機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis   作:砂上八湖

7 / 9
お待たせいたしました。

まずはザフト通常戦力による「俺のターン!」
なのでアスカ達の出番は後になる模様。


(2020/09/15)指摘された誤字を修正


Paradigm-shift⑤

 

 未知の敵性存在と対峙することになったザフト軍人達は、今日ほど己の「運の悪さ」というものを呪わずにはいられなかった。

 

「嘘だろクソッタレ、厚さ1ミリも無ぇのに航宙戦艦搭載クラスより強力な陽電子リフレクター積んでるとかマジかよ」

 

「宇宙人の侵略兵器って噂は本当なのか?」

 

「ビーム1発で洋上戦艦が丸ごと蒸発したらしいぞ」

 

「こんなSF映画みたいなことになるなんて……」

 

 出撃を命じられた戦闘攻撃機やMSのパイロット達は薄暗いブリーフィングルームで、配布された資料片手に愚痴や憶測や不安をささやき合っている。

 作戦計画の通達(ブリーフィング)前の緊張よりも、言葉通りの「未知なる敵」に対して混乱し、動揺し、気味悪がっているのだ。

 

 だがその静かな喧騒も、黒い軍服を身にまとった中年男性が数人の部下を後方に従えながらブリーフィングルームに入ってきたことで波を引くように収まっていく。

 ザフト軍サウスルチア基地の防空副司令であるゴンザレスだった。

 大きなモニタースクリーンが設置された壇上へ上がるなり、ジロリとパイロット達を睨む。鋭い視線に晒された彼らは、自分達が着席したままであるという事実に気が付き、慌てて起立して敬礼する。

 未知へ困惑するあまり、一時的に軍礼を失念してしまっていたのだ。

 

「おはよう諸君、着席してくれ」

 

 軍隊としての秩序が回復したことを確認すると、ゴンザレスは満足したように頷き着席を促した。

 

「配布した資料を見たのなら知っていると思うが、諸君らには非常に困難な任務についてもらうことになる」

 

 パイロット達に、改めて緊張が走る。

 特に若いパイロットなどは生唾を飲み込んだのか、喉を波打つように大きく上下させていた。

 

「最高評議会から、当基地を主体とした迎撃作戦が指示された。周辺基地との連携を図りつつ、目標の完全撃破を作戦目標とする。

 作戦の基本的な概要について、防空指令本部作戦課のネッドケリーより説明する」

 

 壇上傍に控えていた青服の青年に顔を向け頷くと、ゴンザレスは壇上に設置されたパイプ椅子へ腰を下ろす。

 入れ替わる形で壇上へ登った青年は、やや慣れない様子で敬礼をした。青服を着ていることから、作戦課の中でも作戦参謀任務に就く側ではなく、参謀幕僚の更に下……後方で作戦立案をする側の人間なのだろう。

 

「防空司令本部作戦課のネッドケリーです。

 これより本作戦の概要を説明致します」

 

 緊張しているのか、やや声が引き()っている。

 

「判明している目標に関する情報は配布資料のとおりですが……

 これまでの交戦記録と観測結果から、目標が発射する光線攻撃はビーム、いわゆる荷電粒子砲によるものではないと新たに判明しました」

 

「それは事実なのか? 基地ひとつを蒸発させたって聞くぜ?」

 

 パイロットの1人が、挙手しながら懐疑の声を浴びせる。その発言は想定していたものだったのだろう、手元の資料に目を向けることなくネッドケリーは(声は強張(こわば)っていたが)間を置かずに応答する。

 

「事実です。観測データによると、目標本体を構成する無数の鏡が変形し集光した『太陽光』を収束させ指向性を持たせて撃ち出す、純粋な熱エネルギー攻撃……熱光線であると考えられます」

 

 どよめきが走る。

 要するに「バカでかい集光加熱炉」に敵も味方も薙ぎ払われたことになるからだ。

 

 より正確に述べるなら、太陽光を集め収束させた熱の塊をATフィールドで形成したレールを通し指向性を持たせて射撃しているのだが──使徒やエヴァについて知識のないザフト軍にそこまで求めるのは酷であろう。

 ──タリアから上層部に報告書は提出されているはずなのだが。

 

 俺達は虫眼鏡に焼かれる蟻かよ……パイロットの誰かが自虐的なジョークを口にするが、誰も笑わなかった。

 というよりも実際に「焼かれて」甚大な被害が出ているのだから「笑えなかった」と言うべきか。

 

「ちょっと待ってちょうだい。

 観測班や科学分析班の努力は認めるけどね。

 熱光線だろうがビームだろうが、私達にとって撃ってくるものの正体なんて関係なくない?」

 

 結局は避けるか防ぐかなんだから、と女性パイロットが今の流れに込められた意図が読めないとばかりに口を挟んでくる。

 

「いえ、これは極めて重要な情報です。

 なにせ今作戦に関わる重要な要素なのですから」

 

 喋る内に緊張もほぐれ、舌も小慣れてきたのか、ネッドケリーは僅かに勿体振った言い回しを使い始めた。

 ややイラッときたパイロットもいたが、何人かの赤服パイロットの中には彼の言わんとする作戦内容にピンときたものもいたようで、思わず「あっ」と声を上げたりしていた。

 それを確認したネッドケリーは頷きながら説明を続ける。

 

「つまり、この物体の攻撃は太陽光がエネルギー源であり、太陽さえあれば理論上無限に撃てると同時に──

 太陽が出ていないと攻撃手段を失うという、極めて大きな弱点であるということを意味します」

 

「おおっ」と、どよめきが再びパイロット達の頭上でうねりを上げる。

 それは不安の中で希望を見出だした、声色の明るいうねりであった。

 

「ということは、夜間攻撃か」

 

