「ビギニングダイバーズの皆様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
運営の職員が俺達を大会の会場に誘導する。
「申し遅れました。私、皆様の案内を担当させていただくハヤカワと申します。以後お見知りおきを」
ハヤカワさんは深くお辞儀すると、広いホールのような所に俺達を入れた。
そのホールには200人ほどのダイバーが集まっており、豪勢な食べ物を口に運びながらそれぞれ談笑に花を咲かせている。中には俺でも知っているトップランカーやそのフォースもいる。
「やばい、また緊張してきた……」
隣にいたカズが顔をこわばらせる。
「まぁ、確かにここまでとなると緊張するのも仕方ないね……」
さすがにベルさんも平常心というわけにはいかないらしい。
「よう、ビギニングダイバーズ!!来てくれたか!!」
落ち着いていない俺達にこの大会の主催者であるホムラさんが話し掛ける。
「ご無沙汰してます……こんなにダイバーが集まってるとは思ってませんでした……あの集まりなんて【アヴァロン】ですよね……」
「あぁ、そうだな。って、もしかして緊張してんじゃないだろうな?」
ホムラさんは笑ってそう言うが、緊張しない方がおかしいんじゃないだろうか。
「もうすぐに開会式らしいから、今のうちに知り合いに挨拶してきてもいいかもしれないな」
ホムラさんが帰ると、カズがそう言った。
「知り合いって言われてもな……」
そこまで言ったところで、師匠の存在を思い出した。師匠のフォースもこの大会に出場すると、この数日の間に聞いていたのだ。
「ちょっと師匠……シリウスさんに挨拶してくるよ」
「あぁ!!例のジーチューバーか。そう言えば、前に弟子入りしたって言ってたもんね」
あの敬意を考えると弟子入りという表現は合わない気がするけど……まぁ、いいか。
「そうね、私も挨拶したいし、私達も同行して構わないかしら?」
「それはいいですね。ぜひ行きましょう」
先輩の言葉に俺も同調したことで師匠に会いに行くと、師匠はとある四人組と話をしていた。
「あ……師匠、こんにちは」
「やぁ、タクミ君。いよいよだな」
「おっ、こいつらが噂のフォースか!!」
四人組の一人、ヒーローのような服装の筋肉質の男が師匠に聴く。
「うん、ビギニングダイバーズって言うんだ。そして、この子が僕の弟子のタクミ君。タクミ君、彼はBUILD DiVERSのリーダーのカザミだ」
師匠がその男を紹介する。BUILD DiVERSといえば少し前に話題になっていた、未知のストーリーミッションをクリアしたフォースだ。かくいう俺も、カザミが投稿した攻略動画には手に汗握って夢中になっていた。
「よう!!話は聴いてるぜ!!俺はカザミ!!こいつらはフォースメンバーのヒロトにメイ、パルヴィーズ。あともう1人メンバーがいるんだが、リアルの方で遅れるらしいんだ。とりあえずよろしくな、ビギニングダイバーズ!!」
後ろにいる三人は頭を軽く下げ、カザミは右手を差し出す。俺達はそれに応えて頭を下げ、握手する。
「よろしくお願いします!!」
「おう!!って言っても、今回は敵同士なんだけどな」
カザミは笑ってそう言う。
「そういえば、
「それにしても、運営の方を度々見ますけどなぜでしょうか?」
カザミの後ろにいるパルヴィーズが辺りを見回しながら言った。
「最近噂になっている【テンペスター】を警戒しているのだろう。昨日もまたフォースバトルに乱入したという話を聞いた」
パルヴィーズの言葉にメイが答える。テンペスターの噂は俺の元にも流れていた。まだ証拠も見つかっていない以上、運営が動くことはないと思っていたが、このホールにも職員がいるのはやはり大会自体が運営と協力しているからだろうか?
