機動戦士ガンダムSEED Destiny/Re:Genesis   作:砂上八湖

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大変お待たせいたしました。

使徒の脅威を目の当たりにしたシン達の反応と、アスカの心境の変化を書いてから反撃の狼煙を上げないと、何のためのクロスオーバーだと考えながら何度もリテイクして、こんな遅さに。
申し訳ないです。

BGMは「♪デーンデーンデーンデーン デッデッ」というエレキを掻き鳴らしてるバージョンのを脳内に流していただけると幸いです。


Paradigm-shift⑦

 

「後退! 後退だ! 全部隊、後た、ギャッ」

 

「ぎゃバっ」

 

「小隊長と副隊長がまとめてやられた! 指揮は誰が引き継ぐんだ!?」

 

「助けてッ! 誰か助け……」

 

「洋上艦は煙幕を張れ! 航空部隊は低空飛行で離脱しろ!」

 

「また光を集めてるぞ!」

 

「うわああああっ!?」

 

「駄目だ! ファイターBが全部撃墜され(喰われ)たッ!」

 

「ガッデム! 左の主翼をやられた! 墜落する! ああ……っ」

 

「糞ッ、洋上艦が真っ二つとかマジかよ! ヤキン・ドゥーエの白い悪魔じゃねぇんだぞ!」

 

「あいつよりバケモンだろ! 冗談きついぜ!」

 

「ちくしょう、死にたかねえ、死にたかねえよ……」

 

「ソーサラー01! 後続の爆撃機部隊を引き返させろ! このままじゃシーフAの二の舞だ!」

 

「母さん」

 

「こちらアインローゼⅢ! これより陽電子リフレクターを展開しながら部隊の後退を支援する!

 戦域から離脱する部隊は我が艦を盾にしながら下がれ!」

 

「モルトⅣは前進して陽動攻撃を開始する。可能な限りヤツのヘイトを集めて後退の時間を稼ぐ。

 ──この艦に乗り合わせた者には貧乏クジを引かせてしまったな、副長」

 

「すまないっ! ……すまないっ!」

 

「反撃するな! 無駄だ! 逃げることだけ考えろッ!」

 

「退却! 退却!」

 

「サユリとヒッグスがやられた! あの化け物、四方八方に熱線を振り回しやがってえええっ!」

 

「ジェネレータを撃ち抜かれた! コックピット内の温度がっ、温度の上昇が止まらない……熱い、熱いいっ、嫌だっ嫌だっ! こんな死に方は嫌だぁ……っ!」

 

「モルトⅣが被弾したぞ!」

 

「アインローゼⅢが……燃えてる……高度が下がって……ああ……」

 

「振り向くな! 稼いでくれた時間を無駄にするな! 振り抜かず下がれえっ!」

 

 

 控えめに表現しても阿鼻叫喚の地獄だった。

 こちらからの攻撃は一切通用しないのに、あちらからの攻撃は一方的な蹂躙なのである。

 

 その様子が記録された映像や音声を目の当たりにし、アスカは言葉を失った。人の死を見るのは、これが初めてという訳ではない。母の自死という形ではあるが、彼女はそれを真正面から捉えた過去がある。

 一方的に人が殺される衝撃に絶句したというより、その時のトラウマを呼び起こされて舌が言葉を忘れた──と言った方が正確だろう。

 

 勿論(録画記録とはいえ)人が殺されていく様子に精神(こころ)が震えていない訳ではない。アスカの本分は「エヴァンゲリオン弐号機のパイロット」以前に「14歳の子供」なのである。

 いくら知能が高くても、いくら大人ぶっていても、いくら戦闘中の人的損耗を覚悟していても、子供が一人で受け止め抱えきれる「現実」ではないのだ。

 

「ひでえ……」

 

 それは今日(こんにち)まで軍人……それも赤服を(あずか)るエリート軍人として過ごしてきたはずのシンやルナマリアにとっても同様であった。

 戦闘と呼ぶには、あまりにも一方的すぎるワンサイドゲーム。

 相手に戦闘をしているという意思が介在しているのかさえ疑問に思える、機械的すぎる命の消費だった。

 

「これが使徒と呼ばれる存在(もの)……」

 

 常に冷静沈着なレイですら、攻略の糸口さえ垣間見ることができない理不尽に顔色を悪くしている。

 アスカから使徒と呼ばれるモノ──サードインパクトを起こして人類を滅ぼそうとする謎の襲撃体については説明を受けていた。

 その脅威。

 その強大さ。

 その恐怖。

 その理不尽さ。

 聞けば、本体が虚数空間……ディラックの海という数学上の領域で構成された影という「どうやったらそんなの物理的に倒せるんだ!?」と思わず叫んでしまった使徒もいたそうだ。

 

 そのように色々と話には聞いていたが、現実がこれ程のものとは想像していなかった。

 

「ATフィールドを展開したはってことは、やはり使徒で間違いないみたいね」

 

「……その、ATフィールドだったかしら?

