森の奥にひっそりと建つ研究所。人々から忘れ去られた寂れた研究所には幾多もの罠が仕掛けられていた。
それらを突破し、ついに研究所の最奥へと辿り着く。
そこで待ち構えていたのは、このデスデュエル騒動を引き起こした黒幕、プロフェッサー・コブラ。
「よく来たな、遊城十代」
「ついに追い詰めたぞ、コブラ!」
「コブラ! デスデュエルを即刻中止しろ! こんなことを続ければ、取り返しのつかないことになるぞ!」
「そうよ! 皆を元に戻して!」
ヨハンの警告も、明日香の懇願も、コブラにはまるで届かず、ただ冷笑を浮かべるだけだった。
「今さら何を言っても無駄なこと。すでにデスデュエル計画は最終段階に入っているのだ。ここで中止しようとしまいと、この学園に未来はない!」
「何だとッ! おまえッ!」
「――ふっ」
十代の言葉を鼻で笑い、コブラは手元のスイッチを押す。ヘリポートの舞台がせり上がり、天井を抜けて、島全体を見渡せるほどの高所へと至った。
「ここなら、どこにも逃げられまい。遊城十代、無事に下りたければ私とデュエルするがいい」
「上等だ! おまえをぶっ倒す! 覚悟しろ、コブラ!」
『デュエルッ!』
「行くぜ、コブラ! 俺のターン、ドロー。《E・HERO エアーマン》を召喚。効果でデッキから《E・HERO ブレイズマン》を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドだ」
遊城十代 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《強欲で金満な壺》を発動。EXデッキのカードをランダムに6枚、裏側表示で除外し、カードを2枚ドロー。《ヴェノム・スネーク》を召喚し、効果発動。エアーマンにヴェノムカウンターを1つ置く」
ヴェノム・スネークの吐き出した毒液が、蛇の形となってエアーマンの腕へと噛みついた。
「ヴェノムカウンターだって?」
「ふふっ、すぐに分かる。すぐにな。フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》を発動」
周囲の景色が毒の沼地へと変わる。深い下草の向こうから毒蛇の蠢く音が微かに聞こえてきた。
「カードを3枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにヴェノム・スワンプの効果発動。「ヴェノム」と名のついたモンスター以外の表側表示で存在する全てのモンスターにヴェノムカウンターを1つ置く。そしてヴェノムカウンター1つにつき、攻撃力は500ポイントダウンする。さらに、この効果で攻撃力が0になったモンスターは破壊されるのだ」
「くっ、そんな効果が……」
《E・HERO エアーマン》 攻撃力1800 → 800
コブラ LP4000 手札2 モンスター1 伏せ3
遊城十代 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。くそっ、悠長にしてらんねぇ。《E・HERO ブレイズマン》を召喚し、効果発動。デッキから《融合》を手札に加え、そのまま発動」
「そうはいかん。カウンター罠《蛇神の勅命》を発動。手札の《ヴェノム・サーペント》を相手に見せ、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊する」
毒蛇の一撃を喰らい、融合は不発になり破壊される。
「くっ、ならバトルだ。ブレイズマンでヴェノム・スネークを攻撃!」
両者の攻撃力は同じ。炎の拳と毒蛇の牙は交差するように命中し、互いに破壊された。
「続けてエアーマンでダイレクトアタック!」
コブラ LP4000 → 3200
エアーマンの攻撃が直撃するも、コブラは余裕の表情を崩さない。
「俺はこれでターンエンドだ」
「ヴェノム・スワンプの効果はお互いのエンドフェイズに発動する」
《E・HERO エアーマン》 攻撃力 800 → 300
遊城十代 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
コブラ LP3200 手札2 モンスター0 伏せ2
――――――――――――
