デスデュエルが開始されてから数日が経った。
十代が保健室に運ばれ、その後に剣山とジムも倒れた。それ以外にも軽くではあるが、気分が悪くなったり、体調不良を訴える生徒も少なからずいた。
鮎川先生は即刻中止するように進言したらしいが、却下されたようだ。
それから数日後、アモン・ガラムからパーティーの招待状が届いた。
「まあ、行かないんだけどな」
「あら、どうして?」
「嫌な予感がする」
予感というか、もはや確信に近いんだが。
そんな俺の態度に、真紅のドレスを纏った吸血鬼は訝しんだ。
一応レイにもそれとなく注意を促したのだが、やんわりと断られてしまった。何でも気になる男の子(恋愛感情ではない)がいるとのこと。手のかかる弟みたいな感じらしい。
いや、ここの生徒はみんなおまえより年上だから。
翌日、俺の不安は的中し、大量の生徒が保健室に運ばれていた。その中には、アモンや万丈目も含まれていた。
「どうなってんだこれは! 許さねぇ、許さねぇぞ、コブラ! コブラは、校長はどこだぁーッ!」
怒り心頭の十代が、おそらくは校長室へと向かって駆け出して行く。ヨハンたちも十代を追っていくが、校長はたぶん出張中だ。
さて、俺はもうひとつのフラグを折っておくか。
「……であるから、今回のルール改正における禁止カードの対応としては……」
やはり《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》はやりすぎたんだよ。なんだよあの盛り盛りの効果は。友情パワーなんてレベルじゃねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
幸いこっちの世界では、このカードは当然として、その素材である《ブラック・マジシャン》も《真紅眼の黒竜》もかなりの高額カードなので、そう簡単には見かけないけどな。吹雪さんも持ってないって言ってたし。
とそこで、授業終了を告げるチャイムがなった。
「これで授業は終わります。えー、それと、本日はお知らせがあります。本日をもって、私は講師を辞めることにしました」
「理由を訊いてもいいですか? 佐藤先生」
「音羽くんですか。キミは他の生徒よりは幾分かマシでしたが、私は失望したのです。やる気のなさ、適当なデュエルっぷり、勝負への甘さ、ほとほと嫌気がさしました」
「聞き捨てなりませんね。俺は適当にデュエルしたことは一度もありませんよ。確かに甘さというか、プレイングミスをしたことがないとは言いませんが、やる気のないデュエルをした覚えはありません。むしろ、やる気がないのは佐藤先生の方じゃありませんか?」
「ほぅ、言うじゃないですか」
ここで少しだけ佐藤先生の表情が変わる。この人だって元プロデュエリスト。それなりの熱意を持ってデュエルしていたはずだ。
まあそれが行き過ぎて、こうなったんだろうけど。
たった一人、俺しかいない教室でも、真面目に講義してくれたのだから、教師としてはまともとも言える。ただデュエル理論などが古いままなので、生徒たちからはつまらないなどと言われているが。
「ここはデュエルアカデミアです。デュエルで決めましょう。俺が負けたら、もう何も言いません。ですが、俺が勝ったら講師を続けてください。少なくともこの一年間は」
「期限付きですか。まあいいでしょう。私とてデュエリストの端くれ。受けましょう、その挑戦」
場所を教室からデュエル場へと移し、無観客試合が始まった。
『デュエルッ!』
「俺のターン、ドロー。《マスマティシャン》を守備表示で召喚。召喚時効果でデッキから《フォーチュンレディ・ウォーテリー》を墓地に送ります。カードを2枚伏せてターンエンドです」
音羽遊蓮 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「私のターン、ドロー。手札を1枚捨て《ツインツイスター》を発動します」
「ならチェーンして《ダメージ・ダイエット》を発動。さらに《戦線復帰》も発動。墓地の《フォーチュンレディ・ウォーテリー》を特殊召喚します」
「ふむ、上手く躱されましたね。いえ、ここは前向きに使わせたと考えましょう。手札から《H・C 強襲のハルベルト》を特殊召喚します」
《
星4/地属性/戦士族/攻1800/守 200
強襲のハルベルトはサイバー・ドラゴンと同じ特殊召喚条件で、貫通効果に加え、サーチ効果も有している優秀なモンスターだ。戦士族ゆえにサポートカードも多い。
手札コストで捨てたサウザンド・ブレードといい、戦士族が主体のデッキかな。