「でも、なんて言うか……不気味ですよね……目的が分からないのって……」
パルヴィーズは不安そうに呟く。確かに、テンペスターはフォースバトルに乱入しては暴れ、ガンプラを破壊し尽くすと去っていくと言われている。わざわざ乱入なんかするのだからバトル自体は目的では無いのだろう。
「君達はそいつに会ったことはないのかい?」
ベルさんはBUILD DiVERSの四人と師匠に聞く。
「いや、俺達も噂で聞いたことがある程度だ」
「僕も動画の視聴者がたまに話題に挙げているのを聞いたことがある程度だね」
「そうか……ならいいんだ」
ヒロトと師匠の答えにベルさんはどことなく残念そうな表情を浮かべた。
「ベルさん、どうかしましたか?」
「いや、少し気になってね……そういえば、カザミ君。君の動画のファンなんだ。サインをくれないか?」
「おっおう!!もちろんだとも!!」
カザミは嬉しそうにベルさんが差し出した色紙にサインをする。何というか、露骨に話を逸らされたような気がする。
「あっそろそろ開会式が始まるみたい!!」
シノがステージを指さす。そこにはホムラさんと、ガンダイバーの姿をしたゲームマスターが立っていた。
「あっ、俺もそろそろフォースの皆の所に戻るよ。皆またね!!」
「また後で!!」
立ち去っていく師匠に俺は手を振って見送る。
『さて、そろそろ轟炎フォース祭を始めたいんだが、まず一つ話をしたい』
ホムラさんはマイクを持って挨拶を始めた。
『お前達のライバルとは一体誰だ?この問いかけにはかっこいい常套句がある。己のライバルは己自身って奴だ。だが、俺にはあれが適当に答えているようにしか思えない。お前達のライバルはここにいるお前以外のダイバーだ。比較できる誰かがいるから進むべき方向を知ることができる。孤独なままでは進んでいる道が正しいのか分からないままだからな』
ホムラさんは真剣な表情で持論を語っている。少し、偏見もあるようだが、俺も概ね同意見だ。
『だからこそ、俺はこの大会を開催しようと思った。お前達がまだ見ぬライバルとであう場所としてな。トップフォースも参加しているのはさすがに予想外だったが、ここなら目指すべき相手、越えるべき相手、何だって揃うだろ?お前達に言っておきたいことは、ただ戦うな!!勝利の美酒を味わうために、敗北の苦汁を啜らないために、お前達が見せる最上級のバトルを見せてくれ!!轟炎フォース祭の開会を今宣言する!!』
ホムラさんのその宣言にダイバー一同は大いに盛り上がる。
『まず、予選を行う。予選で好成績を残した64組のフォースが本戦に出場出来る、シンプルな構成にしている。そして、予選の種目はこれだ!!」
満足げな表情を浮かべるホムラさんは右手でモニターを指す。
『変則バトルロイヤル!!』
ホムラさんがそう宣言するとモニターにも同じ文字が表示された。
変則バトルロイヤルは、その名の通り通常のバトルロイヤルとは違う。制限時間が設けられており、その制限時間までに撃墜した敵機の数の合計が高いフォースが本戦トーナメントに出場できるが、逆に撃墜されてしまった場合はそれまでの撃墜した記録がゼロになる。つまり、フォースのメンバーが全滅した時点で予選敗退が確定してしまうのだ。
そして、このバトルロイヤルのフィールドはそのために貸切になっているディメンション全体だ。そのあまりに広大すぎるフィールドで散り散りになったフォースの仲間と合流できる可能性は、そう高いものでは無い。
「これで6機目か……みんなはまだ撃墜されてないよな……?」
予選が始まって10分が過ぎた。俺は地球の外縁、ユニコーンに出ていたラプラス宙域で戦闘をしていた。
「それにしても、神経を研ぎ澄ますにもそろそろ疲れてきたな……10分でこれか…」
これまで俺がバトルをしてきたのは重力下であることが多かった。無重力環境では左右前後だけではなく上下も警戒しなければならないのは意外と神経を使うのだ。
そんな時、ひとつの光の線が視界の端に映る。少しすると、それが一機の可変機であると分かった。
「速い…これって、俺が狙われてるよな……」
その可変機はビームバルカンをこちらに発射している。シールドで防御し、反撃のブレードブラスターを撃ち返す。それを避けた可変機が変形し、ビームバルカンを内蔵しているであろう槍を構える。
『よう!!さっきぶりだな、タクミ!!』
その聞き覚えのある声は、BUILD DiVERSのリーダーのカザミだった。
「なるほど……これが噂の、イージスナイト……!!」
イージスナイトが槍で突いてくる。それを避けてGNエクスカリバーで反撃するが、巨大なシールドで受け止められる。
「硬い……!!でも、まだ行ける!!」
俺はシールドを蹴り上げ、イージスナイトに隙を作らせ、ブレードブラスターの刃で肩装甲を切り裂く。
