機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis 作:砂上八湖
……今夜は俺とお前でダブルアスカだからな」
「……まあ、確かにダブルライダーキックしたことあるけど」
◆
弐号機に施されていた物理的拘束が解かれることになった。
本来は貨物の固定や牽引に使われるワイヤーで何重にも巻かれた上、片膝立ちの状態でハンガー内に固定されていたのだ。
(起動してしまいさえすれば、その程度の拘束具など無いも同然なのだが)
それがクレーンや整備兵の手によって次々と解除・解放されていく。
「いいのかよ、もう拘束を解いちまって」
真紅の機体を見上げながら、シン・アスカはすぐ傍にいた整備兵に尋ねた。
やや不機嫌な口調である。
この決定に不服があるのだろう。
それにしては、自分を含めた総ての物に不満があるような言い方である。
「まぁ艦長命令だしな。
それに、別にこの機体そのものを拘束する意味もあんまりねぇし。
ホラ、例の細長いコクピットがないと動かないだろ?
だからアレさえ押さえておけば、こちらも管理が簡単なんだよ」
整備兵のヴィーノは苦笑いを浮かべながら、友人の不満へ律儀に理由を返す。
ミネルヴァのクルーは訓練航行もなく、いきなり実戦へ身を投じた者ばかりである。出撃自体も緊急を要する出撃であったため、十分な数のクルーがそろっていない。
つまりミネルヴァは慢性的な『錬度不足』と『人手不足』の二重苦に陥っているのだ。
いくら武装のほとんどが
「ああもう。シンったらこんなところでサボってる!」
「艦長からパイロット招集命令が出た」
それでも不満をこぼそうとするシンの背後から、男女の声が重ねて掛けられる。
「……サボってるわけじゃない」
ふてくされるようにシンが振り返ると、パイロット仲間であるレイとルナマリアが近付いてきた。
ザフト軍の中でもエリートと呼ばれる赤い軍服が整備ドッグの中で映える。まだ年齢も経験も浅い整備兵などは、羨望の眼差しでシン達に視線を送ったりしている。
とりあえず不満の矛先が他方へそれてくれた事にヴィーノは感謝しつつ、自分の作業へと戻っていく。
「ヴィーノ、悪いが俺達のMSの整備も急いでくれ」
そんな彼に向けて、珍しくレイの方から語りかける。
滅多にない状況に驚きつつも、プロらしく細かい事は聞き返さない。
背中を向けて作業しながら「分かった、任せろ」と親指を立てた。
MSの整備、という言葉を聞いたシンは眉間にシワを寄せる。
「なにかあったのか?」
声が自然と硬くなった。
「艦長に呼ばれたのも、どうもその辺に関係するらしいわ。
チラッと小耳に挟んだんだけど、連合軍の基地が何者かに襲撃されたらしいの」
「……敵の基地が襲われたんだろ?
別におかしなことはないじゃないか」
そんな同僚の言葉に、ルナマリアは右手を顔に添え、わざとらしく溜息を付いてみせる。
ザフト軍とザフト支援国家群は、連合勢力と敵対関係にある。
その『ザフト軍』であるルナマリアが、あえて「何者か」とボカして表現した意味を、チームメンバーは汲み取ってくれなかった様だ。
彼女の態度を前にしたシンが不機嫌さを加速させる前に、絶妙のタイミングでレイが助け舟を出す。
「問題は、これを襲撃したのが『何者』なのか分かっていない部分だ」
「つまり──攻撃したのはザフトじゃないってことか?」
「少なくとも、この近辺に展開してる部隊じゃないわね」
ようやく事態を飲み込んだシンの言葉に、ルナマリアは真剣な表情で頷いた。このタイミングで中立国がザフト側として(宣戦布告やザフト側に何の通達もなく)軍を動かすとは考え辛い。
「さらに付け加えると……
今から2時間ほど前、偵察任務にあたっていた
シンの顔に緊張が走る。
事前に報告を耳にしていたルナマリアでさえ、レイの言葉に思わず息を呑んだ。
「連合でもザフトでもない『第3者』による攻撃だ」
◆
艦長室で3人を待っていたのはタリアだけではなかった。
「紹介するわ。
こちら、あの赤い機体──エヴァンゲリオンのパイロット、アスカさんよ」
「惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしくね」
浅黄色のワンピースを着込んだ少女は、腰に両手を当てながら自己紹介をする。
友好的に接しようとしながらも、口調に潜むどこか不遜な態度。
アスカの性格が、このセリフひとつに凝縮されているといって良かった。
それに反感を覚えたのだろう、一瞬にしてシンの表情が険しくなる。オーブの代表に対し、感情の赴くまま(自身の立場を弁えず!)暴言を吐いたときと同じ顔である。
(これはまずい!)
