「クー、クー、相談したいことがあるんだけど」
インプリの雛か何かか。何かあればすぐマスターは俺に相談にくる。
そりゃ世界があんな状態になって一番最初に召喚に応じた相手に懐くのはまあ無理もないか。
加えてマスターはあの戦争なんて遥か遠くのような気にさせるあの国から来たのなら尚更だ。戦いのノウハウすら知らないのだから戦慣れした英雄たちにもたれるように頼りたくなるのは仕方ない。
幸い牛若やブーディカ、百貌に藤太と意見を述べあえる奴らもいたからまだよかった。時代的な齟齬は多少あってもマスターの良心を尊重出来る話が通じる面子であるのも幸いだった。しかしどうしてどいつもこいつも「最後はプロトが決めるといい」と投げやがるんだ。めんどくせえ。それも一番最初に召喚に応じた責任ってか?ほぼ誤差じゃねえか。
「それでクー、明日のレイシフトはダ・ヴィンチちゃんに頼まれた素材集めなんだけど、そんなに強い敵がいるわけじゃないとは言われているんだけど、」
「なんだよ決まった班じゃ不服か?」
「不服ってわけじゃないけど念のために一応ね、」
俺が休むベッドに遠慮なく乗り上がり肩を寄せて資料を広げる無防備の塊。男だからってのは油断していい理由にはならねえんだぞ?普通だったら当たり前に食われてるぞお前。もしかしなくても誘ってんのか?
なんて、よぎる思考は即座にねえなと却下する。
何故なら俺は見ているから。
俺たちから数日遅れてやってきただらけた奴に向けるマスターの瞳の輝きを、間近で見ていたから。ただ頼もしい味方が来てくれたと喜ぶ輝きじゃない。もっと魂の芯から全てを一瞬にして掴み浚われた時に見せる輝きだ。
その召喚からはしばらく経つが、それからもマスターがそんな瞳を寄せた相手はいない。雨上がりに虹を見つけたような瑞々しさを潤ませて捉える相手はひとりだけ。
だからまあ、マスターが俺にそのような意識を向けることはないだろうと確信出来る。こいつはただただ自分が誰かの性の対象になるなんて微塵も思っていない無防備なだけのガキなのだ。
そんな愚かさに対する「勉強」だと、今すぐその信頼を身体ごとひっくり返して泣くも謝るも怒るも怯えるも一切目もくれずに痛みを叩き込むことはもちろん可能だ。やれないことはない。
だが
「クー?聞いてる?森に入ってからなんだけど」
「聞いてる聞いてる。まず確認として、」
マスターのそんなガキさを嫌っているわけでもない。
だからそう、とりあえずあの日見た運命の眼差しに免じて今日も俺は甲斐甲斐しくも猟犬には決してなれなさそうな子犬の面倒を引き受けてやっていのだ。