「あんたって奇形児だったかもしれないって知ってた?」
「食事中にいきなり何を言ってるのさ母さん」
自我を持ってから19年。
あれから無事に生まれることができ、ゼローグという同居人(?)と共にここまでなんの不自由もなく生きることができている。この19年の中でゼローグの協力の元色々とこの世界の事や知りたい情報もほぼほぼ集まってはいて、あとは気ままに人生を謳歌しつつ残りの疑問を解決できればなと将来設計をたててもいる。
どうやらこの世界は
ただ似ていると言ってもやはり大きな違いもあるわけで、こちらの世界(地球)はゼローグのような龍王や神、精霊といったあちらの世界では当たり前のように存在した者たちがいないことだ。正しくは
つまり、俺が生まれたこの時代ではそういった超常な存在はいないものとなってるわけだ。
ようするに俺が道の真ん中で「神や龍は存在していたのだ!」っと声高々に叫んでも周りの人から可哀そうな人を見るような目で見られるだけである。
神などの存在を知るその一部の者たちの事は後々話題にするとして、この世界では魔法や魔力、龍や神、精霊や悪魔といった者たちを神秘的な者という枠組みに入れ、この世には存在しないものとしているのが一般的だということだ(実際にはいたけど)。
で、そういうのは全部神話や御伽噺として現代に伝わっているということになっているが基本的に皆の中ではただの創作物として認識されている。
神や龍が当たり前のように過ごしていた継界を知る俺達からしたら不思議な感覚だけど。まぁここは別世界なのでこの世界ではこうなのだろうと納得すればそれほど変に違和感を感じないだろうし考えるだけ無駄である。
他にも神話についてだが神や悪魔や精霊が俺たちの知るものと同じものがいて面白いと思ったのも記憶に残っている。どうやら似た世界だけあって同じ神などがいて、皆俺たちの知るものと似たような性格をしていた。
中には俺たちの知っている者と全然違っていて驚いたものもあったけど、別世界なのだし全く同じというわけもないかとすぐに納得した。本人を知っているだけにちょっとだけ違和感は残るけどね。
後はあれかなゼローグ曰く俺は継界で生まれ変わる予定だったのだがこっちの世界の何者かによって俺の魂は地球に
拉致られたからには理由があるはずなんだけど力を十全に使えないゼローグではまだそこまで調べられていないらしい。元の世界よりも神秘というものが薄いこの世界では力の出力が弱くてイライラするらしい。あとは世界そのもののルールも違うのでこの世界に邪魔されないようにうまく力の調整をするのも時間がかかったらしくそれなりに使えるようになったのもつい最近だとか。
冒頭の母さんのセリフに戻ろう。
普段自宅から大学へ通う俺が母さんと一緒に朝食を食べているといきなりこんなことを言ってきたのだ。なぜこのタイミングでとも思ったがあまり深い意味はないと思われる。何故なら俺の母さんはちょっと変わってるから。天然と言うわけではないが少しだけ常識とずれている人なのだ。なので唐突なこの発言も『まぁ母さんだし』で納得できてしまう。ちなみに父さんは先に出勤してしまった、休日なのに・・・。いつも朝早くご苦労様です。今度好きなものでも作ってあげよう。
「あんたがまだアタシのお腹の中に居た時なんだけね、医者から胎児が普通じゃないって言われたのよ。」
(あぁ~今の言葉でなんの事かも大体の事は把握したしその理由も今では分かるけど両親からしたら大事か)
「実際に映像を見せてもらったんだけど確かに変でね、なんていうか足や手が通常よりも大きいし頭や背中にも小さな突起があるようにも見えたしお尻には尻尾みたいなものも見えたのよ。一体私のお腹にはどんな生物がいるのかとしばらく放心してたわよ。実際に生まれてみれば普通の形だったから気のせいだったのか何かが映り込んだのかもしれないって結局はなんともなかったんだけどね。当時はそりゃもうどうしようか焦ったわよ。映画みたいなミュータントが生まれてくるのかと怯えてたわ。色々考えはしたけど最後には生むと決めたし病気もなにもなく健康に生まれてきてくれたからよかったんだけどね。」
「マジか、それは何というか・・・ありがとう?でいいのかな。ていうか一応聞くけど今言うことじゃなくない?」
「まぁそうね。ただふと思い出したから言っただけね。」