「魔法カード《ヒロイック・チャンス》を発動。このターン強襲のハルベルトの攻撃力は倍になります。ただし直接攻撃はできなくなりますがね。《ツイン・ブレイカー》を召喚して、バトルフェイズに入ります。強襲のハルベルトでウォーテリーを攻撃!」
音羽遊蓮 LP4000 → 2800
蒼き魔法少女が大剣の元に斬り伏せられる。続けてもう1体、二刀流の戦士が老魔術師に牙を剥く。
「戦闘ダメージを与えたことで、強襲のハルベルトの効果発動。デッキから2枚目の《H・C 強襲のハルベルト》を手札に加えます。続けてツイン・ブレイカーでマスマティシャンを攻撃!」
こいつも貫通持ちだ。守備表示で召喚したことがアダになったな。
音羽遊蓮 LP2800 → 2250
「マスマティシャンが戦闘で破壊されたことで、カードを1枚ドローします」
「いいでしょう。ツイン・ブレイカーの効果で追撃を行います。ダイレクトアタック!」
音羽遊蓮 LP2250 → 1450
「私はカードを1枚伏せてターンエンドです」
佐藤浩二 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP1450 手札4 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。《テラ・フォーミング》を発動。デッキから《暴走魔法陣》を手札に加え、発動します。発動時の効果処理として、デッキから《召喚師アレイスター》を手札に加え、そのまま召喚。効果でデッキから《召喚魔術》を手札に加えます」
「なるほど。キミのデッキはサーチを多用するデッキのようですね。ドローという不確定なものに頼らず、選択的に手札に加える。論理的です」
この辺りの視点はやはり教師だな。十代なんかは、「何を引くか分からない、だからワクワクするんじゃねぇか」とか言いそうだが。
「《召喚魔術》を発動。フィールドの――」
「それは止めさせてもらいますよ。永続罠《融合禁止エリア》を発動。このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、お互いのプレイヤーは融合召喚をする事ができない」
またピンポイントな……ってこの世界ではそうでもないのか。
暴走魔法陣は、融合召喚する効果を含む効果の発動は無効化されないが、効果を無効化されないわけではない。
これで融合はもちろん、融合召喚扱いの特殊召喚も封じられた。
「ならば、魔法カード《ヒュグロの魔導書》を発動。アレイスターの攻撃力を1000アップします。バトルフェイズ。アレイスターで強襲のハルベルトに攻撃!」
佐藤浩二 LP4000 → 3800
「ヒュグロの魔導書の効果を受けたモンスターが、戦闘で相手モンスターを破壊したので、さらなる効果を発動します。デッキから《ルドラの魔導書》を手札に加えます」
「こちらも効果発動です。墓地の《H・C サウザンド・ブレード》を攻撃表示で特殊召喚します」
「バトルフェイズを終了し、《ルドラの魔導書》を発動。フィールドのアレイスターを墓地に送り、カードを2枚ドローします。さらに《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、闇属性モンスター《フォーチュンレディ・ダルキー》を除外します。続けて《フォーチュンフューチャー》を発動。除外されているダルキーを墓地に戻し、カードを2枚ドロー」
「回転率も申し分ない。さすがはオベリスクブルーの生徒ですね」
「ありがとうございます。カードを1枚伏せてターンを終了します」
音羽遊蓮 LP1450 手札5 モンスター0 伏せ1
佐藤浩二 LP3800 手札1 モンスター2 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《強欲で金満な壺》を発動。EXデッキのカードをランダムに6枚、裏側表示で除外し、カードを2枚ドロー。バトルです。ツイン・ブレイカーでダイレクトアタック!」
「この瞬間、《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地のダルキーを特殊召喚します」
ツイン・ブレイカーの刃が届く寸前、黒い閃光がほとばしり、墓地より黒衣の魔法少女が蘇る。
「ふむ、防がれましたか。カードを1枚伏せてターンエンド」
佐藤浩二 LP3800 手札2 モンスター2 伏せ1
音羽遊蓮 LP1450 手札5 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにダルキーのレベルが1つ上がり、それに伴いステータスもアップします。そのままバトルフェイズに入ります。ダルキーでツイン・ブレイカーに攻撃、カオス・レイン!」
