先輩とのフリーバトルをした日の夜、俺は先輩にアドバイスを求めた。
『今回、戦ってみて改善した方がいいところとかありますかね?』
『動き自体は悪くなかったと思うけど、ガンプラの方の性能がまだ低く感じるわね』
『だとしたら、どんな感じでエクシアを改造したらいいでしょうか?』
『射撃精度を上げた方がいいかもしれないわね。今日の戦いも十分いい射撃をしていたと思うけど、接近戦をメインにしながら銃撃戦も視野に入れておいた方がいいと思うわ』
『だとしたら、ダブルオーセブンソードのGNソードIIブラスターとかがいいですかね?』
『確かにそれなら近接格闘能力も向上するでしょうからいいかもしれないわね。当然、それを両立させるために基本工作もしっかりしないといけないわよ』
『はい、色々御教授ありがとうございます』
『次は勝ってみせるのよね?期待してるわ』
そんなメッセージと「おやすみ」と書かれた猫のスタンプが送られる。こっちも「おやすみなさい」とメッセージを送り。エクシアの改造に取り組む。アドバイスで出てきた武器は今は持っていないため、他のジャンクパーツでエクシアのディテールアップを施し、他にも他のキットの武器を追加して、戦闘力の向上を目指す。
「下手に武器は付け過ぎないほうがいいか…とりあえず、シールドにリード線をつけて………」
改造が終わった頃には午前5時を過ぎていた。
完全な寝不足の状態で学校に向かったが、頭はガンプラの改造のことで頭がいっぱいだった。
教室に着いたが、正直眠い。
「どうした?あくびなんかしてさ」
後ろから男の声で話しかけられる。俺の友人である【シライ・カズミ】だ。彼もGBNに【カズ】という名前でダイバーをやっている。
「カズミか…いや、ちょっとガンプラの改造で寝不足でな…」
「ふ〜ん、それで?良いのは出来たのか?」
「まぁ、まだ手探りだな…明確なビジョンもないって感じ…」
「そっか、出来ることがあったら手を貸すぜ?」
「ありがとうな。そういえば、お前の方はどうなんだ?」
「昨日、ライトアーマーが完成して、次はアサルトアーマーを制作する予定……そうだ、今日GBN行かね?ライトアーマーのテストがしたいんだ」
「あ〜ごめん、今日先約があるんだ…」
「そっか、それは残念だな……………女か?」
カズミの声に殺意がこもる。
「………いやいや、そんなわけないだろ……」
当然のように嘘をついた。
「女なら紹介しろよ?」
「だから、彼女とかじゃないって…」
そんなくだらないことを言っていると、携帯が震える。一応、カズミに見られないように確認すると先輩、もといレイアからのメッセージだ。一応念の為に先輩からレイアという名前で登録させられたのだ。
『色々話したいこともあるし、昼ごはんを視聴覚室の隣の空き教室で一緒に食べましょう』
俺は昼飯は弁当だし問題は無いので快諾したが、女性と二人きりでご飯を食べるということも初めてであるため、結構緊張してしまう。
『それは良かったわ。昨日のエクシアを持ってきておくのよ?』
『なるほど、ガンプラ関係の話もするから食堂じゃないんですね』
『そういうこと。使用許可はどうにかしてとるから先に待っていてくれると嬉しいわ』
「了解しました!」というスタンプを送って、カズミとまた会話をする。
「お前は今日、GBNに行くのか?」
「あぁ、お前が来なくてもライトアーマーのテストはしたいしな」
「それっていつもの模型店で?」
「一番近いところがそこだからな」
不味いな…先輩がGBNをしているってバレるぞ……
「一応、先輩に言っておくか……」
俺は小さく呟いた。
四限目の授業が終わり、昼休みに入った。それまでの授業は眠さで正直身についてはいなかったが、なんとかなるだろう。とりあえず、俺は空き教室に向かった。
空き教室について、中に入ろうとしたとき、背後から声をかけられる。
