機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis 作:砂上八湖
体調的なことや、内容が難産だったこともあり、予想以上に時間が掛かってしまいました。
今回はザフトの皆さんのターンですが、次回からはアスカさん達のターンになる予定。
ザフト軍にかかれば、使徒なんてエヴァが無くともフルボッコですよ!
Wアスカ? お前らの出番ねぇから!
◆
雲に遮られることもない星明かりが、宇宙へとつながる無限の広がりなのだと雄弁に物語る夜の空。
そんな幻想的なキャンバスを引き裂く爪ように、幾十ものジェットの噴炎光が天を横切り疾走していく。対空打撃分艦隊から射出された艦対空ミサイルの、破壊をもたらさんとする軌跡であった。
それだけではない。
天より振り下ろされる鉄槌の如く、大気圏から再突入してきた中距離弾道弾の多弾頭が赤熱の尾を
それらが目指す着弾点は唯ひとつ。
夜天の宙に座す異形の天使。
ザフト軍のコードネームは「
だが、その名に反して数々の部隊や基地を丸ごと蒸発させてきた正真正銘の化け物である。
その外周を構成するドーナツ状の鏡部分に、次々と艦対空ミサイルが突き刺さる。やや間を空けてから、目標中心部に浮かぶ直径が数百メートルはあろうかという赤い球体に、中距離弾道弾クロイスヘルツⅥの弾頭群が着弾していった。
紅蓮に咲いた爆炎が轟音と共に空間を激しく揺さぶっていく。
球体に直撃した弾頭は、弾着部分から空中に無数の巨大なキノコ雲を起立させ、周囲の薄雲を衝撃波が跡形もなく吹き飛ばしてしまう。
「
「全弾命中」
「効果を確認中……」
焦熱と爆煙と衝撃波で震える海より遥か上空で戦況観測していた大型偵察機の観測員達が、
「──移動速度、変化なし」
「進行方向に変化ありません」
「外周部、中心部、共に破損箇所を認められず。
ミサイル攻撃による効果無し。繰り返す、ミサイル攻撃による効果無し」
爆炎の華と灰色の傘が霧散すると、そこには攻撃を受ける前と何ら変わることの無い
「……嘘だろ……クロイスヘルツを同時に何発も喰らって、どうして無傷なんだよ……!」
「やはりフェイズシフト装甲でしょうか?」
「赤い糞玉はともかく、1ミリより薄い鏡にフェイズシフト装甲なんて施せるとは思えん」
報告を一旦終えた偵察機の観測員やパイロット達が、無傷の脅威を眼下に収めながら思い思いの言葉を吐き出していく。
「マジで化けモンだな」
いくら物理攻撃を殆ど無効化してしまうフェイズシフト装甲といえども、あれ程の火力を一点集中されれば耐えられるものではない。
少なくとも「無傷」はあり得ないのだ。
しかし仮に耐えられるカラクリがあるとしても──
「化け物であれ人工物であれ、攻撃手段を封じられた状況で攻撃を受け続ければ防御に使っているエネルギーも枯渇する筈だ」
それこそが、この作戦の本質だ。
「その瞬間を
観測班班長の言葉が、機内全員の気を引き締める。
次の攻撃、そして次の次の攻撃が迫っていた。
◆
「
「
「
攻撃に巻き込まれないよう注意しろ」
「プリーストE1、了解」
「ファイターC1、了解」
連合が傍受していることを考慮した
やがてキャノピー越しにも、夜天に横たわる巨体を確認することができた。
「プリーストE1からプリーストE各機、
「了解、安全装置解除」
「────攻撃開始。プリーストE1、FOX2」
「プリーストE2、FOX2」
第5部隊のリーダー機が合図したと同時に、追随する戦闘攻撃機が次々とミサイルを発射していく。発射するや小隊ごとに
別方向から飛来していた他の
翼下の戒めから解き放たれた火閃の矢は、夜空に白煙を曳きながら高速で突撃していく。先程の攻撃から畳み掛ける、質量兵器による飽和攻撃だ。
現行する戦争の主役がモビルスーツに変わって以降、質量兵器や一世代前の戦闘機は、主力としての出番が激減してしまっていた。
都市攻撃や拠点爆撃などの航空火力支援といった任務には欠かすことのできない存在であるため、空軍という組織が編成されているものの、華々しい活躍を飾れる場は時代と共に失われつつあったのだ。
所謂「余剰戦力」扱いである。
だからこそ、今作戦においては殆ど全航空戦力と言っても良い数が投入された。パイロット達も「見せ場ができた」と士気も高い。
夜の海と空に映える誘導弾の白い幾つもの軌跡は、空軍兵士を久しく高揚させるに足る光景であった。
そのミサイル群が目標に命中する直前。
数十万の鏡が蠢いた。
広域の空間を鋭く揺さぶる甲高い金属音。
星明かりに浮かぶ夜を一瞬だけ青白く染め上げた8角形の障壁が、ミサイル群の猛攻を全て阻んでしまう。
ミサイルが次々と大爆発していくものの、ある一定方向にだけは物理的な影響が見られず、空中に極めて不自然な形の爆炎が炸裂していく。
まるで空間を一部だけ切り取ったかのように。
いや、この場合は「不可視の壁に阻まれて」いるかの如く。
「違う! 違うぞッ! フェイズシフト装甲でもない! 陽電子リフレクターでもない!
