せめて幸せであれるなら   作:酢酸のいも太郎

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Ep.10

 返却期限までの日数を四日ほど残して、私は借りた二冊の本を読み終えた。

 珍しくもないが、図書館島に行った日を堺にエヴァが連日に渡って私の部屋を訪れるというのは、正直想定外だった。やはり吸血鬼を前にして吸血鬼の本を読むのは少し気が引けたので、いつも以上の遅読となってしまったわけだが、期限のことを考えればそれは特に問題はない。想定外ではあるが、誤算という程ではなかった。

 むしろ、問題があるとすれば、なにかエヴァに勘づかれている気がするということだろうか。

 これが私の被害妄想なのか、自意識過剰なのかは分からないが、「お前、なんか変なところに行ったか?」と聞かれたときにはどうしようかと。

 嘘をついても仕方がないので、「図書館島に行った」と伝えれば、エヴァは「そうか」と相槌を打っただけで深く追求してくることは無かった。

 あの胡散臭い意地汚い図書館の亡霊からは「他言無用に」と言われているし、エヴァにぽろりと漏らしてしまったら、あの変態の歯牙がエヴァに向いてしまう可能性もある。

 それは少し――いや、かなり厄介だ。

 エヴァなら問題なく対処するかもしれないが、下手をすれば、事も無げに人の神経を逆撫でにするあの男を殺しかねない。

 そう思わせてくれることこそが、悪の大魔法使いたる由縁なのだろうけれど、もし本当に人殺しなどしてしまっては学園も黙ってはいられない。だから、これはエヴァがどうのこうのというよりは、私がエヴァと会えなくなるのが嫌だからという、蓋を開けてみればそれだけの理由である。

 

 サイドテーブルの上にノートの切れ端で「借りた本を返してきます」と書き置きをして、部屋を出た。

 時間的にいつエヴァが来るかも分からないので、念の為。

 コンクリートが剥き出しの通路を歩いて、真っ暗な石畳の階段を上がって、地上にある教会の一室に出る。私の洗濯物を干しているシスターに頭を下げて、この前神多羅木先生に案内された図書館島から教会までの道を逆算して思い返す。

 一通り記憶を掘り返してから、私は歩き始めた。

 

 特に日にちの指定も無ければ時間の指定も無かったが、彼の口振りから察するに、彼はいつでもあそこにいるのだろう。

 

 さて――道中は暇である。この暇というのは、決して悪い事ばかりではない。

 私としては、考えておかなければならないことが一つだけあった。

 いや、それは、考えるというよりは、整理に近い。

 

 あの男との出会い――出会いと呼ぶには酷く一方的なものだったが、ともかく、あの邂逅は、決して、偶然などではない、ということだ。

 そこばかりが、ずっと引っかかっていた。

 私は、決して記憶力が悪い訳ではない。意識していないことに関しては右から左へ受け流すために全く覚えていないが、意識して覚えようとすれば、人並みか、それ以上には記憶できる方だと自負している。

 少なくとも、半年ほど前に、刹那的に出会った女生徒達の名前を――自己紹介すらしていないあの少女達の名前を覚えていられるくらいには、記憶力がある。

 まさか、あんな迷路のような図書館の来た道を記憶しない、意識しない、なんてことが有り得るだろうか。それは正しく自滅行為だ。私とて、そこまで愚かではない。

 道は覚えていた。

 今、こうして図書館島から教会までの道を思い出して歩いているように、あの休憩所から出入り口までの自分が来た道を辿ってエントランスに帰れる、という自信があった。だからこそ木乃香さんの道案内の申し出は断れたし、だからこそ、のどかさんがどこからか取り出して渡してきたあの本の片付けは彼女達の良心に頼った。

 知らないものは知らないが、知っているものは知っている。

 極めて、常識的な、理論とも言えない単純な理論だが、これは揺るがない。

 

 なればこそ、私が道に迷った理由なんて、限られてくる。

 