「私のターン、ドロー。手札を1枚捨て《スネーク・レイン》を発動。デッキから4体の爬虫類族モンスターを墓地に送る。私が送るのは、《ヴェノム・コブラ》、《ヴェノム・ボア》、《スネークポット》、《毒蛇王ヴェノミノン》の4体。続けて《命削りの宝札》を発動。カードを3枚ドローする。モンスターをセットし、カード2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにヴェノム・スワンプの効果が発動する」
毒の沼地から更なる毒蛇がエアーマンの脚部へと噛みつき、ついにエアーマンは力尽きた。
「その効果処理後に《戦線復帰》を発動。墓地の《E・HERO ブレイズマン》を守備表示で特殊召喚。効果でデッキから《融合》を手札に加える」
「懲りずに融合か。好きにしろ」
コブラ LP3200 手札0 モンスター1 伏せ4
遊城十代 LP4000 手札5 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
ソリッドヴィジョンとは思えぬほどの異様な毒のフィールドに、威圧感すら感じるコブラの様相に、十代は得も言われぬ不安を感じていた。
それでも、勝負を途中で投げ出すことはできない。意を決して、ドローをするためにデッキへと手を伸ばす。
その時、背後から叫ぶような声が聞こえた。
「待ってくれ、プロフェッサー・コブラ! 聞かせてくれ、貴方の真の目的は何だ! 貴方は何を企んでいる! 俺には見える。貴方に、どす黒く恐ろしい精霊が取り憑いているのが! それが貴方の黒幕なのか!?」
「私は何も企んでなどいない」
ヨハンの問いかけにもどこ吹く風で、コブラは眉ひとつ動かさずに言い放った。
「嘘つくなザウルス!」
「それじゃあ、デスデュエルで皆が倒れてるのは、何故なんスか!?」
「私は奇跡を起こそうとしているだけだ」
「奇跡だって!?」
「そう、あの御方の『力』によって」
コブラを袖をめくり、
「What's!?」
「ウロコ!?」
「なんでウロコが生えてるドン!?」
「ふふっ、貴様らのような俗物には理解できまい。この世には人知を超越した力が存在するのだ。摂理を覆すほどの力がな。問答はもういいだろう。遊城十代、貴様のターンだ」
「くっ、俺のターン、ドロー。《融合》発動。フィールドの《E・HERO ブレイズマン》と手札の《E・HERO ネオス》を融合。来いッ! 《E・HERO ノヴァマスター》!」
《E・HERO ノヴァマスター》
星8/炎属性/戦士族/攻2600/守2100
「《O-オーバーソウル》発動。墓地のネオスを特殊召喚する。さらに《E・HERO スパークマン》を召喚。バトルだ。ノヴァマスターでセットモンスターを攻撃、バーニング・インフェルノ!」
「セットモンスターは《爆風トカゲ》だ。リバース効果でノヴァマスターを
「ならスパークマンで追撃だ。スパーク・ショット!」
「甘いなッ! リバースカード《リビングデッドの呼び声》発動。墓地の《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚」
《
星8/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
「レベル8で……攻撃力0? いや――」
レベルに見合わぬ攻撃力に、十代は警戒を強める。そしてその答えはすぐに訪れた。
「ヴェノミノンの攻撃力は、私の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする」
《毒蛇王ヴェノミノン》 攻撃力 0 → 3000
「攻撃力3000かよ。俺はバトルを終了し、カードを1枚伏せてターンエンドだ」
「エンドフェイズにヴェノム・スワンプの効果が発動する」
《E・HERO ネオス》 攻撃力2500 → 2000
《E・HERO スパークマン》攻撃力1600 → 1100
遊城十代 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ2
コブラ LP3200 手札0 モンスター1 伏せ3
――――――――――――
「私のターン、ドロー。伏せていた《ヴェノム・ショット》を発動。デッキから《ヴェノム・ボア》を墓地に送り、ネオスにヴェノムカウンターを2つ置く」
ネオスの両腕に2匹の毒蛇が噛みつき、ネオスは苦悶の声を漏らす。ネオスの攻撃力がさらに下がり、ヴェノミノンの攻撃力はさらに上がる。
「そのネオスとやらが、貴様の精神的主柱と見た。速やかに葬ってやろう。バトルだ。ヴェノミノンでネオスを攻撃、ヴェノム・ブロー!」