何か別の種類のバリアで攻撃が防がれている!」
戦闘攻撃機部隊のパイロットが、自身が目撃した光景の根源を絶叫に乗せて報告する。
「未知のバリアだろうと飽和攻撃で目標のエネルギーを削るのが俺達の任務だ!
ファイターC各機、予定通りビーム兵器による中距離攻撃を開始する!」
散開して航空打撃陣形が崩れた隙間を埋めるように、ザフトのMS部隊──その主力をサブフライトシステムである支援空中機動飛翔体グゥルに乗り、ブレイズウィザードに換装したZGMF-1000ザク・ウォーリアが占めている──が展開していく。
陣形を素早く整えると同時に、構えていたビーム突撃銃が黄色に輝く光弾を一斉に発射した。
その一連の動きから、非常に高い練度のパイロットを集めたのだろう。
しかし夜の闇に降り注いだ光の豪雨は、だだの一発も使徒へ届かなかった。
外縁部の端にある鏡が拒絶するかのように壁を形成すると、再び青白い8角形の障壁がビームの弾雨を尽く跳ね返す。
続けて後方に控えていた、ガナーウィザードを装備した長距離攻撃部隊がM1500オルトロス 高エネルギー長射程ビーム砲を撃ち込んでいくが、結果は同じであった。
「ブッダファック! 高出力ビームでも駄目か!」
頭上の星明かりよりも儚く散って砕けるビームの
この作戦前に行われた散発的な交戦でも、ビーム攻撃が通用していなかったことは判ってはいた。
それでも大部隊からの集中砲火が容易く無力化される有様には、やはりショックを隠し切ることはできなかったのだ。
「なら今度は俺達の番だな」
戦闘攻撃機部隊と同様に散開していくMS部隊の通信バンドに、オープンチャンネルで声が届いた。
「こちら
お待ちどうさん、
静音処理が施された低いジェットエンジン音を夜空に唸らせつつ、大型の全翼機編隊が姿を現した。
ザフト軍が地上拠点制圧用に開発したステルス重爆撃機、第1次攻撃隊の3機である(高コスト化により12機しか製造されていない)。
通常は対地攻撃用多弾頭散布型航空爆弾を搭載しているが、今回は精密爆撃を敢行すべく別種の爆弾を装着していた。
「
「了解。レーザー誘導装置、準備よし。最終安全装置解除」
「
「
主に地下施設を直接攻撃するために使用される特殊貫通爆弾、それも2000ポンド(約900キログラム)を誇るペイルウェイが高高度から空中に放り出された。
その数、12発。
計算通り、独特の形をした先端が直下への軌道を描き始める。姿勢安定翼が風を切り裂き、甲高い音楽を掻き鳴らす。直後にブースターが点火し、自由落下では得られない圧倒的な速度で落下しつつも、不可視の導きに従って正確に目標へと邁進していった。
厚さ6メートルの鉄筋入りコンクリート防壁を貫通して爆砕させる威力を持つ爆弾が、ほぼ垂直の角度で巨大な紅い球体に次々と突き刺さる。
時限信管ではないため即座に大爆発を起こし、オレンジ色と黒煙の花弁を持つ華が幾つも咲き乱れた。
偵察機を通じて映像を見守っていた司令部の面々から「おおっ!」という期待の声が沸き起こる。
「どうだッ! 狭いケツの穴も、さすがに拡がっただろッ!」
爆撃機のパイロットが眼下の焔華を視界に収めつつ、目標に向け中指を突き立ててみせた。
華からはオレンジの色が抜け、夜の闇にも劣らぬ黒煙が
目標の中心で
だとすればこれまでの飽和攻撃が功を成し、堅固なバリアを突破してダメージを与えた証拠である。