 イレギュラーだと断言した。

 この出会いは、イレギュラーであると、あの男はそう言い、名乗ることを拒絶した。

 しかし、それだけのことだった。イレギュラーではあるものの、あの邂逅は至らなければならない過程であり、道程。

 通過点であり、交差点。

 あれをイレギュラーそのままだと受け入れるのであれば、こうして再会の約束を取り付けてくるはずがないのだ。約束というよりは、脅迫だったけれども。

 あの男がなにを考えているのかは分からない。

 ただ、一つ言えることは、目的があるということ。

 

 それは例えれば、

 偶然(モノガタリ)を成立させるための必然(プロット)

 それは喩えれば、

 運命(モノガタリ)を成立させるための伏線(プロット)

 

 こんな陳腐な言い方しか出来ないが、しかし、仕方ないだろう。あれは、そういうものだ。

 説明不足甚だしいと思う。

 着替えと二冊の図書が入っている紙袋を握る手に力が入った。

 出来うることならば逃げてしまいたい。このまま二冊の本を返却したらさっさと帰ってしまおうかとすら思う。

 そもそも、あの変態に会う事自体、本意ではないし、なにより――。

 

 ――立ち止まることもできないし、行き止まることもできない、か。

 

 しつこく耳に残るエヴァの声が、今だけは、少しだけ、疎ましかった。

 

 

 斯くして、図書館の門をくぐった。

 受付の女性職員に不審な目で見られながら返却手続きを済ませ、図書館内部へと深く潜っていく。どうせ、記憶は頼りにならない。そうならないように出来ている。いっそのこと直線的に通路を歩き続けた方が最短距離を行けるだろう。

 十枚目の本棚を通り過ぎて――二十枚目の本棚を通り過ぎて、三十枚目の棚を通り過ぎた。

 やがて、景観が変わっていき、広い休憩所に出た。人の気配は見られない。ふと左を見れば、半円を描くようなベンチと、白の大きな丸テーブルがあった。高い位置にある窓から日が差し込み、いっそのこと幻想的な雰囲気を醸し出している。

 そのベンチの中央に、なんとなく、人影が座っているように見えた。

 それは幻影のように一瞬で消えたが、《彼》であることは明確だった。

「意外と素直に来てくれましたね。もう少し躊躇すると思っていました」

 その丸テーブルに少しだけ寄って、先程見えた幻影に対峙するように立つ。

「着て、きた。満、足?」

 顔を隠すようにして覆っていたオーバーサイズのフードを脱いで、服の下にしまっていた髪の毛を外気に晒す。それと同時に、折り畳まれていた猫耳が元気よく飛び出した。少し首を振って適当に髪を整えて、前方を睨みつける。

