「なぁなぁ遊蓮、この後暇か? 暇なら付き合ってくれよ」
授業が終了し、寮に帰ろうとしたところで十代から声がかかった。
「どうした? 前に大徳寺先生と行った遺跡調査のことか?」
「いや、そうじゃねぇ。あれはあれで色々あったけどそっちじゃなくて、この前のサンダーとのデュエル、テレビ中継されてただろ? あれを母ちゃんが見てたらしくてさ、俺の負けっぷりを心配してカードを送ってきてくれたんだよ」
「へぇー、良いお母さんじゃないの」
「まぁな。で、問題はその量でさ。大量なんだな、これが。だからよ、選別とデッキ調整に付き合ってくれ」
そんなわけで、レッド寮にやってきた。
箱自体はそんなに大きなものではなかったが、その中にはぎっしりとカードが詰まっている。
俺、十代、翔、隼人が車座になって十代のデッキに入りそうなカードを分別していく。
「量もそうッスけど、レアカードも多いッスね。もしかしてアニキの家ってお金持ち?」
「んなワケねぇだろ。母ちゃんが色んな大会に出て、上位入賞者に配られるパックを集めてるんだよ。この量だと、俺がこっちに来てからも荒らしまくってたみたいだな」
「荒らしって、凄い母ちゃんなんだな。あ、これなんか良さそうなんだな」
「ん、グリーン・バブーンか。悪くないが、ライフ1000のコストはちょっと重くないか? レベル7ってのもな、レベル8ならトレード・インのコストにもできたが」
「これはどうッスか?」
「マシンナーズ・フォートレスか。ビークロイドに組み込むのも悪くないが、どうせならマシンナーズで組んでみたらどうだ? 他にもないか探してみろよ」
「……おまえら、主旨を忘れてないだろうな」
十代は俺たちに睥睨の視線を送ってぼそりと呟いた。
「わかってるよ。お、この辺はヒーローゾーンみたいだぞ」
エアーマンにソリッドマン、ブレイズマンにシャドー・ミスト。属性ヒーローの融合体もけっこう揃ってるな。漫画版が浸食してきたか?
「通常モンスターもそろそろ限界だろ。デッキを見直すいい機会だ」
「フェザーマンたちを外せってのかよッ!?」
「気持ちはわかるが、変に拘るとデッキが回らなくなるぞ。ほら、エアーマンだってカッコイイだろ」
「確かにカッコイイが、ううむ」
「EXデッキもキツイな。15枚に収まるか……。フェザーマンを抜くんだからフレイム・ウィングマンもワイルド・ウィングマンも抜いて、セイラーマンも要らん。スチーム・ヒーラーもマッドボールマンも要らん」
「お、おまえ……人のデッキを勝手に……」
「おまえは新しいカードを確認しておけ。効果はちゃんと把握しておけよ」
「わかったよ、ったく」
ぶつぶつ言いながらも、十代は瞳を輝かせて新しいヒーローたちに目を通していった。
午前中の授業の終了を告げるチャイムがなったところで、教壇に立つ大徳寺先生から声をかけられた。
「十代くん、万丈目くん、それに音羽くんと三沢くんと明日香さんも、私と一緒に校長室に来てください」
途中でカイザーを連れたクロノス先生と合流し、連れ立って校長室に入る。
そこで鮫島校長から衝撃の真実を明かされる。
まあ、予想通り三幻魔についてだった。
「島の伝説によると、そのカードが地上に放たれるとき、世界は魔に包まれ、混沌が全てを覆い、人々にすくう闇が解放され、やがて世界は破滅し、無へと帰する。それほどの力を秘めたカードだと伝えられています」
続いて校長は挑戦してきた者たち、セブンスターズについて語り始めた。そして引き出しから小さな箱を取り出すと、テーブルの上に置く。
「そこであなたたちに、この七つの鍵を守っていただきたい」
「守るといっても、一体どうやって……」
「もちろん、デュエルでです」
いや、その理屈はおかしい。と思ったが、口には出さない。遊戯王ではよくあること。それよりも気になることがある。
「あー、ちょっといいですか。鍵は七つですが、ここには八人います。どういうことでしょう?」
「うむ、私としては若い力に託したい。クロノス教諭には彼らの監督役を頼みたい」
「俺では力不足です。クロノス先生に譲りたいのですが」
「ほぅ、殊勝な心掛けでスーノ、シニョール音羽」
クロノス先生が鼻を鳴らして満足そうにうなずく。
「お願いできませんか? 音羽くん」
校長も引く気はないらしい。ここでごねてもな、まあいいか。
「はぁ、わかりました。微力ながらお手伝いします」
「ありがとう。この七つの鍵を持つデュエリストに
平和な日々も一旦終了か。
「大変だッ! 起きろッ! 遊蓮ッ! 起きろッ!」
明けて翌日、東の空が白み始めた頃、部屋の扉を叩く音と三沢の声で目を覚ました。ドアを開けると、三沢の他に万丈目とカイザーも一緒にいた。
「どうしたんだ? 朝っぱらから」
「火山の方で異変があったらしい。サンダーの精霊も騒いでいるようだ」
当の万丈目の方へ目を向けると、なにやら虫を振り払うような仕草をしていた。
「分かった。すぐに行こう」
4人で連れ立って火山に向かう。そこには十代たちが倒れていた。そしてその少し向こうで見慣れぬ黒衣の男を抱きしめ、明日香さんが涙を流している。
「保健室へ連れていこう。十代と、そっちの男もな」
明日香さんは黒衣の男から一時も離れようとはしなかった。授業には出ているが、それ以外の時間のほとんどは付き添っていた。
それから数日後、学園内ではある噂が飛び交っていた。
曰く、女の吸血鬼が出ると。
鮫島校長から注意喚起が促されたが、取り立ててできることはないので、俺はのんびりと過ごしていた。
そして霧の深い夜。湖の上に吸血鬼が出たという報がもたらされた。
「あら、遊蓮くん。どうしたの?」
「吸血鬼が出たらしい。闇のデュエルになるかもしれない」
「……闇の、デュエル」
「あっ、アニキ! 大丈夫?」
「いこう、みんなが心配だ」
保健室のベッドで体を休めていた十代は、翔に肩を借りて部屋を出て行った。その後を明日香さんが追っていく。
「吹雪さん、ちょっと借りますよ」
意識のない吹雪さんに断りを入れて、
水辺に駆けつけると、まだ誰が出るか揉めているところだった。十代たちはいないな、どっかで追い抜いたか。
「遊蓮、どこに行ってたんだ?」
「ちょっとな。で、誰が出るんだ?」
「ここはやはり俺が出るべきだろう」とカイザー。
「いや、初戦だ。俺が出る」と万丈目。いや、吹雪さんのこと忘れてない?
「データを取るためにも俺が出るべきだ」と三沢。
「ならジャンケンでいいんじゃないか?」
俺がそう言うと3人が拳を握った。なし崩し的に俺も参戦する事になり、4回のあいこの末、万丈目が敗北した。
輪が小さくなり、カイザーと三沢の拳には一層の力がこもる。
そこで俺は自分の勘違いに気付いた。いや、あの流れで気付かないのは相当のマヌケだとは思うのだが、これは男気ジャンケンだった。