人人人。この世を陽気に謳歌する人々が行き交う雑然とした街中を仲睦まじく二人は行く。
そして俺ともう二名は少しばかり離れた場所から付いて歩く。野暮なのも無粋なのも自分含めてそれぞれ百も承知だ。
しかしどうしても、やらねばならぬと二名は燃える。かのヘクトール様がどのようにマスターをエスコートするのか見てみたいと燃えたぎる。
それならせめて少しでもバレないように霊体化しましょうよと進言するも、それはフェアではないと却下された。もうバレてるんじゃねえかなあ。だってヘクトール様だもん。
「ガレス様!ヘクトール様とマスターはあのカフェに入るようです!」
「おお、マスターが「一度入ってみたかったんだ」と言わんばかりにぐいぐいと!手を繋ぐのもいいですけど指を握るというのも可愛らしいですね!」
「私たちも行ってみましょう!」
「ええ、ブラダマンテ。ガレスたちも突撃です!」
というわけで、マスターたちに引き続き二名も同じカフェに入り俺もそれに続く。華やかに煌めく街と同じく輝く店内に陰キャな俺には頭痛も目眩もするがそこは我慢。外で待つなんて更に奇異に見える真似もしたくない。…………し、正直俺もちょっと見たい。というわけでなんとか耐えて席に座り、騎士でも英雄ではなく一般的な女の子のようにはしゃいでメニューを開く二名のついでに俺もコーヒーを頼む。
そしてちらりとマスターたちの様子を伺う。とても楽しそうに見える。マスターもヘクトール様もカルデアじゃあまり見ない柔らかで穏やかな笑みを浮かべて語らっているように見える。カルデアで生じるストレスの最頂点にいるような二人だから、こういう時くらいは羽根を伸ばして欲しい。マスターが頬張る愛らしくも大盛りなパンケーキも美味しそうだ。
ついでに同テーブルの二名もパフェにワッフルにと実に美味そうである。時折マスターたちの様子を伺っては目を輝かせて音せず歓喜の悲鳴をあげている。コーヒーのみの俺にも気を遣って何か注文したらどうかと尋ねてもくれるが、丁重にお断りを入れる。とてもじゃないな味なんて分かりそうにない。コーヒーだって喉を潤してくれているかどうかすらも分かっていないような状態だ。場違いすぎて背中の汗が止まらない。何食って生きたらこういうキラキラにそぐあえる人間になれるのだろう。
ならば最初からついてこなければいいではないか。重々に分かっているがそうもいかない。余計なお世話と分かっていても俺なりに重大な使命感があった。
何故なら二人は恋人同士なのだから。
二人は今までわりと長い期間清い関係を保ち続けているとは聞いている。大人びた雰囲気があるようにも見せたいと振る舞いつつもどこか幼さが残るマスター相手にどこまでも紳士なヘクトール様には流石としか言いようがない。鋼の精神を持つ大英雄は愛する者を軽率に傷つけたりはしないのだ。
それでも、
だとしても、
せっかくの休日でデートなのだ。ふといい雰囲気になってそのまま、なんて絶対にないとは言い切れないのだ。
ならばヘクトール様とマスターと同じく男として、女性二名よりも先に少しでも早くその気配を感知して引き離さなくてはなるまい。
そう決意して馴染めるわけがない街に足を踏み入れ泥水とすらも思えないほど味がわからないコーヒーを飲みながら注意を払っていたわけだが
「おや三人とも。仲良くおでかけなんて奇遇だねえ。せっかくだからこっちもオジサンが奢ってやるよ」
「ふえ!?うええ!?ヘクトール様にマスター!?」
「へへー。良かったら五人で遊ぼうか」
「い、一体いつから……」
「ついさっきついさっき。会計に立った今気付いただけだよ。ほら、レジからここが一直線」
……いや、どう考えても最初から気付いてましたって笑いかただろヘクトール様のこれは。
引きつり固まりうなだれる俺たちをよそに二人の上機嫌な笑みは止まらない。片や無邪気に偶然を喜ぶように。片や「そういうのは良くない」という警告混じりに絶対に逃がす気はないという圧をこめて。
結局俺たちの好奇心と余計な親切心は、二人の貴重な休日デートを潰してしまっただけに終わったのであった。