「今、なんて言いましたか? カイザー」
恐らくは聞き間違いだろう。そういえば最近耳掃除をしてなかったからな。
「うむ、卒業デュエルの相手を、キミにお願いしたい」
「あー、理由をお伺いしても? 十代と間違えてませんかね」
聞き間違いではなく、人違いかもしれない。
「さすがにキミを十代と間違えたりはしない。確かに卒業デュエルの相手を指名する権利を与えられたとき、真っ先に思い浮かんだのは十代だ。だが、寮に戻り、よくよく考えてみたら、十代と戦ったことはあるが、キミとデュエルしたことは一度もないことに気付いたのだ」
「そう言われれば、そうですね」
「キミとはセブンスターズの一件から、よく行動を共にするようになった。デュエルする機会はいくらでもあったはずだ。にもかかわらず、キミと戦ったことは一度もない」
それは俺が貴方の眼中になかったからでは? と喉元まで出かかったが、なんとか押しとどめる。振り返ってみると、俺が活躍したのはカミューラ戦くらいだと思う。
「オシリスレッドからオベリスクブルーまで駆け上がり、セブンスターズ戦のメンバーにも選抜されている」
「それは一時の注目だけで、最初からブルーで、それを維持し続けている人たちのほうがずっと凄いと思いますよ」
セブンスターズも単なる数合わせだった可能性が微レ存。
「ふっ、そう謙遜しなくてもいい。翔や明日香も認めていたぞ、カードの知識量は三沢に引けをとらないと」
「あー、それはまあ」
それは情報源の違いだと思う。この世界では公式データベースはおろか、有志のデータベースも存在しない。アカデミア独自のデータベースはあるが、全てのカードを網羅しているわけではない。
というか地頭の良さでは三沢と俺では比べものにならない。あいつバニラモンスターのフレーバーテキストも暗記してるからな。
「ともかく、間違いでも勘違いでもない。俺はキミとデュエルがしたい」
「……わかりました。カイザーにそこまで言われては、断る方が失礼でしょう。未熟ながら、卒業デュエルの相手を務めさせていただきます」
「ありがとう。ではその時を楽しみにしている」
そう言い残してカイザーはドアを閉めた。
「で、どっちのデッキで戦うの?」
カイザーが立ち去ると、自身の身体を霧状から戻したカミューラが問いかけてくる。
「あの蛇みたいなレプティレス? それともあの可愛い女の子たち? もしかして私の時に使った除外デッキ? まさかあのバーンデッキは使わないでしょう?」
「それこそまさかだ。卒業模範デュエルだぞ。尖ったデッキは使えないよ。露骨にメタるのもなしだ。負けても魂取られるわけじゃない。精々楽しむさ」
「シニョールアーンドシニョーラ、ただいまより、卒業模範デュエルを開催するノーネ。先攻、後攻の選択権は、挑戦者であるシニョール音羽にあるノーネ。どちらを選びますカー?」
「では後攻で」
「よろしい、では卒業模範デュエル、開始なノーネ!」
『デュエルッ!』
「俺のターン、ドロー。《サイバー・ドラゴン・コア》を守備表示で召喚して効果発動。デッキから《サイバネティック・フュージョン・サポート》を手札に加える。《おろかな埋葬》を発動。デッキから《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》を墓地に送る。墓地に送られたヘルツの効果で、デッキから《サイバー・ドラゴン》を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドだ」
丸藤亮 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
さすがに開幕サイバー・エンドはなかったか。まあ手札消費が激しすぎるから当然と言えば当然だが。
「《シャドール・ドラゴン》を召喚してバトル。《サイバー・ドラゴン・コア》を攻撃。続けて速攻魔法《
「バトルフェイズ中に融合とはな、面白い。チェーンして対象となった《サイバネティック・オーバーフロー》を発動。墓地の「サイバー・ドラゴン」扱いの《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》を除外して《エルシャドール・ネフィリム》を破壊する。そして《サイバネティック・オーバーフロー》が効果によって破壊されたので、デッキから《サイバー・リペア・プラント》を手札に加える」
「なら俺は効果で墓地に送られた《シャドール・ビースト》の効果で1枚ドロー。そしてネフィリムの効果で墓地の《神の写し身との接触》を手札に加えます。バトルフェイズを終了し、カードを1枚伏せてターンエンドです」
音羽遊蓮 LP4000 手札4 モンスター0 伏せ1
丸藤亮 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。手札の《サイバー・ドラゴン》を捨て、《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を特殊召喚。そして効果発動だ。今、手札から捨てた《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する。だがこの効果を発動したターン、俺は機械族モンスターしか特殊召喚できなくなる」
「そんなこと言って、カイザーのデッキには機械族モンスターしか入ってないってオチでしょ」
「ふふっ、まあそういうことだ。《置換融合》を発動。フィールドの《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ドラゴン・ネクステア》の2体を融合。現れろ、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》!」
