい子にしてたんだよ!!」

「……俺の人生を台無しにして?」

 

 ピタリと二人の背を追っていたレイの手が止まる。

 シンジが笑いながらレイの前に立った。

 

「俺はお前の代わりに戦ったよ」

 

 シンジが今まで戦ってきた使徒を相手に傷つけられる。

 レイはただ見ていることしか出来ない。

 頑張って隣に行こうとしても、透明な壁のようなものが邪魔をしてそれ以上前に進めない。

 レイは壁を叩く。

 何度も、何度も、何度でも叩く。

 向こうではシンジが戦っていた。

 その隣にはアスカがいた、綾波がいた。

 だけどレイだけがそこにいない。

 

「シンジ、シンジ!!」

「役立たず」

 

 アスカの言葉で怒りがレイを支配する。

 バリンと透明な壁が砕け散り、レイは前のめりに倒れ込む。

 だがそのまま床には倒れ込まず、いつの間にかエントリープラグの操縦席に座っていた。

 操縦桿を握りしめると何かを握りつぶす感触を感じた。

 レイは両腕を開く。

 

「どう……して……?」

「ヒッ――――!?」

 

 ぐちゃぐちゃになったシンジが手を伸ばしていた。

 恨みを目に宿しながら、ズルズルと砕けた体を引きずりながらレイに近づく。

 レイは腰を抜かしてシンジから逃げようと後ろに下がる。

 だが、背には誰かがいた。

 

「レイ、どこに行くの?」

「ヒッ!?」

 

 母さんの声、だがのっぺらぼうのような顔の何かがレイに話しかけた。

 違う、レイはこれを知っていた。エヴァだ、エヴァ初号機、母親を取り込んだそれが話しかけていた。

 いつの間にかのっぺらぼうが、エヴァ初号機の顔へと変わる。

 

「どこに行くんだ、レイ。お前が乗るんだ」

「あ、あぁっ」

 

 ゲンドウがはるか上からレイを見ていた。

 いつの間にかアンビリカルブリッジにへたり込んでいたレイ。

 そこに満たされたLCLから、白い手が伸びてきてレイの首を絞める。

 

「あぐぁっ……シ、ンジ……」

「返せよ、返せよ、俺の人生と体を!!!」

 

 白い体、白い髪、赤い目のシンジがレイの首を絞める。

 

「レイ、レイッ!!」

 

 母親が首を絞める。

 

「お前は要らない。いるのは綾波レイと三上シンジだ」

 

 ゲンドウが首を絞める。

 綾波とシンジが上からレイを見下ろしていた。

 シンジ。

 母親。

 ゲンドウ。

 シンジ。

 母親。

 ゲンドウ。

 シンジ母親ゲンドウシンジ母親ゲンドウシンジ母親ゲンドウシンジ母親ゲンドウ。

 アスカと同じく首を絞める人物が変わっていく。

 

「今日の綾波はこれで行こう」

「三上くん!!」

 

 満面の笑みで、LCLから解き放たれた『綾波レイ』がシンジへと飛びつく。

 綾波はLCLが充満したガラスの中から、拳を叩きつけてシンジに呼びかける。

 それは私じゃない、私じゃないの!!

 

「何、言ってるんだ? 綾波レイだろ? みんな」

「そうよ、あなたも綾波レイ」

 

 リツコの母親、ナオコがそう言う。

 綾波は叫ぶ。

 

「私が綾波レイよ!!」

「じゃあ私は誰なの?」

 

 ハッと前を向くと幼い『綾波レイ』がキョトンとしながら見ていた。

 

「あなたの代わりは幾らでもいるのよ、レイ」

 

 リツコは弁当箱を床に落とすと、綾波を見下しながら言う。

 違う、貴方はそうは言っていなかった。

 私をちゃんと見てくれていた、お弁当だって!!

