「マスター礼装新品じゃん」
「分かる?ダ・ヴィンチちゃんが新しいのくれたんだ」
カルデアの廊下にて。不意にへらりとかけられた声に振り返る。その先にいたヘクトールに向けて彼は驚いた顔をしてからほろりと笑う。第一発見者へ見せびらかすように喜びのポーズを取りくるくると回る彼が纏う礼装は、確かにいつもより輝きがありパリとしているように見えた。
「なんと身長が5cmも伸びてたの。だからせっかくだしって新しいサイズのにしておくことになってね」
「そっかあ、育ち盛りだもんなあ」
「おかげでちょっと大きめだけどね」と自慢気に胸を張る彼の頭を撫でて目を細める。
大人に近付けたという話であるのに扱いは一向に子供のままである。のだが、彼は気付かず心地よさそうにその手に身を委ねる。ころころと喉まで鳴らしかねないそのなつっこさがまだまだ愛らしい子供のようであった。
10代の少年の背が伸びた。
それは特筆すべきことは何もない当然の話である。
だがその当然こそがヘクトールには堪らなく愛しかった。
今という場に立ち歩いていける人間だからこその当然を、当然と気付かぬまま当然のように歩いてほしい。
それを失い二度と得られぬ影法師の身であるからこそ、そう強く願う。
ヘクトールは笑顔のまま彼の頭から手を離しいつもの猫背を更に急にして彼の顔に近付いた。
「どーりで。最近近いと思った」
「……」
耳元に低くくすぐるように吹き込まれる声に、彼はきょとりと目を丸め
ちゅ
その頬に口づけた。
「…………………………………………なんで?」
「近かったから?」
「……………………そう」
挑発したのは自分だというのに。全くの予想外のカウンターが決まり固まるヘクトールに彼は気付かない。身長が伸びて礼装が新しくなった喜びを抑えようともしないまま
「もっと近くになれるといいな」
無邪気にはしゃいでヘクトールの首に飛び付いた。
耳元で響きくすぐるその柔らかな喜びの声。首や頬にすり寄られ伝わるぬくもり。そのささやかであるが確かに急所を直に撫でる刺激にヘクトールの心身は更に固まる。奥底に鎮めるよう日々努めている熱に強烈に殴られ脳内でけたたましく警報が鳴り騒ぐ。
その体内でばらばらに荒れ狂うあれこれにヘクトール自身がついていけずに眩暈がする。毎度のことながら、大変よろしくない状態だ。
どうしてこんなことになってしまったのか。何度最初から振り返りひとつひとつ辿ってみても、やはり分からない。
「…………」
けれど混乱は混乱のまま、それをまたいつも通りに気付いてくれるなと願いながら強く強くまとめて全て鎮め直す。
この幼さにこの欲をぶつけるのは些か早すぎる。
たとえそれが年不相応な無自覚さのツケであったとしても。だ。
「勢い余って追い抜かないでくださいよ」
「分かんないよ~?育ち盛りだもん」
やれやれと、ころころと笑いまとわりつく無邪気さをこぼさぬように包むように腕を背に回した。