機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis   作:砂上八湖

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よくよく考えるとシンさんも赤い軍服を着てるエリートなので、アスカという名字は、正に運命だったんですよ!




Paradigm-shift②

 

地球連合軍の管轄下にある軍事基地ヘールマイヤー。

 東アジア共和国の領海内にある小島に建設された小規模の施設である。

 主に各種広域レーダーによる防空システムと海上警備、そして通信中継基地としての(地味ではあるが、しかし軽視はできない)役割を与えられていた。

 

 だがユニウス・セブン落下による被害がもたらす環境的・地政学的な影響は予想以上に大きく、ザフト軍や親プラント国家群との戦争が激化しつつある現在、急ピッチで軍備の再編成が行なわれている。

 その中でも特に急がれていたのがレーダー網の再整備であった。

 それはここヘールマイヤー基地でも同様であり、それに伴う防衛部隊の増強や機能強化も同時に進められていた。

 

「なんだ、こりゃあ?」

 

 赴任したばかりのレーダー観測員が、間の抜けた声を上げる。

 最初にその異常を感知したのは防空システムの早期警戒レーダーだった。

 洋上に浮かべられた無数の観測機器の発するペンシル・ビーム(棒状の電子ビーム)が、常識では考えられない巨大な物体を探知したのである。

「どうした?」

「方位26ー9ー188ーB、高度3000に、恐ろしくデカイ飛行物体が急に現れたんだが……」

 

 同僚の問い掛けに、観測員が検出された探査報告を読み上げてみせた。

 

「デカイって……戦艦クラスか?」

 

「いや、なんというか、モニターいっぱいに広がってるんだ」

 

 驚いていいのか困惑していいのか、それとも笑っていいののか──どうしたらいいのかまるで 分からないといった表情を観測員は浮かべている。

 そんな表情を向けられた方は眉間にシワを寄せて、怪訝な表情を浮かべ返すしかない。

 

「レーダー撹乱……チャフの類か?

 だとすると敵部隊が近付いてるんじゃないか?」

 

 声に緊張を含ませて問い質すが、返って来たのは何とも煮え切らない唸り声だけだった。

 

「分からん、分からねぇ。

 こんな反応は初めてだ……」

 

「クソッ、頼むぜ相棒……」

 

 レーダー観測画面を前に呆然とする頼りない観測員を無視して、同僚は基地内に通じる回線を開こうとコンソールに手を伸ばした。

 敵の攻撃に備え、この観測室は地下深くに作られている。ここからでは外を確認する事が出来ないのだ。

 ヘールマイヤーは小規模な基地とはいえ、偵察機やMSを飛ばすための滑走路が整備されている。

 当然ながら、それらの航空管制をするための指令塔もある。その航空管制塔から肉眼で確認してもらおうと考えたのだ。

 ところがそこへ、その航空管制塔から緊急コードの通信が入ったではないか。

 その嘘みたいなタイミングに驚きと嫌な予感を感じはしたものの、すぐに回線を開いてインカムに声を飛ばした。

 

「どうした?

 今ちょうどそっちへ確認をしてもらおうと……」

 

『こちら管制塔だ!

 真っ昼間から、ありゃあ何の冗談だっ!?

 防空レーダーは何を見てたんだ!?』

 

 マイクが声を拾うよりも早く、怒鳴り声がヘッドホンを突き抜けて耳の奥を叩く。

 脳がデジタルに変換された金属音に反響して意識を揺さぶるが、次の言葉で我へと返る。

 

『とてつもなく大きな……鏡みたいなデケぇ円盤が飛んできてるッ!

 ザフトの新兵器か何かか、アレは!?』

 

「なっ……!?」

 

 振り返ってレーダー観測員を見る。

 その報告をインカムを通じて聞いていたのか、彼もまた驚愕と不安が複雑に混ざりあった表情を浮かべていた。

 彼らはそろってインカムを床へと投げ捨てると、観測室を飛び出した。

 エレベーターではなく、全力で階段を駆け上がり外に出る。潮の香りに満ちた空気が、肩を上下させる2人の鼻腔を刺激した。

 

「何も見えないじゃないか」

 

 反応のあった方角を見ながら、抗議の声をあげる。

 青い空と白い雲しか見えない。

 ──いや、違う。

 青く広がる空間の中で、キラキラと反射するアレはなんだ。

 水平線とは違う、空の中に浮かび上がる『線』のようなものはなんなのか。

 

