機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis   作:砂上八湖

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「私はどんな悪役ムーブが似合いそうかね?」
「議長って暗い部屋の中で1人チェスとかしてそうな顔してますよね」
「人を見かけで判断するなー!!」
(チェス盤でシンの頭を激しく殴打する)


Paradigm-shift①

 

 アスカはしばらくの逡巡の後、大人しく武装解除の勧告を受け入れる事にした。

 確かに正体不明の戦艦や機体によって包囲され、銃口や砲口を向けられている。

 しかしATフィールドと1万2千層の特殊装甲を併せ持ち、さらに『活動限界』という枷から解き 放たれた弐号機にかかれば、彼らを全滅させる事など容易いだろう。

 

 だがその後は?

 

 確かに、弐号機は外部電源を必要としなくなった。

 モニターに表示される活動限界が1万年を突破した時点で、アスカは演算処理を中断させている。

 おそらく、半永久的に活動できるようになったのだろう。

 如何なる規模の軍隊や兵器が襲いかかろうとも、戦い続け、撃退する事も可能なはずだ。

 

 ところがパイロットのアスカは生身の人間のままなのである。

 

 日々の食事や衛生管理、弐号機のメンテナンスやLCLの交換だって必要だ。どことも知れない世界や集団を相手に、 たった1人で生きていくのは不可能に近い。

 なにより風呂に入れないのは、女性としてもっとも憂慮すべき事態である。

 いま一番必要なものをアスカは冷静に導き出す。

 

 それは「衣」「食」「住」と、なによりも「情報」だ。

 

 とにかく今は状況を把握し、安全を確保しなければならない。

 彼女の性格からして『降伏』という言葉に抵抗がないわけではなかったが、沸き起こる苛立ちを理性で押さえ込む。

 代わりに、正面モニターに映る青空を、アスカはきつく睨みつけた。

 

「あたしは、シンジたちがいる世界に帰るんだ」

 

 必ず帰って──シンジを守らなくては。

 その想いが、彼女を冷静にさせていた。

 A10神経を通じて弐号機の両腕を上げさせ、敵対する意思が無い事を示す。

 そしてエントリープラグ内のマイクを起動させ、外部スピーカーで勧告を受け入れる旨を伝えた。

 

「その代わり、降りるのを手伝ってもらえる?

 ちょーっと特殊な仕組みなのよね、このコクピット」

 

 聞こえてきた少女の声と不躾な要求。

 銃口を向けている人型ロボット達から、困惑する雰囲気が漏れ出していた。

 

 

「にわかには信じがたい話ね」

 

 戦艦ミネルヴァの艦長を務めるタリアは、アスカの説明を聞き終えると、実に率直な感想を口にした。

 

 その反応は当然だろう、とアスカは思う。

 

 自分がタリアの立場なら、まったく同じ事を述べたに違いない。

 それどころか誇大妄想の狂人と決め付けただろう。

 現在、アスカはプラグスーツのまま拘束されていた。

 両腕を後ろに回し、頑丈な電子手錠をかけられている。

 その上で、艦内にある営倉のような場所に閉じ込められ……扉越しに艦長直々の尋問を受けていた。

 虚偽の応答を吐こうにも、こちらの世界の事は何ひとつ分からない。

 下手な嘘が生命の危機に直結しかねないのだ。

 なので正直に事情を説明し、相手の反応を見てみることにした。

 

 その結果、幾つか分かった事がある。

 言語は基本的に英語が使用されており、使徒と違って意思の疎通が可能であること。

 空気や植物などの外的環境は、アスカのいた世界と大して変わっていないこと。

 この戦艦や人型機動兵器の技術力を見る限り、この世界の科学がかなり進歩しているであろうこと。

 そして──いま現在も、どこかの誰かと戦争状態にあるということ。

 

「けれど」

 

 タリアは副官から渡された報告書に再び目を通しながら、溜息をつく。

 

「この報告を読んだ以上、貴女の言葉を頭から否定することはできなさそうね」

 

 それは艦内に収容したEVA弐号機に関する、整備班からの調査報告書だった。

 

 エントリープラグ、LCLによる衝撃緩和などのパイロット保護、神経接続によるインターフェイス、 何層もの特殊装甲、肩部ウェポンラックに収納された武装の数々、事前にとられたアスカの証言と併せた 調査結果が長々と記してある。

 そのいずれも「ザフトはもちろん、連合の規格や技術ではない」と結論付けていた。

 何より驚くべきは、その構造とエンジンである。

 

「貴女は言ったわね、あの機体を汎用ヒト型決戦兵器……『人造人間』エヴァンゲリオンと」

 

 口にした言葉が震えたのをタリアは自覚した。

 

 そう。  装甲の下にあったのは機械の塊ではなく、有機構造体──人工的な「生体(アスカがリツコから聞いて いた限りでは『素体』と呼ぶそうだが)」だったのである。

 

 しかもスキャンした結果、モビルスーツのエンジンに相当する部位が見られなかったという。

 つまり、アレは『人が搭乗して操作する生命体』ということになるのだ。

 タリアもザフト軍に所属する身であるから当然「コーディネーター」である。

 だからこそ人並み以上の科学知識を理解できる頭脳を持ち合わせているつもりではいた。

 しかし、この報告にあるような技術などタリアは寡聞にして知らない。

 

 この惣流・アスカ・ラングレーと名乗った少女の「異世界から来た」という突飛な証言に、妙な説得力 が生まれてくるではないか。

 