漆黒の衣装を翻し、黒き影が跳ぶ。
気付いた時にはもう遅い。漆黒の魔法少女が剣士の腹部に一撃を加える。そして悶える剣士の一瞬の硬直を狙ってダブルアーム・スープレックスの形でその身体を捕縛し、自身を軸としてジャイアントスイングのように回転を始めた。
充分に加速がついたところで剣士を直上に投げ飛ばし、自らもそれを追って跳躍する。
その艶やかな脚が、中空で剣士の首筋に添えられ、重力に従い落下する。それは断頭台の
佐藤浩二 LP3800 → 3000
「ダルキーの効果発動。自分フィールド上の「フォーチュンレディ」が戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分の墓地の「フォーチュンレディ」を特殊召喚できる。ウォーテリーを守備表示で特殊召喚し、その効果によりカードを2枚ドロー」
「……なるほど。やりますね」
「バトルフェイズを終了し、メイン2に入ります。フィールドのウォーテリーをリリースして《フォーチュンレディ・アーシー》をアドバンス召喚。カードを2枚伏せてターンエンドです」
「エンドフェイズに《トゥルース・リインフォース》を発動。デッキからレベル2以下の戦士族《ヒーロー・キッズ》を特殊召喚します。そしてヒーロー・キッズの効果発動。このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから同名カードを任意の枚数特殊召喚することができる。デッキからさらに2体の《ヒーロー・キッズ》を特殊召喚」
音羽遊蓮 LP1450 手札5 モンスター2 伏せ2
佐藤浩二 LP3000 手札2 モンスター4 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。さて、音羽くん。キミは何のためにデュエルをしているのですか?」
「随分と哲学的な質問ですね。まあ、一口には言えませんが、趣味であり、コミュニケーションツールのひとつであり、交渉手段のひとつであり、まあ総じて言えば、やっぱり趣味ですね」
この世界だとデュエルで命運が決まることも珍しくないが、俺の感覚だとやっぱり趣味のひとつなんだよな。
「趣味、趣味ですか! そうですか、趣味! ふふっ、ふははははっ! やはりダメだ、キミは。デュエルの闇を知らない」
この人もプロ生活で辛酸を舐めたのだろう。趣味を仕事にすると、途端に楽しくなくなるっていうからな。
「ヒーロー・キッズ3体をリリースして、《ギルフォード・ザ・ライトニング》をアドバンス召喚。そしてギルフォード・ザ・ライトニングの効果発動。相手フィールドのモンスターを全て破壊する。ライトニング・サンダー!」
「チェーンして《強化蘇生》を発動。墓地のウォーテリーを特殊召喚!」
「――ッ!? このタイミングで!?」
光の戦士が構えた剣先から、眩いばかりの閃光がほとばしる。3人の魔法少女は光の粒子となって消え去った。
「ウォーテリーの効果はタイミングを逃さない強制効果。カードを2枚ドローします」
「なるほど。壁に使うのではなく、ドロー効果を……それが狙いでしたか」
ここで佐藤先生は思案深げな顔をする。残った伏せカードを警戒しているのだろう。
「サウザンド・ブレードを守備表示に変更。バトルです。ギルフォード・ザ・ライトニングでダイレクトアタック! ライトニング・クラッシュ・ソード!」
「この瞬間《バトルフェーダー》の効果発動。このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了します」
光の大剣が振り下ろされる寸前、闇の帳が降りる。その障壁に阻まれ、光の戦士は後退した。
「ふっ、やりますねぇ。私はこれでターンエンドです」
「エンドフェイズに《砂塵の大嵐》を発動。《融合禁止エリア》を破壊します」
佐藤浩二 LP3000 手札2 モンスター2 伏せ0
音羽遊蓮 LP1450 手札6 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。《魔法石の採掘》を発動。手札を2枚捨て、墓地の《召喚魔術》を手札に戻し、そのまま発動。墓地の《召喚師アレイスター》と《フォーチュンレディ・ファイリー》を除外して融合。来いッ! 《召喚獣プルガトリオ》!」
現れたのは蒼き炎に身をやつした煉獄の悪魔。