 

「お前は計画に必要なだけだ」

 

 ゲンドウの声がガラス越しに響く。

 いつものダミープラグの制作のためのポッド内。

 慣れていたはずなのに、綾波はここから出たかった。

 ガラスを叩きつけるが、割れることはない。

 視線の先には、シンジ、リツコ、ゲンドウがいた。

 その隣には『綾波レイ』がいた。

 誰もがニコニコ笑っていた。

 

「あ、あぁっ、あぁあああああ!!!」

「貴方は必要ないの」

 

 幼い『綾波レイ』が綾波の上に乗り、小さい手で綾波の首を絞める。

 

「あんたなんか必要ないのよ」

 

 ナオコが首を絞める。

 

「要らないのよ、貴方なんか」

 

 リツコが首を絞める。

 

「要らんのだよ、お前は」

 

 ゲンドウが首を絞める。

 

「お前はもう要らない」

 

 シンジが首を絞める。

 綾波レイ。

 ナオコ。

 リツコ。

 ゲンドウ。

 シンジ。

 綾波レイ。

 ナオコ。

 リツコ。

 ゲンドウ。

 シン――――。

 

「いい加減にしろやぼけえええええええええええ!!!!」

「がぁっ!?」

 

 何かが叫びながら綾波の首を絞めていた何かを蹴り飛ばす。

 アスカやレイの上にかぶさっていた何かも一緒に蹴り飛ばす。

 三人は激しく咳き込みながら、見上げる。

 そこに立っていたのは黒い髪のシンジだった。

 

「「「ひっ――――」」」

 

 三人は怯える。

 無理もない、三人とも心の奥に溜まっていた罪悪感、願望、トラウマなどでシンジに思っていた恐怖心が表に出てしまったのだ。

 シンジはそんな三人を一瞥すると、黒い影を睨みつける。

 

「改めて見ても胸糞わりいなぁ、お前」

シンジ(三上)(くん)』

 

 黒い影が分裂していく。

 それはミサトだった。

 リツコだった。

 父親だった。

 母親だった。

 トウジだった。

 ケンスケだった。

 サクラだった。

 寺田だった。

 今までシンジが触れ合ってきた人たちが出てくる。

 

「あなたのせいよ!!!」

「お前のせいだ!!」

「あんたが頑張りすぎるから!!」

「ワシらがどれだけ迷惑してきたか!!」

「エヴァにだけは乗らんでくださいよ!」

「二度とウチにたべにくるんじゃねえ!!」

 

 口々に悪口や悪夢を見せていく。

 使徒はレイやアスカ、綾波を通じてヒトは見たくないものを見せられると弱くなることを学習していた。

 そしてシンジの精神を読み取り、心の奥に眠っている罪悪感や悪夢を見せていく。

 どうだ、どうだ!! ヒトの心なんて弱い、脆弱なものだ!! 短期間でヒトの心を学習した使徒は笑う。

 しかしだ。

 シンジは何も言わなかった。

 悪口にも、悪夢にも何も反応を見せなかった。

 使徒は疑問に思わない、どうせお前も見たくないんだろう? 見ろ、そして叫べ、私はそれがたの―――――。

 愉悦していた使徒の精神を、シンジはぶん殴った。

 

「がぁっ!?」

 

 黒い霧となった使徒が呻く。

 どうしてだ!? 何故だ!? そこの三人の心を砕きかけたのに、何故お前はッ!?

 そう思考していた使徒だったが、使徒はヒトの弱い部分しか学習していなかった。

 確かにヒトは見たくないもの、心の奥に閉まっているものを目の前に出されたら狼狽するだろう、時には立ち上がれないほどに傷つくだろう。

 だが、シンジはそんなことは昔から体験していたし、もう使徒のこの攻撃を乗り越えていた。

 精神のシンジの中にあるのは、罪悪感でも拒絶でもない、ただの怒りだった。

 

「皆が言うわけねえだろ!!!!!!!!!!! こんのクソ野郎!!!!」

「うぐぁっ!?」

 

 シンジは使徒を蹴り飛ばす。

 使徒は何故、この場所でヒトに自分がダメージを受けているのかわからなかった。

 しかも、こいつには干渉していないはずだ。

 何故!? と使徒は混乱していた。

 

