人の真意を深くは考えずに真摯に受け止めてしまう真面目すぎる人を、軽率に真偽の判別がややこしいおちょくり方をしてはならない。
それは愚かなほど人懐っこく無邪気で無防備に距離が近い子供への、からかいでもあり警告でもあった。
「オジサンこれでも現役だよ」と。
ヘクトールのマスターである彼はまだまだ年若い少年であった。戦いを知らぬ国に生まれた平和で健やかにふわふわに育った少年だ。そんな彼にとっていきなり世界を救うための戦いに身を投じなければならないというのは、どれだけ心身に負荷がかかっているのか。おそらく想像を越えるものであるだろうことは分かる。だからこそ戦いをよく知り代わりに前線で戦ってくれるヘクトールはじめ、多くのサーヴァントたちに極大な感謝と信頼を寄せてくれているのだろうというのも、分かる。
やたら多いスキンシップもそんな気持ちの一貫だと思われる。のだが、単にその手の意識は実年齢よりずっと低いからでもあると思う。しかしヘクトールが発した意味が分からないほど幼くもなかったらしい。言葉を聞いて脳がそれを咀嚼するまでひとつかふたつの間こそあれ、飲み込んだ途端に大騒ぎであった。
彼が暮らす国の意識傾向から考えるに、同性が同性を恋愛対象にしたり性的対象にすることについてはなくはない。くらいのものであるだろうか。そして彼という人間性から考えるに、それに対して特別言及する気はないつもりでいたのだろう。
しかし自分が正にその当事者になるとは思いもしなかった。
それくらいの距離感といったところか。
顔が真紅に噴火して両頬に手を添えて無言のまま転げ回る彼の愛らしさを眼福に眺めながらそんな思考をゆるりと巡らせる。
これだけ分かっているのなら、これからは警告通りに警戒されて多少距離を置かれてしまうことになるだろう。寂しさはある。だがそれを対価にするだけの価値はあったと思わせられる愛らしい七転八倒っぷりであった。それにこれでヘクトールのみならず他のサーヴァントともおかしな事故が起こる確率も減らすことが出来ただろう。今までが今までなので完全に安心とは決して思い難いが、まあ、とりあえずは。
そう甘く微笑むヘクトールの前で彼の大騒ぎは止まらない。顔の赤みは消えないまま、声にならない呻きを漏らしながら右往左往と転げ回り続け
「どうぞ!」
やがて意を決したように勢いよく両手を広げヘクトールからの告白を本気のものだと真剣に受け入れようとする懸命な姿に
「悪いマスター、冗談だから……」
今度はこちらが諸手を上げる側になってしまった。