しれっと口にご飯を運びながらなんともないように言う母親にため息が漏れる。
どうせそんな理由だとは思ったけどね。このようにちょっと変な人だけど一周回ってそれが魅力になったりするし周りの人からも受け入れられるから彼女はこれでいいのかもしれない。
実を言うと両親と医者が見たという映像は嘘ではなく事実だ。実際、俺は胎児に居たころは先ほど母親が言ったように手足も変わっていて尻尾もあったし翼と角らしき物もあった。なら何故両親と医者は俺が生まれた時も今も何事もなかったかのように、それこそ
その説明に入る前に胎児時代に判明した俺自身の事も語っておこう。感覚はそれほど発達してなかったから気づくのが遅れたが、俺は人間であるはずなのにまるで龍のような特徴を持っていたのだ。ゼローグの説明と知識のアップデートによって分かったことだがこれには俺の前世が深く影響しているらしい。
まず、継界には
一部しか融合させないのはできないのではなく危険だかららしい。やろうと思えばできるが融合を進行させると契約龍の力をより引き出せるようになるが同時に互いのバランスが崩れて壊れてしまうらしい。大半の場合は高位種族である龍に呑まれるのだそうだ。
龍契士とは基本的に後天的になるものが多いのだが中には生まれながらに龍契士という事例もあって、この場合は生まれる前(つまりは胎児や前世)の段階で龍と契約を交した者に現れるらしい。スタートラインが龍と同化した状態なので龍との進行度は生まれながらの龍契士のほうが後天的な龍契士よりも強く、副作用という名の浸蝕も少ない。
俺の場合は当然後者で、生まれながらの龍契士というものらしい。
ここで疑問に思うことがある。
通常、龍契士はリスクを下げるために身体の一部にしか龍の特徴が表れないが俺の場合はその特徴が多すぎる。どうやら俺の前世は龍契士としての才能が信じられないほど高く、加えてゼローグとの相性が良かったらしい。そんな規格外な俺の前世の記憶だが、いまだに覚ろげで覚えていることはほとんどない。覚えているのは出会った人達位で自分の事は全然である。
とまぁ説明が長くなってしまったが話を戻そう。そんな色々な意味で普通ではない俺だがゼローグの助言と協力によってなんとか生まれる前に自身の姿を人間のように変えることができた。あっちの世界ではそれほど珍しいことでもないがどうやら俺も基本的なものであれば変幻自在に姿を変えられるらしい、人間への変化だが生まれが人間なので割と簡単にできた。そこまで鍛えようとも思ってないので他にもなれるとしたら小動物くらいが今の俺には限度である。
北欧のロキとかは特にこの術を頻繁に使っていたのが記録にある。こっちのロキも大体同じようなことをしていたし。世界が違ってもどこかで共通点は多い。
そんなわけで、この世界では
誰もいない時とかは変化を解いて寛いでいたりする。ただ尻尾とか翼でものを倒さない様に意識しなければならないのはちょっと面倒だけどね。
朝食も食べ終わり大学もない休日なので習慣となっている散歩に出かけるべく準備を始める。今では逆転してしまっているが元々は情報収集を目的に始めた散歩であったが散歩で得られる情報もあらかた終えてしまったので今ではただの軽い運動目的になっている。長い間続けていたものなので収穫がすくない今でも散歩は継続中である。ゼローグも収穫が少ないと分かっているので昔のように手当たり次第に誰かを暗示にかけて情報を吐かせることはせず、やっていることと言えば周辺の探知くらいである。その探知にたまに怪しい奴が引っかかって俺が出動した事も何度かあったが最近もそれは減っている。十中八九俺が原因ですね。いや、犯罪が減るのはいいことだしこっちもそこまで苦労しているわけではないからいいんだけど毎回俺が何かしら解決していたせいか近所にはパトロールのお兄さんとか正義のお兄さんとか言われるまでになってしまった。散歩していただけなのにな。
最初は警察の人に注意とかされていたけど一度ならず何度でもこういう事が起こればもう慣れたのか逆にお疲れ様と言われる始末。言わせてる原因の俺が言うのもなんだかけどそれでいいのか国家公務員。軽い気持ちで『今からでも警察学校に行く?』とか勧誘しないでください。天然なうちの母親が本気にして申し込みそうだったので。
そんなちょっとした出来事はさておき今日はどの辺を歩こうかな?