「お前らがヒトの心に干渉するなら、ヒトがお前らの心に干渉してもいいだろうが」

 

 わけがわからないよと使徒は唖然とする。

 リリンだろう貴様は? いや、コイツラの記憶から読み取ったが使徒となったが、その体は停止しているはず、何故だと思う。

 シンジは青筋を立てながら、使徒をぶん殴って言う。

 

「気合だよ。てめえが干渉してくんのはわかってたんだよ。(肉体)とOHANASHIして、精神干渉能力を得ただけだくそったれが」

 

 魂のシンジが出ていった後、元から肉体を酷使していた精神のシンジは、次の使徒のことを思い、肉体のシンジとOHANASHIをしていた。

 

『次の使徒、やべえから能力獲得するんだよ、おうあくしろよ』

『ちょっと、止めてくださいよホント、ちょっと、やめっ』

『(柔らかATフィールド当てながら)あばれんなよ、あばれんなよ、お前のS2機関が使いたいんだよ!!』

『ファッ!? 寝かせてくれってお前も言うてたやん!?』

『魂だけに良い格好させたくないし、アスカがやべーことになんだろオメー』

『魂がどうにかすんだろ!? 俺たちはもう寝ようぜ!』

『うるせえ!!(ガチビンタ)』

 

 とこんな感じでOHANASHIして、無理やり精神干渉能力を得ていた。

 そんなことは知らず、唖然としている使徒をシンジは首根っこを掴む。

 

「とっととこっから出て行け!!」

 

 シンジは首根っこを離すと使徒を蹴り飛ばして、三人の精神から使徒を追い出す。

 真っ暗な空間に四人が取り残される。

 シンジは三人から背を向けて歩いていく。

 

「シ、シンジ……」

「……大丈夫だ。俺がなんとかする、だから皆頑張らなくて良いんだ」

 

 背を向けたまま答えるシンジに、アスカの言葉が詰まる。

 何を、言ってるんだ? 頑張らなくて、いい?

 

「大丈夫、次の使徒もどうにかするから」

 

 振り向いたシンジの顔は微笑んでいた。

 だけどレイには無理して笑っていることがよくわかった。

 

「だから――――」

 

 三人の意識が現実へと戻る。

 

『――――して、応答して!! 三人とも!!』

「……あっ……」

 

 ぼんやりとする頭で、三人はミサトの声が聞こえた。

 

「……私、エヴァに乗ってる」

『そう、そうよ!! アスカよかった……』

『三人とも脳波安定してます!』

 

 オペレーターたちの安堵の息が聞こえるが、アスカはぼんやりとする頭で言葉を紡ぐ。

 

「シンジは?」

『シンジくんなら隔離室よ。今、寝てるみたい』

 

 実際は、魂が抜け出して心肺機能が停止してるのだが、リツコたちは気づいていない。

 綾波はそれを聞いて嫌な予感がした、その予感は直後の報告で的中することとなる。

 

『た、ターミナルドグマからATフィールドの発生を確認!!』

『なんだと!?』

 

 描写を発令所に移そう。

 全員が焦っていた。

 突然ターミナルドグマ、つまりリリス、偽装としてアダムと呼称されている使徒が安置されている場所からATフィールドの発生が確認されたのだ。

 実際のところ、魂のシンジがロンギヌスの槍を引き抜くためにATフィールドを使っているのだが。

 

「ヘブンズドアが開かれているのか!?」

「ぜ、全隔壁、最終安全装置はロックされたままです!」

「三上シンジだろうな」

 

 ゲンドウの言葉に全員がまさかと思うが、やりかねないというある意味の信頼感はあった。

 ゲンドウに、冬月が食って掛かる。

 

「碇! 奴は何をする気だ!!」

「あそこには何があると思う、冬月」

「……ロンギヌスの槍か!? 奴はそこまで知っていると!?」

「知っているから行ったのだろう……最終安全装置、および全隔壁を開放しろ」

「ぜ、全隔壁を、ですか!?」

 

 ミサトはゲンドウの指示に驚く。

 全隔壁の解除、つまりはターミナルドグマまでの道を開放するという行為だ。

 万が一も考えられるが、ゲンドウは叫ぶ。

 

