きっかけは、施設内把握と暇潰しの散策中に入ったカルデアの植物園に弟の名を持つ薔薇があったことだ。
人を星の名前にしたり花の名前にしたりなんて、後世の人たちは粋なことをするもんだ。と感心していたら「ヘクトールさんも一株どうですか?」と分けられたことがはじまりだ。
まあ本人もいないことだし、代わりに、ってほどでもないがこれも縁。一度くらいは花咲かせてやりましょうか。とそれなりに調べて育てて「そういえば他にもこんな名前の薔薇もありますよ」とここにいたりいなかったりする英雄たちの名を持つ薔薇を教えてもらったり分けてもらったり。 どうせならどうせならと受け入れ続けた結果、弟だけだった植物園の俺の一角はちょっとした花園に拡張されていった。
仲間のようなそうでもないような者たちに囲まれた弟というのは、なんだか不思議であったがらしいっちゃらしいように見えた。なんとなくだがあいつはそういうところがある。
ふとした時に我に返って何をやっているんだろうと思わなくもない。別に生前庭いじりを趣味にしていたわけでもないしなんでまた。とも思わなくもない。
だがまあたまの召喚。こういう時もあるだろう。
俺がいなくなった後でも時折様子を見に来てくれるマシュがいるならまあ多分大丈夫。多少縮小されることもあるかもしれないが、カルデアそのものが解体されるか敵襲にあうかでもない限り雑に枯れたり廃棄されたりすることもないだろう。
そんな日々を過ごす中、ある日隣に薔薇が一本植えられていた。
「ヘクトルだ」
自分の名を持つその薔薇だけは妙に恥ずかしさがあって株分けも断っていたというのに、そいつは一本俺の園の隣にちょんと植えられていた。
『藤丸立香』という看板と共に。
「びっくりしました?」
何が起きているのかと思考している間にマシュが隣に来ていた。その顔はいつになく楽しそうであった。
「先輩、とってもいたずらっ子な顔してましたよ」
「……いやまあ、うん。そうだねえ。びっくりしたねえ。そんな顔してたんだろうねえ」
「これからは先輩とも皆さんとも、仲良くしてくださいねヘクトールさん」
誰にでも手を伸ばさずにはいられない我らがマスターは、たとえ花であろうと無粋なひとりであることは許さないらしい。彼が飽きなかったら、ではあるが、もしかしたら自分の周りもまた弟と同じように賑やかになるのかもしれない。
らしくない。非常にらしくない。恥ずかしい。むず痒い。が、それを嫌がり止める権利は所有者ではない自分にはない。なるがままだ。
やれやれと息を吐きつつも、それに自分が幸福を感じていることも否定しなかった。