突き抜けて晴れた日に少し強めの風が舞う。大きく開けられた窓に吸い込まれるように部屋の中を爽やかに吹き抜ける。その前に陣取り洗濯物を畳む彼の頬を撫で髪を揺らす。久しぶりの晴れ間に心もすっきり、とても晴れやかなものであった。
今日は梅雨の合間の久しぶりの晴天で、絶好のお出かけ日和だ。間違いなくどこに行っても楽しい。
だというのに、今日も彼らは出かけていない。自宅に残って全力で溜まりに溜まった洗濯機を回しては干して回収しては畳んでしまうを繰り返していた。
別に近所のランドリーでもかまわないのだ。むしろそちらの方が効率がいい。ランドリーで洗って乾かした洗濯物だってふわふわな仕上がりで顔を突っ込めば気持ちいいものだ。
雨が続くじとりとした陰鬱な空と気分でも、洗濯物だけふわふわのぴかぴかであるのもいいものだ。そこだけが異世界の宝物ように幸福に輝いているように見えて、抱き締めたくなる。
けれどやはり晴れた日に干した洗濯物というのも気分が違う。何がどう違うのかは上手く説明出来ないけれど、気持ちよさが格段に違うのだ。
「ふにゃあ……」
誘惑に負けて洗濯物の山に身体を倒してふわふわを全身に包ませる。やはり誘惑のとおりふわふわのもこもこで極上であった。柔軟剤は無香料を選んで匂い消しにと重曹も混ぜたりはしている。けれどそれでも衣服に染み着いた煙草の匂いというのはなかなか落ちてくれないもので、しかしその匂いこそが自分に何よりの落ち着きと安心を与えてくれるもので、それに包まれている今というのは俊足の英霊のトップスピードすら越えそうな勢いで最上の気分が最頂まで達しそうなものであった。
爽やかな風とうららかな陽射しも相まって感じる幸福感は最早天井知らず。このまま身も心も魂までも溶けてしまいそうだった。
そこに
「ほーらマスター、さぼらないの」
どかどかと上から容赦なくヘクトールが追加の洗濯物を落としてくる。
この男、ゆるくだらけて省エネに生きることをモットーにしているが、今後に支障をきたすほどの怠惰は許さない。今ここにやるべきことがある場合はなかなかに厳しめな男なのだ。
「……マスター?」
しかし洗濯物で埋められても微動だにしない彼に、ヘクトールは首を傾げて掘り返す。
「…………」
「おやまあ」
山の中には幸福をそのまま象っているかのような寝顔があり、それを咎めるだけの重要性を洗濯物の片付けには感じていないこともあり
「……」
そっと優しくふわふわの洗濯物たちで埋め直した。