「おかえりなさい。随分と早いのね、祝勝会でもしてくると思ったのだけど」
自室に帰った俺を出迎えたのは、真紅のドレスを身に纏った吸血鬼、カミューラだった。
「そうか、幻魔が封印されたことで……」
「そう、私も元通りというわけよ」
「なら精霊界に帰ったらどうだ?」
「前にも言ったけどね、私は精霊じゃないのよ」
「じゃあルーマニア?」
「そういう安直な発想はやめてちょうだい。串刺し公とは関係ないわよ」
そういえばヴァンパイア一族の生き残りとか言ってたな。帰る場所がないのかもしれない。悪いこと言っちゃたかな。
「すまない、ちょっと無神経だった。鮫島校長に相談して、なんとかしてもらうよ」
「別にいいわよ。今まで通りここにいるつもりだし」
……今この吸血鬼は何と言った?
「カミューラ、ここはオベリスクブルーの男子寮だ」
「だから?」
「女性がいるのは色々とマズい」
「大丈夫よ。いざという時は霧になるから」
それは根本的な解決になってないと思うが。
すったもんだの末、結局押し切られる形で滞在を許すことになってしまった。一応、校長には報告しておいた方がいいだろうな。
「遊蓮、ちょっと相談があるんだな」
「隼人か。クロノス先生とのデュエルのことか?」
今日はちょっとした事件があった。
隼人がデザインしたカードがインダストリアルイリュージョン社主催のコンテストで優勝したのだ。向こうから正式にカードデザイナーとして契約しないかと打診されたが、それにはアカデミアの推薦が必要だった。
鮫島校長は乗り気だったが、クロノス先生が待ったを掛けた。自分にデュエルで勝たないと推薦はしないと言い出したわけだ。
「そうなんだな。デッキ調整を手伝ってほしいんだな」
「わかった。じゃあ放課後にそっちへ行くよ」
「うん。待ってるんだな」
そして授業が終わり、レッド寮の部屋へいくと、すでにいつもの3人が車座になっていた。
「でもよー、親父さんとのデュエルの時に散々語り尽くしたじゃないか」
「確かにおまえの言いたいことは分かる。でもあの頃と違ってカードは増えてるじゃないか。おまえのお袋さんのカードが」
「そうッスよ、アニキ。こんなにカードがあるんだから、改良の余地はあるはずッス!」
「グリーン・バブーンは入れてみたんだろ? どうだった?」
「うーん、やっぱりライフコストが重いんだな。ギリギリのところで踏ん張れないというか……うーん」
やはりライフ4000だと1000のライフコストは重いか。
「クロノス先生のデッキは《
「え、僕ッスか? えーと、確か、攻撃する時に魔法・罠カードを発動できない、だよね」
「おおむね正解だ。中にはモンスター効果も封じる《
「えーっと、攻撃反応型のトラップは入れない方がいい?」
「そうだな。ミラーフォースや攻撃の無力化よりは、和睦の使者や威嚇する咆哮、あとは奈落の落とし穴や激流葬なんかの召喚反応型のトラップだな」
「な、なるほど」
「相手がどんなデッキを使うか分かってるのは、大きなアドバンテージだ。対クロノスデッキを作るぞ」
「お、おー」
「試験は明日だ、時間がない。とにかく実戦だ。デュエルして、調整する。その繰り返しだ。俺が隼人の後ろに付くから十代、相手してやってくれ」
「おお、デュエルか! いいぜ、やろうやろう」
こうして俺たちは明け方まで調整とデュエルを繰り返した。
「シニョール前田、これより進級試験デュエルを始めるノーネ」
「は、はい!」
「先攻は、シニョール前田に譲るノーネ」
「よろしくお願いします!」
『デュエルッ!』
「俺のターン、ドロー。モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドなんだな」
前田隼人 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「私のターン、ドローなノーネ。フィールド魔法《
攻撃力3000の巨人と巨竜の出現に、隼人は一歩退く。たが闘志は萎えていない。
「バトルフェイズの前に《威嚇する咆哮》を発動するんだな。これでこのターン、クロノス先生は攻撃できないんだな」
「ふむ、ならば私はカードを2枚伏せて、ターンを終了するノーネ」
クロノス LP4000 手札2 モンスター2 伏せ2
前田隼人 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。魔法カード《魔獣の懐柔》を発動。デッキからカード名が異なるレベル2以下の獣族の効果モンスター3体をデッキから特殊召喚するんだな。俺は《おとぼけオポッサム》と《ラッコアラ》と《コアラッコ》を効果を無効にして特殊召喚。そして《ラッコアラ》と《コアラッコ》をリリースして《ビッグ・コアラ》をアドバンス召喚するんだな」
《ビッグ・コアラ》
星7/地属性/獣族/攻2700/守2000
「ビッグ・コアラで古代の機械巨人を攻撃!」
「攻撃力の低いモンスターで攻撃でスート!?」
「手札から速攻魔法《コンセントレイト》を発動。ビッグ・コアラの攻撃力はターン終了時までその守備力分アップするんだな」
《ビッグ・コアラ》 攻撃力2700 → 4700
「なるほど、そういうことでスーカ。でも甘いノーネ。速攻魔法《リミッター解除》を発動。私のフィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になるノーネ」
「そ、そんな……くっ!?」
