ふたりが扉を潜ってから、どれほどの時間が流れただろうか。
何の前触れもなく、扉は砂となって崩れ落ちた。
そこから生まれた光は、目を焼くほどに強烈で、それと同時に温かくもあった。
その光が治まったとき、俺たちは帰還を果たした。
未帰還者はひとり。
唯ひとり、帰ることがなかった十代は、一週間経った今でも音沙汰はない。
皆が暗い雰囲気を隠せない中、翔だけが十代の帰還を疑うことなく信じていた。
「翔、おまえのショックは分かるぜ。でもよ、いいかげん切り替えないとな」
「――ッ! 十代のアニキは死んでいない。僕に言ったんだ。犠牲になるんじゃない、大人になるための旅に出るだけだって! 必ずまた会えるって! うっ、ううっ……うぁあああっ」
翔は瞳に涙を溜めて飛び出して行った。
「万丈目先輩は、もっと人の気持ちってか、デリカシー持った方がいいドン」
「おいッ! ライバルを失って一番悲しんでるのは……俺様なんだぞ」
「豪胆にして繊細、十代くんみたいなデュエリストは、もう現れないかもしれないな」
吹雪さんが昔を懐かしむように独りごちる。
「思い出すわね。あいつと初めてデュエルしたこと、水上のデュエルだったわ」
翔の冤罪事件のときだな。
「俺との初デュエルのときも楽しそうにデュエルしてたザウルス」
デュエルディスクを集めて弁慶してた時分だな。
「俺は、結局あいつとはガチのデュエルはできなかったな。ジェネックスでもタイミングが合わなかったしな」
完璧主義の三沢はデッキの完成を追求するあまり、十代とは結局デュエルできなかった。
「ふん、おまえら甘いんだよ。俺なんかな、デュエルアカデミアの帝王だったのに、十代のヤツに地の底まで突き落とされたんだ!」
切っ掛けは入学して最初の定期テストだったな。総じて言えばクロノス先生に振り回された結果だと思うが、まあ引導を渡した感じになった俺が言葉を挟むと面倒になりそうなのでやめておこう。
「ふっ、だが俺は一度完璧にあいつに勝っているからな。おまえらも見てただろう。あの大観衆の中、俺は輝いていた! テレビ中継だってされたからな」
「そうザウルス?」
「一応はね。でもあれってノース校の秘蔵のデッキだったんでしょう? 勝ちにカウントしていいのかしら」
明日香さん微笑を浮かべて訝しんだ。けっきょく返却しちゃったからな。
「ぐっ、しかし天上院くん。急場のデッキですら完璧に回して見せるタクティクスがあったからこそ、俺は十代に勝った。そうだろう? そうだとも! そうに決まっている!」
万丈目はテーブルの上に立ち上がり、語気を強めた。
「そういえば、遊蓮くんはどうなんだい? 十代くんとデュエルしたことは?」
「レッド寮にいた頃は、ちょくちょくやってましたよ。まあ勝ったり負けたりですね」
意外に思うかもしれないが、十代の勝率自体はそこまで突出したものではない。あいつは気分屋だからな。翔だって十代には何度か勝っている。
ただ重要なところではしっかり決めるところが主人公体質だよな。
十代は戻ってくるという確信はあったが、それでも「もしかしたら」という疑念は払拭できない。
二年と半年ほど前、意気揚々とこの島を訪れた。ある程度の未来は予見できていたが、不安よりも期待の方が大きかった。
一言で言えば、浮かれていたのだろう。
皆が十代を懐かしんでいる。涙を堪える者もいる。
ふと、窓の外に目を向けると、流星が見えた。
夜空を横切った一筋の流星は、やがて軽い地響きを残して消え去った。
飛び出した翔は出会えただろうか。きっと出会えたはずだ。
そしてあいつは、いつもと変わらない笑顔でこう言ったに違いない。
「翔、今日は、エビフライの日だったっけ?」