「やらせるかよッ! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動だ! 戦闘破壊なら復活するみたいだが、効果破壊なら復活はできない!」
眩い閃光が毒蛇の王を包み込む。その中で、コブラは口角を上げて目を見開いた。
「遊城十代、私のエースを倒したつもりだろうが、それは失策だったな。リバースカードオープン《蛇神降臨》。このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する「毒蛇王ヴェノミノン」が戦闘以外で破壊された時に発動できる。デッキから《毒蛇神ヴェノミナーガ》を特殊召喚する!」
《
星10/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
「このカードの攻撃力は、ヴェノミノンと同じく、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。さらにこのカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない」
「なッ!? 対象にならず、効果も受けないだって!? なんてモンスターだ」
「モンスターではない! 蛇神だッ! 神だッ!」
コブラはなにかを抱き留めるように、大きく両腕を挙げた。そして拳を握り、夜空に向かって屹立する。
「私は絶望の中にいた。私は命よりも大事なものを失ったのだ。その時、あの御方の声を聞いた。色を失った私の世界に、再び色彩が蘇った。絶望の中に光が差したのだ。あの御方が、絶望の中に希望を与えてくれた」
「なにが希望だ! 多くの人を不幸にしてまで、叶えたい願いなど!」
「貴様には分かるまい。幸福の中を歩いてきた貴様には。理解を求めようとも思わん」
義憤に燃えたヨハンの言葉も、コブラには何の痛痒も与えることはできなかった。そんな
「さらに、ヴェノミナーガは戦闘破壊されようと、墓地の爬虫類族モンスターを除外することで何度でも蘇るのだ。行くぞ、遊城十代! ヴェノミナーガでネオスを攻撃、アブソリュート・ヴェノム!」
遊城十代 LP4000 → 1000
毒蛇神の腕である巨大な蛇に噛みつかれ、その毒によってネオスは破壊された。その瞬間に走った予期せぬ痛みによって、十代はよろめく。
「ふふっ、ヴェノミナーガの更なる効果発動。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、このカードにハイパーヴェノムカウンターを1つ置く。そしてハイパーヴェノムカウンターが3つ乗った時、私はデュエルに勝利するのだ」
「ぐぅっ、リバースカード《ヒーロー・シグナル》を発動。デッキから《E・HERO シャドー・ミスト》を特殊召喚し、効果発動。デッキから《マスク・チェンジ》を手札に加える」
「まだ足掻くか。ターンエンドだ」
《E・HERO スパークマン》 攻撃力1100 → 600
《E・HERO シャドー・ミスト》攻撃力1000 → 500
コブラ LP3200 手札1 モンスター1 伏せ1
遊城十代 LP1000 手札2 モンスター2 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
十代は必死になって思考を巡らせていた。あらゆる効果を受け付けない、攻撃力4000のモンスター。これを突破できるカードはあるのか、手札、フィールド、墓地、デッキ、EXデッキ、すべての情報が頭の中を駆け巡っていく。
突破口はある。そう信じて、今は耐える時だ。十代はそう判断して望みを繋ぐ。
「俺はモンスターをセットして、スパークマンを守備表示に変更。ターンエンド」
エンドフェイズにスパークマンの攻撃力はわずか100になり、シャドー・ミストは毒に耐えられなくなり、破壊された。
「シャドー・ミストが墓地に送られたことで効果発動。デッキから《E・HERO リキッドマン》を手札に加える」
遊城十代 LP1000 手札3 モンスター2 伏せ0
コブラ LP3200 手札1 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「ふふっ、防戦一方だな。私のターン、ドロー。バトルだ。ヴェノミナーガでセットモンスターを攻撃!」
「セットモンスターは《カードガンナー》だ。効果により1枚ドローする」
「ターンエンドだ」
エンドフェイズにスパークマンが破壊され、十代のフィールドにいたモンスターは全ていなくなってしまった。
