機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis 作:砂上八湖
宜しくお願い致します。
ただ、2度の攻撃。
それだけで24層もある特殊装甲が全て損壊し、ジオフロントへ通じる巨大な通行口がこじ開けられる。
第1作戦指揮所に警報が激しく鳴り響き、オペレーター達の発する嵐のような被害報告と状況確認と混ざりあう。
その中からひときわ鋭い声が、この場にいる全ての人間の耳へと突き刺さる。
「目標、損壊部分より降下開始!
まっすぐジオフロントへ向かってきますッ!」
正面にある巨大なモニターに、リアルタイムCGで構築された現状が表示される。【第14使徒】と表示された巨大な物体が、抉り抜かれた穴から静かに沈降してきていた。
いや──ジオフロント内の人間からしてみれば、沈降ではなく降臨と呼ぶべきか。
使徒と呼ばれる『それ』の侵入は、正に『破滅の降臨』を意味する。
モニターを見る全ての人間の脳髄に、生暖かくも冷たい「何か」が蠢動した。
◆
NERV本部施設周辺に設置してある対空迎撃システムが半自動的に稼働する。
戦艦の主砲や巡洋艦の速射砲を流用した固定砲陣地群や、垂直発射式の地対空誘導ミサイルのサイロ、MLRS(多連装ロケットシステム)などが、次々と地下格納庫からリフトで運ばれ、ジオフロント内に展開されていく。
破砕を免れた天井部分に、緊急格納された直下収納懸架式の武装ビル群が役割を果たすべく次々と擬態を解いた。
そしてそれら無数の矛先が、ただ一点に向けて旋回する。
天に大きく穿たれた、天使の爪痕へ。
一瞬だけ訪れる静寂。
その偽りの静謐を保ちつつ──異形の天使が無音のまま、ついにその姿を表した。
「砲打撃戦、始めッ!」
使徒の姿が確認された瞬間、作戦部長の号令と同時に、迎撃システムの全てが火を吹いた。
3連装の40センチ主砲8基が轟音をあげて火を吹くと、震動と爆熱と黒煙を同時に周囲へ撒き散らす。
30基近く配備された127ミリ速射砲が、重く低い射撃音と共に数万発の空薬莢を地面に吐き出していく。
撃ち放たれたミサイルが火線の狭間を縫うように吶喊し、使徒の真下から襲い掛かる。
無数に設置された12連装発射管から、227ミリロケット弾が、まるで天に向かって落ちる雨のように使徒へと向かって降り注ぐ。
武装ビルに内装されていた120ミリ
40センチ砲弾が直撃する。
数万発の鋼鉄の塊が、超音速で巨体に突き刺さる。
死角からミサイルが命中し、炎と高熱が炸裂する。
全周囲から降り注ぐ爆砕の雨が天使の体を打ちつける。
赤熱する運動エネルギーと膨大な熱量を伴った光圧が、ただ純粋な破壊を贈呈する。
巻き起こる爆発。
オレンジ色に閃く爆炎。
焦げる空気。
轟音。
爆煙。
衝撃。
熱波。
それが何度も、何度も、何度もジオフロントを大きく揺さぶった。
──だが。
黒煙の中から「光」が
戦艦主砲群が赤熱した次の瞬間。
爆発にも似た熱エネルギーの潮流に、それらは一瞬で融解し、瞬時に蒸発した。
吹き上がる爆光が
まるで「これが天罰だ」といわんばかりに。
やがてゆっくりと地表へ降下する煙の中から、神の御使いが姿を現した。
その巨躯に傷付いた様子はない。
使徒ならば例外なく有する隔絶の壁。
絶対的な恐怖よって総てを拒絶する防御手段。
ATフィールド。
強固な『盾』が天使を守護している限り、物理的な手段で使徒に打撃を加える事はできないのだ。
そして、再び容赦のない無慈悲な光が
速射砲陣地は高熱と光爆の中に消え。
ミサイル発射筒は制御施設ごと粉々に砕かれ。
MLRS群は熱の奔流と衝撃波によってバラバラに引き千切られ。
武装ビル群は溶融しながら粉砕されて地表に降り注ぎ、一部で火災をもたらした。
まさに一瞬。
まるで無力。
小国が保有する全軍事力にも匹敵する兵装の火力が、ものの2~3秒しか足止めできない。
しかし──彼女にとって、その『数秒』で十分すぎた。
「なめんじゃないわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」
あれほどの大火力を受けてもビクともしない堅牢なATフィールドが、いとも容易く中和される。
驚いたように使徒の体が身じろいだ。
両腕とおぼしき平らな触手が反応する間も無く──何者かによって投擲され、極音速で飛来したソニックグレイヴが、使徒の右目と思われる部分に深々と突き刺さる。
攻撃中の隙を完全に突いた形だ。
突き立てられた形ある衝撃は、使徒の浮遊バランスを崩すに十分過ぎた。
ぐらついた巨体は、そのままジオフロントの大地へと倒れ込む。
そこへ前傾姿勢のまま両腕を水平に保持し、空気を刈り取るような鋭い疾駆でもって走り寄る赤い影。
