ガンダムビギニングダイバーズ   作:カシュー

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ビギニングダイバーズ

あら、ホウジョウさん。ずいぶんと俗な遊びを楽しんでいるみたいですわね?

 

うるさい

 

このような方を何というのでしたかしら?……あぁ、確かオタサーの姫だったかしら?

 

うるさい!

 

貴女のような低俗な方に話し掛けられたくないわ

 

うるさい!!

 

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

 

「うるさい!!」

 

そんな自分の声で私は目が覚めた。先週、マサトと再会して以来、また毎日この夢を見るようになった。

 

「ここ数ヶ月は見ないようになってたんだけど……」

 

今から一年前、は隣街の女子校に通っていた。いわゆるお嬢様高校と言われるようなところで、生徒もやけにプライドが高く、「この学校に通っていない人間など人ではない」などということを当たり前のように言う人間ばかりだった。

私はその環境にある程度に馴染んでいたのだが、趣味であったGBNとガンプラについて噂が広まったことで高校生活が崩壊した。いわゆる村八分のような扱いを受け、陰口や無視など当たり前、ひどいときはけがを負うこともあるという状況が続いた。状況を見かねた父によって、今の高校に転校することになったが、それ以来GBNにログインすることが怖くなった。

 

次の高校でも私の好きな物を否定されるかもしれない。

 

だから、私が好きな物が好きなタクミ君と出会ったことで、その恐怖心は少し軽減されたと思っていたのだけど、それはただの気のせいだった。マサトと対峙したとき、手の震えが止まらなかった。よみがえった恐怖感で固まってしまった私は一方的にマサトに倒された。

 

結局私は変わったつもりでいただけ……

 

それ以来、また私はGBNにログインしないようになった。

 

「本当に、私は何をしてるんだろう」

 

私はため息をついて、ベッドから降りる。それとほぼ同時に扉からノック音が聞こえる。

 

「おはよう、レイ。朝ご飯、そろそろ出来るよ」

 

そう言って部屋に入ってきたのは、私の父である【ホウジョウ・イオリ】だ。私のガンプラを教えた張本人で、ある企業で社長をしていた。今は早期退職し、専業主夫として第二の人生を謳歌している。ちなみに、母は国立大の教授として生涯現役を目指しているらしい。

 

「おはよう、パパ……」

「また夜更かししてたんだろ…なんだったっけ?アオヤマ君って子とまたメッセージのやりとりしてたんだろ?」

「まぁ、そんなところかな?」

「よかったじゃないか、最近はGBNにも行ってるんだろ?」

「っあ…いや、ここ数日はあまり……」

「ん?そうだったのか……やっぱりまだ立ち直れないか」

「うん、いい加減立ち直らないといけないとは思ってるんだけど」

 

すると、パパは私のガンダムF91キリアを手に取って、懐かしそうに見る。

 

「また、GBNを楽しめるようになるといいな」

「……うん」

「よし、じゃあ朝ご飯を食べようか」

「あぁ、ごめん。ちょっとメッセージを確認させて」

 

私は枕元に置いていたスマホを手に取りメッセージの通知を確認する。しかし、一通も届いておらず私は無意識にため息をついた。

最近、タクミ君とのメッセージのやりとりが密かな楽しみになっている。今思うと、ここまで親しく話をしたのは彼が初めてではないだろうか。

 

「おや、残念。アオヤマ君からは来ていないみたいだね」

 

気付いたら、パパが後ろからスマホをのぞき込んでいる。

 

「パパ、それ思春期の娘に一番やっちゃいけないことだから」

「別にいいだろう、後ろめたいことがあるわけじゃないんだし」

「そういうことじゃないでしょう」

 

私はそんな父を部屋から追い出し、身支度をする。制服に着替え、顔を洗い、リビングに向かうと、テーブルにはヘルシーな朝食が並んでいる。私がしているダイエットに父が合わせてくれているのだ。

 

「どういう子なんだい?アオヤマ君って」

「そうね、少し校則を破ったりすることはあるけど、明るくていい子よ。」

「へぇ、お前がそんなに他人を語れるというのも珍しいな。基本的にクラスメイトもあまり話したことがないから知らないで済ますのに」

「まぁ、確かにそうね。そういえば、なんだかんだリアルで年下の男の子と話すのも初めてかも」

 