「今の俺達には祝福の花火に見えるぜ!」
黒煙が風に流され華が散る。
しかし黄色は華を咲かせたままだった。
それはパイロット達が思い描いていた祝福の花火という形ではなく。
神の
「あれは」
何だ、と言い終わるよりも早く。
収斂した光の輪が細い直線となって、音も無く夜空を舞うように薙いだ。
舞踏会場となった星空の下にいた観客は、編隊飛行を続けていた3機の爆撃機。
彼らは光の乱舞が終了した一拍の間を置いてから、瞬時に空中分解し──爆散した。
◆
「シーフA、全機ロストッ!」
「攻撃! 目標からの対空攻撃です!」
「目標の中心部、健在! 損傷などは認められず!
効果なし! 繰り返す、効果なし!」
「目標の移動速度が低下! 停止するものと思われます!」
「目標の高度に変化なし!」
司令部のオペレーター達が偵察機や現地部隊から送られてくる報告やデータを、悲鳴を上げているかのように読み上げていく。
逆に本部付きの幕僚は言葉を失い、映像の中で平然と──そして悠然と夜に佇む天使の姿を眺めることしかできなかった。
「バカなッ! 太陽は出ていないんだぞ! なぜ熱線を撃てるッ!?」
そんな音の温度差が激しい場にあって、参謀課のネッドケリーは信じがたい現実を目の当たりにしても、それをそのまま受け止めきれずにいた。
戦艦を一瞬で蒸発させるような膨大な熱量ではないものの、先程の観測されたデータを見れば熱線攻撃であるのは明らかである。
では熱源となる太陽もないのに、なぜ攻撃できたのか?
映像に映る深夜の空を彩るのは、黒き
どこにも太陽は存在していない。
争いを知らぬ星空だけが広がっている。
星空だけが。
「────まさか」
その夜空に点在する瞬きが、視神経を通じてネッドケリーの脳を直感という形で直撃する。
まさか。
まさかそんな。
そんなバカな。
「
閃いた結論の馬鹿馬鹿しさに、思わずネッドケリーはふらついた。
あんな頼りない光源を集めて圧縮し、収斂し、収束し、増幅し、細いながらも熱線として撃ち出した?
つまり奴は太陽がない夜でも、何らかの光源さえあれば攻撃が可能ということ……?
自分で出した結論ながら、到底信じられるようなものではない。
太陽炉であればいざ知らず、星明かりを熱戦に収束させて攻撃するなど、例え数百年先の科学技術でも不可能だ。
しかしネッドケリーは、この直感が「正しい」と確信していた。
彼は作戦参謀ではない。作戦参謀の下で細かい案を出したり事務仕事をする立場なのだ。今回はブリーフィングで作戦内容の説明を任されたが、それだけである。
本来は作戦行動に言及できる立場ではない。
それでも彼は、茫然としたままの司令部に直接具申しなければならなかった。
「副司令! 目標は星明かりを光源にして攻撃していると思われます!
作戦の中止を! 撤退を!
威力は落ちているとはいえ、あのバリアが破れない限り被害が拡大するだけです!」
「あ……う、ああ……だが……」
その行為を咎めるべき上司の作戦参謀も、呻くゴンザレス副司令と同様に自失した状態から抜け出せないでいた。
「撤退をッ!!」
叫ぶ背後のスクリーンに、星明かりを集めた死の鎌が再び振るわれる光景が流される。
混乱するMS部隊を縫うように光の糸は軌跡を残し──
その度に命が熱に焼かれ、夜空に散っていく。
その蹂躙を、その虐殺を、星空は沈黙の光で照らし出すだけだった。
ザフト軍「アカン」