 あれ反則、というか卑怯すぎない……?」

 

 ミネルバに在籍するパイロット達に、持ち帰られた戦闘記録を閲覧させるために呼び出したタリア自身も冷や汗を流さずにはいられない。

 シン達を呼ぶ前に事前確認したにも関わらず、改めて見ても身震いするのだ。溜め息と一緒に本音が(こぼ)れ落ちるのも無理はないだろう。

 

 葬儀に参列しているかの如き沈痛な空気が艦内の会議室に漂うのを肌で犇々(ひしひし)と感じ取ったタリアは、覚悟を問う意味で(士気が著しく低下するかもしれない危険性も孕んでいたが)映像を見せたものの、やはり間違いだったのかもしれないと後悔を感じ始めた。

 

「でも破れない訳じゃないわ」

 

 声の表層まで浮かび上がりかけたトラウマを塗り潰すかのように、あえて重い声色を意識的に出しつつアスカは指摘する。

 彼女自身は参加していないが、第5使徒が襲来したときにATフィールドの中和という手段以外の攻撃方法で貫通・撃破した「ヤシマ作戦」という実績がある。

 日本中から電力を集め、それをエネルギー源とした陽電子砲による狙撃での一点集中突破という強引な方法だったが。

 

「だとしても……何でも防げちゃうバリアがあって、夜間でも光を集めて攻撃手段を得られるとなると、つけ入る隙が無いわよ?」

 

「持ち帰られたデータからすると」

 

 不安が色濃く混じるルナマリアの指摘返しに、アスカは鼻を短く鳴らしてから、そう前置きする。

 

「この使徒のATフィールドは、ヤシマ作戦で倒した使徒より堅くない」

 

 後にラミエルという名が冠されていると判明する第5使徒が展開していたATフィールドは、可視化するほど強力な位相空間であり、その物理的な強固さは威力偵察で放たれた光学攻撃を(比喩表現でもなく文字通りに)弾き返してしまうほどであった。

 

「それに、あたしがこの世界に来る直前に倒した使徒が展開していたATフィールドほどの『拒絶感』は感じない」

 

 なら倒せる。

 言外に異世界の少女は述べていた。

 

「大した自信だな」

 

「あたしは惣流・アスカ・ラングレー。エヴァンゲリオン弐号機のパイロットよ」

 

 皮肉を多分に含んだシンの一言に、アスカはアイデンティティの全てと──転移時に抱いた決意を瞳の中で燃え上がらせたかのように、強い意志を込めて自らを名乗る。

 それこそが根拠の全てであるかのように。

 アスカという少女の本分である「14歳の子供」を引っくるめて、それでも「エヴァンゲリオン弐号機のパイロット」として、シン・アスカという同じ名を持つ少年の前に立つ。

 

「使徒を倒す、それがあたしの役目なの」

 

「ふん」

 

 お前はどうなんだと言わんばかりな宣言に、しかしシンは不機嫌そうに顔を背けるだけだった。

 それに気分を害するでもなく、ただ眉を下げるだけのアスカだったが、思考は別の懸念を走査している。

 

 この世界にも使徒が出現したということは、サードインパクトを引き起こす「何か」が存在しているということだ。

 NERVが掲げた大義名分としては、本部の地下深くに封印されている物と使徒が物理的接触を果たすとサードインパクトが起きる──というものだった。

 使徒が出現するロジックが向こうと同じなら、このコズミック・イラという歴史を刻む世界の何処かに「人類を滅ぼしかねない存在」が封印されているか、下手をすると野晒しになっているかもしれないのだ。

 

 エヴァンゲリオンのパイロットとして、それを放置することはできない。

 アスカは静かに拳を強く、強く握り込んだ。

 