汎用ヒト型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン弐号機。
その左右の手にはスマッシュホークが二振り。
「こんのおおおおおぉぉぉぉぉっ!」
エントリープラグの中で、赤い少女が操縦レバーを引き絞り、イメージした動きをA10神経へダイレクトに伝達する。
戦闘機を追い越してしまいそうな速度で駆ける弐号機の身体が「ずぐんっ」と更に沈み込む。
そしてトップスピードを維持したまま跳躍し、鋭い放物線を描いて宙を舞う。
延長接続されたアンビリカル・ケーブルが、その動きに吊り上げられて大きく波打った。
倒れた姿勢のままで使徒が動く。
身をよじらせながら、残された左の眼窩から光を連続で撃ち放つ。
大地がえぐられ、NERV本部施設の一部を砕き、ジオフロントの外殻に高エネルギーが炸裂して穴を穿つ。
そこでようやくケーブルを切断させたものの、光線は一条たりとも弐号機そのものを捉えられない。
エントリープラグ内で活動限界を報せるカウントダウンが始まる。
パイロットの少女は、それを見向きもしない。
その間にも高速で降下する赤い残像──弐号機──が鋭利な矢と化した。
はじかれた様に上体を起こした使徒が、薄く折り畳まれていた両腕を展開して迎撃する。
「ハンッ!」
しかし弐号機パイロットは──惣流・アスカ・ラングレーは、その反応を鼻で笑う。
堅固なATフィールドを中和されッ、
一番強力な光学攻撃も命中せずッ、
体勢すらまともに立て直せないアンタなんかのッ、
うろたえ弾みたいな攻撃が、このあたしにッッ!
「通じるもんかあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
スマッシュホークを握る両腕が動く。
白テープ状の触手が、アスカの左右から
大気を切り裂かんばかりに攻めるその先端へ、真正面から2つの斧を叩き込む。
いや、ただ叩き込んだのではない。
まるで竹を真っ直ぐ割るかの如く、そのまま触手を……
使徒の両腕を切り裂きながら下降していくではないか。
裂断箇所から激しく吹き上がる茜色の火花。
まるでジェットコースターのレール上を疾走しているかのようだ。
その白いレールの先にあるは、この腕の持ち主である【第14使徒】。
虚ろに広がる左眼の闇に光が灯る。
光射攻撃。
腕を封じられた今、それが残された最後の攻撃手段。
「甘いッ!!」
左肩のウェポンラックが展開する。即座に連射されるニードルガン。
空中にバラ撒かれた薬莢が後方へと吸い込まれていく。
福音がもたらす7つの聖釘は、いま攻撃を放たんとしていた天使の左目を寸分違わず刺し潰す。
等しく死を与えるはずの光が消え失せて、再び使徒の眼窩に闇が戻る。
身をよじり、使徒が無音の悲鳴をあげた。
──そして。
弐号機はついに使徒へと到達する。
巨大な体躯を刺し貫くように踏みつけると、その衝撃は大地へと突き抜けた。
地面が断末魔をあげて割れ、
絶望の象徴のようにへこみ、
天地を
それら全てが尽く破砕されていく。
スマッシュホークは降下した勢いのまま使徒の両腕を斬り抜いて、両肩をも両断した。青黒い体液が吹き上がり、斧を、弐号機を、そして地面を不気味な色彩に染め上げる。
「トドメッ!!」
2本の斧を手放すと、突き刺さったままになっていたソニックグレイヴを引き抜いた。
傷口から青い血が飛び出すが、槍の穂先は汚れていない。
刀身が超高速振動しているためだ。
眼下には使徒の弱点である「赤いコア」がある。
これを破壊すればアスカの、人間側の勝利。
今までの戦闘経験がそれを証明して入る。
ふと、アスカの脳裏にいくつもの顔がよぎった。
知っている顔。
二度と会えない顔。
親しい顔。
嫌な顔。だけど──脳裏から離れない身近な顔。
(ファーストは重傷、零号機も片腕が無い。
バカシンジは司令を、なにより自分自身を許せなくてEVAに乗るのを止めた。
ここを抜かれたら加持さんや、ミサト達に逃げ場はない。
……だったら……ッ)
「だったらッ!」
スロットルを引き絞り、槍をつかんだ両手が振り上げられる。
「あたしがッ、シンジ達を護るしかないじゃないッ!!」
アスカの叫びに魂が宿り。
轟ッ、と。
ソニックグレイヴの刺突が、刃先の空気を押し潰す。
赤いコアに遮蔽板が覆いかぶさり、槍の尖撃を防御しようと足掻く。
しかし渾身の一撃は、それを易々と。
深々と貫いた。
自身の想いが、魂が、願いが、そんなもので防げるはずがないと言わんばかりに。
そして遮蔽板が砕け散り、
真紅のコアが露出して──
初日は2話を連投します。
翌日からは1話ずつ投稿いたします。
読んでいただきありがとうございます。