別に多く友達を持ちたいという願望があるわけではないが、ここまで他人とコミュニケーションをとらないというのもなかなかの問題ではないだろうか。

 

「それほどの子なら、一度会ってみたいものだ」

「やめて、パパが動くとロクなことにならなさそうだから」

 

そう言って私はレタスのサラダを口に運ぶ。

 

「ロクなことにならないってことはないだろ!!」

「まぁ、時が来たら会わせるわよ。ご馳走様でした」

 

朝ご飯を食べ終わると、学校に向かう。

 

「行ってきます。今日は生徒会で少し帰るのが遅くなるから」

「いってらっしゃい、夕飯は何にしようかな……」

 

 

 

 

 

家が郊外にあるため、学校までの道は途中でバスに乗っても少し長く感じる。正直退屈だ。

 

「こんな時にタクミ君がいれば、退屈も紛れるんだろうな……」

 

……なぜ今、タクミ君のことを考えたの?

 

確かに彼との会話は楽しいけれど、四六時中彼のことを考えているなど、あり得ない。きっとパパとタクミ君の話をしたからだろう。きっとそうだ。

 

「……絶対に違う。あり得ないあり得ないあり得ない」

 

そんなことを何度もつぶやいている私は、端から見たら下手に触れない方がいい人だろう。

 

「きっと私は疲れてるんだろうな」

 

ため息をつきながら登校していると、少し前に見覚えのある男子高生が見える。例のタクミ君だ。

少し驚かそうと、後ろから忍び寄ろうとした瞬間、タクミ君に見覚えのない女子高生が話し掛けてきた。

 

……クラスメイトか何かだろうか?

 

「たっくん、おはよう!!」

「あぁ、シノミヤ。おはよう」

 

……たっくん?

 

私は少し眉をひそめた。まぁ、タクミ君もクラスメイトと挨拶することも、あだ名をつけられることもあるだろう。

 

ただ、少し距離が近くないかしら……ただのクラスメイトにしてはベタベタとしすぎているような……

 

その後の授業はあまり集中できなかった。あくまで『あまり』だ。ずっとタクミ君のことを考えていたわけじゃない。その点は誤解しないでほしい。

最近、タクミ君と面と向かって話す機会が減った。SNSなら何も気にならないが、対面で話すととてつもなく気まずく感じる。

 

……まずい、またタクミ君のことを考えている。

 

放課後になっても私は未だタクミ君のことでモヤモヤしていた。

 

「本当に私は何をしているんだ」

 

私は自嘲するように笑った。

 

 

 

 

 

一学期中盤の生徒会の仕事は実に楽だ。生徒総会、体育祭、文化祭など、生徒会が忙しくなりそうな行事はすべて二学期に行われる。

仕事も今後の予定の確認程度だ。現に他の役員もそれぞれ生徒会と関係のないことをしている。

 

「もう今日は仕事も終わったし、もう帰ろうか」

 

生徒会長のやる気のない声で解散を宣言する。

私は真っ先に家に帰る。

 

もう、生徒会も辞めようかな……

 

別にこの学校を真剣によくしたいとも思うわけではないし、誘われたからには真面目にやろうとは考えているが、ここまでやることがないのなら、別のことに時間を使いたい。

 

とはいえ、何かがしたいわけではないんだけど……

 

そう考えながらも、私の脳裏にはGBNが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、私はベッドに飛び込む。マサトと再会した頃からあまり、いいことがない。

 

「パパの手伝いでもしようかな」

 

そうつぶやいて、部屋を出ようとした時、スマホのバイブ音がなる。確認すると、タクミ君からの電話だった。驚いて、一度スマホを落としてしまうが、冷静を装って電話に出る。

 

「もしもし、どうしたのかしら?」

『あっ先輩!!こんばんは……今時間、大丈夫ですか?』

「勿論、大丈夫だけど……何かよう?」

『そうだった。話っていうのがですね、このたびカズとクラスの女子と俺の三人でフォースを組むことになったんですよ』

 

クラスの女子って今朝の子か………

 

「そうだったの。頑張ってね」

『それでですね、出来ればでいいんですけど……俺たちのフォースの入ってほしいんです」

「……えっ?」

 

正直、想定していない頼みだった。

 