現れたのはサイバー・ツイン・ドラゴンに似た双頭の竜。だが属性も効果も違う闇の機械竜。
「このカードが融合召喚に成功した時、素材としたモンスターの数まで魔法・罠カードを破壊できる。そのセットカードを破壊する」
「チェーンして《
「凄まじい回転率だな。しかもそのネフィリムというモンスター、かなり厄介な効果を持っているようだ」
特殊召喚したモンスターをダメージステップ開始時に破壊する効果だからな。カイザーのデッキだと戦闘破壊するのはかなり難しいかもしれない。
「キメラテック・ランページ・ドラゴンの第2の効果を発動。デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地に送る。俺は《サイバー・ファロス》と《超電磁タートル》を墓地に送る。そしてリバースカード《強制脱出装置》を発動。そのモンスターにはお帰り願おう」
エルシャドール・ネフィリムが射出台にセットされ、勢い良くEXデッキに戻される。
「バトルだ。キメラテック・ランページ・ドラゴンでセットモンスターに攻撃!」
「墓地の《超電磁タートル》の効果発動。このカードを除外してバトルフェイズを終了する」
「ふっ、気付いていたか。一撃は通ると思っていたがな」
やっぱりランページ・ドラゴンの効果説明を省いたのはわざとか。意外と強かだな。
「キミなら気付くと思っていたよ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」
丸藤亮 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
音羽遊蓮 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
カイザーの手札は2枚。おそらく《サイバネティック・フュージョン・サポート》と《サイバー・リペア・プラント》。墓地には超電磁タートルが残っており、サイバー・ファロスも厄介だ。
どうするかね。まあどれだけ睨んでも手札が変わるわけでもなし、なるようになるか。
「シャドール・ヘッジホッグを反転召喚、効果でデッキから《
「条件付きとはいえ、手札1枚から融合できるのか。破格の性能だな」
「デッキの《
「キミが破壊したのは《サイバー・ネットワーク》だ。サイバー・ネットワークがフィールドから墓地へ送られた場合、除外されている光属性・機械族のモンスターを可能な限り特殊召喚できる。俺は《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》、《サイバー・ファロス》、《超電磁タートル》、《サイバー・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚する。無論デメリットも多々あるが、どれも大したことはない。厄介なのはこの効果で特殊召喚したモンスターは効果が発動できなくなることくらいか」
発動できなくなると言っても、それはフィールドだけのこと。墓地では問題なく発動できる。これは完全に裏目ったな。
「ならばバトル。シャドール・ヘッジホッグでサイバー・ドラゴン・ヘルツを、ネフィリムでランページ・ドラゴンを攻撃!」
「だがダメージは発生しない。そしてサイバー・ドラゴン・ヘルツが墓地に送られた事で効果発動。デッキから《サイバー・ドラゴン》を手札に加える」
「バトルフェイズを終了し、モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ2
丸藤亮 LP4000 手札3 モンスター3 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。《サイバー・リペア・プラント》を発動。デッキから《サイバー・ヴァリー》を手札に加え、そのまま召喚して効果発動。このカードと《サイバー・ドラゴン》を除外して、カードを2枚ドローする。そして《融合》を発動。手札の《サイバー・ドラゴン》、フィールドの《サイバー・ファロス》、《超電磁タートル》を融合。来いッ! 《サイバー・エタニティ・ドラゴン》!」
《サイバー・エタニティ・ドラゴン》
星10/光属性/機械族/攻2800/守4000
「バトルだ! サイバー・エタニティ・ドラゴンでエルシャドール・ネフィリムを攻撃!」
サイバー・エタニティ・ドラゴンは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。攻撃力は同じ、2つの巨体がぶつかり合い、ついには消滅した。
「自分の融合モンスターが戦闘で破壊された時、墓地の《サイバー・ファロス》の効果が発動できる。このカードを除外して、デッキから《パワー・ボンド》を手札に加える。そしてサイバー・エタニティ・ドラゴンの効果で、墓地から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚」
「こちらも効果を発動します。墓地に送られたネフィリムの効果で、墓地の《
「何度も使い回しが可能とはな。サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃! エヴォリューション・バースト!」
「墓地の《
「いいだろう。俺は墓地の《置換融合》の効果発動。このカードを除外して、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》をEXデッキに戻し、カードを1枚ドローする。これでターンエンドだ」
丸藤亮 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0
