ヘクトールとぐだ男の短編まとめ   作:なまきいろ

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一番風呂は君のもの

 「ヘクトール、こんなところで何してるの?」

 人理修復はじめたて。爆破の爪痕が多いカルデアの一角にて。何やら作業をしているようなヘクトールに声をかける。

 管制室をはじめとした人理修復に必要な最低限の機関を専門でない生き残りたちで必死に応急処置して、何とか稼働している現在である。が、ここはどういう場所なのだろう。何に必要な施設なのだろう。自分と同じくここに来たばかりのヘクトールが安易に触れていい場所なんだろうか。咎める気はないが疑問符を多量に浮かべている彼にヘクトールは「丁度いいところに」とへらりと笑う。

 「今終わったところですよ」

 「うん?」

 そう言ってヘクトールは手前のドアを開ける。合わせて室内の灯りが広がり整然と並ぶ空のロッカー群が目に映る。

 「…………更衣室?」

 「脱衣場って言ったほうが正解だな。奥が共同浴場」

 「そんなのあるの!?」

 風呂は日本では当然に存在するものであるが、海外ではそうでもないと聞いていたから驚いた。各自の部屋に設置されているシャワーしかないものだとてっきり……。

 意外そうに見渡す彼にヘクトールは報告がてらに語りだす。

 「奴さんも浴場にまでは爆弾を仕掛けていなかったみたいで被害が少なかったんですよ。せいぜい振動でいくらか壁と備品が崩れた程度。なもんで暇なオジサンがその辺をちょいちょいと片付けて配管配線システムを修繕させていただきました。もちろん所長代行の司令官殿にはちゃあんと許可は取っていますよ?」

 「……うんそっか、そうだよねえ」

 確かに浴場なんてカルデア運営に関する重要度は低そうだ。大事な作戦が本格始動する時に呑気に風呂に入っている人なんてのも想像しづらい。爆破順位は低いだろう。

 だとしても「ちょいちょいと」と言うには綺麗に仕上げられているように見える。彼はきらきらとそれらを眺め回しながら生返事気味だ。珍しさばかりが勝って視覚情報ばかりに夢中になっている。それにヘクトールは嫌な顔はしない。ただ後方から見守っている。

 そういえば海外は風呂の文化が薄い代わりにサウナの文化が強い国も多いと聞く。ならば風呂はそのおまけかと思いきや、風呂自体も多種で広々としていてちょっとしたランドだ。日本の都会でもちょっとした人気施設になれそうな充実具合に驚くばかりである。

 現在のカルデアの状態でそれら全てを解放するには無理があり、湯が張られているのはそのひとつかふたつ程度だ。それでもこの過酷な状況の気を休めるには十分だろう。一部分だけとはいえドクターもよく電力を割いてくれたものだ。感謝しかないので後でゆっくりしてほしい。

 ふんふんとひとり頷き続ける彼の様子にヘクトールも満足顔だ。

 「やっぱ籠城するなら生活環境が良くなきゃ戦う前に参っちまうでしょ。食堂のほうは藤太とブーディカがいるからオジサンはこっちに回ってきたわけです。いやあ、オジサンでも弄れる素直な仕組みで良かった良かった」

 「うん。確かにそう。ゆっくり出来るところは大事…………うん?」

興奮の中、ふとよぎる冷静さが疑問符を打つ。

 「ヘクトール、古代の王子さまなのに修理出来たの?」

 この多分科学だけではない、オール電化のようなカルデアのシステムの浴場を。

 「そりゃまあねえ」

 目を丸めて首を傾げ気味な彼にヘクトールは当然そうに言う。

 「王子だからってなんもかんも部下任せってわけにはいかんでしょ。人手不足だからオジサンも前線に出てたし。敵陣ひとりで武具が不具合起こした時に応急処置も出来ませんじゃすぐおしまいさ。ある程度は出来ないと」

 「それは、そうなんだけど……、うぅん、」

 会話の何かが噛み合っていない。

 悩ましげに眉間を寄せる彼にヘクトールは変わらずの笑顔のまま。修繕中にどこかで見つけた『本日貸し切り』の札を彼の首にさげる。

 「ま、せっかくだ。しがないサーヴァントの労働に免じて一番風呂を楽しんでくださいな」

 「そこはヘクトールがそのまま一番風呂をすべきじゃない?オレは通りかかっただけで何もしてないし。ヘクトールの部屋シャワーもないし。そのために修理したんじゃないの?」

 そうだ。そういえばそうだった。

 召喚されて早々、ヘクトールは何故か管制室の隣の物置を部屋にしたいと言い出したのだ。だからヘクトールの部屋には部屋らしい機能がほとんどない。シャワーもない。そのための手間を横取りするような真似はいくらマスターでも許されるわけがない。相手にもそうだが何より自分自身への信頼にも信用にも反する行為だ。

 「サーヴァントの功績はマスターの功績でしょ」

 「だからってそういうのは違うと思う」

 「これからどんどん増えるんだから、早いうちに慣れたほうがいいぜ?」

 「でも今は嫌」

 頬をやや膨らませて一切引く気はないと表明する生真面目な彼に、ヘクトールはやれやれと苦笑してわずかに言葉をずらす。

 「では、頑張ったオジサンのご褒美としてマスターにご同伴いただけたら幸いです」

 「それならよろしい」

 その物は言い様に満面の笑みを浮かべ、招くヘクトールの手を取った。

 

 

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