「墓地の《召喚魔術》の効果発動。このカードをデッキに戻し、除外されているアレイスターを手札に戻します。さらにプルガトリオは相手のカードの数×200ポイント攻撃力がアップします」
《召喚獣プルガトリオ》 攻撃力2300 → 2700
「バトルフェイズに入ります。プルガトリオでギルフォード・ザ・ライトニングに攻撃、バーニング・エクスプロージョン!」
煉獄の悪魔が光の戦士に牙を剥く。
「その攻撃宣言時、手札の《
「――ッ!? ダメージ計算前に、手札の《召喚師アレイスター》の効果発動。このカードを墓地へ送り、プルガトリオの攻撃力・守備力をターン終了時まで1000アップする」
攻撃宣言は終わっているため、ここからバトルを中止することはできない。ダメージは与えられないが、「ヒロイック」ではないギルフォード・ザ・ライトニングの破壊はできる。
蒼き炎の火勢はますます烈しくなり、光の戦士を包み込んだ。
「速攻魔法《法の聖典》を発動。フィールドのプルガトリオをリリースして、EXデッキから《召喚獣メルカバー》を特殊召喚。カードを1枚伏せてターンエンドです」
音羽遊蓮 LP1450 手札2 モンスター2 伏せ1
佐藤浩二 LP3000 手札1 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。手札コストが必要とはいえ、あらゆるカードの発動を無効にする効果ですか。ふむ、《H・C 強襲のハルベルト》を召喚。そしてこのカードをリリースして、手札から《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚します。この方法で特殊召喚したこのカードの攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする。この効果は発動する効果ではありません。よってメルカバーでも無効には出来ない」
《ターレット・ウォリアー》 攻撃力1200 → 3000
「なるほど。上手く隙を突いてきましたね」
「サウザンド・ブレードを攻撃表示に変更。バトルです。ターレット・ウォリアーでメルカバーを攻撃、リボルバーショット!」
音羽遊蓮 LP1450 → 950
「続けてサウザンド・ブレードでバトルフェーダーを攻撃!」
「バトルフェーダーは墓地へは行かずに除外されます」
「私はこれでターンエンドです」
「エンドフェイズに《横取りボーン》を発動。先生の墓地の《ギルフォード・ザ・ライトニング》を守備表示で特殊召喚します」
墓地より光の戦士が蘇り、こちらのフィールドに出現する。
「私のモンスターを……。なかなかトリッキーなカードですね」
佐藤浩二 LP3000 手札0 モンスター2 伏せ0
音羽遊蓮 LP 950 手札2 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。俺は《融合呪印生物-闇》を召喚」
「融合素材の代用モンスターですか。何を呼び出すつもりかな?」
「このカードとギルフォード・ザ・ライトニングをリリースし、EXデッキから闇属性の融合モンスター1体を特殊召喚します。召喚条件は《ブラック・マジシャン》と戦士族モンスター」
「ブ、ブラック・マジシャン!?
「いえ、俺のデッキにブラック・マジシャンは入っていません。ですが、こういう方法もあるんですよ。来いッ! 《超魔導騎士-ブラック・キャバルリー》!」
黒馬に跨った黒衣の魔術師が、杖ではなく突撃槍を構えて現れる。
「このカードの攻撃力は、お互いのフィールド・墓地の魔法・罠カードの数×100アップする。ダーク・アブソープション!」
巨大な槍が、魔力を帯びてさらに強大なものなる。それは天を突き、螺旋を描く。
「……素晴らしい」
思わず、と言った感じの感嘆の息が漏れる。その後に見せたのは気鬱な面持ちだった。勝負の行方を悟ったのだろう。
「ブラック・キャバルリーでサウザンド・ブレードを攻撃、
巨大な螺旋槍を掲げ、一直線に敵へと突撃する。その尖端より放たれた魔力の衝撃波を防ぐこともできず、サウザンド・ブレードは吹き飛ばされた。
佐藤浩二 LP3000 → 0
デュエルが終わった瞬間、全身から力が抜けていくのを感じた。強烈な虚脱感に襲われるが、気絶するほどではない。
「約束です。俺が卒業するまで、講師は続けてもらいますよ」
「仕方ありません。約束ですからね」
「まあ、十代にはちょっとキツめに言っときますよ」
佐藤先生はただ苦笑するだけだった。
デュエルを終えてブルー寮へ帰る道すがら、十代たちはコブラが拠点にしているSAL研究所へ向かったという話が耳に入った。