前田隼人 LP4000 → 2700
「俺はこれでターンエンド。魔獣の懐柔の効果で特殊召喚した《おとぼけオポッサム》はエンドフェイズに破壊されるんだな」
「こちらもリミッター解除の効果を受けたモンスターは破壊されまスーノ。でもそんなのは計算の内なノーネ」
前田隼人 LP2700 手札1 モンスター1 伏せ1
クロノス LP4000 手札2 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《古代の機械騎士》を召喚して、バトル。セットモンスターを攻撃!」
隼人のセットモンスター《デス・カンガルー》が機械騎士のランスに貫かれて破壊される。続けてクロノス先生は追撃の一手を繰り出した。
「リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地の《古代の機械巨竜》を特殊召喚するノーネ」
「――ッ!? ならチェーンして《死魂融合》を発動。墓地の《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》を除外して《マスター・オブ・OZ》を融合召喚するんだな!」
「むむ、攻撃力4200でスーカ。では攻撃を中止してターンエンドなノーネ」
クロノス LP4000 手札2 モンスター2 伏せ0
前田隼人 LP2700 手札1 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。バトルフェイズに入るんだな。マスター・オブ・OZで……古代の機械巨竜を攻撃、エアーズ・ロッキー!」
隼人はどちらを攻撃するか一瞬悩んだようだが、ダメージよりも大型モンスターを破壊する方を選択した。
マスター・オブ・OZの右ストレートが炸裂し、機械巨竜を撃ち落とす。
クロノス LP4000 → 2800
「俺はこれでターンエンドなんだな」
前田隼人 LP2700 手札2 モンスター1 伏せ0
クロノス LP2800 手札2 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。なかなか食らいつくノーネ。去年のしょぼくれたデュエルとは大違いなノーネ。いいデショウ。私の真のエースを見せてあげるノーネ。魔法カード《
《
星10/地属性/機械族/攻4400/守3400
「デッキ融合! そして攻撃力4400! これがクロノス教諭の真のエースモンスターか!」
興奮した三沢が食い入るように巨人を見上げている。隼人もまさか真っ向から攻撃力を超えられるとは思ってなかったのか、唖然としていた。
「生徒相手にこれを見せる時が来るとは思わなかったノーネ。バトルなノーネ。アルティメット・ゴーレムでマスター・オブ・OZを攻撃、ハイパー・アルティメット・パウンド!」
鉄の拳と獣の拳がぶつかり合う。その衝撃はわずかな拮抗を生み出したものの、鉄拳がマスター・オブ・OZのスカーフェイスに突き刺さった。
前田隼人 LP2700 → 2500
「さらに古代の機械騎士でダイレクトアタック、なノーネ!」
前田隼人 LP2500 → 700
「私はこれでターンエンドなノーネ」
クロノス LP2800 手札0 モンスター2 伏せ0
前田隼人 LP 700 手札2 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「ぐぅ、きばれぇー、きばるんだ、俺。――ドロォー! 来たんだなッ! 魔法カード《エアーズロック・サンライズ》発動。墓地の《マスター・オブ・OZ》を特殊召喚するんだな」
隼人のエースカード、ボクシンググローブをはめた巨大なコアラが墓地より甦り、拳を打ち鳴らす。
「ふむふむ、デスーガ、アルティメット・ゴーレムの攻撃力には届きまセーン。古代の機械騎士を攻撃しても、私のライフを削り切ることは――いや、ちょっと待つノーネ!」
ようやく気付いたようだな。エアーズロック・サンライズの効果には続きがある。
「エアーズロック・サンライズにはもう1つ効果があるんだな。相手フィールドのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、俺の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ダウンする」
除外して2体減ったとはいえ、墓地にいる対象のモンスターは3体。
《古代の機械騎士》 攻撃力1800 → 1200
《古代の機械究極巨人》攻撃力4400 → 3800
「エースを倒せなくても、ライフを0にすればデュエルは勝てる! これが俺の一年間の集大成。マスター・オブ・OZで古代の機械騎士を攻撃! チェストォォッー!!」
機械騎士のランスを弾き飛ばし、赤いグローブが唸りを上げる。
「スプレンディーッド。素晴らしいノーネ、シニョール前田。見事な、実に見事なデュエルだったノーネ」
クロノス LP2800 → 0
「シニョール前田。進級試験は見事合格なノーネ。デュエルアカデミア実技担当最高責任者として、あなたをインダストリアルイリュージョン社に推薦するノーネ」
「あ、ありがとうございます」
「この私が、太鼓バーンを押したからには、胸を張って進むといいノーネ」
デュエルが終わり、ふたりが握手を交わす。
数日後、進級を待たずに前田隼人は旅立って行った。