「早くしろ。ヤツなら隔壁を破壊しながら来るぞ」

「……シンジくんならやりかねないわね、はっきりわかんだね」

『おっ、そうだな』

 

 リツコの言葉に、冬月を除くその場にいた全員が同意した。

 ちなみにシンジはマジで隔壁を破壊していこうと思っていたので、ファインプレーだったりする。

 それを聞いていたアスカたちは聞き返す。

 

『……シンジが、また動いてるの?』

「おそらく、はね?」

『…………ふっざけんな』

 

 その一言と共に、活動をほぼ停止していた弐号機の目が光る。

 頭部、及び顎の拘束具が弾け飛び、シンクロ率も100%を超える。

 

「あ、アスカ!?」

『ママもそうよね、怒ってるわよね。自分が不甲斐ないってさ……何、俯いてんのよ、役立たず! 綾波! 全部見たわよ、あんたたちの過去! 辛いわよね、苦しいよね、でもここで動かなかったらまたシンジが頑張るだけよ!!』

 

 アスカは感じ取っていた。

 弐号機が、母親が怒っていると。不甲斐なくて、娘を守れなくて悲しんでいる。

 そしてまたシンジに助けられたことに申し訳なさを感じとっていた。

 アスカの叱咤に、綾波が反応する。

 

『……私は』

『色々聞きたいことはあるけど、今はクヨクヨすんな! あんたはどうしたいの!!』

 

 私がどうしたい? と綾波は操縦桿を握りしめた。

 悲しかった、苦しかった、見たくはなかった、だけど悲しい気持ちよりも大きい気持ちが綾波の中に出来ていた。

 嫉妬? 違う、もっと深くて単純な感情だと綾波は思うがわからない。

 

『あんたはあいつに怒ってないの!?』

『……ッ!!』

 

 綾波はアスカの言葉で自分の中にある感情がわかった。

 これが怒り、自覚すれば綾波の中で怒りの感情がメラメラと沸き立つ。

 綾波は何度も操縦桿に拳を叩きつけて怒りを顕にする。

 綾波とシンクロしている零号機は、目の前のビルに拳を叩きつけて倒壊させていた。

 

『アスカ、これが怒りなのね』

『そ、そうよ……こっわ』

 

 綾波は自覚した気持ちを伝えるが、アスカは綾波の行動を見てやべーやつだと思っていた。

 ただ一人何も言わないレイであったが、通信を切ると初号機に語りかけるように言う。

 

「母さん、あんたが何考えてこれ(初号機)に消えたのか、わからないよ。僕が大事だってシンジは言ってたけど、母さんは僕よりも世界が大事だったんだよね」

 

 レイの言葉に、初号機が震える。

 違うと叫びたかったが、現状ではそのとおりだった。

 大事なら傍にいてあげればよかったのだから、ユイの選択肢で世界がとんでもないことになったのはシンジの記憶からもう見ていたことだった。

 

「別にいいさ、シンジがいるからもう寂しくはない。プールだってシンジと一緒に行くよ……でもさ、母さん、力貸してよ、あいつに一発入れなきゃ気がすまないし、シンジに頼ってばかりだと申し訳ないよ!」

 

 レイの声に呼応した初号機の顎の拘束具がいつもどおり破砕される。

 整備班はそれを見て、もう直さないでおこうと心に決めた。

 初号機から叫び声が上がり、付近のビルのガラスがビリビリと震えて全てが粉砕される。

 マヤは三機のシンクロ率が100%を超えていることに驚いた。

 三機はポジトロンライフルを持つ。

 固定用のビルではなくATフィールドを使い、ライフルを固定していた。

 

『タイミングを合わせて、三機分の陽電子をやつにぶつけるわよ』

『わかったわ』

『ヘマしないでよ』

 

 アスカの言葉に、二人が答える。

 三人とも狙撃用のバイザーをつける。

 使徒の高度は下がっていた。シンジに精神を攻撃された影響で向こうも混乱していたのだった。

 オペレーターがオペレートしようとしたが、ミサトはそれを止める。

 