「そういうことになります。

 気象観測班からの報告によると、明日以降1週間は昼夜を通じて晴れが続く予報です。

 目標は未知の存在であることも踏まえ、本来であれば作戦の成功率を上げるために十分な習熟訓練をしたいところではありますが……」

 

 ここでネッドケリーの表情が渋いものになる。

 

「目標は時速40キロメートルという低速ながら、ここサウスルチア基地へ向けて直進してきています。

 このまま何事もなければ3日後には基地直上に到達し──為す(すべ)なく我々は蒸発させられるでしょう」

 

 数十人の息を呑む音が重なり合う。

 

「そのため非常に不本意ながら、今作戦は明日の深夜……0000(マルマルマルマル)時に決行するようにと司令本部を通じ、評議会から通達がありました」

 

 元々の作戦案では、最低でも3日の習熟訓練をしてから実行というスケジュールを組んでいた。

 しかし、これ以上の基地機能の喪失は連合との戦争における戦線の維持やシーレーンの確保、そこからの兵站の確立が難しくなる事態を招くのは好ましくないという理由から(戦争は太平洋だけで行われているのではないのだ)、作戦の早期決行が望まれたのである。

 

 上層部からの命令であれば、兵士達にとって否やも無い。

 従うより他ないのだ。

 この基地や周辺の作戦地域に配属されていた兵士達は「運が悪かった」と己の不運さを呪わずにはいられなかった。

 

「では本作戦の具体的な戦略概要とタイムスケジュールを説明する」

 

 ネッドケリーからゴンザレス防空副司令へと壇上の主役が入れ替わり、スクリーンに作戦図が表示される。

 

「ただ今回は時間がない。連携を密とするためにも、この場で積極的な意見を述べることを許可する。その上で各隊との意思疏通を図って欲しい」

 

「了解であります副司令殿。

 宇宙人の侵略船を叩き落としたら、糞鏡(ファッキンミラー)で記念メダルを作って進呈するであります」

 

 戦闘攻撃機のエースパイロットが軽口を飛ばすと、緊張した面持ちだった兵士達の空気も弛緩したものになり、笑い声が幾つか上がる。

 

「頼んだぞ」

 

 ゴンザレスが返したのはユーモアではなく、重い──重い言葉と眼差しだった。

 笑い声が一瞬で沈静化する。

 40歳を過ぎ、厳ついながらもユーモアを理解している軍人の表情は険しく真剣なものであった。

 

「頼む」

 

 その短い言葉に、どれ程の複雑な感情や想いが込められているのか。如何程の希望や期待が織り込まれているのか。

 兵士達は大小の差こそあれど、それを感じ取り。

 皆、無言で一斉に敬礼で応えるのであった。

 

 

 軍に支給されている全てのイッテルビウム171光格子時計が、わずかな狂いもなく正確に00時00分を刻む。

 日付が「今日」から「明日」へと更新され、そしてそれは一瞬にして「今日」へと呼び名が変わる。

 

「ゴンザレス防空副司令、時間です」

 

 主席副官が作戦開始時間を報告する。

 サウスルチア基地の地下防空戦闘指揮所に置かれた作戦司令本部、その中枢にゴンザレスは各参謀達と共に座していた。

 

「宜しい、これより『オウルクロー作戦』を開始する」

 

「オウルクロー作戦、開始!」

 

「オウルクロー作戦、開始! MS・戦闘攻撃機の各隊は管制の指示に従い、順次発進せよ!」

 

「航宙駆逐艦アインローゼⅢ、モルトⅣ、周囲2キロメートルの空域に航行中の機体は確認されず! 直ちに発進してください!」

 

 大きく頷くゴンザレスの宣言を受けて、各隊に割り振られた通信兵やナビゲーター達が、矢継ぎ早に指示や方向を繰り出していく。

 

「衛星観測班、光学観測を開始します」

 

「超高高度警戒偵察機によるデータ収集開始、計器に問題なし」

 

「各通信、感度良好」

 

「目標、進路と速度に変化なし」

 

「洋上にて待機中の第254、268、330対空打撃分艦隊は第1次攻撃を開始してください!」

 

「カールナッハ海上基地、中距離弾道弾クロイスヘルツⅥを全弾発射! 弾着まで90秒!」

 

「各補給艦群は目標の推定射程距離外にて待機願います」

 

「海上警備艇の各梯団は、作戦区域に民間船舶や航空機が侵入しないよう厳重に警戒してください!!」

 

「リットン空軍基地より第41から57までの戦術爆撃機部隊が発進! 第1次精密爆撃開始は予定通り0040時になる模様!」

 

「続けて第2次精密爆撃の準備に入ってください!」

 

「医療班は基地地上施設にて待機!」

 

 指示や報告が次々と乱れ飛ぶ。

 これまでは(情報が無かったこともあって)ザフトも連合も散発的に戦力をぶつけるだけだったが、今回は違う。

 ザフト軍のみではあるが、大平洋上における戦力を可能な限り抽出した集中迎撃だ。

 

「上手くいってくれよ……」

 

 各方面の作戦経過をリアルタイムで映し出すスクリーンを睨み付けるように見つめながら小さく呟いたゴンザレスの冀望(きぼう)は、更には激しさを増す喧騒の中に紛れて沈んでいく。

 

 

 闇に(くだ)った海と空の狭間にある天使へと、無数の轟音が近付いてくる。

 夜の(とばり)に浮かぶ星々だけが、それらを静かに見下ろしていた。

 

 




ザフト軍の地球圏内における通常兵器や部隊の呼称などは、完全に独自設定です。
御了承ください。

ニュートロンジャマーかまされても、核反応とかで動いてるわけではないので原子時計は問題なく動くはず。
でもスイスの時計職人によるアナログ時計はザフト軍にも大人気。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。