あまり遠出するつもりはないから本屋巡りをしつつ昼頃にはカフェにでも行くかなと軽く計画をたてていると向かいの家の玄関が開いた。
「あっ!こんにちは!今からパトロールですか?いつもいつもお疲れ様です!」
「いや、何度も言っているけど散歩だから。ていうか分かってて言ってるでしょ立香ちゃん。」
お手本のような輝かしい笑顔で挨拶をする彼女の名は藤丸立香。サイドポニーっぽく左側に束ねるために使うシュシュとアホ毛がトレードマークのオレンジ色の髪が目立つ元気な女の子でうちのお向かいさんだ。誰とでもすぐに打ち解けて活発な娘で近所でも有名な彼女もどうやらどこかへ出かけるようだ。
「えへへ~いやぁまぁその通りなんですけど私たちが安心して過ごせているのも事実なので感謝しているのは本当ですよ?」
「うん、色んな人に言われてるから分かってるよ。そこを疑ってるわけじゃないさ、ただ偶々そうなっちゃっただけだからちょっと複雑でもあるんだけどね。」
(探知網に引っかかったのは確かに偶然ですがその後の行動は自発的に行ったことなので全てを偶々で片付けるのもどうかと思いますけどね。)
(説明できるわけでもないし面倒だから別にいいだろ。)
ゼローグの言う通りでもあるが色々と考えることが増えそうで面倒だからいつも偶然という言い訳を使わせてもらっている。
「っと俺は散歩だからともかく立香ちゃんも用事があるんでしょ、時間は大丈夫?」
「あっはい、大丈夫です。献血に行くだけですし、時間も全然余裕があるくらいですから。」
(ほぉ~献血ですか、わざわざ休日に・・いや休日だからですかね?とにかく相変わらず良く出来た子ですね)
本当にね。
「献血かぁ~立派だな。」
「いえいえ大げさですよ、誰にでもできることですし」
誰にでも出来るけど実際にやる事が立派なんだけなぁ
「献血とかしたことがない身からすれば十分立派なことなんだよ。」
「いやぁ~そうですかね?でも今回が初めてでしてちょっと緊張しちゃいますね、こうして早めに出てきたのもそれが理由ですし。」
「なるほどね、でもまぁ遅れるよりは全然いいからね。それよりも献血と言えば献血バスだよね?近くに本屋があったし道が同じなら一緒に行くかい?ずっと玄関前で話しているわけにもいかないしさ」
「あっはい、そこで合っています。」
それじゃぁ行こうかと互いに横並びになって歩みを進める。
向かう途中に『この前友人が』とか『学校であれが』とか世間話を挟みつつそれほど経たないうちに立香ちゃんの目的地に着いた。さすがコミュ力お化け、ずっと喋り続けていたよこの娘。本屋は通り過ぎていたけど立香ちゃんが楽しそうだったので別に問題ない、元々は散歩が目的だったので少し余計に歩くのも構わない。それにナンパ対策にもなって良かったかもしれない、立香ちゃん可愛いし。
「ここまで付き合ってくれてありがとうございました!おかげで退屈せずに着きました。」
「うん、こっちもありがとう。話す機会は何度かあったけど余り長い時間話したこともなかったから新鮮だったよ。俺も楽しめたからまた機会があったら一緒にどこか行こうね。」
話し相手と言う点ではゼローグがいるけど、こう長いことずっと一緒にいるとそれが当たり前になってるからね。退屈はしなくても新鮮味はないし。
「おやおや~それはもしかしてデートのお誘いですか?だったら私、最近このあたりで流行りだしたケーキ屋に行きたいです!」
しまった。言い方ミスったかもしれない。もしかしなくても揶揄われてる?
「あっいや・・・って言ってもそうとしか聞こえないしあまり違わないかな。まぁそうなるかもしれないね。うんいいよ、そこだったら家の母親も食べたがっていたし俺も行ってみたかったから今度一緒に行こうか。勿論俺の奢りでね。」
「やった~!約束ですからね!献血が終わったら詳しい日時とか相談しましょう!」
(素直な子ですね、子供っぽいとも言えますが)
そうだね、けどこう見えてちゃんと考えたりもできる子だから。それにそれが良い所でもあるし。
(違いないですね)
ゼローグからしても彼女は好印象らしく聞いている限りそれなりに評価していて気に入っているらしい。
元気に手を振る彼女を見送り自分も目的地へ向かうべく踵を返す。その後は手ごろな本を購入し昼も近くの喫茶店などで済ませて帰宅した。
購入した本を読みながらその日は何事もなく過ぎていった____ように思えた。
その日の夜、デートの日時を決めるための連絡を持っても来ることはなく不思議に思っていたら家にすら帰っていないと言う事実が彼女の母親から伝えられた。
スルーされがちなコミック版の誘拐設定を採用。
なんかあまり深く取り上げられてないけど結構アカンことしてるカルデア。
龍契士の見た目ですけど『パズドラ ミル』と検索すれば分かりやすいかもしれません。ほかにもいますがパッと見で分かりやすいのはこのキャラだと思うので。イラストのゴチャゴチャ感もなく全体が分かりやすいと思います。
ゼローグのフォントも変えました。本当はジャンプとかでよく見る古印Lというフォントを使いたかったのですが見つからなかったので切絵で代用。ほかにお勧めがあれば変えると思います。とりあえず今は切絵フォントで。