ヘクトールと一緒にいると落ち着く時とそうじゃない時がある。
落ち着く時はそれでいいのだ。
落ち着くがままに土や煙草の匂いが混じった世界に身を委ねてしまえばいい。
伝わる熱も鼓動もただただ心地がいい。その世界で一番安全な場所に全て、揺られるがまま眠ってしまうのもいい。なんならそのまま自分の身体も魂も。何もかもがヘクトールの中に溶けてなくなってしまったって構わないくらいだ。
それくらい安心して一緒にいられるから、これ以上なくとても幸せになれるんだ。
問題は落ち着かない時だ。
鼓動の速さと強さに内部から痛めつけられてとても苦しい。
もう鼓動が体内を越えて身体を覆っているじゃないかってくらい鼓動に支配されているみたい。
どうしてそうなるかは分からない。落ち着く時とどう違うかも分からない。分からないからどうしたら治まるのかも分からない。
痛くて苦しくてみっともなくて仕方ないのに、隣にいることも止めたくないから耐えるしかない。
ヘクトールは分かっているのだろうか。気付いているのだろうか。
分かっているし気付いてもいると思う。
だって鼓動は大きくて強いから。指先までそれに合わせて震えているんじゃないかってくらいの大騒ぎだから。サーヴァントは人間の何倍も感覚が鋭いんだから聞こえていても不思議じゃない。
それに何より、ヘクトールだもの。全部分かっていて当然じゃないか。サーヴァントの感覚の強さを抜いたって分かっているに決まっている。いつだってヘクトールはその先にいる人なんだから。
だからきっと、自分がどうしてこうなってしまっているのかも分かっているんだ。分かっている上で、こちらが分かるまで待っていてくれているんだ。
マーリンにアドバイスをもらうっていう不正はあったけれど、ウルクで自分で「好き」と言った時と同じ。自分の中でちゃんと答えを出してヘクトールが待っていてくれている場所まで辿り着かないといけない。
大丈夫。ヘクトールは手は伸ばしていてくれているから。ちゃんと触れられれば引き寄せて笑ってくれるから。応えてくれるから。
大丈夫。
ちゃんと自分で分かっていこう。ヘクトールは、待っていてくれる。
大丈夫、なんだけど、
「どうしたマスター。なんかした?」
「…………ううん。なんでもないよ」
少し様子がおかしいと思われたのか。こちらに顔を向けて微笑んで問うヘクトールになんとか微笑み返して首を振る。
大丈夫。大丈夫。大丈夫だよ。
だけど、
苦しいよ。ヘクトール。