俺と友達になろうと言ってくれた人は、祈るようにヘクトール様を愛している人だった。
その人がそれについて多くを語ることはなかった。
「オレもマンドリカルドと一緒だよ。胸を張ってヘクトールに会いに行ける人になりたいんだ」
そうはにかんで話してくれたことはあった。けれどむしろ、多くを語るまいと決めたように口を閉ざしていたようにも見えた。
だから俺やパリス様がヘクトール様のことで盛り上がっていても、静かに距離を置いてアキレウスの横で自重するように微笑んでいるような人だった。
それについてアキレウスは気付いていただろうか。いたような気がする。でなければヘクトール様を倒せる存在などでありはしない。後世であれだけ語り継がれる存在にはなりはしない。
俺がそれに気付いたのはまあ多分、なんとなく、みたいなもので、確証的なものは何もなかった。
けれどボーダーの人たちにそれとなく聞いたら(聞けたはず)その通りで、皆口を揃えて「せめてヘクトールがいてくれたら彼の心的負担は少しでも楽になれたのに」と言う。
けれどいないものはいないのだと皆は彼を支えようとしているし彼も笑っている。笑うことを選んでいる。辛さも心細さも痛みも苦しみも、常に隣に立つ少女にすら悟られまいと笑って進むと決めている。
そんな薄氷上に立っているような人に、友達になろうと言われた。何が出来るだろう。
代わりになんてなれやしない。それはどんな神でも英雄でも出来やしないって決まっている。ましてや武具を手に入れただけで浮かれて道を大いに踏み外した自分がだなんてもっての他だ。そんな自惚れは死んだ時に全て崩れ落ちた。そもそもそんなことは望まれてなんていないだろう。
ならば何が出来る。
考えて考えて決めてまた迷って悩んで考えて駆けて悩んで駆けて駆けて駆けて駆けて考えて、迷って、向き合って
「マンドリカルドまで行かないで」
最悪の土壇場の中で再会した最愛の人を即座に目の前で失うことを選び、崩れぬように必死に歯を食い縛ってその言えない言葉をいっぱいに堪えた瞳を振り払って再びデュランダルを手にすることを選んだ俺は、結局やはり、友達など部相応の落伍者なのかもしれない。
だけどそれでも、この戦いを終えた先に、その人が暮らしていたその人の日常に戻れた時に、薄氷上の強がりではない笑みを浮かべられる世界があるのなら、
俺がこの場で二度目の生を受け命を使い尽くした意味はあったんだと、今度こそ胸を張って自分を誇れる気がするんだ。