俺が佐藤先生とデュエルしている間に十代たちは動いていたようだ。コブラを探しにSAL研究所へ向かったと聞いた。
「シニョール音羽。手が空いているのなら手伝って欲しいノーネ!」
あいつらを追いかけるかどうか悩んでいると、背後から独特の声が聞こえてきた。
「えーっと、倒れた生徒たちを
「そうなノーネ。日が暮れるまでに終わらせるノーネ」
「了解です」
体育館で陣頭指揮を執っていた鮎川先生の指示に従い、倒れた生徒を運んでいく。なんとか日暮れまでには終わらせることができた。
一息ついて学園の食堂で夕食をとっていると、軽い地響きと共に何かがせり上がっていくのが、窓から見えた。
「円形の舞台……ヘリポートか。十代とコブラだな」
いよいよカウントダウンが始まったか。今から走っても間に合うまい。
丁度食事が終わった頃、ヘリポートから光が立ち昇った。
その光はそのまま学園を包み込み、気付いた時には窓から見える景色が一変していた。
見渡す限り、一面の砂漠。天には3つの太陽が輝いている。
どうも転移したのは、十代たちの居たヘリポートとアカデミアの校舎だけらしい。てっきり島の中心部がごっそり転移するものだと思っていたが、記憶違いだったようだ。
そして外では、ハーピィ・レディに攫われそうになっているクロノス先生とナポレオン教頭がいた。
「シャドール・ドラゴンを召喚。いけっ、ハーピィ・レディに攻撃!」
デュエルディスクから伸びた影糸に繋がれた黒い影が、弾丸のように飛翔する。体当たりを受けたハーピィ・レディは忌々しそうにこちらを睨みつけて去って行った。
任務を終えたドラゴンはこちらに戻ってくると、撫でてほしそうに
シャドールって操り人形みたいなものだと思っていたが、案外可愛らしいな。
帰ってきた十代たちと校舎の中に戻り、現状を確認する。
事態が把握できずにおろおろするクロノス先生とナポレオン教頭だったが、意外なリーダーシップを発揮したのはヨハンだった。
残った生徒たちを体育館に集め、状況を説明する。一段落したところで、学園の外から三沢がやってきた。
ジェネックスが終わった後、三沢はツバインシュタイン博士と共に、量子力学を研究していたらしい。重力子を用いて精霊世界への次元間移動に関する実験を行っていたところ、不慮の事故に巻き込まれて異世界に飛ばされたと言った。、
つまりここはツバインシュタイン博士が言うところの精霊世界ということだ。
「ここは……ここは想像を超える恐ろしい世界だ。十代! デュエルアカデミアを守れ! 奴らがやってくる! この世界を支配する恐ろしい精霊たちがやってくるんだ!」
「……恐ろしい精霊たち?」
取り乱す三沢をなんとか抑え込む。事態がひっ迫していることが伝わってくる必死さだった。
「ともかく、向こうでも大騒ぎになっているはずだ。鮫島校長に期待するしかないだろうな」
さて、問題は俺が異世界編についてあんまり覚えていないってことなんだよな。十代が覇王になって、確かオブライエンの決死の説得で元に戻って、なんやかんやでユベルと超融合して、めでたしめでたしだった思うんだが。
「なんやかんやの部分が曖昧なんだよな。暗黒界のやつらが出てきたとは思うんだが……」
十代と留学生4人組は、昨夜に倒れたレイや他の生徒たちのために、足りない物資や医薬品を探しに行った。
俺は学園に残り人探しをしている。レイに頼まれて、昨夜から行方不明になっている加納マルタンを捜索しているのだ。だが、成果は芳しくない。
「大体は回ったはずだが、もしかしたら学園内にはいないのか?」
「――ギャァァァ」
「なんだ?」
悲鳴が聞こえた場所に向かうと、目の下に
「あ、これアカンやつや」
そういえばあったな、デュエルゾンビ。今ならまだ保健室は無事なはず。
最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に、保健室へ駆け込む!
「音羽くん? どうしたの、そんなに慌てて」
「鮎川先生! すぐに鍵を! それとバリケードを! 早く!」
「え? ど、どうしたの?」
「説明は後で、早く!」
「え、ええ……」
とりあえず移動できそうなものを積み上げてバリケードにする。鮎川先生には一部の生徒が暴徒化したと伝えた。
「でもこれじゃ、十代くんたちも入ってこれないわ」
「十代たちとは通信機で連絡が取れるでしょう。機を見て合流しましょう」
「それが、電波状況が悪いみたいで、途切れ途切れなの」
「それは……」
だったら十代たちはどうやって……。そうか天井裏だ。
脚立を使い、天井のパネルをズラす。意外に広いな。これならいける。
「鮎川先生。ここから脱出します。レイは俺が背負いますから、先生は残っている医薬品を纏めてください」
「ええ、でもどこに?」
「とりあえず体育館に行きます。そこがダメなら、脱出しかないですね」
途切れ途切れの通信ながら、なんとか十代たちと連絡を取り、体育館で合流した。
「薬が効いたみたいね。これでレイちゃんは大丈夫よ」
鮎川先生が太鼓判を押すと、見守っていた十代とヨハンは胸をなでおろした。
問題が起きたのは食事時だ。やはり配布される量の少なさに文句を言う生徒が出始めた。その時はオブライエンの警告で事なきを得たが、このままだと崩壊は時間の問題だろう。
「食糧庫に向かう決死隊を募るか、狩りに出るかだな」
「決死隊とは穏やかじゃないが、このままではマズいことになるのは確かだ」
俺の提案に、ヨハンが唸るように呟く。
「でも狩りって、何を狩るザウルス?」
剣山の疑問も尤もだ。自分で言っといて何だが、ハーピィ・レディを食べるのはちょっと遠慮したい。十代たちが出会ったモンスターも、タイタンやらサンドモスやら、食べられそうもないやつばかりだった。
八つ手サソリは頑張れば食えそうだが。
いや、カードが実体化されるのなら、モウヤンのカレーとかならいけるか? 問題は持ってるやつがいるかどうかだな。ちなみに俺は持ってない。
結局その場では結論は出ず、翌日に持ち越しになった。
そして翌日、校内放送で加納マルタンから発電施設と食料の交換の申し出があった。
十代はそれを拒否し、デュエルで勝った方が総取りという条件を提案する。
マルタンはその提案を受け入れ、ヤツのしもべとデュエルすることになった。
指定された場所で待ち構えていたのは仮面の三騎士、精霊と人間の融合。それは食事のことで強く不満を漏らしていた3人。昨夜に脱走した原田、寺岡、山中だった。