十代の帰還が描写され、画面が暗転する。
しばらくすると軽快な音楽とともにエンドロールが流れ始めた。
最後に綴られた『fin』という文字を確認し、ヘルメット型のVR機を外す。長時間同じ姿勢だったせいか、全身からコリとダルさを感じた。脳領域への負荷も想定より大きいようだ。これも長時間プレイの代償だな。
「どうだったかな。プレイした感想は?」
「ああ、チーフ。そうですね、やはり、没入感は凄いものがありますね。本当に自分が転生したのだと錯覚してしまいましたよ」
「大げさだね、キミは。まあ開発者としては嬉しい限りだが」
「フルダイブ型ですか。このタイプがこれからの主流になるんですね」
「そうだね。TVゲームの黎明期を知る私としては、俄かに信じがたいほどの進化だ」
チーフは感慨深い面持ちで窓の外を眺めた。
「で、感想を聞かせてもらえるかな?」
「そうですね。最初からいくつかのデッキやカードを所持できるのはいいですが、なぜメインデッキが消えてたんですか?」
「リンク主体ならそうもなろう」
「くっ、まさかシンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンクが全て使えないとは思いませんでしたよ」
「むしろ何故GXワールドで使用できると思ったのかね?」
相変わらず意地が悪い。使用できないなら最初から選択不可にしてくれればいいものを。ご丁寧にテキストにそういう記述があるカードもアウトだったからな。そのくせ、守備表示で召喚というアニメ世界特有のルールが採用されているし。
「まあそれはいいとして、導入部がちょっと雑すぎませんかね」
「今どき律義にオープニングを見てくれるユーザーなんて少数だよ。よくある転生ものベースだし、テキトーでもいいだろう」
「無理に流行りに乗っかる必要もないと思いますがね。むしろ全盛期ほどの勢いはありませんよ、転生ものは」
「そうなのかね? まあ、その辺りは追い追い考えるとしよう。古き良き伝統に則って、赤帽子でも構わないしね」
「難易度も『ノーマル』だったので、そこまで難しくは……いや、覇王は難敵でしたね。4度目にしてようやく倒せました」
あれは諦めて正規ルートに乗ってたら、オブライエンがなんとかしてくれたのかな?
「まあプレイヤー視点でのラスボスだからね。それなりに強くは設定してある。運命力も強大だ」
「重要な
「別にバーン戦術を否定するつもりはないが、あれは
チーフは不敵に笑った。
「キャラの思考ルーチンも良く出来ています。受け答えもしっかりしてますし、人間っぽさも高いレベルで表現されていました。分岐……というか、選択肢もいくつかありましたが、あれ大筋は変わらないんでしょう。メインはオンライン対戦ですし、
「多少は変えないと面白くないじゃないか。例えば1年目だが、キミが万丈目に負けた場合、万丈目はノース校には行かなくなる」
ということは、万丈目戦もリトライ不可か。ところどころで地雷を仕込んでくるな、この人は。
「……それはストーリーが破綻しませんか?」
「しないよ。万丈目関連のイベントが一部変わるくらいだ。おジャマ・イエローとの出会いも補正がきくしね。そうなった場合、例年通りの交流戦が行われるだけさ。丸藤亮と江戸川遊離だね」
江戸川遊離というのが誰だか分からなかったが、話の流れからして、ノース校の主席生徒の名前だろう。
「交流戦の十代対万丈目は、万丈目が勝ちましたが?」
「レアパターンを引いたね」
「光の結社編で吹雪さんに会えなかったのは仕様ですか?」
「吹雪さん、ね。キミ、まだ
「……そうかもしれませんね」
「ハマり過ぎるのも善し悪しか。まあその通りだよ。万丈目はファンが多いからね。元に戻そうと動くプレイヤーは多いだろう。その代替役だよ。彼が白化した場合、ジェネックス終盤まで挑むことはできない」
「主人公がジェネックスで優勝しましたが、それも想定内ですか?」
「もちろん。
決勝の相手はレイだったが、そっちもレアパターンを引いたのか。
「斎王には勝てるんですか?」
「無理だね。いわゆる負けイベントだよ」
だろうな。先攻取られて、
「ダークネス編を丸々削ったのは?」
「やっぱり地味だからねぇ。それに主人公は精霊も視えない一般人という設定だから、ダークネスに対抗できるのは不自然だろう。使用カードもほとんどOCG化されてないし、まあユーザーからの要望があれば追加するかもしれない、という段階だね」
「……なるほど。では原作キャラの使用デッキが異なっていたのは?」
「そのまま出したって真新しさがないだろう。一応キャライメージとかけ離れたカードは使わせていないよ」
まあ確かに。ヨハンが激流葬とかミラーフォースとか使ってきたら、コアなファンからはクレームが来るだろうな。
十代は原作でも意外とガチカードを使っている。神の宣告とかリビングデッドの呼び声とか。本作ではモンスターのみ
「確かに再現度は高かったですね。原作のツッコミどころも含めて」
「辻褄を合わせようとすると、理由付けをしなきゃならん。場合によっては原作を改変しなきゃならなくなる。色々と面倒だ」
当時はライブ感を大事にしていたらしい。そのせいか色々と粗が多い。
「まあ、完成度は高いと思います。かなり自由に動きましたが、進行不能になるようなことはありませんでしたし」
「それは重畳。では本格的なデバッグ作業に入ろう」
昔と違って簡単にアップデートできるようになったとはいえ、中途半端なものをユーザーに届けるわけにはいかない。
むしろ、ここからが本番だ。しばらくは地味な作業が続くだろう。
卓上の冷めきったコーヒーを飲み干すと、俺は大きく伸びをした。
というわけで、完結です。
最後まで付き合って下さった諸兄姉に感謝を。
誤字報告、感想、評価を下さった方々にも感謝を申し上げます。