「あら、今来たところだったみたいね」
「あっ、先輩。お疲れ様です」
声の主は先輩だった。どうやら許可を貰ってきたところのようだ。
「どうしたのかしら、中に入らないの?」
「あっ、いや、すぐ入ります」
先輩は、購買で買ったであろうパンを鞄から取り出し、口に運ぶ。
「そうだ、昨日のエクシア、少し見せてもらえるかしら?」
「あっはい、どうぞ。昨晩に少し改造したんですが…」
鞄からエクシアを取りだし、先輩に渡した。
「一晩でよくここまで作れたわね、塗装も綺麗ね」
「塗装は追加武装だけなんですが…」
「シールドの中にワイヤークローを仕込んで、背中にはソードインパルスのエクスカリバー…攻撃のバリエーションを増やしたわけね…いい改造だと思うわ」
「ありがとうございます……」
ここまで褒められると少し、照れくさい……
先輩も鞄の中からあるものを取り出す。
「これを君にあげるわ、君のために昨晩作っておいたのよ」
先輩が俺に取り出したものを手渡す。それはガンプラの武器だった。
「これって……昨日話してた……」
「ええ、GNソードIIブラスターを改造した、名付けて『GNブレードブラスター』。いいネーミングセンスでしょう?」
ネーミングセンスはどうであれ、GNブレードブラスターは流用パーツはあれど、クオリティはかなりの高さだった。
「これこそすごいクオリティじゃないですか!!これって昨日の相談の後に作ったんですか?」
「ちょっと……詰め寄り過ぎないで……近いってば……!!」
近づきすぎていた俺を、顔を赤らめた先輩は押して離そうとする。
「あっすいません……つい興奮して……」
「もう……そうだ、今日のGBNは何をするのかしら?」
「そうですね…今日は普通のミッションにします?」
「いいわね、最近はフリーバトルばっかりしていたから、気分転換にはちょうどいいわね」
「あっあと、昨日の店は多分うちの生徒が来ると思います」
「なんでそんなことが分かるのかしら?」
「いや、俺の友達が今日GBNにログインするって言ってたので…」
それを聞いて先輩は大きくため息をついた。
「今日はデパートのゲームセンターに行ってログインすることにするわ」
「それがいいと思います」
もうそれに関しては苦笑いするしか無かった。
「……せっかくならその友達とも一緒にミッションをするのはどうかしら?」
「えっいいんですか?!…ちょうどあいつも新作のガンプラのテストをしたいって言ってたからあいつはいいでしょうけど……」
「ええ、レイアの姿なら私って分からないでしょうし……それに、あなたの友達っていうのなら、バレても多分大丈夫でしょう?」
そう言う先輩はどこか嬉しそうな顔だった。
放課後になり、俺はいつもの模型店に、先輩はデパートへ向かった。デパートの方が高校から遠いため、きっと俺が先にログインすることになるだろう。
模型店に着いた時、ちょうどカズミと出会った。
ログインする準備をしながらカズミが話しかけてくる。
「なんだ、お前もGBNに来る予定だったのか」
「その先約もGBNでの先約だったんだよ」
「あぁ、そうだったのか」
「なんなら、会ってみるか?その人に、お前の話をしたら是非会ってみたいって言っててな?」
「そうなのか、俺は別にいいけど」
「それじゃあ、先にログインしておこう。少し遅れるみたいだし」
ログインし、いつものロビーで先輩を待っている間、カズに先輩のことを聞かれる。
「お前らは今日、何をするんだ?」
「適当にミッションにしようと思ってるんだが、カズがいいんだったら3人で行きたいと思ってたんだけど…」
「テストできるなら問題は無いぜ?」
「あぁ、それなら良かった。でも、テストならバトルがメインのミッションがいいよな」
「だったら、対戦ミッションとかがいいかな」
