ヘクトールとぐだ男の短編まとめ   作:なまきいろ

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君の色

 古代ギリシャ世代に青は存在しなかったらしい。

 ……いや、正解には存在はしていたのだろう。色の3原色なのだからないほうがおかしい。正解には存在していたけど認識されていなかっただけとか。表す言葉がなかっただけとか。そんな感じではないだろうか。空が青い時が一度もない世界というのは想像が難しい。

 ……海なら、青ばかりじゃないのは分かる。天気が悪い時なら真っ黒だ。真っ黒な塊が唸り声を上げてうねっている。土砂が混ざると茶色い。テレビや写真でだけなら見たことあるだけだけど、沖縄とかの、綺麗な綺麗なエメラルドグリーンもあることも知っているには知っている。一度行ってみたいとずっと思っていたけれど、沖縄以上にすごい海をもうたくさん見てしまっている気もする。でもやっぱり行きたいな沖縄。世界が元に戻って、平和になってそれから。ルルハワで遊んだみたいに皆で……。

 なんにせよ。小さい頃から当たり前にある存在がないという感覚はよく分からない。けれどちょっと面白いんじゃないかと思うところもある。いつかどこかの世界に自分が知らない色があって、出会った時はどんな風に見えるのだろう。どんな気持ちになるのだろう。何を得ることが出来るのだろう。せっかく色んな時代の色んな世界を歩いて回っているんだ。そういう場所にも出会ってみたい。そういう経験だってあったっていい。こんな状況にちょっと得してみたいとか、そんな気持ちを抱くのは、やっぱり緊張感がなさすぎで不謹慎がすぎるかなあ。

 

 青に関してヘクトールは言う。

 「そうだねうん、青。青ってのはうん。よろしくない色だ。オジサンたちの時代じゃなかったことにされてたのはよく分かる。ありゃあ魔性だよ。そこにあるってだけで人の心を一瞬で掴んで駄目にする力がある。驚きの吸引力。まさしく一目惚れ。なすすべがまるでなくてほーんと困っちゃう。綺麗すぎて泥沼ってどういうことなんだろうねえ。あんなもん人が持つもんじゃないよ。よくないね。本当によくない」

 「そんなにぃ?」

 「そうそうそんなに本当に」

 いつになく饒舌に大袈裟に、ご機嫌にヘクトールは語る。こういう時のヘクトールは大抵腹に何か含んでいる時で、それを匂わせつつも煙に巻いてくる時だ。つまりろくな時じゃない。

 じとりとこちらも不信を隠さずヘクトールを見ればまた笑って頷かれ、こちらの顔に手を添えてくる。

 

 空気が変わる。

 

 掠めるに近い、くすぐったいほどそっと目元をヘクトールの親指がなぞる。その表情はどこまでも優しく穏やかで

 「本当に、いい色だ」

 そう語るヘクトールの微笑みに、こちらの方が吸い込まれそうなほど見惚れてしまった。

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