「あの子達に任せましょう」

 

 その一言に、オペレーターたちは苦笑しながらも了解と返す。

 三人は照準を合わせるとなんの掛け声もなく、同時にポジトロンライフルの引き金を引く。

 弐号機のウェポンラックが開き、内部に仕込まれていたATフィールド制御補助装置が起動する。

 アスカが放った陽電子にATフィールドが張り付き、そのまま向かう。

 初号機と零号機が放った陽電子は使徒のATフィールドに阻まれるが、弐号機の陽電子は張り付いたATフィールドにより、使徒のATフィールドに干渉する。

 そのままドリルのような形をATフィールドがとり、使徒のATフィールドを徐々に削っていく。

 その時、開放された隔壁からロンギヌスの槍が浮いてきた。

 シンジははるか空の上の使徒を視認していた。

 そのままATフィールドを弓のような形に変えて引き絞る。

 二又に分かれていた槍の先端が、まるで意思を持つかのごとく動き、先端を鋭く尖った一対に変化させる。

 シンジはそのままATフィールドを開放し、ロンギヌスの槍を放つ。

 赤い閃光となった槍が使徒をめがけて飛んでいく。

 槍がATフィールドに干渉すると、先に干渉していたアスカのATフィールドが自分が先だと言わんばかりにロンギヌスの槍より前に出て使徒の体を貫く。

 使徒の体を貫いた陽電子とアスカのATフィールドが使徒の体を消し飛ばす。

 ロンギヌスの槍はそのまま月へと向かい、月面に深く突き刺さった。

 

 

 

 

「……ロンギヌスは行ってしまったよ」

『ロスト・チルドレンはいるのか?』

「リリンには見えないだろうけどいるよ」

 

 ビルの屋上、そこに立ちながら状況を見ていた少年、カヲルは報告する。

 

『魂のみですら活動できるとは、神になりきれなかったことが悔やまれるな』

「そうだね、彼がその選択肢をすれば楽だったのかもしれない」

 

 よっしゃ!! とガッツポーズをする弐号機を優しく見届けたシンジの魂が消える。

 カヲルはそれを見届けて、つまらなそうに言う。

 

「だけど彼は肉の体に固執してるよ。君たちの期待には応えられない」

『随分と嫌っているな』

 

 電話の相手、キールの言葉にカヲルは驚くが否定する。

 

「嫌う? 僕は嫌いじゃないよリリンのことを」

『……まぁよい、頼んだぞ、タブリス」

 

 キールは電話を切る。

 カヲルは眉をひそめながら、初号機を見る。

 

「嫌う? いいやどうでもいいんだよ、僕は」

 

 だがカヲルは気づかない。

 自分がどんな表情をしているのか気づいてはいない。

 苦々しそうな表情で、シンジがいた場所を睨む彼は、間違いなく嫌っているとわかる表情であった。

 

 

 




使徒的には人間の精神へし折るの簡単やん! よっしゃ早く終わらせてサードインパクト起こすかと入り込んできたシンジを迎撃しようとしてやったらブチ切れられて、逆に自分の精神ボロボロにされた模様。アダム側のガフの扉で、レリエルくんが「バカじゃねえの」と草生やしてる模様。
ちなみに三人ですが、自分の忘れてた記憶やらシンジへの罪悪感などを見せられたけどてめえざけんなと怒りでトラウマとか塗りつぶした模様。またメンタルクリニック使徒ですよ、これは名医ですね、間違いない。
あとごめんなさい、毎日更新は無理なので一日置き更新に変更します。最近ちょっと更新速度遅くなって本当に申し訳ない。ハッピーエンド目指して頑張るからよ、だからよ……止まるんじゃねえぞ。

ほんへ完結後、ifストーリーやその後の話とか見たい?

  • いいゾ~これ(両方ともIKEA)
  • (ifストーリーだけ)INしてください?
  • (その後の話だけ)はい、よういスタート
  • どうしてやる必要あるんですか?(現場猫)

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