「ええ、私の目に狂いはありませんでした。良くお似合いですよ、蒼井鈴葉さん」

 ふふふ、と。気味の悪い笑みを溢しながら、彼はそう言った。

「いえ、まだお互いに自己紹介をしていませんでしたね。あなたのお名前を呼ぶのは、少し不躾でしたか」

「一方的、すぎる。気に、食わない」

「それは失礼。そうですね――私のことは、クウネル・サンダースと、そうお呼びください」

「クウ、ネル」

 彼がただの亡霊なのか、魔法使いなのか、その判断は悩ましいものがあるが、念話を使っている以上は後者に違いない。

 当然、私の魔法に対する知識はごっそりと消えているため、彼がエヴァのような有名な魔法使いであるのかどうかすらも分からない。

 それでも、私のことだけが筒抜けなんて、流石にそれは気分が悪かった。

「あれから寝る間も惜しんで考えた名前ですよ、気に入りませんか?」

「…………」

 偽名だった。

 まぁ、別に、いいけれど。

「ふむ、ここまでノーリアクションだと、ちょっと寂しいですね。まあ、いいでしょう。さて――なにからお話致しましょうかね?」

 積もる話があると言いたげに、ため息を混じらせた。

 私と彼はそんな関係にあるはずがない。そんな、十年来の友人のような、積もる話はないはずだが、彼はそう言いたげな調子で、続ける。

「昔話でもしますか? それとも、御伽噺? 私としては世間話も捨て難いのですが」

「――……まず、聞かせて」

「はい、お好きなように」

「……何故、私、に、構う?」

 これだけははっきりさせておきたかった。

 どんなに私が私の中で理論立てて解析しようとしたって、それはただの稚拙な状況整理にしかならない。

 それ(・・)を私に教えたとして、彼にとって、どのような利益があるのか。または、教えないことによって、どのような損害を被るのか。

 はっきりさせないと、それ以上は、前には進めない。

「理由としては、二つ程」

 そう前置きをしてから、男はどこか愉しげに、ころころと笑うように続けた。

「一つは、他者の人生の蒐集。趣味みたいなものです」

 嫌な趣味だった。

「もう一つは――あなたが、昔のキティに良く似ているから」

「キティ……?」

「ええ、それ故に、とても不安定だ。触らずとも崩れ去る砂の影、吹かずとも消え去る蝋の灯」

 ――それがあなたです。

 クウネルは、戯けた調子で、続ける。

「なので少しだけ、その砂に水を、その灯に油を、注いであげようと思いまして。端的に言えば老婆心ということです」

「その水が、その、油が、これ、って、こと?」

 ――紙袋の中に入っていた、一枚の羊皮紙。

 それを取り出して、突きつけた。

 彼がなにを目的としているのかについて、ある程度の状況整理が出来たのは、この羊皮紙があったからと言っても過言ではない。

「おっと、それについて喋れと言うのであれば、やはり、見返りが必要ですね」

「…………」

「そのパーカーのチャックを下までおろしてください。結構悩み抜いたんですよ、あなたがパーカーの下に着ているその水着」

 ここまで来て、有耶無耶にされるのは、本当に、不本意である。

 まぁ、別に誰かに見られているというわけでもない。敢えて言うならこのクウネルとかいう悪霊が見ているのだが、私の前に姿を見せない以上は、見られているという意識も薄い。

 そういう言い訳を咀嚼して、飲み込んで、少しだけ躊躇ってから、ファスナーのスライダーを下へと滑らせた。噛み合っていたエレメントが離れていき、膝まである長い丈の終着点に辿り着く。最後にスライダーから蝶棒を外して、パーカーで隠れていた水着と肌が露出した。

 真っ黒なビスチェタイプのトップス。胸元の下から緩めのフリルが控えめに伸びている。ボトムはミニスカートタイプ。

「おお! 素晴らしい! ええ、やはり控えめな体型にはフリル満載レースだらけのかわいい系が似合う!」

「…………殺す」

 誰がぺったんこか。

 いや、まぁ、無いものは無いけど。

 虚無だけど。

「おやおや、怖い怖い。いいのですか? 私がここで《やっぱり教えないことにします》と言えばそれまでですよ? あなたがその恥ずかしい姿のまま外を出歩いていたという過程を残して、結果はなにも残らないのですよ?」

 …………。

「ああ、それはとても残念です。パーカーの下におへそが丸出しの水着という露出趣味すら疑われてしまうような服を着てここまで来てくれたのに。まるで痴女のような行いをしてまでここに来てくれたのに! ああ、本当に残念です。もしかしたらふとした拍子に誰かがあなたのその下に着てきた水着に気付いてしまっていたかもしれませんね。いえいえ、もしかしたら、すれ違った人全員があなたの露出趣味に気付いていたかもしれません。そんなリスクを抱えてまでここまで来たのに、辿り着いたのに、残念です。なにも得ることが出来ないまま帰ってしまわれるなんて」

 ……………………。

 両手を握り拳にして、こめかみに持ってきて、あざとく上半身をちょっとだけ傾けて、どういう仕組みなのか分からないけれど、猫耳もひょこひょこと動かして――

「にゃーん」

 サービスしてみた。

「よろしい」

 いいのか。

「まぁ、元々、本当にその服を着てくるとは思いませんでしたし」

 …………。

「今の私の能力なんてたかが知れています。せいぜい念話を送ったり、小さな小さな小物を転送したり、それくらいです。あなたの服を換装(コンバート)して、尚且つ脱げないようにするなんて、そんな芸当、今の私には出来ません。無理です。不可能です」