 今まで抱えていた常識や観念が、根底からひっくり返された気分である。

 

「そう、その量産型モデルよ」

 

 扉に作られた小さな窓から、気の強そうな少女の声がはっきりと届く。

 報告書のまとめには「同じものを作ろうとしても、おそらく不可能と思われる」とあった。 コーディネーターたる整備技術の専門家が断言しているのだ(ただし、どうにか再現できそうなのがLCLのぐらいであるとも併記されていた。深海における研究や資源調査のための技術開発の過程で似たような物が生み出されていたらしい)

 

 そしてそれは間違いなく真実なのであろう。

 だとすれば、ザフトは量産型の機体ですら模倣できないことになる。

 今日に入って何度目かの溜息をタリアは漏した。

 

「分かりました。あなたの拘束を一時的に解きます」

 

「え、なッ。か、艦長ォッ!?」

 

 タリアの言葉に、後ろで控えていた若い副官が滑稽なまでにうろたえだす。

 護衛の兵士達にも軽くはない動揺が走った。

 これにはさすがのアスカも驚く。

 

「……あたしが言うのもなんなんだけど……いいの?

 そんなにあっさり捕虜の処遇を決めちゃって」

 

 太っ腹にもほどがあるんじゃない、という少女の言葉にタリアは苦笑を返してみせた。

 

「生憎、コーディネーターだから体重コントロールは完璧なのよ。飲み薬ひとつで、ね。

 だから、多少の太っ腹でも大丈夫」

 

「──ハッ、それはなんとも……いやいや待って待って、ちょっと本気で羨ましい世界じゃない、ここ?」

 

 日頃から体重計と睨み合っている少女からしてみたら、聞き捨てならない情報だった。

 元の世界に帰るときは1ダースくらい入手しておこう。

 密かな野望が花開く。

 

「何かあれば私が責任を取るわ。

 だから、できるだけ『何か』を起さないで頂戴ね?」

 

 オロオロする副官と、扉の向こうで悶々としているアスカへ向けて、タリアは静かに微笑んでみせる。

 

 悪い人間ではなさそうだ。

 思考に柔軟性もある。

 アスカは素直に感心する。

 ミサトやリツコとは違うタイプの女性、どこか包容力のある大人だった。

 ふと……脳裏に『母親』の姿がよぎる。

 懐かしき暖かさと、じくりと感じる心の痛み。

 彼女にも、子供はいるのだろうか。

 

「そのかわり、身柄と機体はザフト軍が預かるわ。

 今は作戦行動中なの、ごめんなさいね」

 

「いいわ。そちらの指示に従う。

 ネルフが無いんじゃ、他に頼るところも無いしね」

 

 タリアの言葉に、アスカも笑って返す。

 とりあえず衣食住は確保できそうだ。

 

(──あとは情報か)

 

 ここまでは順調だ。

 順調すぎて、少し怖くなったが……やるしか無い。

 扉のロックが開錠される軽快な電子音を耳にしながら、アスカは不安を決意へとシフトさせた。

 

 

 まったく違う思考をする人間になりきって、黒のビショップを動かした。

 白のポーンを排除し、陣地をさらに拡大させる。

 盤上の優勢が、一気に黒へと傾く。

 そして思考を自分のものに切り替える。

 

「ふむ」

 

 そうきたか、と対戦相手である『自分』の腕に感心してしまう。

 ここ数年でかなりの妙手だ。

『どう切り返したものか』と考えていると、卓上に設置したコードレスフォンが鳴り響いた。

 

「私だ」

 

 チェス盤に広げた思考を、頭の中へと畳み込む。

 回線を開いて報告を受ける彼の姿は、一片の曇りもなくプラント最高評議会議長のものであった。

 

「……分かった。

 報告書はこちらにも回してくれ、直接読みたい。

 ミネルヴァは近くの基地で待機するよう伝達を頼む。

 何があっても出撃は控えるように、と」

 

 指示し終えると、彼はゆっくり受話器を元の位置に戻す。

 

「そうか、ついにこの時が来たか」

 

 盤上を白と黒に二分する小さな世界を、彼は目を細めつつ睥睨した。

 机の上に飾っていた赤い小さなガラス細工を手にすると、そのままチェス盤の上へと乱入させる。

 半透明な赤色を輝かせ、ガラスの女神像が世界の色彩を変えてしまう。

 

「忘れられし白き月と黒き月──

 それらを呼び覚ます赤き女神は、果たしてどちらの未来を紡ぐのか……」

 

 盤上の三者は黙して語らない。

 もとより答など期待してはいなかったが。

 

「未来の旋律を奏でる奇跡の価値は、か。

 さて、それは人間にとって──いや、それとも……?」

 

 言葉遊びをするかのように、どこか楽しげな口調と表情で独り呟きを漏らす。

 再び電子音が鳴り響き、通信回線が接続を要求してきた。

 しかし男には──ギルバート・デュランダルには、それはどんな内容の通信なのか既に分かっていた。

 

「白き月からの使者、か」

 

 男性にしては細い指が白いキングを手に取ると、黒のビショップを鋭く弾き飛ばした。

 盤の外へと放り出されたビショップは、繰り返す無機質な旋律の中、踊るようにクルクルと回転し。

 

 そのまま床へと落下して、 ──粉々に砕け散った。

 

 

 




秘書「(破片を片付けて床を掃除するの私なんだから勘弁して欲しいなー……)」
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