「だな、NPC相手よりダイバー相手の方がいいテストになる」
挑戦するミッションが決まったところでメッセージが届く。
「例の人、もう着いてるんだけど、どこにいるか分からないって」
「手を上げて振っとくから探してって言っといて」
「わかった」
先輩のメッセージに返信すると、すぐに先輩が手を振ってこちらに来る。ただ、昨日のドレス姿ではなく、勲章だらけの軍服を着ていた。
「ごめんなさい、遅れちゃって…」
「大丈夫ですよ、それほど待ってないですから」
「はじめまして、カズって言います」
カズが丁寧に頭を下げ、お辞儀をする。
「はじめまして、タクミ君から話は聞いていました。レイアっていいます。よろしくお願いしますね?」
「えっ?!本物のレイアさん?!えっと…ファンです……握手してください……」
「ええ、もちろんいいわよ」
先輩と握手をするカズは照れくさそうに頭を搔く。
「それで?なんのミッションにするかは決まった?」
「はい、対戦ミッションにしようと思います。3対3のバトルなら結構集まりそうですしね」
「いいわね、それじゃあ早速行きましょうか」
受付でミッションの参加を受理してもらい、ミッションのエリアへ向かう。
対戦ミッションは2人以上のダイバーが同じ人数の他のダイバーと対戦するというもので、フォースの所属などが関係なくチーム戦ができるという点で人気のあるミッションだ。
「それが最新作か?いい出来じゃないか!!」
「そういうお前のエクシアもなかなか悪くないじゃないか」
カタパルトから出撃する時、カズの【ジェイライン・ライトアーマー】が見える。ジェスタの各装甲を軽量化し、その代わりとしてスラスターを増加することで、機動性が向上させているようだ。武装もビームライフルとシールドというシンプルな構成だ。
「カズ…ジェイライン・ライトアーマー、出撃する!!」
「ガンダムF91キリア、レイア…出ます」
「タクミ…ガンダムエクシアカスタム、行きます!!」
3機のガンプラが出撃する。ミッションエリアは結構近くにあるようで、どうやら大阪の新世界に似たマップのようだ。
ミッションエリアに近づくと、既に相手のダイバー達のガンプラが立っているのが見える。グリムゲルデ、二機のレギンレイズの3機だ。それぞれトールギス、ヴァイエイト、メリクリウスをイメージしているようだ。
「エースとその支援機、スタンダードな構成ですね」
「……もしかして、あれって……」
「レイアさん?」
ミッションエリアに入ると【MISSION START】の文字が表示され、戦闘が始まる。
3機でビームライフルを連射するが、赤いレギンレイズがプラネイトディフェンサーを展開することでそれを防御する。
「だったら接近戦で!!」
エクシアのブレードブラスターで1基ずつプラネイトディフェンサーを破壊していくが、その隙にグリムゲルデが大型ランスを持って突撃してくる。
「させない……」
先輩のF91キリアがカバーに入ってくれた。そんなとき、
『貴様、まさかレイアか?』
グリムゲルデののパイロットからの通信が聞こえる。
「久しぶりね、こっちもあなただとは思わなかったわ」
先輩がその声に応える。俺は、先輩がグリムゲルデの相手を相手をしている間に赤いレギンレイズと戦うことにする。
「鉄血のオルフェンズの機体ならビームは効かないな、でもこれなら!!」
右手のブレードブラスターでレギンレイズの腕を切り裂き、左手に持ったエクスカリバーでコクピットを貫く。
「よし、こっちも!!」
青いレギンレイズは接近戦に弱いらしく、ジェイラインのダメージは入っていないものの、圧倒されている。
「カズ、これを使え!!」
「あぁ!!」
俺は、エクスカリバーをジェイラインに投げつける。それをジェイラインはつかみ、レギンレイズに突き刺す。