コブラ LP3200 手札2 モンスター1 伏せ1
遊城十代 LP1000 手札4 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。《貪欲な壺》を発動。墓地の《E・HERO ブレイズマン》、《E・HERO ネオス》、《E・HERO スパークマン》、《E・HERO エアーマン》、《カードガンナー》をデッキに戻してシャッフル。その後、カードを2枚ドローする。《E・HERO リキッドマン》を召喚し、効果発動。墓地のシャドー・ミストを特殊召喚する。そして、シャドー・ミストの効果発動。デッキから《フォーム・チェンジ》を手札に加える。《マスク・チェンジ》を発動。リキッドマンを墓地に送り、EXデッキから《M・HERO アシッド》を特殊召喚。そして効果発動。相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。アシッド・レイン!」
コブラのフィールドである毒の沼地《ヴェノム・スワンプ》と伏せカードが破壊される。
破壊された伏せカードは《異次元からの埋葬》だった。ヴェノミノン、及びヴェノミナーガの蘇生コストを維持するためのカード、そしてカウンターにも使える。どこまでも用心深い男だった。
「チッ、だがヴェノミナーガは効果を受けない。攻撃力はそのままだ」
「分かってるさ。《ネオス・フュージョン》を発動。デッキから《E・HERO ネオス》と《N・エア・ハミングバード》を墓地に送り、EXデッキから《E・HERO エアー・ネオス》を特殊召喚する」
ネオス・フュージョンはデッキ融合が可能な強力なカードだが、このカードの発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できないという大きな制約がある。カードの発動順には気を付けねばならない。
「エアー・ネオスの攻撃力は、自分のライフポイントが相手のライフポイントよりも少ない場合、その差の数値分アップする!」
《E・HERO エアー・ネオス》 攻撃力2500 → 4700
「いくぜ、コブラ! エアー・ネオスでヴェノミナーガを攻撃、スカイリップ・ウィング!」
コブラ LP3200 → 2500
「ふっ、ヴェノミナーガの攻撃力を上回ったのは褒めてやろう。だがそんなものは一時的にすぎない。墓地の《爆風トカゲ》を除外して、ヴェノミナーガを復活させる!」
エアー・ネオスの
「まだだぁッ! アシッドでヴェノミナーガに攻撃!」
「攻撃だとッ!? 血迷ったか、迎撃しろヴェノミナーガ!」
「ダメージ計算時に速攻魔法《禁じられた聖典》を発動。ダメージステップ終了時まで、このカード以外のフィールドのカードの効果は無効化され、その戦闘のダメージ計算は、お互いに元々の攻撃力・守備力で行う」
その瞬間、コブラの両目が驚愕に見開かれる。
ヴェノミナーガはカードの効果を受けないため、効果は無効にはならない。だが元々の攻撃力・守備力で戦闘を行うという、ルールに介入する効果は管轄外だ。
「このカードはカードの効果全般への耐性を無視できる。ヴェノミナーガの元々の攻撃力は0。終わりだ、コブラ! アシッド・バレット!」
「バ、バカな……。無敵のヴェノミナーガが……。ヴェノミナーガが……敗れる……だと……」
コブラ LP2500 → 0
勝負が決した瞬間、ふたりのデスベルトからデュエルエナジーが吸収され、それが最後の呼び水となった。
『約束だったね、コブラ。あの子とずっと一緒にいさせてあげるって』
どこからともなく出現した光の粒は、収束して人型となり、子供の姿となってコブラの前に現れた。
「リック。ああ、リック。父さんはここにいるよ。これからは、ずっと一緒だ……」
コブラがふらふらと歩きだす。視線の焦点は合っておらず、
「――ッ!? コブラ、止まれ! コブラァァッ!!」
十代が悲鳴のように上げた制止の声は、コブラの耳には届かなかった。夢遊病者のように、幻影でも追いかけるように、コブラの一歩はついに中空へと踏み出し、その身体は虚空へと落ちて行った。
「――くっ、コブラ……」
『十代。さあ、共に行こう。新しい世界へ!』
悪魔の腕を持つ、光の少年は高らかに宣言した。
周囲は光の奔流に包まれ、世界は一変した。
途中であった精霊狩りのギースとか、オブライエンの自己犠牲とか、アモンとコブラの格闘戦とかその他諸々はカットしました。
申し訳ない。