「昇天、してしま、え」

 本当に、良い性格を、してらっしゃるようで。

「そういう口振りは、なかなか、似てますね。あなたの本質を隠せるくらいには、良く出来ている。柔らかくなったキティとでも言いましょうか。いえ、柔らかいあなたがキティの真似をしているだけなのですから、それは当たり前なのですが。おかげさまで、少しだけ愉快です。あのキティをいじめているような気分になれます。欲を言えばもう少し慌てふためいてほしいところですが――この私が及第点をあげましょう」

「意味が、わから、ない」

 キティというものが、誰を、何を、指しているのか。

 意味としては子猫だが。

 まさか、ハローなキティでもないだろうし。

 まさか、キティなプライドでもないだろう。

 もしかしてさっきの「にゃーん」のことを言っているのだろうか。事此処に至って煽ってるのか、この男。

「まぁ、そんなことより――そのメモ、読んでいただけましたか」

 読むな、と言う方が難しいだろう。

 事細かに書かれた文の羅列の集合体であるならば、それは目に入った程度では読めないけれども、簡潔な短い文ならば、目に入った段階で既に脳が勝手にそれを読み上げてしまう。

 “私は鍵を持っています”。

 たった、それだけ。

 羊皮紙に書かれていた文は、たったのそれだけ。

 目に入っただけで、それは読めてしまう。

「……鍵、って?」

「そのままの意味です。錠に挿し込んで、がしゃりと、開けるための道具です」

 ならば、その錠はどこにあるというのか。

 そもそも、なんのための鍵なのか。

 ただの鍵に価値はない。

 錠がなければ、鍵は必要ない。

 ならば――それはきっと、錠がどこかにあるという話だ。

 だから――この男はその鍵のかかった錠を、開けるために、こうして私を呼び出したのだ。

「キティはキティで、きっと考えているのでしょう。どうやってその鍵を開けようか、と。まるで智恵箱を弄るような気持ちで、薄氷の上を歩くような面持ちで。ですが、それはとても難しい。今まで、自分のことだけを考えれば生きてこられたキティには、荷が重たい」

「…………」

「立ち止まれないし、行き止まれないのです。なので、私がお手伝いしてあげます。お節介というやつです。あなたの中の重荷を、少しだけ肩代わりしてあげます。その力を抑えるのは容易ではないでしょう。今まで、よく頑張りましたね。あなたの気持ちは確かに受け取りました。でも、もう大丈夫です。少しだけ楽になるはずです。これも、古い友人の好というやつです」

「………………」

「青山の分家とは言えども、最早そんな昔のことを彼に尻拭いさせるのは可哀想ですし。ええ、もう責任を持てる人がいないんですよね。困りものです。境遇としては、その身体に成る前からキティに似ている。彼女がここまで肩入れするのも分かります」

「……………………」

「いえ、彼女の場合は、もっと違うところにある感情で動いているようにも思えますね。きっと、似ているだけならば、彼女はあなたの事など、気に掛けることはあっても肩入れすることはないでしょう。どちらかと言えば気に欠けるまであります。獅子は子を崖に突き落としますからね。そういう意味では、彼女はあなたに救われているのでしょう。だからこそ、あなたにも救われてほしいと、私は思っているのですよ。あなたが救われなければ、彼女はまた独りになってしまう」

