蜃気楼でも出かねないほど圧のある熱気にまとわりつかれる夏の昼。
ちょっとした凉みを求めて「昔なつかしアイスキャンディ」というものを買った。
店先のベンチに腰かけ封を開けて口に含む。甘くて冷たいミルク味が口の中で溶けて身体に流れていくのはなかなかに楽しい感触であった。
しかし昔なつかしと言ったものの、この国に来て日が浅くアイスキャンディも初めての体験である。そんなヘクトールにはもちろんなつかしいなんて感覚はない。新鮮かつ興味深い体験だ。愛しのマスターがこの味と共に夏を過ごしてきたのだと思うと感慨も深くなる。
けれどももしかしたら、カルデアでもキッチン担当の誰かが作っていたかもしれないし子供たちや甘味好きたちがこぞって楽しんでいたのかもしれない。そこにマスターもいたのかもしれない。なにせ立場上様々な事件事故の処理を担わなくてはいけない人だったのだから。そういうささやかなレクリエーションに参加していても不思議ではない。
それにキッチンの主は普段は堅物そうな振る舞いをしているように見せて実は非常にノリがよく面倒見の良さも群を抜いているあの赤の料理長だ。確実に一度はやっているに違いないという気になってきた。
けれどヘクトールがそれを目撃したこともない。だとしたらもったいないことをしたかもしれない。仮想のもったいなさに胸が痛む。
しかしとヘクトールは思う。
今からでも十分間に合うだろうと。
アイスキャンディを目にした瞬間にパッと目を輝かせて「なつかしい。小さい頃に食べていたんだ」と嬉しそうに昔語りでもしてくれるかもしれない。逆に「実はそういうのあんまり好きじゃないんだ」と眉を寄せるのかもしれない。どちらでもなくただ黙ってそこにあるものを興味も示さず食べるに終わるのかもしれない。
どれにしてめ自分が今まで見たことのない彼の姿というものは、間違いなく眩しくて愛らしいものであるだろう。そう確信的に思えてしまう。なにせ戦いがあるわけでもないのに、ルール無視してひとりでこんなところまでついてきているほど彼に入れ込んでいるのだから。骨の髄までぞっこんなのだから。
昼の陽射しにジリジリと当てられながらぼんやりとそんな想いを馳せ続ければ続けるほど「会いたいな」という想いも倍に乗にと際限なく膨れ上がり続け
「おねーさん、さっきのもうふたつー」
欲のまま手土産を持参して帰路につくことにしたのだった。
そのお土産を渡された彼が実際のところどんな顔をしてどんな話をするのかは、ヘクトールだけのお楽しみなのだ。