「後は、エースのみ…………え?」
先輩たちの方を向くと、F91キリアは片腕を失い、バックパックには大剣が突き刺さっている状態だった。
目を疑った。トップランカーである先輩が負けるはずがないと確信していたからだ。
『レイア……貴様、フォースを抜けて何をしていた?ずいぶんと弱くなったな』
グリムゲルデはF91キリアを何度も踏みつける。先輩は何も出来ないようだ。
「カズ、行くぞ」
「あっあぁ……」
カズもその様子に動揺しているようだったが、すぐに持ち直して、二人で加勢に入る。
『なんだ?あんな雑魚とつるんでいたのか……弱くなるわけだ』
「なんだと……?」
グリムゲルデがこちらを向き、高速で接近する。
「はっ速い!!」
カズがビームライフルを撃つが、グリムゲルデは何もないかのように接近する。
「こいつもナノラミネート装甲かよ!!」
ビーム兵器が主体であるジェイラインはグリムゲルデと相性が悪く、何もできずに大型ランスで貫かれる。
「カズ!!」
ジェイラインは動かなくなり、グリムゲルデはこちらを向く。
「雑魚どもが、これで終わりだ!!」
「くそ!!なめるな!!TRANS-AM!!」
エクシアが赤く光り、グリムゲルデの攻撃を避ける。
「これで!!」
『TRANS-AMを……読めていないとでも?』
ブレードブラスターでグリムゲルデを切り裂こうとしたが、それを読んでいたのか、グリムゲルデは避けた方向にキャノン砲を発射していた。
「な!?」
エクシアはその砲撃の直撃し、動きを止めてしまう。
『弱い、こんなのが俺の代わりだとでもいうのか……』
グリムゲルデのパイロットが訳の分からないことを言い出す。その隙に反撃に動こうとしたが、ランスを投げつけられて、右腕をつぶされる。
『消えろ、弱者は……』
グリムゲルデが改めてキャノン砲の狙いを定める。
「ディバインモード!!」
そのキャノン砲が発射される直前に目の前にF91キリアが現れて、壁になる。
「タクミ君、今よ!!」
俺はとっさにブレードブラスターを銃の形に変形させて狙いを定める。
それを見て、グリムゲルデはシールドを構える。
「いっけぇぇぇ!!」
ブレードブラスターから出たビームはグリムゲルデのシールドに直撃する。
『くっ!!なんだとっ!!』
シールドは破壊されたが、グリムゲルデ本体は大したダメージはない。
一方、エクシアはその武器の反動で、機体が所々崩壊する。
『武器の威力は申し分ないが、それ以外はまだまだだな。なぜレイアはこんなやつを……』
圧倒的…その言葉が頭をよぎる。昨日の先輩の時に感じなかったのは、その威圧感の違いだろうか。
そのまま、グリムゲルデの大剣でエクシアのコクピットが破壊され、【MISSION FAIL】の文字が表示される。
また負けたということを考えながら、ロビーに返されるのだった。
「レイアさん、あのダイバーと知り合いなんですか?」
その後、ロビーで先輩に詰め寄る。
「……彼は、私が前にいたフォースのメンバーだった人、名前はマサト」
「マサトっていや、【冷血の伯爵】って異名がついてるダイバーじゃ……」
「それについてはあまり知らないのだけれど、まぁ、優秀なダイバーであることは間違いないわね」
「なんか、揉めている感じでしたけど」
「そんな感じだったかしら、何もないから気にしないで」
先輩は作った笑顔でそう答えると、これ以上のことは言わなかった。あまり触れるべきことではないと判断し、俺とカズはこれ以上のことは聞かなかった。というより、聞けなかったのだ。
「あんまり、テストとしてはうまくいかなかったな」
「あぁ…俺も課題点ができたしな」
「まぁなんだ、俺たちはもっと強くなれるよ。負けたことはあまり気にすんなよ」
「あぁ、そうだな」
そんなことを帰り道にカズミと話しながら、俺は先輩のことをぼんやりと考えていた。