「…………………………」

「……起きてますか?」

「起きてる」

 危ない。

 ちょっと寝てた。

「……本当ですか?」

「にゃ、にゃーん」

「…………まぁ、いいですけれど」

 むぅ、誤魔化せないか。

 そもそも、話が長いのが悪い。回りくどいのだ。回り回って、話がどこに行き着くのかも曖昧で、分かりにくいのが悪いのだ。

 私に話しかけているのか独り言なのかすら怪しい言葉の羅列を並べられたら、そりゃ、眠くもなるでしょう。

 前から分かっていたけれど、私とは別のベクトルで本当に会話が下手なのだ。

「まぁ、私も話し過ぎましたね。こんな話をしても、あなたは理解できない――いや、理解させてもらえない」

 理解も何も、寝てしまっては話なんて聞けたものではない。どんな有能でも、天才でも、寝ながら人の話を聞ける人はいないだろう。

 えーっと。なんだっけ。

 確かキティちゃんが鍵を持ってて智恵箱を開けようとしたり薄氷の上でスケートするんだけどそれは技術的にキティちゃんには荷が重いって話だっけ。

 呼び出しておいてなんの話をしてるんだ、この変態。

「なので――」

 瞬間。

 窓に差し込んでいた陽の光が、何者かによって遮断された。

 深くフードを被った、外套を来た不審人物が、いつの間にか私の目の前に立っていた。

「話はここまでです」

 その男は、私の頭を、くしゃりと、撫でた。

「やはり、今の私では、実体を持たせるのはなかなか厳しいですね。……これは、半年ほど眠りにつくことになりそうだ」

 どうやら、今までさんざん私の頭の中に語りかけてきた男の正体らしかった。なるほど、変態に相応しい不審人物だ。

 だけれど、私の頭を撫でるその手は、変態らしからぬ暖かさを持っていた。

 また、眠くなる。これは、多分、さっきとは少し違う質の眠気だ。故意的な意識の介入。意識が沈んでいく。沈まされていく。剥奪されていく。また、主導権が、失われる。

 泥が足に絡みついてくる。視界から光が失せていく。

 

 

 

 

 

 

 ベンチの上で目が覚める頃には、もう陽の光の色は消え失せていた。

 陰って寂れた雰囲気の図書館の中にはそれでも人の気配がそこかしこを行き交っている。すっかり夜更けまで眠ってしまったのかと思ったが、まだそこまで遅い時間ではないらしい。冬は日が短いから、こういうとき、分かりづらくて困る。

 上体を擡げて、視線を下げる。

 パーカーはそのままだが、水着は私が着替え用に持ってきていた黒のワンピースに変わっていた。人の装備を換装できるような能力は無い、とあの変態は言っていたが、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかがいまいち分からない。

 本当に、要領を得ない人だ。

 未だ眠気眼で重い瞼を手の甲で擦る。なんだか、とても長い夢を見ていたような気分だった。寝たのに、寝ていないような疲労感。これは帰宅したら即就寝コース間違いなしだ。

 シャワーは、まぁ、いいか。起きてからで。

 身体は依然として重かったが、帰らない訳にもいかないので、なんとかして立ち上がる。

 なんとなく視線を落とすと、丸テーブルの上に羊皮紙が置いてあった。

 “私は鍵を持っています”と書かれた文の下に、新たに文章が追加されている。

 “そのパーカー、もとい、外套には加護を施しています”。“多少傷ついても大丈夫ですが、大切に扱ってくださいね”。“PS.水着も差し上げます”。“夏になったらそれを着てキティと水浴びなど如何でしょうか”。“きっと喜びますよ、彼女”。

 ……この場でパーカーを引き裂いてやろうかと思ったけれど、折角の加護なので素直に受け取っておくことにした。

 しかし、せめて加護とやらの内容についても書いておいてほしかった。毎度思うのだけれど、説明が不足しすぎている。もっと大事なこと教えろ。どう考えてもその追伸よりも必要な情報があっただろ。

 

 羊皮紙を紙袋にしまって、パーカーのファスナーを胸元の下まで持ち上げてから、私は図書館を後にした。

 パーカーの加護とやらのおかげなのか、不思議と冬の夜空の下でも寒くない。吐く息は依然として白いものの、これなら風邪を引くこともないだろう。なんだ、あんな変態でも気遣いが出来るのだな、なんて思っていたら、白いロングコートを着たエヴァに遭遇した。