音羽遊蓮 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
ここに来てノーガード戦法か。次のターン、確実に攻めてくるだろう。前のターンに攻撃力の低いシャドール・ヘッジホッグを攻撃しなったのも、チマチマ削る必要がないと判断したからに違いない。
「リバースカード《
「最後までエースモンスターに頼るか。その姿勢、嫌いではない」
「効果で墓地に送られたシャドール・ヘッジホッグの効果で、デッキから《
超電磁タートルの効果はバトルフェイズにしか発動できない。勝機はそこにある。
「伏せていた《
シャドール特有の影糸に操られたドラゴンに乗り、翠色の髪を揺らした少女が姿を現す。そしてカイザーの墓地から3枚のカードが取り除かれた。
「バトル! ミドラーシュでダイレクトアタック!」
「この瞬間、手札の《機動要犀 トリケライナー》の効果発動。このカードを守備表示で特殊召喚する」
「……ならばネフィリムでトリケライナーを攻撃、ネフィリムは特殊召喚されたモンスターを問答無用で破壊する」
「無駄だ。自身の効果で特殊召喚したトリケライナーは他のカードの効果を受けない」
「なんやてKudoー!?」
「くどう? それに何故いきなり関西弁に……」
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ2
丸藤亮 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「む、俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにトリケライナーの守備力は500下がる。メインフェイズに入り、《強欲で貪欲な壺》を発動。デッキの上から10枚のカードを裏側表示で除外し、カードを2枚ドローする」
「意外ですね。俺が言うのもなんですが、カイザーのデッキではかなりリスキーなカードでは?」
「そうだな。だが1枚しか入れていないこいつを、今引いたことに意味がある。デッキが使えと言っているのだ」
デッキとの絆ってやつか。悔しいが、カイザーが言うと様になるな。
「《サイクロン》を発動。俺から見て左のカードを破壊する」
「くっ、チェーンして《
「エースが2体並ぶか。デッキ融合に続いて墓地融合とは、凄まじいポテンシャルを秘めたデッキだな」
本当なら後出しで出したかったが、仕方ない。
「続けて《異次元からの埋葬》を発動。除外されている《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・エタニティ・ドラゴン》、《超電磁タートル》を墓地に戻す。そして《サイバー・エタニティ・ドラゴン》を除外して効果発動。このターン、自分フィールドの融合モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない」
対象耐性と効果破壊耐性の付与か。これでシャドール・リザードのリバース効果が無意味なものになった。
「ではいくぞッ! これがラストターンだ。通れば俺の勝ち。防ぎきることができればキミの勝ち。こんな勝負も悪くない。ライフを半分払い、《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動。続けて《パワー・ボンド》を発動。墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》、《サイバー・ドラゴン・ネクステア》、《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》を除外して融合。これらは全てフィールド・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱うカードだ。3体のサイバー・ドラゴンを融合。見るがいい、これがサイバー流の至宝にして至高! 《サイバー・エンド・ドラゴン》だ!!」
ついにカイザーのエースが姿を見せた。三つ首の機械竜が威嚇するように
「バトルだ! サイバー・エンド・ドラゴンでエルシャドール・ネフィリムを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バァーストォォーッ!!」
「攻撃宣言時に《決闘融合-バトル・フュージョン》を発動。ネフィリムの攻撃力はダメージステップ終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする」
《エルシャドール・ネフィリム》 攻撃力2800 → 10800
攻撃力が一万を超えたことで会場がざわめくが、カイザーは僅かに口角を上げただけだった。
「読んでいたよ、いや期待していた。キミならばこの程度は越えてくると。ダメージ計算前に《リミッター解除》を発動。サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は倍になる」
「まさか引き込んでいたとは。さすがですよ、カイザー」
《サイバー・エンド・ドラゴン》 攻撃力8000 → 16000
最後の激突による爆煙が晴れ、会場は万雷の拍手に包まれた。
音羽遊蓮 LP4000 → 0
「完敗です。実質
「確かに結果だけを見ればそうかもしれない。だが一手ズレていれば、結果はどうなっていたか分からない。やはり面白いな、デュエルは」
「ふふっ、そうですね。改めて、卒業おめでとうございます。カイザー、丸藤先輩」
もはや様式美ともいえるパワー・ボンドからのリミッター解除でした。
サイバー流といえばこのコンボのイメージが強いです。