「マスターこっち」
レイシフト中の探索中。
いつからというわけでもなく、しとしとと降りはじめなかなかやまない雨が続く森の中。濡れる彼の手はヘクトールによって優しく引かれる。
寄せられた先は巨木の下。高く伸びた幹に広がる枝葉。確かにここなら雨宿りに丁度よさそうだ。
「……ひゃ!」
しかし葉と葉の間からこぼれた雨粒が彼の首に落ちて小さな悲鳴とともに身が跳ねる。やっぱり木陰じゃ駄目なようだ。それでもいくらかは凌げるからマシかもしれない。
「もうちょいこっち」
そんな思考が行き来していたところに更に奥へと招かれる。……今度は多分粒が落ちてこない。どうやらこの上は枝葉が密集しているみたいだ。
「……ヘクトール、狭い」
「でもここがギリギリみたいだからなあ」
「ぎゅむ……」
胸に押し込められるように抱き寄せられて身動きが取れなくて息苦しい。その不服を訴えてもヘクトールは聞く気はなさそうで、抵抗したってびくともしないだろうとはやらなくても分かっている。
なので彼はしかたなく、不服顔のままヘクトールの腕の中に収まることにした。
身体も衣服も魔力で構成されているサーヴァントとは便利なものだ。少々雨に濡れてもすぐに濡れる前の構成に魔力を編み直すことが出来る。おかげで生身でしとりと濡れ続けている彼とは違いヘクトールは晴天下のようにほかほかだ。その暖かさが冷えた彼には心地よく
「……」
とろりと意識が微睡んできた。
「立ったまま寝れるなんて、器用なもんだ」
「んん……」
からかうような声にも反応は鈍い。どうにか意識を保たせようとしているが、その鼓動にぬくもりに。得てしまった安心感から吹き出す疲労を止めることは難しかった。
だってここが一番に安全なのだから。
たとえ今敵襲か何かがあったとしても、ヘクトールの腕の中なら安全だ。そうとしか思えないのだ。
だから、大丈夫。
一応現在はレイシフト中の作戦中で広義では戦場である。しかしそんな彼の無防備な姿をヘクトールは咎めることはない。むしろまなざしはどこまでも穏やかだ。
「……ま、休む場所を選ばないってのは戦いの中じゃいい才能だ。いざとなったらオジサンが担いで逃げりゃいいから、マスターはゆっくり休めばいいさ。支えてやるよ」
「…………うん。信じてる」
「……そう、そっか。おやすみマスター。いい夢を」
自身の腕の中で安らぎ身を預ける彼に愛しく微笑み頭を撫で、静かに降りしきる雨音からも守るように彼の身体をマントで覆い隠した。