「うわ」

 

 観測員が小さな悲鳴をあげた。

 ゆっくりと『それ』が近付くにつれ、空中に浮かぶ『線』でしかなかったものに少しずつ『平面』が生まれ──やがて全体像が見えてきた。

 

 巨大な。

 それは途方もなく馬鹿みたいに巨大な、

 そして非常に薄い『銀色の円盤』だった。

 

 今はもう時代遅れとなってしまった記録媒体、CD-ROMに似ていた。

 だが、スケールが違いすぎる。

 違いすぎるという認識すら超越していた。

 半径だけで十数キロメートルはあるだろうか。

 高度3000という位置を保持し続けながら、首を大きく左右に動かして見なければ、その全体を視界に収める事が出来ないほどである。

 中心には小さな穴が開いており、小さな赤い球体が浮かんでいた。

 小さいとはいえ、それでも直径は数百メートルもありそうだが。

 

 短い間隔で重く古い鐘を鳴らすような低音が、周囲の空気を、祝福するかのように──もしくは威圧をするかのように振動させている。

 それが円盤全体が鳴らしているのか、球体から発せられているのかまでは定かでない。

 しかし何より特筆すべきは、その円盤の全体が1枚の鏡のようになっていることだった。

 上方向の面に降り注ぐ太陽光が光の平原であるかの如く反射し、まるで天使の輪のような光の残影を作り出している。

 

「おお……」

 

 見上げる2人の視界に、円盤が映し出す海面が広がっていく。

 なんとも不思議な光景だった。

 まるで海の一部が切り取られ、空中に浮かべられているようである。

 

「すげえ」

 

 我を忘れて、思わず感嘆の呻き声が喉から漏れた。

 その声は観測員のものだったのか、それとも自分のものであったか。

 航空管制塔にいる兵士も、外で作業をしていた整備兵達も、配備されていたMS(モビルスーツ)に乗り込もうとしていたパイロット達も、そこにいる誰も彼もが言葉を失い、唖然とした表情で円盤を見上げていた。

 

 天使だ、と誰かが呟いた。

 それはかつて彼らの歴史から失われた宗教的な存在。

 

 まるでその言葉に反応したかのように、

 しかし賛同の声が上がるよりも早く、

 銀の円盤が蠢動する。

 

 銀盤の表面に小波(さざなみ)が生まれる。

 それは数十億枚はあろうかという正方形の鱗が、ぞわりと蠢いたようにも見えた。

 その蠢きが瞬時に全体へ伝播すると、中心にある『穴』が形状を変える。

 赤い球体を中心に据えたまま穴が一瞬で拡大した。同時内縁部に沿って鏡の壁が上下にせり出してそびえ立つ。

 その鏡の壁に、中央の穴に、太陽の光が激しく反射して明滅する。

 そこに神々しく耀《かがや》く円筒形の残像が見えたような気がしたが、それも瞬きをする一瞬の間だけだった。

 

 光は尚も反射を続け、

 指向性を持たされ、

 光が収束し、

 鏡壁を上を滑るように走り出し、

 軌跡は残像を生じさせ、

 

 やがて1つの『光輪』を作り出す。

 

 まるで光が『練り上げられた』かのように。

 

 その光輪は膨大な熱を生み出し、空気を暖め、気流を発生させ、風に雄叫びを上げさせた。

 

「あれは」

 

 まぶしさに目を眩ませながら呻いた声は、風の音に掻き消された。

 

 そして次の瞬間、巨大な光の輪が彼らの頭上から奉げられ──

 数十万度に達する熱エネルギーの直撃は、ヘールマイヤー基地はもちろん、そこに存在する全てを瞬時に『沸騰』させた。

 それは島全体と周囲の海水を無秩序に巻き込んで、刹那の後には跡形もなく『蒸発』させてしまう。

 ほぼ同時に膨大な熱量が大規模な水蒸気爆発を引き起こし、途方もなく巨大な水柱を吹き上げさせた。

 それでも高く舞い上がった大量の水飛沫は、高度3000メートルの真上に鎮座する円盤を濡らすことなく──

 太陽光線を受けて命の煌めきのように輝き──

 物理法則に従った軌道を描いて、やがて風に吹き散らかされていく。

 

 最初の形態に姿を戻した巨大で薄い円盤は、何事も無かったかのように悠々と進行を再開した。

 

 第参使徒「ウリエル」の襲来である。

 

 

 




太陽を司る天使でもあります。
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