『俺たちはまだ素人に毛が生えた程度の実力です。先輩がいるだけで心強いんです』

「それはそうかもしれないけど……」

『もしかして、ダメですか……?』

「……ごめんなさい。私はフォースに入るつもりはないの」

『そうなんですか……理由とか、聞いて大丈夫ですか?』

 

私は少し悩んだが、前の高校の話をした。

タクミ君は何も言わずに話を聞いてくれた。

 

「また、同じことが起きるのが怖いの……私は、自分の好きな物を否定されたくないの……」

『……でもそれは前の学校の話ですよね?また同じことが起きると決まったわけじゃないですよ』

「それはそうだけど……」

『もったいないですよ。過去を気にして好きな物が出来ないだなんて……』

 

私はこれ以上答えることが出来なかった。

 

『明日、いつもの模型店でGBNにログインするんで……待ってますから』

 

そう言い残して、通話が終わった。

 

「まさか、フォースに誘われるとはね……」

 

タクミ君の言う通りであることはわかっている。でも、私はまだ…………

 

 

 

 

 

 

翌日、私は結局模型店の前にいた。

 

いやいや、直接断るために来てるんであって、別にフォースに入るつもりは……

 

模型店の中では、タクミ君達が話している。

 

「まだ、フォースの申請には行かないのか?」

 

聞いたことがある声、多分カズ君のリアルの姿だろう。

 

「ごめん、まだ少し待ってほしいんだ」

「誰かを待ってるってことか?」

「あぁ、そういうこと」

 

どうやら私を待っているみたいだ。

 

「でも、来るって言ってたわけじゃないんでしょ?」

「まぁ、そうなんだけどさ……信じたいんだよ、きっと来てくれるって」

「そっか、それで?誰が来るんだ?」

「それは会った時のお楽しみってことで」

 

タクミ君はにやりと笑う。

 

 

……もういいんじゃないかしら……結局ここに来たのも……

 

私は模型店の中に入る。タクミ君は待っていたと言わんばかりに表情を浮かべる。

 

「ホウジョウ先輩……えっ?この人を待っていたのか!?」

「なるほど、そういうことだったんだね」

 

他の二人は少し驚いた表情を見せる。

 

「改めて紹介するよ。ホウジョウ・レイ先輩。GBNにはレイアって名前で活動しています」

「でも、いくつかは条件はあるわよ?まず一つはあなた達も私ぐらいのレベルを目指せるように特訓をすること」

「別に俺たちはいいですよ」

 

タクミ君の言葉に二人もうなずく。

 

「二つ目はフォースのリーダーはタクミ君。あなたよ」

「え!?」

 

次はタクミ君は驚いた声を上げる。

 

「いやいや、先輩の方がいいでしょう!!」

「いいんじゃないの?合ってると思うよ」

「うんうん、俺も賛成」

「いやだからって……!!」

「みんな、あなたがきっかけで出会ったのよ?だったら、あなたの方が指揮が執りやすいと思うわ」

「……わかりましたよ。やりますよ」

「それじゃあ三つ目、フォースを組む以上、目指すは頂点。トップフォースよ」

「「「……はいっ!!」」」

 

こうして、私はもう一度GBNを本格的に始めることになった。

 

「それで?名前は決めたの?」

「あっ忘れてました」

「それなら私、このフォースの名前とか好きです」

 

シノミヤさんはとあるフォースのデータを見せてきた。

 

「ビルドダイバーズか……伝説のフォースじゃないか」

「とはいえ、そのまんまじゃダメだよな。どう改変する?」

「何かいい単語を入れるとかは?」

 

みんな黙りこくって考える。

 

「【ビギニングダイバーズ】……」

 

そう無意識に私は言っていた。

 

「いい名前ですね!!私好きです」

「確かに、結構いい名前だな……」

「うん、俺もいいと思います」

 

思った以上に好評だったが、私も自分で言うのも何だがありだと思った。

もう一度、一から始める。タクミ君たちにとっては始めて出来たチーム。みんなの【始まり】が集まったフォース。

 

「それじゃあ、ビギニングダイバーズで決定!!」

 

タクミ君がそう宣言する。

 

 

 

私たちの物語はここから始まる。

私はもう、悩んだりしない。彼らと共に進むんだ。

 

私は強く拳を握った。

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