 いや、遭遇というよりは、会って然るべきだったのだろう。エヴァの手には私が部屋に残したノートの切れ端が握られていた。

「全く、探したぞ」

 そう言って、私の手を握る。その手は少し――というか、かなり冷たかった。

 溜息混じりの白い息が、幻影のように消えていく。

 握られた手を握り返して、少しだけ、エヴァの腕に擦り寄った。

「心配、して、くれた?」

「……別に」

 冬の夜風のせいか、エヴァの頬は赤く染まっていた。

「というか、どうしたのだ。そんな愉快なものを頭に乗せて」

 ディズニー気分か、なんて言われて、空いてる手で頭に触れる。猫耳がつけっぱなしだった。この調子ではパーカーの下では尻尾が揺れ動いていることだろう。

 あの変態め。どうせ着替えさせるなら外しておいてくれても良いだろうに……。

 ……エヴァが握ってくれていた手を離して、両手を握り拳にして、こめかみに持ってきて、あざとく上半身をちょっとだけ傾けて、どういう仕組みなのか分からないけれど、猫耳もひょこひょこと動かして――

「にゃーん」

 なんて、鳴き声を上げてみる。

「うぐっ……」

 エヴァが奇妙な鳴き声を上げた。

「…………あまり、他の人の前ではやるなよ、そういうこと」

 気味悪がられるぞ、なんて言われた。

 失礼な。

「やらないよ」

「それでいい」

「ねぇ」

「あ?」

「…………キティ」

「……あ!? お、おまっ! その名前誰から聞いた! いや、図書館で何を読んだ!? まさか、私にまつわる文献とかじゃないだろうな! というか、その名で呼ぶな! 嫌な奴を思い出す……!」

 どこか遠くで、意地の悪い図書館の地縛霊がくすくすと笑った気がした。




 相変わらず図書館はオリジナルの低クオリティ。
 クウネルは、あいつは良く分からん。学園祭中の学園内でしか実体を持った分身は動けない、という設定は理解しているのですが。でもまぁ、彼なら図書館という極めて短距離でなおかつ更に短時間であれば、できなさそうでもないなと思ったのですが、どうなのでしょう。有識者求む。
 いえ、今訂正されたところで、これを直すという作業はつまり、前の話と今回の話を削除するという話に落ち着くわけなので、それをしてしまうのは、少し悲しいなぁという雰囲気。
 まぁ悲しみを持ったところで矛盾が消えるわけではないので。不都合があるなら都合をつけて当て嵌めて整形して成形してクソクオリテな矛盾解決を決行するかもしれません。まぁ、実像を持たない幻影で、なおかつ本体が近くにある状態なら問題なく人前に姿を現せるというのは原作でも確認されてることだと思いますし、その後のそれっぽいデメリットを提示しておけばそれっぽくなるでしょ、という。
 いつもこんな感じです。ファンタジーは解釈次第ではなんでもありですからね。
 こんなこと言ってるから作り手には一生なれねえんだよ、と。
 そもそも頭がわるわるな上に努力も嫌いなので、消費者としてしか生きていけないというのは、理解しているのですが。

 クウネルの性格が違う?
 ここもそれぞれの人の解釈によるので言及も明言もできません。ただ、意地の悪い司書という称号を持つ彼なら、いじればいじるほどムキになるタイプに対してはとことんいじめたくなる人なんだろうなぁと。エヴァとの絡みを見て、ただ、そう思っただけですが。
 ただ、彼が一番都合のいいキャラだったんですよね。要するに、ご都合主義です。いつものことです。笑えるね。

 そしてね、今更なんだけどね。
 矛盾をね、発見してしまったね。
 鈴葉と瀬流彦の関係ですね。
 瀬流彦は鈴葉が四年生になったあたりで担当するようになった、と、一応設定していたのですが、あの人原作開始時点で未だに新人っていう雰囲気がありません?
 厳密な年齢解かわからないんですけども。
 うーん、就任してから四、五年目って、まだ新人ですかね?
 いや、でもこのまま行くと原作開始時点で六年目になる?
 頭わるすぎて計算できないおじさんです。
 矛盾って程じゃなくてもいいかー。なんて、楽観視。
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