『クッ!やるな!!』
「伊達に、シリウスさんの弟子じゃないんですよ!!」
俺たちは笑いながら睨み合った。
市街地、モデルはSEEDのオーブだろう。
そこにはカズのジェイラインと、ベルのケルディムガンダムタイガが潜伏していた。
「ベルさん、これで何機目ですか?」
「12機目だね。もっと集まってるものだと思ってたけど、意外と少ないね」
その瞬間、多くな爆発と共に高層ビル群が崩壊する。
「敵影、3時の方角だ!!」
「って、煙で何も見えない……!!」
崩壊したビル群が発生させた煙が晴れると、一機の影が見えた。
「もしかして……あいつ一人でやったのか……」
「あぁ、どうやらそうらしい。というか、彼ならこれぐらい造作もないだろうね……」
豆粒ほどの影をスコープで見ると、胸のAの文字が見えた。紺色の塗装、手に持つ巨大なビームソード、肩のビット兵装、間違いない。クジョウ・キョウヤのガンダムトライエイジマグナムだ。
「チャンプって、そんなの勝てるわけないじゃないですか……」
「でも、ここからの狙撃ならもしくは……」
ベルはスナイパーライフルを構え、トライエイジマグナムに照準を合わせる。
「いけ!!」
ベルは引き金を引く。放たれたビームはまっすぐトライエイジマグナムを目掛けて進む。この距離なら気づかれない。気づいても、避けられるはずがない。そう信じていた。
しかし、トライエイジマグナムはその巨大なビームソードでこちらを一切見ずにビームを切り払った。
「……は?」
「……気づいていての、あの反応だったのか……!?」
圧倒的……その言葉は二人の頭を満たした。
「もうダメです!!逃げましょう!!」
「あぁ、彼がそう易々と逃がしてくれるならね……」
すでに彼はこちらに向かっている。たどり着くのも時間の問題。二人は一目散に逃げながら、一矢報いる策を頭の中を巡って、考えるのだった。
こういう戦いもなかなか面白いわね……
山岳地帯で私のF91キリアは岩場に隠れて正面の狙撃手の出方を伺っていた。紺色の狙撃手はこちらにスナイパーライフルを構え、睨んでいる。
これまで何人もの狙撃手と相手をしてきたけど、彼はなかでも結構器用だと思う。けれど、あのガンプラはこれまで見たことがない。そのそのベース機も分からない。まさかとは思うけれど、フルスクラッチと言うことはないでしょう。
「この一年で実力をつけたダイバーって事なのかしら……」
とはいえ、このまま動かないのも性に合わないし、撃墜数も稼げない。
私はさっきサイコミュジャックで利用できるように達磨の状態にして放置していたキュベレイをその狙撃手を目掛けて投げつける。そのまま私はそのキュベレイをヴェスバーで撃ち落とす。大きな爆発を起きた隙にビームサーベルを持ってその狙撃手に接近する。
「一気に落とさせて貰うわよ」
しかし、そこに降り注いだビームの雨に私は侵攻を防がれた。
『うまそうな奴らがそろってるじゃねぇかよ……!!お前らまとめて味わわせろ!!』
舞い降りた赤鬼は私の向かって剣を振り下ろす。ガンダムGPー羅刹天……獄炎のオーガの愛機もこの一年で更に強化されているようだ。
「あら、つまみ食いは少しマナー違反ではなくて?バトルグルメ……!!」
『そう言うなよ……うまそうな匂いをさせてたお前らにも問題があるんだからなぁ!!』
オーガの相手をしながら、私はさっきの狙撃手に目を配る。そこには私にとっては驚愕の光景が映っていた。
『コアチェンジ……ウラヌストゥマーズ!!』
紺色の装甲がパージされ、どこからともなく現れた支援機の赤い装甲と大剣が小さなガンダムの全身に纏われていく。全く別の機体に変身したそのガンプラは大剣で私たち二人に襲いかかる。私は羅刹天に蹴りを食らわせて回避行動を取る。
「装甲を換装して……戦闘スタイルを一新するガンプラですって……!?」
そのような機体はガンダムシリーズのは結構存在する。しかし、ここまでのクオリティの、それも完全フルスクラッチともなれば、GBNでもそうそう見ない。
「まったく、GBNには馬鹿しかいないのか……!!」
そして私もこの馬鹿達の一人であることは重々理解している。私の中の馬鹿が騒ぎ出している。
「そう言うなら、つまみ食いとは言わずに平らげて貰ってもいいのよ?ただし、逆に私に食い尽くされなかったらの話だけれどね……!!」
それを聞いたのか、オーガは笑ってこちらに剣を向ける。
『よく言った!!その言葉……訂正させねぇぞ!!』
『俺も、負けるつもりはありません……!!』
どうやら、二人の赤い剣士は結構乗り気のようだ。
私は久々に味わった感覚に感動を覚える。
やっぱり私は、本当にGBNが大好きらしい。
「ディバインモード!!」
F91キリアを変形させ、二人を睨む。
「少しの間だけれど、私に付き合って貰うわよ!!」