「しかしATフィールドを突破できても、あの攻撃が脅威であることは変わらない。

 エヴァンゲリオン単機が壁を越えても、目標が巨大すぎる」

 

 空気を変えると共に話の流れを元に戻す意図もあったのだろう、落ち着きを取り戻したレイが問題点を洗い出す。

 

「どこかの誰かと違って、優等生っぽいこと言うわね」

 

 名前が同じだからかしら、と小さく呟いた声は誰にも届かなかった。

 どこかの誰かって誰だよと絡んでくる少年をスルーして、アスカは映像記録に視線を向け直す。

 

「確かに熱線攻撃は脅威的よ。

 けれど、この夜間攻撃で『攻撃の規模』が日中と比べたら格段に落ちているのが確認できる。

 夜間に攻略する作戦自体は間違ってないのよ」

 

 使徒殲滅のエキスパートとして、これまでの経験を踏まえながら、少しずつ攻略の糸口をほどいていく。

 多大な犠牲と引き換えに得られたものを、ひと欠片でも無駄にしてはいけない。

 ヒトの死から目を逸らしてはいけない。

 母の死から目を逸らしてはならない。

 

 前にいた世界の国連軍の存在をアスカは思い出していた。

 弐号機のデビュー戦でも、少なくない犠牲が出ていたのだ。それをアスカは傍観していた。そうと認識していてもエヴァのためなら、使徒殲滅のためなら必要なもの……()()()()()()()()と思い込んでいた。

 

 そう思うことがエヴァパイロットとしての覚悟だと思っていた。

 そう割り切ることが覚悟なのだと思い違いをしていた。

 一人で戦っていると思っていた。

 独りで戦っていると思い込もうとしていたのだ。

 

 だが違う。違うのだ。

 誰かが支えになって、誰かが犠牲になって、その上でヒトはヒトとして立っているのだ。

 だからヒトは互いを支え、助け、笑い、泣いて、怒るのだ。

 それを自覚せずに何が覚悟だ、何がひとりで戦うだ。

 いつかサードチルドレンに向けて放った言葉が記憶に蘇り、自らに憤りを覚える。

 自分はエヴァが無ければ、誰かが──みんなが、アイツがいなければ……こんなにも弱いではないか。

 

 無慈悲で理不尽な死の記録が「実母の自殺」というトラウマを浮上させかけたものの、エヴァという存在を介することにより、アスカの中で「自分と他人」の意識が変わりつつあった。

 

 それを成長と呼ぶのか、特異な環境に適応するための生存本能と呼ぶのか。アスカ自身はもちろん、他の誰にも判断することはできなかったが。

 

「でも使徒を倒すにはコアを……あの赤い球体を壊さなくちゃならないんだろ?

 レイも言ってたけど、相手がデカすぎてバリアを抜けても接近するのも難しそうだぞ」

 

 大体エヴァンゲリオンは飛べないだろ、とシンは乱暴ながらも核心を──一番の難関になるであろう問題点を突いてきた。

 

「向こうの世界ではF型装備構想なんてものもあったらしいんだけどね」

 

 主に予算的な理由で実現せず終わった計画を口にしながら、アスカは腰に両手を据える。

 ちなみに「飛行型使徒に対する対処」の方法として、大型輸送機からエヴァを高高度から投下して対空戦闘をさせるという計画案に落ち着いたのだが、もしあのまま転移せずにいたら衛星軌道上という更に高い場所から精神攻撃をしてくる使徒が現れることになっていたのは皮肉としかいいようがない。

 

「幸い、こっちの世界には向こうと同じ『大砲』があるしね」

 

「大砲?」

 

「『こっち』じゃ『向こう』と違って、大砲が空を飛んでるみたいだけど」

 

「おい、お前まさか」

 

 アスカが意図するモノに気付いたシンは、愕然として予想を口に出そうとして続けることができないでいた。

 遅れてタリアとレイも大砲が何であるかを察して息を呑む。

 ただひとり会話に取り残されたルナマリアの困惑に、アスカは不敵な笑顔を浮かべつつ足元を指差してみせる。

 

「このミネルバの陽電子砲で、使徒のコアを狙撃するのよ」

 

 




次回から、いよいよアスカ達の反撃(の予定)です。

第1話から敢えて説明を避けていた物体に関する伏線が、ついに!
(そこまで大した伏線じゃない)

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