ジェネックス開始から五日目。
敗退するプロも出現し、残っているのは選ばれし強者ばかり、というわけでもなさそうだ。
やはり守りに入り、一日に一戦しかしない学生や、あからさまにプロを避ける学生も多かった。
だが残った者の中でも常にデュエルに挑み、勝ち続けた者は少なからずいる。目の前の男は間違いなくそういった類の男だった。
「答えは得た。デュエルとは、デッキとは、宇宙だ!」
「うん。うん?」
意味が分からん。また変な方向に拗らせたのか?
「神はサイコロを振らない。ドローという偶発性さえが必然。真に論理的なデッキはドローという
まあ言いたいことは分からんでもない。実際2枚ドローよりも、1枚サーチする方を選ぶデュエリストは多いだろう。何を引くか分からない2枚よりも、今必要なカードを1枚サーチする方が良いという考えだ。
「俺は相手のデッキを調べ尽くし、それに対抗できるデッキを組み上げてきた。いわゆる後出しのデッキだった。それでは……それではダメだと気付いたのだ!」
メタデッキは外した時がキツイからな。
「相手のデッキに左右されない真に論理的なデッキ。すなわち宇宙と一体になること。下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし。マクロコスモスとミクロコスモスの照応。その狭間にこの身を置くことで、俺自身が宇宙になる! それが、それこそが答え! いくぞ、遊蓮ッ! 俺のデッキ調整に付き合ってもらうッ!」
「お、おう」
『デュエルッ!』
「先攻は俺だ、ドロー。カードを4枚伏せてターンエンド」
三沢大地 LP4000 手札2 モンスター0 伏せ4
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
「この瞬間、永続罠《マクロコスモス》を発動。このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される」
「除外デッキか。だがそれはさすがにキツイ。速攻魔法《サイクロン》を発動。マクロコスモスを破壊する」
「そのくらいは想定内だ。《宮廷のしきたり》を発動。このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、「宮廷のしきたり」以外のお互いのフィールドの表側表示の永続罠カードは戦闘・効果では破壊されない」
これは、持久戦になると辛いな。少々強引でも攻めるか。
「《シャドール・リザード》を召喚して、バトルだ。ダイレクトアタック!」
「させんぞッ! 《深淵のスタングレイ》を発動。このカードは発動後、モンスターカード(雷族・光・星5・攻1900/守0)となり、モンスターゾーンに特殊召喚される。そしてこのカードは罠カードとしても扱うため、宮廷のしきたりがある限り、戦闘でも効果でも破壊されない」
「くっ、面倒な。カードを2枚伏せてターンエンドだ」
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2
三沢大地 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、闇属性モンスターの《ネクロフェイス》を除外する。そしてネクロフェイスの効果でお互いにデッキの上から5枚のカードを除外する。続けて装備魔法《魔導師の力》を深淵のスタングレイに装備する」
《深淵のスタングレイ》 攻撃力1900 → 4400
「《異次元の生還者》を召喚し、バトルだ。深淵のスタングレイでシャドール・リザードに攻撃!」
「《和睦の使者》を発動。このターン、俺のモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも受けない」
「ならば俺はこれでターンエンドだ」
三沢大地 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
三沢の魔法・罠ゾーンには《マクロコスモス》、《深淵のスタングレイ》、《宮廷のしきたり》、《魔導師の力》、そして伏せカードが1枚。
モンスターは攻撃力4400のトラップモンスター《深淵のスタングレイ》に、除外された場合、エンドフェイズに戻ってくる《異次元の生還者》。
この手札では状況を打開するのは難しい。ここは耐えるしかない。
「俺はモンスターをセット、シャドール・リザードを守備表示に変更してターンエンドだ」
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター2 伏せ1
三沢大地 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。そのままバトルフェイズに入る。異次元の生還者でシャドール・リザードを攻撃、続けて深淵のスタングレイでセットモンスターを攻撃だ!」
「セットモンスターは《マシュマロン》だ。このカードは戦闘では破壊されず、裏側表示のこのカードが攻撃されたダメージ計算後に、相手は1000ダメージを受ける」
三沢大地 LP4000 → 3000
「この程度、問題ない。俺はこれでターンエンドだ」
三沢大地 LP3000 手札2 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。ターンエンドだ」
音羽遊蓮 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
三沢大地 LP3000 手札2 モンスター2 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。異次元の生還者を守備表示に変更。ターンエンドだ」
三沢大地 LP3000 手札3 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
…………
………
……
…
そこから先は泥仕合だった。
三沢はマシュマロンを《異次元の女戦士》で除去したものの、《
《王宮のしきたり》の効果は相手にも及ぶ。そして、三沢の魔法・罠ゾーンはすでに空きがなかった。
俺は三沢のセットカードを2つにまで絞っていた。
万一の時に備えた、2枚目の《宮廷のしきたり》。
そして魔法カードに対するカウンター罠。これは俺が発動した《和睦の使者》や《
なので一切魔法カードは使用せず、三沢の魔法・罠カードも除去しようとはしなかった。
「俺は《ネクロフェイス》を召喚し、効果発動」
「《ブレイクスルー・スキル》を発動。その効果を無効にする」
「くっ、俺はこれでターンエンド」
「俺のターン、ドロー。そのままエンドだ。エンドフェイズに手札の上限枚数をオーバーしたので1枚捨てる」
「俺のターン、ドローできるカードはない。俺の負け……か」
敗北が決定した瞬間、三沢は肩を落として膝をついた。
「デュエル開始早々に魔法・罠ゾーンを埋めてしまったことが敗因だな。上級モンスターか、あるいはもっと慎重になっていれば結果は変わっていただろう」
デッキ調整と言ってたし、実際に回すのは初めてだったんだろう。それに最初のテンションは明らかにおかしかったし、デッキが回りすぎたのも悪かった。三沢の性格上、「計算の内だ」とか、「その手は読んでいた」とか、「こんなこともあろうかと」とか言いそうだからな。そんなカードを伏せていたんだろう。
「くっ、このデッキはまだ完璧ではなかったというのか!」
異次元の生還者や罠モンスターなんかはリリース要因にもできるのに、上級モンスターが入ってないのはもったいないと思う。
三沢なりにデッキバランスを考えた結果かもしれないが。
単純な火力なら、ダ・イーザで十分だしな。
「三沢、あまり完璧という言葉に囚われるな」
「……どういうことだ?」
「完璧ってことは、それ以上改良の余地がないってことだ。そんなのは、つまらないだろ?」
「つまらない……だと?」
「そうだ。例えば、完璧なデッキがふたつあって、その同じ内容のデッキでデュエルした時、どっちが勝つと思う?」
「それは……」
三沢は言葉に詰まったように押し黙った。
「完璧を目指すのはいい。だが完璧という言葉に囚われるな。デュエルから完全に不確定要素を取り除くことはできない。だからデュエルはおもしろい、そう思わないか?」
「まるで十代のようなセリフだな」
「ふっ、あいつのデュエルバカが
自嘲するように笑う。
全く、真面目なやつは極端から極端に走るから困る。
三沢も感じ入るところがあったのか、精悍な表情で破顔した。
「こうしてはおれん。待っていてください、ツバインシュタイン博士! 貴方の一番弟子がいま参ります! うおぉぉーーーッ!!」
敗退が決定した今、三沢はもはや
三沢にしてはちょっとマヌケなオチですが、ツバインシュタイン博士の言葉に感銘を受けた直後のテンションで組んだデッキなので色々と粗はあります。
実際に回してみないと見えてこない問題点もありますからね。