ルナマリアは直感で悟った。
ここに彼女がいるということは『協力をとりつけた何らかの協定が結ばれている』ということに他ならない。
本来なら彼女の姿を視認した段階で、エリートパイロットである自分達は察しなければならないのだ。
そこにはタリア艦長の負うべき『責任』が介在していることも。
ここで
「あ、わ、私はルナマリア。ルナマリア・ホークよ。
赤く塗装してあるガナー・ザクウォーリアのパイロットよ。
よろしく! あっは、あはははは!」
何とか穏便な流れへとフォローするために、わざとらしく大声で自己紹介してみせる。
取り返しのつかない失態を犯すぐらいなら、ピエロになって胃に穴を開けた方がマシなのだ。
「ああ。アンタが、あの赤いロボットの──ザク?とかいうヤツのパイロットなのね」
自分と同じ『赤』がパーソナルカラーとなっている機体に親近感を覚えてのだろうか。
アスカがルナマリアに対して向ける口調から、高圧的なものが薄らいだ。
ここまでくると、シンが口を出すタイミングが完全に削がれた格好になる。
暴走の発露を食い止められたのを横目で確認し、ルナマリアは胸の中で安堵の溜め息を
「あ。てことは、このワンピースを貸してくれたのアンタの妹さんなんだ」
「あ~。どこかで見たことあると思ったら、それメイリンのだったんだ」
年齢が近いということもあるのか、アスカとルナマリアの距離は一気に縮まったようである。
そうした場の空気が弛緩したのを読んだのだろう、続けてレイが口を開く。
アスカの方を向きながら、模範的な軍人らしく姿勢を正す。
「レイ・ザ・バレルだ。白い機体──ザクファントムに搭乗している」
「レイ?」
名を聞くやいなや、アスカの片眉が大きく釣りあがった。
同じ名前の知り合いでもいるのだろうか。
反応から察するに、あまり『親密』で『良好』な関係ではないらしいが……
タリアは独特の緊張感に包まれた自己紹介の場を眺めつつ、そんな推測をしてみる。
アスカはしばらくレイをジロジロと眺めると、やがて「フンッ」と鼻を鳴らして胸をそらした。
「名前も同じなら雰囲気まで『優等生』と似てるのが癪だけど、まぁいい男じゃない」
加持さんには及ばないけどね! という(この世界の人間にとって)謎のボーダーラインが設定された。
高慢な態度は崩していないものの、どうやらレイを対等の存在として認識したようである。
そして。
4つの視線が残った1人へと注がれる。
思わず目をそらしそうになったが、ここで空気を読まなければどうなるかぐらい、シンにだって理解できた。
「……シン・アスカだ。インパルスガンダムに乗ってる」
渋々といった口調で淡々とした説明ではあったが、アスカの興味は確実に引くことができたようである。
「アスカ? アンタの
しかも同じEVAパイロットである
少なからず複雑な気分になりはしたが、近しい者の名前がこれほど集中しているのも不思議な
ちょっとだけ嬉しい偶然だった。
「好きで同じになったわけじゃない。
大体、人をいきなり『アンタ』と呼ぶような奴は好きじゃない」
しかし当のシンは、憮然としてアスカを睨みつけてきた。
正論ではあるのだろうが、いきなり国家元首に相当する人物に暴言を吐き散らした人物が正論を口にしても、まるで説得力が足りていない。
(へえ、シンジと違って根性はありそうじゃない)
対するアスカは暴言事件など知らないので、感心したように余裕のある笑みを返す。
それがかえって神経を逆なでしたのか、シンがさらに何かを言おうと口を開きかけた時、タリアがタイミングよく「パンッ」と手を打ち鳴らした。
シンの動きがピタリと止まり、全員の視線が艦長へと
集まる。
「緊張感あふれる刺激的な自己紹介、どうもありがとう。
でも、この辺でお開きにして頂戴。
そろそろ貴方たちを呼んだ理由を説明したいから」
ちなみに、この世界線でも『ナディア』での事件が起きています。
その時の証拠や資料や情報の多くが再構築戦争(第三次世界大戦)で消失してしまったため、今では不正確で都市伝説的な「オカルト話」としてしか残っていません。
それと劇場版ナディアでの事件も発生していますが、アニ○ージュ文庫版に準拠しています。
ロゴスという組織の原型を、ネオ・アトランティスの残党の子孫が作った……という裏設定が今作には存在してまして。
ただし世代を重ねたり外部からメンバーを招いたりしていく内に組織が持つ意味合いも変わってしまい、死の商人という側面のみが残ってしまった……という経緯があったりします。